開幕!バトルトーナメント⑧

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

※前回以上にグダグダ
「まず1チームめは!ドレディア&エルフーン!」

わぁあという歓声と共にコートへ上がってきたのは、ディスト達の対戦相手であるドレディアとエルフーン。優雅に歩くドレディアの隣で、エルフーンはふわふわと飛び回りながら進んでいく……その様子を落ち着かない様子でディストは眺めていた。やはりあのこと、ガオガエン達のことを気にしているのだろうか。心配に思ったダチュラがぼそっと尋ねてみる。

「さっきのこと?」
「ん?ああ、それもあるけど……なんというか、それ以上にワクワクが止まらないっていうか……」

どうやら杞憂だったらしい。ならよかった、とダチュラは安心した。

「対するお相手は〜?ギルガルド&ダダリンチーム!」

名前を呼ばれた。二匹は目を合わせ頷くと、バトルコートへ踏み出していく。
今までと同じように大きな歓声で迎えられる。全方向どこを見ても観客達が見える。自分達も登場の時に何かしようかなんて話し合っていたが、結局シンプルに行こうということでまとまっていた。そのまま定位置まで辿り着くと、ぴたりと止まり、敵チームに目を向ける。するとドレディアは丁寧にお辞儀をし、エルフーンは「おーい」とニコニコしながら手を振ってきた。正直どんなポケモン達が相手なのか不安だったディストは、それを見て少し安堵した。こちらも控えめに手を振る。

「ダチュラ〜!ディストさ〜ん!頑張れ〜!」
「頑張れ」
「フフ……愉しみだな。我が盟友がどんな戦いを繰り広げるのか……」

「ディストさん!ダチュラさん!頑張ってください!目指すは優勝です!」
「二匹とも、こんなところで負けるんやないで!」

皆それぞれ観客席から二匹に対して声援を送っていたが
そんな中、タルトはエールにしては小さな声でディスト達を応援していた。クォーツに至っては無言のままコートを眺めている。

「……クォーツは何も言わなくていいのか?」
「どうせ聞こえませんシ。そもそも柄じゃありませんかラ」
「それもそうか……なんか恥ずかしくなってきた……」
「声量の話ですカ?気にしなくていいと思いますヨ。ディストなら大事なのは心だとかなんとか言い出すと思うのデ」
「いやそういうわけじゃ……まぁいいか……」

慣れないことをして少し後悔しているタルトを前に、クォーツはいつもの調子を保っていた。


「両チームとも準備はよろしいでしょうか〜?」

ディスト達もドレディア達も構える。相手がどう出てくるかわからない以上、油断はできない。

「それでは……Ready GO!」

その声と同時に試合開始の合図であるゴングが鳴り響くと、ディストはシールドフォルムのまま、そっと霊力を溜めながら向こうの出方を窺う。だがあちらは攻撃を仕掛けるどころかこちらに近づいてこようとすらしない。エルフーンは一段階くらいもこもこ度が上がっている気がするし、ドレディアはくるくると、なんだか踊っているような。もしかしてあの動きは──。

「ダチュラ!頼む!」
「わかった!」

ディストに指示されるとダチュラは前に出た。そして自身の鎖を目一杯伸ばし、それをあの二匹に向け思い切り振りかぶる。その大胆な動きにより相手からも何をしようとしているのかわかりやすいのがやはり難点だ。エルフーンはふわふわとその場から離れ、ドレディアもくるりと優雅に避ける。

「細かいことは気にしないでとりあえず攻める作戦でいくぞ!あっちが自由に動く隙を与えないように!」
「オーケー!」

だがそんなのなんのその。ダチュラはもう一度、今度は標的を一匹に絞って錨を振り下ろす。しかしこれも避けられてしまった。だけど関係ない。ただ当たるまで繰り返せばいいのだから。

その間にディストはもう一匹の方へ狙いを定めた。おそらくエルフーンはコットンガードにより物理技に強くなっているはず。そうなればダチュラが相手をするのは不利だ。ダチュラ自身もそれをわかっていたのだろう。ブレードフォルムにチェンジし、溜めていたシャドーボールをエルフーンに向けて放つ。

「おっと~危ない危ない」

それを何度か繰り返して相手の動きの癖を読む。悪戯っぽく笑いながら避けられるが止めず続ける。ディスト目掛けて降りかかってきた黄色い粉をギリギリで避け、またも霊力を溜めた。
じきにあちらが「そんなんじゃずっと当たらないよ~?」なんて口にした時、ディストはもう一度シャドーボールを撃った。慣れたようで余裕そうに避けるエルフーン……だけどその軌道は今までのようにそのまま奥の方へ消えていく訳ではなく、明確に、彼の避けた先に向かっていった。

「……っ!なるほどね~。そういうことかぁ」

予想外だったのかエルフーンは目を丸くしたまま技を受けてしまった……が、悔しがるような素振りは見せず、むしろ「やるぅ!」とニコニコでディストを称賛した。

「……お前、なんで攻撃してこないんだ?」
「同じく様子見〜。けどそろそろいいかな」

フフフと笑いながらエルフーンはディストに向かって何か種のような物を投げつけてきた。当たることはなかったが、もちろんそれだけでは終わらない。地面へ放られた種はみるみるうちに成長していく。やがて何本かの長い蔓ができ、それらが意思を持ったようにディストの方へと伸びていった。よくわからないがやばそうだととにかく逃げる。切るにもこうして避けるだけで精一杯だ。

「えーい!」
「うわっ!」

そんな中エルフーンは無慈悲にエナジーボールを放つ。そのせいで少し動きがふらついたところを蔓は逃さなかった。ディストの体にどんどんぐるぐると巻き付いていく。幸い腕だけはするりと抜けられたものの、これじゃシールドフォルムになることは困難だ。
おそらくこの技はやどりぎのタネというやつだろう。相手の体に絡みついてじわじわとその体力を奪っていく……とフェザーが言っていた。このまま放置しておくのは危険だ。

(けどこの位置じゃ切るのも無理だし、複雑に絡まってるせいで解こうにも時間がかかる……)

なんて考えてる間にもエルフーンは空から痺れ粉を撒いてきた。まだ動きに支障があるほどではない。こうなったら早く相手を倒すことだけに集中した方がいいだろう。ディストはエアスラッシュで降ってくる粉をバラバラにした。


「……このままでは攻撃に集中できませんね」

無闇矢鱈に振り回してきていることはわかる。けれど技を使うために一瞬でも動きを緩めてしまえば、あの重い錨がすぐこちらにぶつかってくるだろうことも確かだ。ドレディアはなるべく相手から距離を取りたい。けど向こうがそれを許さない。先程の蝶の舞のお陰で回避に専念できるくらいの素早さは得ているが、このまま相手の体力消費を待っていられる程の余裕はない。それならば多少のダメージくらい覚悟のうえだ。スピードを落とし、技の準備に集中する。もちろんダチュラはその隙を逃さない。だがその鋭い先端がドレディアに当たろうとする瞬間、彼女の周りを無数の花弁が舞った。

「わっ!」

技は命中したはずだ。けど突然現れた花達のせいでその勢いは弱められてしまい、逆にこちらの動きを止められてしまった。ダチュラは鎖を仕舞いなんとか距離を空けようとするも、花弁はフィールド全体に撒き散らされているようで逃げ場はない。

「うぉあ!?……なんだこれ!?」
「ドレっちのはなびらのまいだ〜!いや〜いつ見ても綺麗だねぇイテテ」

……もちろん彼女達と少し離れたところで対峙していたディストとエルフーンにも被害は行っていた。

「うーん、あっちから見てたら絶景だったろうに!」
「お褒めいただき光栄です」

本来であれば終わった後に混乱を伴うこの技だが、彼女の場合特性のお陰でそのデメリットを消すことができる。つまりやろうと思えばこのまま敵が倒れるまで続けることも可能ということだ。そこまでドレディア自身の体力が持つか、それに相性としてもいまいちだが、蝶の舞のせいで多少威力が上がっているのだ。流石にこれをずっと受けているのは無理がある。炎でも扱えれば全て燃やし尽くせたのに、なんて思いながらダチュラは考えた。どうすればこの花を打ち消せるか……。

(あ、そうだ)

ダチュラは鎖を伸ばし、その場でぐるぐると回転を始めた。やがて目にも止まらぬ速さになると、花弁を無視してそのままドレディアへ向かって突撃していく。数ターンずっと技を出し続けていて多少疲れが見えていたドレディアは反応が遅れてそんなダチュラのジャイロボールを受けてしまった。それと同時に会場内に舞い散っていた花弁も勢いを無くしてはらはらと地面へ落ちていく。

「やりますね……ですがそれなら」

誰に聞かせるというわけでもなく呟くと、彼女はもう一度その場で軽やかに舞った。手痛い技を受けたばかりだというのに、直後に降ってきたダチュラからの攻撃もするりと避けていく。ドレディアは余裕そうに笑みを浮かべると、花粉で出来た丸い団子のような物を何個かダチュラに向けて投げた。直後、相手がそれに気を取られているうちにオボンの実を懐から取り出して頬張る。これで先程のジャイロボールのダメージは少し和らいだ。肝心のダチュラの方はというと、最初の何発かはギリギリ外れるも、一つだけ、上の方へ投げられたかふんだんごは命中してしまっていた。黄色い粉が錨に散りばめられる。だが致命傷になる程ではない。ダチュラはすぐ反撃しようとドレディアに接近していった。

「遅いですね」

けれど案の定。ふふふ、と笑いながら煽るドレディア。確かにダチュラの技は強力だが、どうしても読まれやすい。その上相手が素早いとなると必然的に当てるのも難しくなる。だけど、それならば。

「……よし、作戦変更!」
「はい?」

ダチュラはそう叫ぶと一瞬の内に姿を消してしまった。ドレディアはすぐに察した。ゴーストダイブだ。さっきのはなびらのまいの時に使われなかったからか、てっきり覚えていないものだと油断していた。
集中して辺りを警戒する。来るとしたらきっと後ろからだ。

「っ!」

想像通り、背後から気配を感じた。だが振り返ってもその姿は見えない。慌てて周りを確認するが、ダチュラはどこにもいなかった。どういうことだとドレディアが考えていると、ふとあちらの方から大きな叫び声が──。

「エルフーン!?」

そこには鎖に捕らわれている自分の相棒の姿があった。そもそも狙いはこちらじゃなかったのだ。そうだ、これはダブルバトル。決して一対一で行われるバトルじゃない。そのことを失念してしまってはいけない。ドレディアは急いでエルフーンに向けてかふんだんごを投げつける。だがそれは彼に届く前にディストのシャドーボールでかき消されてしまった。

「油断したな!」
「うう、苦しいよ〜……もしかして始めからそのつもりで?」
「いや、なんとなく」

読めない。何も。敵はさっきから作戦だのと口にしてはいるが、それは全て今、この場で、思いつきだけで行動しているに過ぎない。言ってしまえば脳筋戦法だ。そもそも読もうとすることが間違いなのではないか。いや、それだけならまだよかった。問題は相手が実際その戦法に頼ってもいいくらいの実力を持っている、ということだ。けれどこちらも負けるわけにはいかない。

「フフ……まぁいいけどね!僕はこの通りふわふわだから!」

さっきの反応はわざとだったのか、エルフーンはそう言って難なくダチュラの拘束から逃れた。コットンガードのおかげで大したダメージを受けた様子もない。だが特に動揺することもなくディストは彼に向かってラスターカノンを撃ち、ダチュラはまたドレディアに対して錨を伸ばす。別にあの状態を狙っていたわけじゃないというのは本当なのだろう。ドレディアはダチュラの攻撃を横に避けると、もう一度エルフーンの方にかふんだんごを投げる。今度は邪魔されることなく彼の口元へと命中した。眩しさから目を細めていたエルフーンは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐそれがなんなのか把握した。もぐもぐと口を動かし、やどりぎのタネも合わせて完全に回復する。それに比べてディストの方はさっきからずっとじわじわと体力を削られていた。ダチュラになんとかしてもらう……にしても時間がかかりすぎる。このままでは正直不利だ。

「……よし」

そんなディストが決めた作戦とは。

「んん?ちょっと、逃げる気〜?」

ディストはダチュラと対峙しているドレディアへ向けてシャドーボールを放った。一瞬でも敵に背を見せたディストに対してエルフーンも後ろからエナジーボールを撃つ。だがそんなの予想の範囲内だ。ディストは技を使った直後に横へと避けた。エナジーボールは誰に届くでもなく空中へ消え去る。
ドレディアは偶然ギリギリでシャドーボールを躱すも、突然放たれたシャドーボールに気が散った。そして迫っていたダチュラのアンカーショットが直撃し、そのまま拘束される。

「ドレっち!」
「隙あり!」

相手がドレディアに気を取られているうちに、ディストはその場で剣を振るった。すると鋭い空気の刃がエルフーン目掛けて勢いよく飛んでいき、向こうがそれに気づいた時にはもう遅い。エルフーンは思い切りエアスラッシュを受けてしまった。そのままふらふらと下に落ちていくが、地面に足がつくとなんとか体勢を立て直してディストを見据える。やどりぎのタネがあれどあと一撃ディストの攻撃を食らってしまったら自分はやられてしまうだろう。ならばせめて少しでもダメージを与えたい。向こうの体力だってもうそう多くはないはずだ。そう考えてじっと睨み合う。すると──。

「わあっ!?」

エルフーンの体に何枚もの花弁が纏わりついてくる。もしかして、そう思って薄目でドレディア達の方を見ると。

「ま、またこれか!ダチュラ、大丈夫か!?」

流石にこのまま受けたらやばいと気合いでシールドフォルムにチェンジしたディストは、キングシールドで自身の周りを守りながらダチュラの安否を確認した。だがそこには、くるくると舞いながら花弁を踊らせているドレディアがいるだけ。ダチュラの姿はどこにもない。

「……よし!今なら!」

相手は今油断している。そう判断したエルフーンは急いでビリビリと痺れる粉をディストに向かってばら撒いた。予想は的中し、向こうは花弁で視界を邪魔されているのもあってまんまとその痺れ粉を受けてしまう。麻痺状態、体力もおそらく残り少ない中やどりぎのタネ……それだけ聞くと満身創痍のように感じるが、ディストはまだまだ余裕そうな素振りを見せている。そんな相手を睨み返しながらエルフーンがエナジーボールを溜め始めると、そこでドレディアの声と共に舞っていた花弁がはらはらと落ちていった。
どうやらアンカーショットで捕まえていたドレディアがはなびらのまいを使おうとするのを察し、咄嗟の判断によってゴーストダイブでしばらく身を潜めていたダチュラが技の終わり際に後ろから攻撃した様子。
倒れてしまったドレディアは、ゆっくりと立ち上がった後、微笑んだ。

「威力は申し分ない……けれど、しばらく自由に動けなくなるのはやはり大きなデメリットですね」
「みたいだね。だからこそ乱発したくなかったんでしょ?」
「ええ、彼……エルフーンにも迷惑がかかってしまいますから」

とはいえあの状況から脱するにはこうするしかなかったのだ。ドレディアは残った力を振り絞って、最後の、四つ目の技を放った。
ドレディアが両手を空に掲げると、突然、ダチュラの周りに大きな風が巻き起こる。やがて嵐のように勢いを増し、それと共に大量の尖った葉がダチュラを襲った。だがダチュラも負けずに反撃する。リーフストームを身に受けながら自身の体を回転させ次々と葉を弾き返していくと、そのままドレディアの方へと突っ込んでいった──。


「どうしたの?動きが鈍くなってきてるけど〜」
「仕方ないだろ!というかお前のせいだし!」

麻痺によって上手く技を使えないディストは、ただひたすらシールドフォルムのままエルフーンからのエナジーボールを避けることに専念せざるを得なくなっていた。そんな中、ずっと体力も吸われ続けているのだ。本当ならこんな悠長なことはしていられない。それはわかっていた。
だがエルフーン側もあと一発技を受ければ終わりだ。こうして軽口を叩きながらもその緊張感は治まることがなかった。
両者警戒を緩めることなく相手の出方を窺う。先に動いたのは。

「……っ!」

ディストだ。くるりとフォルムを変えながら剣を振るう。だけどそのエアスラッシュはいとも簡単に躱されてしまった。ビリビリと体が痺れ、上手く動けない中、容赦なくエルフーンはエナジーボールを撃つ。チェンジする余裕がないディストはブレードフォルムのまま自身の盾で技を受け止めた。

「すごいね〜。麻痺状態でそんなに動けるなんて」
「頑張ってるんだよめちゃくちゃ!」
「そっかそっか〜。辛そうだからそろそろ終わりにしてあげる!」

エルフーンは何発ものエナジーボールを作りディストへ投げつけた。これならあの盾だけでは防ぎようがないだろう、そう考えて。だがディストは咄嗟にそれらへエアスラッシュをぶつけた。エナジーボールは粉砕され、残った刃がエルフーンの横を掠る。なんともしぶとい。このまま続けていてもいずれやどりぎのタネでやられるというのに……そう思いながらエルフーンはもう一度彼に技を放とうとした。その時。

「うわっ!」

エルフーンの隣を何かが横切った。鋭い風のような……さっきも感じたあの感覚はまさか。慌てて相手に向き直ると、そこにはバラバラに切られた蔓を下にこちらを見つめるディストが。なるほど。最初にシャドーボールをぶつけられた時のようなことをエアスラッシュでも行ったのか。そして目的はエルフーンに当てることではなくやどりぎのタネを解除すること。けれどそれならばもう一度仕掛ければいいだけのことだ。エルフーンはディストから距離を取りながらぽとんと種を落とした。

「本当にそれでいいのか?」
「え……」

だがディストはその隙に何個もの空気の刃を振るった。最初は何が起きるかわからず油断してしまっていたが、二回目となると対処法もわかる。伸びてこようとする芽を刈り、また刈り、やがて全て刈られた時、最後にはエルフーンへ向けて飛んでいった。さっき連発したせいで上手く力が溜められず、せっかく撃てたエナジーボールもエアスラッシュの相殺の末、消えた。そして。

「つーかまえた」
「……っ!」

突然背後から現れたダチュラに気づかず体を拘束され、ふわふわとすり抜けて逃れようとしたところをディストのエアスラッシュで追撃される。
力が尽きて地面にぽとりと落ちたエルフーンにドローンロトムが近づいていく。少ししてロトムは会場全体に告げた。

『ドレディア、エルフーン、戦闘不能!』

その言葉を聞いたディスト達は、一気に体から力が抜けてその場に倒れ込んでしまった。







「二匹ともおめでとう!」
「おめでとう」
「フフフ……流石だなダチュラよ。私は信じていたぞ」

試合を終えたディストとダチュラが戻ってくると、レイジを除く皆が彼等に駆け寄っていった。
結局あの後ディストはギリギリの体力と麻痺で上手く動けず、スタッフのポケモンに手を貸してもらってやっと休憩室へ行くことができた。本当に気合いだけで動いていたようだ。今は回復させてもらって二匹とももうすっかり元気になっている。
ちなみに次の試合はお昼休憩を挟んで一時から。そういうことでしばらく時間があった。

「ありがと〜!でもまだ決勝に行けるって決まったわけじゃないもんね」
「ディストさんとダチュラさんなら大丈夫ですよ!」

フェザーはニコニコと笑いながら二匹を褒め称えていた。それを聞いてふふんと少々調子に乗っているディストに対して、クォーツはとんとんと磁石で体を叩く。彼が振り返ると、そこにはタルトもいた。するとクォーツは他の耳に入らないよう小さな声で伝える。

「浮かれているところ申し訳ありませんが少し話したいことがありまス」
「話したいこと?」
「できればダチュラも一緒ニ」

なんとなくチームに関することではないかと察したディストは、お昼を買いに行くという名目でクォーツ、ダチュラ、タルトと共に一旦その場から離れた。
ポケ通りの少ない外の日陰へやってくると、クォーツが話を切り出す。

「これはあくまで推測でしかないのですガ、念の為伝えたほうがいいかと思いましテ」
「な、なんだ……?」

真剣な様子のクォーツとタルトを見てあまり良い話ではないと雰囲気でわかると、ディストは息を呑む。その傍ら、ダチュラは何何?とワクワクしているようだった。
するとタルトは周りに誰もいないことを確認してから口を開く。

「さっき試合に出ていたガオガエンとチョロネコについてだ」
「……!」

あの二匹。ディスト達は驚きつつも、黙って続きを聞いた。
それはガオガエン&チョロネコvsフローゼル&ニョロトノの試合の後にクォーツがタルトに話していたものと同じだ。ガオガエンが違法トーナメントの参加者であるかもしれないこと、チョロネコが『レジスタンス』の関係者かもしれないこと……もちろん確定しているわけではないのだが。それ故伝えるかは迷ったようだが、念の為気にかけておいても損はないだろうと考えたらしい。

「なるほどねー。確かにバトル慣れしてそうだったもん」
「なー」

ディストもダチュラもクォーツ達の予想とは裏腹に、すんなり納得していた。それもそのはず。こちらも例の事でもしかして……と感じていたところだったから。
この流れなら別に隠す理由はない、とディストとダチュラは目を合わせて頷く。

「俺達の方からも伝えたいことがあるんだ」
「あの二匹に関してね」
「……何かあったんですカ?」
「同じく、あんまり良い話ではないんだけど……」

ディストは近くの壁に背を預けながら話した。

「クォーツ、ティラールって覚えてるか?」
「ハイ」
「実はな、あの二匹……ガオガエンとチョロネコが、そのティラールって名前を出してたんだよ」
「……!」

驚愕するクォーツを見て、もちろん種族はわからなかったけど!と付け加えた。けれど今のディストの言葉とさっきのクォーツの話、それらを合わせると……流石に警戒せざるを得ない。

「……覚えておきましょウ。きっとこの大会で問題を起こすことはないでしょうからネ」
「まぁそうだろうな……わざわざ怪しまれるようなことはしないだろう」
「そうなの?」
「優勝賞品を貰うことが狙いなラ、ですガ。それにここには警察もうようよしてますシ」

つまり変な気を起こしたら即退場ということになる。そんなことして何かメリットがあるとは思えない。……いや、大会そのものをめちゃくちゃにする……なんて目的だったらあり得るかもしれないが。だけど今その可能性を考えていても仕方がないだろう。

「んじゃ、とりあえず情報交換はこれくらいでいいか!ご飯食べよう!」
「おー!」

そういうことで結局この件に関しては一旦置いておくことになったディスト達は、それぞれお昼に食べる物を買いにその場から去っていったのだった。







「まずいまずいまずいですよこれは……!」

──だが、そんな『Metal Puissance』の会話をこっそり盗み聞きしていた者が一匹いた。そのポケモン……スリーパーは彼等がいなくなったことを確認すると、慌てて懐から機械を取り出し、誰かと連絡を取り始める。

しばらくして機械の電源を落とすと、スリーパーは片手を強く握りしめ、憎しみを込めながら呟いた。

「出る前にあんだけ気をつけろって言ったのに……!」

そう吐き捨てると彼は急いでどこかへ走り去っていった。

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