第5話 第四話 『ヨシノシティ』

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:11分
「あの、すいません。—ここで何をなさっているのですか?」
レイの質問の声にケイが彼の方を向く。「どうしたんだい?」と一言掛けて。
「おー、若きトレーナー達よ、こんにちは。 見ての通り、なーんもしとらんよ。ある歳を超えると暇になるっつーのは本当だったんじゃなー、と実感してたと言われればなきゃーないが、行動でやっとんのはないぞ。」 少々聞き取りづらい言葉、意味の分かりづらい言葉を含んだ話し方だったが、レイにはある程度分かった。
「成る程。つまり何もしていなかった訳ですね?」ストレートに聞き返すと、爺さんは笑いながら返した。
「わっはっは、そうじゃな。なーんもしとらんぞ。 —すまんが、この老人の暇つぶしに付き合ってくれんかのう?」
突然の質問にケイがもし長話とかだったらどうする、等悩んでいると、隣から幼なじみの声が聞こえた。
「いいですよ。何ですか?」
とても丁寧な声色に口調だ。その優しい声に爺さんは答える。
「嬉しいのう。—儂も若いときゃあ、これでも立派なトレーナーじゃったんじゃ。お主方の分からん事を是非教えてやろうかとのぉ。」
やはり待ち伏せだったか、と思ったケイと裏腹に、優しいモード完全突入したケイは嬉しそうに代わりに答えた。
「嬉しいですね。ありがとうございます。—何についてお話し下さるのですか?」
「トレーナーをする上で必ず最低限一度はお世話にならなくてはならない建物なんかじゃ。—どうじゃ?」
それなら良かったと、ようやくレイも乗り気になった。
「いいですね。是非、お願いします」

爺さんはまず一番赤い屋根がトレードマークの『ポケモンセンター』の前に連れて行った。
「ここは『ポケモンセンター』じゃ。 ここはポケモンの回復ができるんじゃ。」
「そんくらい知っウッ」思わず本音が出そうになったレイをケイが横腹に肘鉄を食らわせる。 彼は痛みで黙った。ケイの作戦は成功だった。 爺さんにはなんとか聞かれなかったらしい。ご機嫌なまま、説明を続ける。
「因みにそれだけじゃなく、トレーナーの無料宿場としても使われるんじゃ。 夜になるとここはまだそこまで酷くはならないが、コガネシティなんかじゃ旅の者で溢れかえる事が多いんじゃ。んでから、コガネシティのポケモンセンターは広いんじゃな。 —あれでも溢れかえるんじゃから、なお凄い。
そうじゃ、このセンターを使う為には自分はトレーナーである事を証明する為にトレーナーカードの提示が必要じゃ」
爺さんはしみじみと言い、最後に付け加えたように話したが、レイには半分あたりしか理解が出来なかった。
コガネシティはジョウト地方の一番の都市なので、写真等ならば見た事はあるが、そんなポケモンセンターのみを特集として取り上げる新聞やテレビなんて一つたりともない。 トレーナーズスクールに『一応』通ってはいるので、ある程度の町は把握しているが、中まではなかなか見ない。 そういうものが重なり合い、半分あたりから『コガネシティ』を中心とした話になっていたので、半分あたりしか理解が出来なかったのである。
ケイはどうだろうか、と顔を見てみると—先ほどレイに地味なる暴力を振るった人とは思えないほど、『優しいモード』全開の表情をしていた。 彼は老人や幼児にはすこぶる優しくできるのだ。
そんな彼の表情から話が理解できたかなんていうのは愚か、感情すら読み取れなかった。
彼達の状態なんて見てもいないかの様な振る舞いで、爺さんは次の右隣の建物の説明に移った。
「ここは『フレンドリーショップ』。買うためには、『トレーナーカード』の掲示が必要じゃ。」
ケイが質問をする。
「先ほどから申し上げておられますトレーナーカードと呼ばれておりますカードは、このことですよね?」
彼はレイのリュックサックとは違うタイプの、肩から下がっているバッグの中に手を突っ込み、財布から赤色のカードを取り出した。その握っている手には、TRAINER'S CARDと書かれたカードがあった。
「そう、それじゃ。 —これを提示せんといかんのじゃ。 ああ、もちろんポケモングッツを買うのみの場合の話じゃがな」
「提示する必要性は?—同じくトレーナーであることの証明ですか?」レイが誰もが聞きたかった事を聞く。
「それもある。しかし、それだけじゃあない。 『そのトレーナーの持っているバッジを見る』のじゃ。」
バッジとは、大体の村に配置されている『ポケモンジム』と言うところのジムリーダーに勝利する事で貰えるバッジ—『ポケモンリーグ公認 ポケモンジムジムリーダー打倒証明○○バッジ』の略称である。
○○のところにはそれぞれのジムで付けられたバッジの固有名称が入る。
例であげるならば、キキョウシティジムリーダー『ハヤト』に勝利することで貰える『ウィングバッジ』…等である。 各地方八つずつジムはあり、同じ個数、バッジがある。 八つ全て集める事で『ポケモンリーグ』に挑戦する権利を得る事が出来る。
ポケモンリーグとは、ポケモントレーナーのだいたいの上位四名+チャンピオンで形成されるリーグの事である。 初めの上位四名の事を敬意を込め、『四天王』と呼んでいる。さらにその四天王を倒した頂点の者をリーグチャンピオン、大体多くの人は『チャンピオン』と呼んでいる。
この四天王、チャンピオンの事は、新しく人が変わったとしても報道しないよう、このことのみ規制を掛けている。マスコミと言うものは、片っ端から報道してしまう事が多く、『○○タイプが多いようです』と報道されてしまい、トレーナーが対策をしてしまうという失敗があったからだ。
因みに一日でチャンピオンを交代する—実際にはそのチャンピオンに勝った少年はチャンピオンの座にはつかなかった為、正式には交代していないが、チャンピオンではなくなったので、交代の表現が正しいだろう。—という事件のような出来事が三年前に起こったことがある。それほどまで、トレーナートップを維持するのは難しいものなのだ。

因に『バッチ』ではなく、『バッジ』となる。トレーナー筆記テストの時に無意識で書くと前者になりやすいので注意が必要である。
話が大きくそれてしまったが、なぜそんなバッジが『フレンドリーショップ』で物を買う為だけにチェックが必要なのか。
「なぜバッジを見るのですか?」ケイが聞くと、彼は答えた。
「—余りに弱すぎるポケモンに、余りに強すぎる道具を使うと、ポケモンの調子が狂う可能性が高いのじゃ。なので、『バッジ』で現在のそのポケモンの強さのイメージを付け、そのポケモンの強さで推薦出来る道具をショップ側は並べるのじゃ。 まあ、そんなところか。」
爺さんはまだ続ける。 更に左に行き、奥に続く道の前の説明を始めた。
「この先は30番道路。ずっと先に『ポケモン爺さんの家』と更に奥に『暗闇の洞窟』がある。次の町は、更にその向こうにあるのじゃがな」
彼達はその更に向こうの『キキョウシティ』の『トレーナーズスクール』に通っていたのだが、『暗闇の洞窟』のある方面には行かず、草よけ道のみを通って来たので、『暗闇の洞窟』を知らなかった。
レイが重い腰をあげたのも、その『暗闇の洞窟』の内部が知りたかったからである。
爺さんは更に海に近づき、波が靴に当たるのではないかと思うほどに近づいたあたりで歩きを止め、こう言った。
「ここはご覧の通り海! しかし見てほしいんじゃが、向こうの小島に少々太った男性がおるじゃろう!
彼は泳いだ訳じゃなく、あそこまでたどり着けているんじゃ。ポケモンの力を使って、じゃ。 ああいう風景を見ていると、改めてポケモンの強大さを思い知るのじゃ」
又しみじみと呟いている爺さんだったが、直ぐに「さて」と踵を返した。

最後に家の前で足を止めた。
「そしてここがわしの家じゃ。ここまで付き合ってくれてありがとうよ。お礼に…そうじゃ、この『マップカード』を読み込ませてやろう!」
そう言い、爺さんのポケットの中から、トレーナーカードの様な物が出て来た。どうやらそれがマップカードらしい。
「『ポケナビ』に読み込ませるんでしたっけ?」
ケイが自分の手前のリュックを漁りながら聞いた。
「そうじゃ。 これは『ジョウト地方』の地図が見れるようになる、地図がバッグの奥底でクシャクシャになって出てくるなんていう惨劇を乗り越えられる素敵なアプリなんじゃ。」
そんな彼の悲しい昔話を受け流し、レイは修理に出して返って来たポケナビを出し、こう言った。
「そうですか…。そんな惨劇を乗り越えられて来たのですか?」
「そりゃあ、もちろん。」
レイがどちらかと言えば苦手分野に属する『コミニュケーション』を取り、無事にポケナビのカード読み取り部分にマップカードを滑り込ませる事が出来た。
ケイも同じ事をして、ポケナビを再起動してみると、電子地図が見れるようになっていた。
「少々見にくい、書いていない部分もあるかもしれんが、まあそう言う詳しく書いてあるのは紙の地図の方なんでな。そちらも参考にするとよかろう。」
レイが手渡したマップカードを受け取る。
「そんじゃあ、暇つぶしにお付き合いいただき、ありがとうのお!」
彼は彼の家に戻っていった。

「…疲れた…」
レイは自分がポケモンセンターに入って回復をしたいと言いたげな顔をしていた。
「そうかな?…じゃあ、あのご老人さんの話を黙って静かに聞いてくれた僕たちのポケモンへのお礼に、さっき説明があった『ポケモンセンター』を使って、ポケモン達と僕たちも休もうか。」
ラズ達は非常に喜んでいた。久しぶりの戦闘や接戦などもあり、疲れていたのかもしれない。
そう考えると、先ほどの話を黙って聞いていたのはもっと評価をしなければならないのかもしれない。
そんな事を考えていると、全く自分の意思で発したのではない言葉がレイの口から出ていた。
「ありがとうな、ラズ。」
その言葉を聞いたラズは、「ワニャー!」と笑った。

その後ラズが噛もうとして又大波乱となったのは言うまでもない。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想