がっこうのかいだん

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作者:円山翔
読了時間目安:5分
 それは、私がまだ、グレープアカデミーに通っていたときのことでした。
 夜中の十二時を少し回った頃、珍しく寝付けなかった私は、自室を出て廊下をぶらぶらと歩いていました。散歩をして多少なりとも疲れれば、ぐっすり眠れるだろうと踏んでのことでした。
 グレープアカデミーは年齢・職業問わず多くの学生が通っているので、どんな時間でも授業や課外活動ができるように設備が解放されています。真夜中でも廊下は消灯されているものの、教室には明かりがついていて、談笑が聞こえました。先生たちはいつ休んでいるのだろうと疑問に思うこともありましたが、聞けば授業の合間にちゃんと休んでいるとのことでした。
 さて、私が家庭科室の前を通りかかると、中から聞き覚えのある唸り声が聞こえました。
 扉を開けると、体育担当のキハダ先生が何やら難しそうな顔をしていました。キハダ先生は三度の飯と同じくらいトレーニングが大好きで、自らもポケモンと一緒に身体を鍛える徹底っぷりです。もしかすると、並のポケモンでは、太刀打ちできないかもしれません。
「キハダ先生」
「押忍! 転入生! 家庭科室で会うとは奇遇だな!」
 私が声をかけると、キハダ先生は溌溂とした笑顔を私に向けました。キハダ先生はいつも笑顔でいることで有名なのですが、今日の笑顔はいつもと比べて少し陰っているように見えました。
「どうしたんですか。難しそうな顔をしていましたが」
「ええと、それがだな……」
 キハダ先生は言うべきか言うまいか迷っている様子でした。でも、意を決したように、小声で私に教えてくれました。
「転入生は知っているから言うんだが、サンドウィッチ作りの特訓をしていたんだ。サワロ先生にも教わって、食材や調味料にも気を遣っている。だがな……」
「だが……?」
「何度やっても、サンドウィッチが爆発してしまうんだ」
「ばっ!?」
 私は耳を疑いました。サンドウィッチが爆発するなんて、聞いたことがありませんでしたから。思わず大声を上げそうになって、私はあわてて口を噤みました。周りにはまだほかの学生たちもいます。キハダ先生は特訓のことを私とサワロ先生にしか話していないはずなので、爆発などと言うと余計な心配を与えてしまうかもしれません。
「一体何を塗って何を挟んだんですか」
「ん? いつも通りにバターを塗って、レタスと焼きベーコンをしこたま挟んだだけなんだが……」
 しこたま、という言葉が気になりましたが、具材には爆発する要素など見当たりません。
「先生、場所を変えましょう。実際に同じ材料で作ってみていただけませんか?」
「わかった! せっかくだから、特訓に付き合ってもらうぞ!」

 さて、テーブルシティの外でピクニックセットを広げて、キハダ先生にサンドウィッチを作ってもらいました。その様子を見た私は、目を疑いました。
 キハダ先生の言う通り、パンにバターを塗ってレタスを敷き詰め、その上に焼きベーコンをしこたま置いているだけでした。しかし食材を積んでいるうちに、何がどうなったのか、食材が破裂したように吹き飛んで消えてしまうのです。
「不思議だろう! 私もなぜこんなことになるのかわからないんだが……」
「私にも、何が起こっているのかわかりません……もう少し具材を減らして、崩れないよう丁寧に並べてみてはどうでしょう?」
「具材を減らすのか……筋肉のためにはたくさん積みたいところだが……だが、やってみなければわからないな! やってみよう!」
 私の助言を元に、キハダ先生はもう一度サンドウィッチを作り始めました。(先ほど爆発したサンドウィッチのなれの果ては、私とポケモンたちでいただきました。口が裂けても言えませんが、とても美味いとは言えなかったので「美味しくいただきました」とは言いませんでした)。
 今度は爆発することなく、具材もパンも綺麗に乗って、ピックもきちんと刺せました。どういう原理かはわかりませんが、積み方が悪いとサンドウィッチは爆発してしまうようです。
「転校生のおかげで、また一つサンドウィッチ作りが上達した! 感謝するぞ!」
 今度こそ美味しくサンドウィッチをいただいて、キハダ先生は元気に学校に戻っていきました。

 それからというもの、私は宝探しそっちのけでサンドウィッチの爆発について研究を始めました。今思えば、私の宝物は、この「サンドウィッチ爆発学」の論文を発表できたことにあるのかもしれません。どの食材をどのように積めば美しくサンドウィッチを爆発させられるのか。需要はどこにもありませんが、私は私の興味を持ったことを研究し、こうして発表できています。この経験こそが、かけがえのない宝物なのです。

 以上、私の「学校の快談・・」でした。次は、そうですね……ボタンさん、お願いします。

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