第3話 戦闘

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 ルバブ村の周囲は森で囲まれている。危ない生き物もいないので、村の子供——とは言ってもルーファスとミムだけだが——の遊び場になっていた。
 森の中の一本道を抜ければ、草原が広がっている。遠くには川も見えた。
 その中を旅人が行き交うことで踏み固められて出来た道が通っている。
 ルーファスとギリアはこの風景を見に来ることはあっても、この草原に出たことがなかった。
 森と違い、何が起こるかわからないからである。
 危ないことも起こりうることを、やんちゃなルーファス達でもきちんと理解していた。

 しかし、これからはこの外の世界を旅することになる。

 それはとても興味深くて、楽しみで、でも怖くて、恐ろしい。
 草原が見えたとき、見たことある風景なのに今までと違って見えて、ルーファスは喜びと恐怖で震えた。

「大丈夫か?」
「武者震いだよ! へーきへーき!」

 アズラクに対して笑顔を向けるルーファス。
 彼の心は恐怖心よりも好奇心のほうが上回っていた。

『いよいよだね、ルーファス』
「ああ! なにが待っているんだろうな!」

 ワクワクを押さえきれない。ルーファスはそんな風に見える。
 待っているのは楽しいこととは限らないのに、とアズラクは少々頭が痛くなった。


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 ルバブ村を出てしばらく。
 ルーファスは窮地に立たされていた。

「あー! こいつらなんなんだよ!」
「ポケモンだな」
「ポケモン!? こいつらが!?」
「凶暴化している。あと環境的なものだな、巨大化してる」
「ええ!?」

 彼らの前には巨大な闘牛の集団に二足歩行のワニが三匹、目の前にいる。
 どちらもその目は凶暴な光を湛えている。
 その目に、ルーファスは怯えてしまう。
 彼がこのようなポケモンに出会うのは初めてだった。

「あの茶色い牛のようなのはケンタロス、そっちの青いワニはオーダイルだな。川が近いのか」
「森の泉から流れてるのがあるよ」
「そこから来たか。……やるぞ」
「ええ!?」

 アズラクの言葉に、ルーファスは驚く。そして思う、あんなのと戦えるのだろうか。
 彼が戸惑っていると、ギリアがルーファスの服の裾を掴み、話しかける。

『あいつら逃がしてくれないよ。戦わなきゃ』
「うう……わかった、やるぞ!」

 ルーファスら諦めて背中に背負った剣を抜く。
 赤い宝石がキラリと輝いた。

「俺とカメリアが倒す。ルーファスとギリアは自分の身を守ることに専念しろ」
「ぱる、ぱるる」
「なんでだよ! 俺だって戦える!」
『震えながら言っても説得力ないよ、ルーファス……』
「その様子じゃ期待できないな。まあ見てろ!」

 アズラクは剣を取り出し、声を上げて走ってくるケンタロスに向かい走り出す。
 両者がすれ違った瞬間、ケンタロスは倒れた。
 背後から襲いかかってきたオーダイルは手を叩き斬る。
 もう一匹オーダイルを倒すと、アズラクは敵を睨み付けた。
 するとポケモンの集団は何匹かは怯えて逃げ出したが、逆に恐怖から飛びかかってくるポケモンもいる。
 しかし、アズラクは剣をしまう。

「アズラク! 危ねえ!」
「大丈夫さ」

 そう言ったアズラクの前に、カメリアが躍り出る。
 向かってくる集団に対して彼女は電撃を放った。
 倒れるもの、痺れてしまったもの。二人の攻撃のよって凶暴化したポケモン達は鎮まった。

「終わったか」
「ぱるう」
「すまない、だがお前ならやってくれると信じていたからな」
「ぱるぱる!」

 そのとき、ルーファスたちの足下の地面が盛り上がった。

「もう一匹いたのか!? ルーファス、ギリア!」

 アズラクが声を上げるがすでに遅い。
 地面から飛び出してきたモグラが、ルーファス達に襲いかかる。

『ルーファス、下がって! ぼくが!』

 ギリアはルーファスの前に出ると、拳を構える。

『はああ!』

 波動を拳に乗せ、飛び出したモグラ……モグリューの殴り掛かる。
 一発、二発、三発。四発目は躱されてしまった。
 モグリューは攻撃に転じて、爪で切り掛かってくる。

『せいやあ!』

 しかし、ギリアは落ち着いて渾身の技を放った。

『はっけい!』

 その攻撃でモグリューは飛ばされる。
 ギリア相手では分が悪いと思ったモグリューは、ルーファスに襲いかかった。

『ルーファス!』
「やってやる! 俺は父さんの息子なんだ!」

 そう言ってルーファスはモグリューに向かって剣を向ける。
 モグリューの爪を防ぐと剣を振り上げる。

「うおおおおおお!!!!」

 そしてそのまま剣を振り下ろした!
 斬られたモグリューは地面に倒れ、動かない。

「はあ……はあ……」

 剣を下ろしたまま、ルーファスは肩で息をした。

「……やった、のか」
「ああ、お前が倒したんだ」

 側に寄ってきたアズラクがルーファスの言葉に応える。
 その言葉に安心したのか、ルーファスはふう、とため息をつくとどがっと後ろに倒れ尻餅をつく。

『ルーファス! 大丈夫!?』
「ああ、大丈夫だ……へへ、やったぜ」
『うん、僕たち勝ったんだ!』

 嬉しそうに話す二人を見て、アズラクは何か考えるように腕を組む。
 その頭にあったのは襲ってきたポケモン達のことだった。

「ルーファス、ルバブ村が今までああいうポケモンに襲われたことは?」
「ないよ。あったらあんなに驚かないよ」
「そうだよなあ。だが、噂じゃ最近ああいう凶暴ポケモンが増えているんだよな……何か原因があるのか?」

 アズラクは再び考え込む。
 凶暴化したポケモン。たしかに元々気性の荒いポケモンはいるが、そう言う問題ではなさそうだ。
 なにか原因があるはずだが……。

「それに……」

 最後に出てきたモグリュー。奴の目は暴走している他のポケモンの目とは違った。
 何者かが自分たちを狙ってきた、と考えるほうがいいだろう。
 そうなれば。

「ルーファス、今まで誰かに剣を教わったことは?」
「ほとんどないよ。父さんが生きてるときにちょっとだけ。あとは自己流さ」
「やっぱりな……」

 それを聞いてアズラクは笑顔でこう言い放った。

「二人とも、街についたら修行な」


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「やっと着いたー!」
『つ、疲れた……』

 四人がたどり着いたのはエレムラスという人口も少ない小さな田舎町である。
 小さいながら、道路二は露店がところ狭しと並び、商店街は活気ついていた。

「すっげー! 町ってこんなに建物が沢山あるんだな!」
『本当に! 人もポケモンもいっぱいだよ!』
「こらこら、もっと大きい街だってあるんだぞ?これくらいで驚いてどうする」

 子供達の様子に苦笑しながら、アズラクは宿屋を捜す。
 やがて一軒の宿屋を見つけると、三人を連れて入っていった。

「人間二人にポケモン二匹だ。部屋はあるかい?」
「ちょっと待ってくださいよ……ってアズラクさんじゃないですか。その節はどうも」
「当然のことをしたまでさ」

 宿屋の店主と知り合いなのか、楽しそうに話すアズラク。
 どうやら前に彼はこの店主を助けたことがあるようだった。

「そういえば、そちらの子供達は?」
「ルバブの子達さ。ちょっと預かることになってね」
「ほう、ルバブの子かい。最近あそこに行く客が少なくなってねえ。昔は皆あそこが目的地だったのに」

 村の話になったところで、ルーファスが会話に首を突っ込む。
 自分の村の話になって居ても立っても居られなくなったようだ。

「おじちゃん村のこと知ってんの?」
「ああ、言ったことはないがね。村の人はいい人ばかりだし、何より空気が美味しいらしいねえ」
「うん、その通りだぜ! すっごく気持ちいいんだ!」
「そうかそうか。よーし、君達のためにもいい部屋用意するからね!」

 そう言うと宿帳を開き、空いてる部屋の有無を確認する。

「アズラクさん、この部屋なんてどうですか?」
「いいね、四人でも十分な広さだ。その部屋を一週間頼む」
「一週間?なんでまた」

 店主は怪訝そうにアズラクを見る。
 するとアズラクルーファスたちを見て言った。

「最近物騒だろ。だから少しでもこいつらが生き残れるように修行をしようかなって思って」
「なるほどねえ。最近確かに危ないもんねえ。特にあの予言が出てから危険が増えている気が……」
「でしょう?」
「わかりました、では一週間で部屋をお取りしますね。こちらが鍵です。お食事は外で食べますか? それともここで食べますか?」
「ここの方がいいな。よろしくお願いするよ」

 行くよーとルーファス達に声をかけ、アズラク達は二階の割り当てられた部屋に行く。
 そこは一番奥の部屋で、グループで泊まる用に作られた部屋だった。
中は広く、ベッドが左右に二つずつ並んでいて、真ん中にはテーブルとイスが置かれていた。
 
「わー! ここに泊まるのか!」
『広いね!』
「ああ!」

 部屋の入り口で立ち止まって喜ぶ二人に急かして部屋に入る。
 荷物を置くと、ルーファスは窓辺に駆け寄る。
 窓からは外の景色が一望出来た。

「そろそろ食事に行こうか」
「ぱるる」
「おう!お腹ぺこぺこ!」
『僕もー!』

 一階のレストランに行くと、既に人が沢山居た。
 店の中は客のおしゃべり騒がしい。だが暖かい雰囲気に包まれていた。

「ここのレストランの料理は美味しくてね。宿泊者以外のお客も多いんだよ」
「へえー」
『どんな料理だろうねえ?』

 席についてワクワクしながら待っていると、料理が運ばれてきた。
 お皿からは湯気が立ち上っている。出てきたのは「にくの実」のステーキとの「クラボのみ」のスープだ。

「わあ! ステーキだ!」
『美味しそうだね!』
「それじゃあ、頂きます」
「『いただきまーす!』」
「ぱるる!」

 大きな声で挨拶をすると、ルーファスとギリアは肉に噛み付く。
 ステーキは噛めば噛むほど汁が溢れ出した。

「ほら、スープも美味いぞ?」
「ぱるぱる」

 言われてルーファスが飲む。
 クラボの実のスープはピリ辛で食欲をそそり、ミルクが使われているのかクリーミーであった。

「なんだこれ! うめえ!」
『辛いけどミルクのお陰ですごく辛いってわけではないね!』
「口に合ったようでよかった」

 そう言うとアズラクもステーキを一切れ食べる。
 カメリアはスープを一口一口飲んでいた。

「なあアズラク。修行って何をやるんだ?」
「なあに、基礎的なことだよ。体力付けたり、筋肉付けたりね」
「ふーん。具体的には?」
「走り込みとか腕立てとかかな」
「うえぇ……」
『それで強くなれるの?僕やるよ!』

 それを聞いてルーファスは嫌そうな顔をする。
 ギリアは逆に嬉しそうだ。

『ルーファス、頑張ろうね!』
「お前は元気だな……腕立てとか辛いだけじゃん……」
「剣士には腕に力がないとな。必要なことだ」
「わかってるよー」

 ルーファスはむすっとした表情で、最後のステーキの一切れを食べた。


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 深夜、とある場所。
 そこに二つの影があった。

「準備はいいか?」
「はい」

 片方は膝をつき頭を下げていて、片方はそれをイスの上から眺めている。
 イスに座っているほうが立ち上がり、拳を持ち上げ演説する。

「よいか、滅亡の邪魔をさせてはならない。これは世界の意志なのだ! 我らはこの意志に抗ってはならぬのだ!」
「わかっております」
「では行くがよい、我らの邪魔をする可能性のある者達を消し去るのだ!」

 闇が、動き出す。世界を終わらせるために。

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