第3話 第二話 『出発』

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いよいよ選択のときがきた。 —といっても、ただ借りるだけに大げさかもしれないが…
「よし、じゃあ俺は…こいつにしよう!」といい、真ん中のボールを手に取った。
「…分かった。じゃあ僕はこのチコリータにしよう」
ケイのその言葉を聞いたとたん、レイの表情が強張った。
「…え?」「このチコリータにしようと言ったよ?」「…いやいや、まさか、な…」
レイが顔を青くしていると、ウツギ博士がこちらによって来た。
「決まったかい?」「…は、はぁ…」「決まりましたよ。博士」
すると博士は細めて笑っていた目を開き、続けた。
「うん。—じゃあさ、お使いにいくついでに、実験の手伝いもしてくれないかな?」
「実験しながらお使いにいくんですか?無理ですよ」
苦笑いでケイが返すと、ウツギ博士は頭を振った。
「いや、君が想像している実験とは違うんだ。 ポケモンをつれ歩いた時、ポケモンの懐き具合は変化するのか、という実験さ。」「成る程。つまり僕たちにポケモンをボールから出して、一緒に行けばいいのですね?」ケイが要約すると、博士は首を縦に振った。
「そう。お願いできるかな?」「ええっ、マジ」「分かりました。いいですよ。ね、レイ?」
マジですかという心からの叫びを途中でカットされ、更に丸め込もうとされ、憂鬱そうな表情に変化させる。この世の終わりでも見てきたかのような表情だ。
「…いいですよ。」元気のない返事で了承した。
「じゃあ、早速出してみようか!」ウツギ博士から出していいの合図がでて、一番始めに出したのはやはりケイだった。ケイのモンスターボールから出てきたのは問題なくチコリータだった。
一方、レイは出すのを躊躇しているようだった。
「なにか嫌な予感がする…」ボールを手の中でくるくる回していたレイはようやく意を決し、ボールから手を離す。
ポンッという音の後に出てきたポケモンは…
     ———…ワニノコだった。 おおあごポケモン、水タイプ。 噛み付かれると超痛い。
因にポケモン図鑑では、『発達した顎はパワフルでなんでも噛み砕いてしまうので親のトレーナーでも要注意』と書いてあり、また別バージョンのポケモン図鑑では、『小さいながらの甘えん坊。目の前で動くものがあればとにかく噛み付いてくる。』とある。 身長は丁度レイの腰くらいまでだ。0.6mと言ったところか。
そしてこのポケモンを見たときのレイの反応は…
「やっぱりか…」肩を落とし、がっくりと項垂れている。しょんぼりという言葉がジャストで当てはまるだろう。
「どうしたんだい?」「…タイムマシン、ないかな…」「ないよ」
ばっさりと切り捨てられ、少し涙目になるレイ。
「なんでこんな運ないかなぁ…なんで1/3で第三希望きちゃうかなあ…」
ぼそぼそと呟いていたので、運良くウツギ博士には聞こえなかったらしい。
「どうしたんだい?」「いえ、なんでもないです…」
そんなレイの様子を見て、ケイがなぜそんな様子なのかを悟った。
「まあまあ、レイ。 気にしないで。」「気にするだろ…」
ずーん、とレイの周りの空気が重くなる。 しかし、そんな空気などしったことかとウツギ博士は無視して話し始める。
「じゃあ、今貸してあげたポケモンにニックネームをつけてあげる、というのはどうだい?」
「なるほど、いいかもしれませんね。 レイもつけるよね?」
落ち込んでいてもぐんぐん進んでいく話に恨みを感じながらも、彼は返事をする。
「ああ。つけようかな。」
二人の返答を聞き、ウツギ博士は情報を出した。
「ニックネームをつける上で絶対に必要な情報を忘れていたよ。レイ君のワニノコは『メス』で、ケイ君のチコリータは『オス』だよ。それを踏まえて、考えてね」

しばらく、ケイはポケモンとちょくちょく話し合ってニックネームを決めているようだったが、レイはまるでワニノコの注意を引かないようにしているようにしてニックネームを考えているようだった。
「よし」とケイが声を出し、「レイは決まった?」と続けて聞いた。
「…」しばらく目をつむり沈黙していたが、やがて目を開き、「ああ、決まった」と呟いた。
ワニノコの注意を引かないようにケイの方を見て、教えた。
「ワニノコのニックネームは—『ラズ』ってことにした」
「へえ、ハイテンションな甘えん坊なワニノコにはなかなか合わない名前だね」
思わず本心が出てしまった彼を別に咎めることもなく、「そうか?」と受け流した。
「まあ、ふと思いついた名前だしな」
「え?そんな軽いノリで決めちゃったのかい?それまずくないかい?」
「いやちゃんと考えたぜ? でも、初めに考えていた『ファス』っていうのは、ちょっとオスって感じかなっていうことで『ラズ』にしたんだ。」
「そう言えばレイって名前だけ聞くと女の子っぽいよね」「ほっとけ」
割と重要な突っ込みをさらりと受け流した彼は、何事もなかったように続けた。
「因にお前は何にしたんだ?」「教えなーい」「「…え?」」
何故かウツギ博士と声がかぶる。
「…ま、まあいいか。どうせすぐ分かるだろ」「そうかな?」
意地悪っぽく微笑むと、レイは小さく舌打ちをして、目を右下にそらす。
そらしたレイが目を見開いた。
「ちょ、おま…」 足下に、ラズがいたのだ。『目の前に動くものがあれば、なんでも噛み付いてくる。』
「あー…成る程…だから注意を引かないようにしていたのかー…」
ケイが一人納得している。 レイは、凍ったかのように身動き一つ取らず、博士に助けを求めた。
「ウツギ博士、こういうときはどうすればいいですか?私、怖くて仕方ありません」
ポケモンが嫌いで且つ今にも噛まれそうな恐怖で妙に丁寧な聞き方になった。
「諦めて噛まれればいいと思うよ」
ウツギ博士の冗談の回答が終わると同時に、ラズがレイに飛びついた。
「うわあああああああ!」間一髪でよけると、それで終わらず、次々パチン、パチン!とジャンプして噛み付こうとする。
「あっはっは、懐かれたんじゃないかな?」ケイがそういうと、レイが涙目で逃げながら答えた。
「お前俺が今にも腕噛み付かれそうな状態をみて良くそんなことが言えるなああ!取りあえず助けてー!」
これ以上レイにトラウマを植え付けるのもどうかと感じたのか、ケイが止めに入った。
「ラズ、流石にもう止めてあげたら?」ラズはケイの方を振り向いて、レイの方に視線を戻し…
ようやく、落ち着いた。
「はぁっ、はぁっ…。し、しぬかと思った…」トラウマを植え付けられたレイは汗びっしょりになって目を見開いていた。
「そんな大変疲労しているところ申し訳ないけど、お使いにいってきてね!」
ウツギ博士がそう言い、「いってらっしゃい!」と言ってくる。
彼らも「いってきまーす」と返した。 そしてラズとチコリータも『おや』を見てポケモン語で挨拶をした。これから、ちょっとした冒険が始まる。

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