第4話 第三話『野生との戦い』

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いよいよ外に出ようというところで研究員の一人が彼らの方に駆け寄ってきた。
「あ、レイ君、ケイ君。お使いにいってくれる君たちに、これをあげるよ。」
彼が手渡したものは、『ポケモン用傷薬』だった。
人に塗ると傷口が痛いだけだが、ポケモンに塗ると劇的な早さで傷が治る。
『傷薬』だけの量では治療できないという場合に対応して、少し増やした『良い傷薬』というものが少し高めの値段で更に地域限定で販売されている。 それでも「足りない」の声が止まなかった経緯があり、約四倍の量にした『凄い傷薬』を販売したそうだ。 因みに、『回復の薬』の原案者と『傷薬シリーズ』の原案者は違う人らしい。 ポケモン用の物と人間用の物とで区別する為にポケモン用の物を販売時はひらがなにすることを提案したのは『傷薬シリーズ』の人だった。
そして今研究者の一人が渡してくれた物は一番量の少ない『傷薬』だった。
「あ…ありがとうございます」
ケイがお礼をいい、颯爽と研究所を出た。 レイは付いていく形となった。

「ワニャー!」「チコー!」
久しぶりに外に出られて嬉しいのか、ポケモン達は非常に楽しんでいる。
その様子をケイは楽しそうに眺め、レイはかなりビビりながら見ていた。
過去に著わした通り、レイは非常にポケモンが嫌いで苦手である。更に先ほどラズ(ワニノコ)にトラウマを植え付けられたばかりである。 こちらに来ないか、という恐怖心が顔に出ていたのであろう。
「じゃあ、そろそろ行こうか?」
ケイの提案に、これ以上見ていたら寿命が縮まると判断していた彼は即答で答えた。
「そうしようぜ。待たせたら悪いしよ」
「本当にそう思っているのかい?」「ああ、思ってるさ」「寿命が縮まる、とかいう理由じゃないのかい?」
図星だったレイは一瞬狼狽え、しかし直ぐに言い返した。
「いいや、違うぜ。 本当だから、早く行こうぜ」
ケイは彼の反応を見て、気持ち微笑んだ。
29番道路を二メートル先当たりにしたところでウツギ博士研究所の方面を見ると、
赤髪の全体的に暗い色でのファッションの少年—恐らく彼らと同年齢であろう少年がウツギ博士研究所の窓から中を覗いているのが目に入った。
「何だあいつ…?あんなやつワカバタウンに居たか…?」
その時、彼はそこまで気になることはなかったのである。 その時は。

草よけ道を通らず、普通に29番道路を通るのは初めてだったが、同時に行くとかどっちが先か、など言い争うことはなかった。 いつもと違う通学路なだけだからかもしれない。見慣れた景色だからというのもあるだろう。割とスムーズに進んだ。
「はぁ…」突然、ケイがため息をついた。
「どうしたんだよ?」「いや…普通だったら、10歳でポケモントレーナーの旅は出来るだろう?」
「ああ、そうだな。」
ポケモントレーナーになる為には、少なくとも10歳—つまり小学四年生又は五年生でいいのである。
本当は義務教育の期間なのだが、このご時世、ポケモンと共に暮らす社会上実際の経験も大切だろうと言うことで最大3年間、いつのタイミングでも良しの「トレーナー研修期間」を設けられている。後は義務教育修了後の進学か就職かともう一つの選択、トレーナーとなるという選択でトレーナーを選ぶのみである。
因みに進学か就職をした場合、そちらに集中をさせる為に、トレーナーの選択を禁止となっている。当然、進学か就職を辞めた場合、いつでもトレーナーの選択は再選択可能になるのだが。
普通は「十歳—小学五年生での冒険で始まり、学んでから十三歳—中学二年生で終わる」なのだが、彼達は違っていた。
「まさか、ポケモンのことをしっかり知る為に責めてトレーナーズスクール修了までトレーナー禁止だ、とか言われるとは思わなかったな」
「全くだぜ。というか、丁度俺たちが旅に出る中学一年から三年までとか一番学勉の中で大切な期間じゃねえの?」
「うん。だから勉強道具を旅の道具の中に入れておけ…と言われたんだ。 もちろんトレーナーも楽しいけど、トレーナーをやりながらの勉強なんてちょっと無理があるよね」
あはは、とケイが後頭部をかく。 黒髪のセミロングのこの少年が、レイには一瞬別人に見えた。
「…君は、どうするのかい?」
何をどうするのかが抜けているのが、レイには何について聞いているかが分かった。
「決まってんじゃねえか。後ろの今にも噛み付いてきそうなバケモノと一緒にまず三年間も居られるかって言うことだよ。 思い出しただけで…おお、怖。」
「そっか…」またケイは彼らしくない表情を見せた。 レイがその表情のことについて聞こうとしたまさにその瞬間、彼にとっての悲劇が起こった。
「なあ」「うん?…おっと、コラッタだ。」「えええええ!?ちょ、本当に勘弁してくれよ!」
レイが二歩ほど後退すると、何かが彼の腰あたりに当たった。すこし水気を含んでいる感じがする。
「…ふぅ……ん?」後ろを振り返ると、…… ワニノコだ。彼が博士に貸してもらった、ラズと一時的に名付けたあのワニノコに違いはなかった。彼の目をじっ、と見据えている。見据えられたレイは動けなくなった。元々ワニノコにはそういう性質があるのだ。見据えると動けなくさせる、不思議な性質が。
「……ワニャー」「…ぁ……ハッ!?」身の危険を反射で感じたレイは正に口が開く瞬間と同時に転がり逃げた。 パチン!彼の上で顎が閉まる音がした。
「うおおおお!怖えええええ!」その様子を見ていたレイが、一つ軽くため息を付いて、続けた。
「…ポケモンを有効に使いなよ…」その例を見せるかのように、彼の後ろに居るチコリータにこう言った。
「ラフ、体当たりだ」 頭に大きな葉をつけた小さめの胴体のポケモン—チコリータが一つ鳴き声を発し、目の前のコラッタに体でぶつかりに行った。 ドン、と鈍い音がし、コラッタが吹っ飛ぶ。
「おぉ… すげえ…」レイは乱れたほんの少し茶色の混じった黒髪のショートヘアを直しながら、少し吹っ飛んだコラッタを見て、呟いた。
よし、ラズ、お前も敵を見つけたらあんな感じで頑張れよ、と声を掛けようとラズの方を向いたのだが、やはり何故かは本人も分からないが、鳥肌を感じ、声が口から出てこなかった。
言うならば『ポケモンアレルギー』だろうか?しかし、本当にどうしようもないと言う訳ではないのが『アレルギー』とは違うところである。
言いたいこととは違う言葉が彼の口から出てきた。「…行くか」「ワニャー」
重々しく立ち上がり、砂をはたき落として、ケイの後を追った。
「しかしアイツ、『ラフ』って付けたのか…なんと言うか…微妙?」「ワニワニ!ワニャー!」
ラズがそんなことはない、むしろ私の名前の方が微妙だ、と言っているかのように鳴く。
「…」彼は口を噤んだ。

フスベシティから来るときに使うヨシノシティを目の前にした時には、様々なポケモンと出会い、彼らは自分の持っているポケモンを戦わせていた。 しかし、倒しきれたポケモンの数は二人を比べると大きく違っていた。
なぜなら、まずケイの場合だ。
「お。オタチだ。」
草むらから飛び出して来たオタチに気づき、足を止める。 オタチも気づいたらしく、尻尾で立ち、一声鳴いてから戦闘態勢に移った。
「いけ、ラフ!」後ろから勢いよくラフというニックネームのチコリータが飛び出してくる。
「体当たりだ!」「チコー!」
オタチにぶつかり、オタチが少し後退をする。 そしてオタチの反撃…
を繰り返す。 こちらが一般的なのだが、レイの場合は違っていた。
草むらからコラッタが飛び出してくる。 それを見たレイは一瞬凍り付く。
そして稀にそのまま凍り付いてコラッタはスルーしてしまう、なんてこともあった。
冷凍が解けた場合、後ろのラズことワニノコを呼び、
「ラズ、あ、あのコラッタに体当たりだ!」と100%動揺しながら命令をする。
因みにこの命令の後にたまに「やっぱなしで頼む」なんて言い始める時もあった。

そんな違いがあり、倒した数が大きく違っていたのである。
「しかし、本当にレイはポケモンが嫌いなんだね」
そんなことをしみじみと幼なじみが言うほどである。
「当たり前だろ。…むしろお前の方が凄えよ。」頭を振りながら答える。
「いや…そこまでポケモン嫌いでトレーナーになる人なんて居ないと思うよ… お、ヨシノシティに着いたよ」
足を止め、奥にある海の匂いを彼は嗅いでいた。 レイはそれよりかも、自分達をまるで待ち伏せしていたかのように右側に居る老人の方に気が散って仕方がなかった。
レイは無い勇気を振り絞り、老人に話しかけることにした。

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