開幕!バトルトーナメント⑨

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「クソッ……!」

午後一時を過ぎて始まった準決勝戦。対戦相手は公平にくじ引きによって決められ、後攻のディスト達は今、オンバーン&グライオンチームと戦っていた。

相手は強い。先制のオンバーンによって放たれた強烈な暴風を前に、二匹とも上手く身動きが取れずにいた。グライオンはその強風でさえ味方につけ自由に動き回る。二匹ともディスト達が動けないことをいいことにバンバン攻撃してくる。
それでも、なんとか隙を見てディストはその場でラスターカノンを放った。グライオンは滑空したまま咄嗟に目を瞑り、オンバーンはそれを片方の羽で隠して防ぐ。だが、その隙を狙って既にダチュラは動いていた。
グライオンが地に尾を着いた瞬間、姿を消していたダチュラが背後から錨を振り下ろす。グライオンは反応が遅れ、避けきれずにそのゴーストダイブを喰らってその場に倒れた。けれどまたすぐに強風がダチュラを襲う。ダチュラは慌ててその場に自身の錨を刺してどうにか耐え凌ごうとした。その間にグライオンは尻尾を使って空へ飛び上がり敵から距離を取ったかと思うと、手に持っていた毒々しい球をダチュラに向かって思い切り投げつけた。風の流れで更に勢いを増し、どくどくの球はそのままダチュラの体にぶつかった。

「……!」

球から毒が溢れ出てくる。咄嗟にそれを遠ざけるも遅かった。全身に猛毒が回る。頭がクラクラする。体勢が崩れる。追い打ちをかけるように、グライオンは毒に染まった尻尾でダチュラを切りつけた。


「お〜、なかなかのお手前で」
「そっちもな!」
「どうもどうも」

ディストは文字通り風を斬って、少々油断していたオンバーンにサイコカッターを当てた。だがこれだけじゃ相手もまだまだ余裕がある。オンバーンが大きく羽ばたくとまた風が襲ってきた。それに合わせてブレードフォルムからチェンジする。けれどなんだかさっきまでの暴風とは違うような……そうだ、これは──。

「熱っ!」

熱風だ。ディストにとって弱点である炎技。慌ててシールドを張ったのだが、間に合わずに少しだけ喰らってしまう。
向こうはこちらの弱点を突けるというのに、ディストはあちらに打点が……ないこともないが、正直この状況であの技を使うにはリスクがある。

(……いや、悠長なこと言ってる場合じゃないな)

きっと試合を延ばせば延ばす程こちらが不利になる。ならば、とディストは覚悟を決めてオンバーンを見た。一時的にでも彼の動きを止めたい。ブレードフォルムにチェンジすると、ディストは目眩しのためにあの技を放った。

「うおっ眩しっ……またそれェ!?」

まあいいけどね!と相手は先程と同じように距離を取って羽で目を隠した。本来であれば夜行性であるオンバーンにとってこの光は少し辛いのだろう。だがディストからしたら隙さえできればあちらがどんな行動をしようと関係ないのだ。まだ輝きを放つ全身を動かしてオンバーンの方へ向かっていく。そのことに気がついたオンバーンは、ディストを遠くへ吹き飛ばそうと大きく羽ばたいた。

「くっ……!」
「危ない危ない。そんじゃあ反撃させてもらおうかな〜?」

その影響で勢いが弱まってしまい、これじゃ技を使えない。やはりそう簡単にはいかないようだ。ならばどうすれば──。


「な、なんだよそれー!ずるだろぉ!」
「ずるじゃないよ?ちゃんと確認取ったから」
「うるさぁい!」

あの後、どくづきを受けたダチュラはすぐゴーストダイブで避難した。その攻撃は躱されてしまったが、戻ってきたダチュラの側には黄色い木の実……オボンの実がふよふよと浮かんでいたのだ。そして躊躇いなく体内に取り入れた。それを見たグライオンはさっきまでそんなものなかった!と責めている……という状況。

「こ、これはどうなるのでしょうかバーニーさん!?」
「アイテムの使用はポケモン一匹につき一つ、それさえ守っていれば持ち込み方は問わない。それに何か問題があればロトムが反応するはずだ」

そんな実況と解説の声は、一時的にバトルコートにも聞こえるようになっていた。ドローンロトムもダチュラに近寄るが、特に何も言うことなく離れていく。おそらくこのロトムの何かしらの不正を見抜けるようになっているのだろう。そんなロトムがスルーした。それはつまり何も問題ない、ということだ。

「だって」
「ぐぬぬ……まぁいい!それがあろうとなかろうと勝つのはオレ達の方だからな!」

そう叫ぶとグライオンは尻尾を思い切り下に叩きつけた。地面が揺れてくる。地震だ。ダチュラからしたら少し体勢を崩す程度で致命傷を負う程の技ではない。だがディストはどうだろう。ちらりとあちらの様子を確認した。


「うわぁ!なんだ!?」

どうやら運良くキングシールドを使っていたようでダメージはなさそうだ。だがこの技はそう何度も使用できるものではない。グライオンがこのまま連続で地震を撃ってきたら……きっとやられる。
午前中のバトル、ドレディアとエルフーンが相手の時はどちらかといえばこちらが有利だった。だが今は逆だ。下手すればここで負けてしまう可能性もある。慎重に動かなければ。
オンバーンの動きを少しでも止めるにはやはりダチュラの協力が必要だ。だけどダチュラはすでにどくどくを喰らっている。回復したとはいえそのダメージはどんどん増えていくのだ。これ以上試合を長引かせるわけにはいかないだろう。その為にもなんとか先にグライオンを仕留めたい。
ディストはフォルムを変え、オンバーンのいる方向へ剣を一振りし、更にもう一度別の場所へサイコカッターを放った。



「くそぉ!だが関係ない!」

グライオンは続けてどくづきをかました。素早い動きにダチュラは反応しきれず、ダメージを受ける。だけどその瞬間。

「えいっ」
「わわっ!」

瞬時に鎖を伸ばしてグライオンを捕らえた。グライオンは抜け出そうとするも力が強く敵わない。ならば、と毒の尻尾を振り上げるが、そこに何か、紫色をした鋭い刃が邪魔をする。サイコカッターだ。グライオンが余所見をする、その間にダチュラはいつの間にか全身に水のようなものを纏っていた。気がついたグライオンが慌ててもがくと、予想に反して簡単に抜け出すことができた。だがすぐにダチュラは動く。逃げるグライオンに向かって一目散に突進していった。素早さなら勝っているが、今のダチュラは水の勢いでスピードが上がっている。じゃあ上へ、もしくは横へ逃げれば……そう考えたグライオンが身を傾かせた時。

「……!」

目の前にまた先程のサイコカッターが現れた。思わず動きを止めてしまったグライオンに対し、ダチュラがアクアブレイクを容赦なく叩き込む。
そうして吹き飛ばされたグライオンの側にドローンロトムが寄っていった。

『……グライオン、戦闘不能!』

どうやらやったようだ。これで残る敵はオンバーンだけ。だがダチュラがさっき球で浴びた毒のダメージはどんどん蓄積していた。あとどのくらい耐えられるかわからない。

「ダチュラ!やれるか?!」
「うん!」

それでも最後まで出来ることをやる、ダチュラはそう決めてディストの言葉に頷いた。

「う〜ん、2対1は分が悪いねェ〜……なーんて。勝つのはこっちだよ」
「いいや!俺達だ!」

それを聞いたオンバーンがニヤリと笑うと、突然ディスト達の頭に何か不快な音波が伝わってきた。甲高い音が思考を邪魔してくる。超音波だ。幸いディストはなんとかそれを耐え切ることができたが、ダチュラの方は──。

「……!危ないっ!伏せろダチュラ!」

確実にトドメを刺そうとオンバーンは再び熱風を放った。ディストはダチュラに向けて叫んで熱風が届かない距離まで急いで移動すると、サイコカッターを彼に向けて撃つ。攻撃を止めてそれを避けると、オンバーンはディストを一瞬睨んだ。けれどすぐコート全体を上から確認する。

「……あらら」

そこのどこにもダチュラの姿はなかった。またゴーストダイブで消えたのだ。きっと混乱しながらもディストの指示を聞き入れたのだろう。だがだからといって毒のダメージが無くなるわけではない。ダチュラが倒れるまで時間もないし、おそらくチャンスは一度だけ……。

(……よし!)

ディストは覚悟を決めてオンバーンのいる上空まで飛び立った。今までなるべく接近は避けてきたはずのディストが急に近付いてきたことを警戒して、オンバーンは距離を取っていく。

「そんなに近寄っちゃっていいのかな~?」

もちろん何もせずに逃げてくれるわけもなく。オンバーンは突然振り向いたかと思うと、ディストに対して竜の形をした衝撃波を放った。ディストはフォルムチェンジが間に合わず咄嗟に盾でガードするが、耐えられず後退してしまう。それを見たオンバーンが、ふふふ、と笑いを溢しそうになった時、後ろから何かうっすら気配を感じて横へ飛んだ。だがどこからか現れた深緑の鎖は目の前へ回り込んであっという間に彼の身体を拘束する。振り解こうともがいている隙に、ディストはオンバーンに向かって思い切り突撃していく。そして渾身の力でぶつかった。

「……どうやら油断してたのはこっちみたいだねェ」

拘束が緩まり、そのままオンバーンは地面へと落ちていった。確認をしにきたドローンロトムが周りを一周した後に叫ぶ。

『……オンバーン、戦闘不能!』







結局その後すぐに反動でディスト、毒でダチュラも力尽きてしまったが、大会のルールとしては先に二匹とも敗れたチームが負けということで勝ち進んだのはディスト達の方だった。

「やりましたねっ!決勝進出ですよ!」
「すごいよ二匹とも!」
「流石だな。我が盟友とその友よ」

おめでとう!とレイジを除くみんなが二匹を取り囲む。頑張るよ!と答えるダチュラの横で、ふふん、と得意げにディストは胸を張っていた。

「それで決勝の相手ガ……」
「……あいつらか」

そんな中クォーツとタルトは例の二匹について懸念していた。何せ勝ち上がってきたもう一つのチームはガオガエンとチョロネコ──『レジスタンス』の関係者じゃないかと疑惑が出ている彼等だったからだ。正直、クォーツはディスト達の「ティラールと名前を呼んでいた」という発言からほぼクロだろうと判断していた。もちろんただの同名……そう考えることもできるが、名前のあるポケモンの方が少数の中このあまり聞き馴染みのない名がそう簡単に被るのだろうか。確率としてはかなり低いはずだ。

「バトル終わったらお腹空いてきた……まだ時間あるし何か食べてもいいか?」
「じゃあぼくも〜」
「いいと思いますよ!あ、もちろん食べすぎないようにはしてくださいね!」

ちなみに決勝戦は二時半頃から始まる予定で、それまでは各々自由にしていていいらしい。というわけでディストとダチュラはまた屋台で何か買ってこようと話していた。フェザーは注意だけして先に席へと戻っていく。

「タルトだったか。先の話の続きがしたいのだが」
「ああ。わかった」

モルテがタルトの方を向くと、察したミラがタルトに紐を受け渡した。それにしてもこの二匹はすっかり仲良くなったようだ。

「僕もアイス買ってこようかなぁ。美味しかったし……」
「私も」
「なら一緒に行こう!」

そう言ってダチュラとミラ、シャワーズはアイスが売っているお店へと進んでく。ディストは別の物が食べたい気分のようで、そんな三匹を手を振って見送った。

「俺はあれだ!なんだっけ、なんか……甘いやつが薄い何かに包まれてるやつ……あれが欲しい……」
「……クレープですカ?」
「多分それ!どこにあったっけ?」
「確カ……」

残されたディストとクォーツも、クレープが売っている屋台まで共に向かっていった。







「美味い!」

ディストはモモンの実がふんだんに使われたクレープを片手にクォーツと会場を回っていた。

「キャ〜!」
「ん?……なんだあれ?」

とそんな時、なんだかポケだかりが出来ている場所を見つけた。別にお店があるようでもなさそうだし、一体何が?気になったディストはそのポケだかりに近づいていき、クォーツもそれについていく。

「サインください!」
「かわいい!」
「こっち見て〜!」

そんな声が聞こえてくる。アイドルか何かか?と思ったディストがちょいと上へ飛んでその中心のポケモンを確認してみると──。

「あ〜、お気持ちはありがたいのですが、今は仕事中でして〜……」

そこにいたのはミミロップ……いや、ミウだ。バトルの実況を担当しているはずの彼女だが、もしかして有名なのだろうか。ファンらしきポケモンに囲まれて大変そうだ。

「人気者も大変なんだなー」
「そうですネ」

ここで助けたとしてファンからめちゃくちゃ反感を買いそうだと判断し、申し訳なさを感じながらも二匹はスルーして横を通っていった。

「あの!ちょっとすみません!」

だけどすぐ誰かに呼び止められてしまった。声からしてミウではなさそうだ。ディストとクォーツはとりあえず振り返ってみる。するとそこには、胸にある棘のような物が特徴的な青いポケモン……ルカリオがいた。なんだか驚いたような顔をしている。

「急に申し訳ありません。あの、もしかしてなんですけど……そちらの方」

ルカリオはクォーツを見た。状況がよくわからないディストとは反対に、クォーツは何か気づいているようでただじっと相手を見据えている。そして次の瞬間、ルカリオは。

「もしかして……クォーツ?」

何故かその名前を呼んだ。



「仲間?」
「そうそう。同じ部署だったの」

その後、とりあえず場所を移して話をすることになった三匹は、ポケ通りの少ない日陰までやって来た。そしてそこでルカリオ……サフィーから言われたのは、なんとクォーツの知り合い、つまり警察仲間だということ。どうやら彼女もすでに警察は辞めてキラメキシティの役所で働いているらしい。

「ちなみに今日は選手達の監視をしてるよ」
「か、監視?」
「ほら、最初に言ってたでしょ?本気の殺意を込めた攻撃はルール違反だよーって。それを確認してるの」

クレープを食べながらディストは困惑の表情を浮かべた。そんな彼に対しサフィーは笑顔で答える。
そういえば大会が始まる前にミウが本業の方と呼んで軽く紹介していたポケモンがいたような。きっとそれがこのルカリオだったのだろう。まさかこんな気さくなポケモンだとは思わなかったが……。

「そういうのって見てわかるものなのか?」
「まぁ大体はね。あと私にはアレもあるから」
「アレ?」

未だ脳内に疑問符が飛び交うディストのために、クォーツは簡単に説明してくれた。

「ルカリオという種族には波動というものを読み取る力があるんでス。それで相手の考えや動きもわかるんだとカ」
「そうそう。怪しいなぁって思ったらその力を使ってチェックしてるってこと!まあ今回そう感じたのは1チームくらいなんだけどね」

そこまで語ったサフィーは「喉渇いたなぁ」と呟きながら近くにある自販機の方へ歩いていく。本ポケはさらりと流したが、殺意を持ってこの大会に出場している可能性のあるチームが存在している……という事実は、ディストからしたら衝撃的だった。だけど、正直心当たりはある。

「……それってどのチームのことだ?」
「あ、君達ではないよ。安心して」
「いや、それはわかってるんだけど……ちょっと……」

ぴ、とボタンを押しながらサフィーは答えた。流石に教えてはくれないのか、まぁ仕方ないか、とディストが諦めようとした時。

「……教えてくれませんカ?」
「えークォーツまで?うーん、でもな……」
「もしそれがこの後ディスト達が戦う相手なら心配ですからネ。そうでないならいいんですガ」

クォーツがそう言った瞬間、一瞬彼女の動きが止まった。自販機から出てきた飲み物を取り出すと、ディスト達の方を振り返る。

「……じゃあここだけの秘密ね?確信できないうちに広まっちゃうと大変だからさ」
「ああ、わかった」

二匹とも頷いたのを見ると、サフィーは特別ね!と周りに聞かれないようぼそりと囁く。

「ガオガエンとチョロネコ……彼等だよ」

予想通り。そのためか大して驚きはなかった。

「でもあれくらいなら前にも感じたことある程度だし多分大丈夫だとは思うんだけどね。ほら、野生のポケモンってちょっとその辺あやふやだからさ。バトルっていうスポーツと命を懸けた戦闘との違いってやつ?」
「彼等も野生なんでしょうカ」
「それはわからない。主催もそこまで気にしてないっぽいし」

彼女は飲み物の蓋を開け、中身を喉に注ぎ込む。
疑惑は更に増えた。だけどまだ決定打はない。このまま無事大会を終えることができればいいのだが。

「あ、そろそろ君は控え室に向かった方がいいんじゃない?」
「え……マジだ!?やべぇ!」

十分前には準備をしなければならないというのに、今の時刻は二時十七分。ディストは急いでクレープを食べ、包んでいた紙をゴミ箱へ投げ入れると、「じゃあまた後で!」と言い残して先に控え室へと向かっていった。ばいばーい、と手を振るサフィーに、黙ってその様子を眺めるクォーツ。ディストの姿が見えなくなり、サフィーも「私も戻んなきゃ!」と別れを告げて去っていく。そして自分も戻ろうかとクォーツが振り向いた時。

「……?」

黄色い何かが慌てて去るのが見えた気がした。少し怪しいとは感じたが、今は詮索するほどの時間はない。気がかりに思いながらもクォーツはそのまま自分の席へと帰っていくのだった。







「そろそろ……!そろそろですよ!」
「まさかほんまに決勝までいくとはなぁ。流石やわ、ディストはんにダチュラはん」

「がんばれー!ダチュラー!ディストさーん!」
「がんばれ」
「彼等なら必ず優勝を手にする……フフ、何故かそう思えて仕方ないよ」

「……クォーツ、どうしたんだ?」
「……別になんでもありませんヨ」
「そうか……?ならいいんだが……」

歓声に包まれる会場内、選手達がバトルコートに姿を現した。するとますます観客達は盛り上がりを見せる。

そんな中、クォーツは先程の怪しい影が気になっていた。まさか盗み聞きしていて急いで立ち去ったのでは、
でも何が目的で?……などと考えてしまう。悪い癖だ。その様子を察してタルトが尋ねるも、クォーツは何も答えなかった。今言ったところで楽しい空気に水を差すだけだろうことはわかっていたから。

「ではここで決勝までやってきた四匹に意気込みを聞いてみましょう!まずはギルガルド&ダダリンチーム!」
「ここまで来たからには絶対に勝ちます!」
「頑張りまーす!」

「お次はガオガエン&チョロネコチーム!」
「誰が相手だろうと叩きのめしてやるだけだ!」
「みんな応援よろしくニャ〜」

それぞれ差し出されたマイクを前に応えると、会場に再び応援の声が上がる。

「両チームともやる気は十分のようですね!ではいよいよ、バトルトーナメント決勝……開始です!」

ミウのその言葉を聞くと、ディスト達もガオガエン達も位置に着いた。
──これが最後のバトル。正直言って相性は最悪だ。だけど、ここで負けるわけにはいかない。みんな応援してくれているし、それに……本当に彼等が『レジスタンス』の仲間だったら。一体何をしでかすか、何を企んでいるのか、わかったもんじゃない。だから。
ディストもダチュラも気を引き締めて、相手を見る。彼等は余裕そうに顔に笑みを浮かべていた。


「準備はよろしいでしょうか?それでは……Ready GO!」


バトル開始の鐘が鳴り響くと同時に、ダチュラはすぐその場から姿を消した。
この中で一番素早いのはチョロネコだ。今までの戦い方を見ると、おそらく向こうはまず何かしらの搦手を使ってくるはず。だがあちらは──。

「えいっ」
「うおっ!?」

様子を見ていたディストの方へ、不意を狙って攻撃してきた。ディストはそれを運良く回避する。どうやらディストが避けに専念するとは思わなかったようで、チョロネコはチッと舌打ちをしながら一瞬でディストから距離を取った。だがそんなチョロネコの行動も、もちろん全く意味のないものではない。
ディストはハッと前を見た。その瞬間、地面が揺れる。

「……!地震か……!」

鋼タイプであるギルガルドには効果抜群の技。いくらシールドフォルムだといっても普通であれば焦る場面だ。それでもディストは平静を保っていた。

「フン……その余裕もいつまで持つか見ものだな」
「それはこっちの台詞だ!」

互いにしばらく睨み合う。たまにガオガエン達はチラチラと辺りを気にするような素振りを見せていた。ゴーストダイブで消えたダチュラがどこからやってくるかを警戒しているのだろう。
最初に動いたのはディストだった。彼がブレードフォルムにチェンジした瞬間、残りの二匹も動く。片方は鋭い爪を向けながら、片方は身体に炎を纏いながら、ディスト目掛けて走る。ディストはそんな二匹の様子を見て目を細めた。

「今だ!」
「ニャッ!?」

ディストがそう叫んだ後、突然地面から大きな錨が現れ、二匹を拘束しようとした。だが捕えられたのは油断していたチョロネコだけで、ガオガエンはまるで知っていたかのように跳び上がって回避し、ディストの方へ向かってくる。でもその動きはこちらも想定通り。ディストはそんなガオガエンのフレアドライブを余裕で躱し、彼に向かって剣を振り下ろした。

「チッ……!」

フレアドライブの勢いを抑えきれずにいたガオガエンが気付いた頃には、すでにディストの刃は迫っていた。避けることができなかったガオガエンは、聖なる剣を背に受けてそのまま地面に倒れてしまう。悪タイプである彼には手痛い攻撃だが、それにしてもダメージが大きいような気がした。

「ああ、この威力にさっきの余裕……ハハハ!そういうことか!」

それだけで何かを察したガオガエンは、起き上がって不敵な笑みを浮かべる。ディストが効果抜群の地震を食らっても動じなかった理由……おそらくあのアイテムの効果だ。

「ちょっと!そんなこと言ってる場合じゃないニャ!」

なんとかダチュラの拘束から逃れたらしいチョロネコがガオガエンの元へと駆け寄ってきた。それと同時にダチュラも一度ディストの側へ戻る。

「どうするディスト?」
「うーん、まずは動きを……いや、変に考えないで今まで通りいこう。それが俺達の性に合ってるからな!」

両者警戒しながら相手を見据える。
受けたダメージの量だけで言えば、今はガオガエン達が劣勢だ。内心、このまま押せばなんとかなるんじゃないか、とディストは感じていた。もちろん油断は禁物だが。

「……やるぞ!」
「ニャ!」

ガオガエンのその言葉を合図に、四匹はまたそれぞれ動き出した。







「……おい、どうした?」
「別に。ただ僕には面白さがわかんないなーって」

ふわぁとあくびをすると、ジュナイパーはソファから立ち上がった。隣にいたドンカラスはそんな彼のことを見上げる。下の階からはわいわいと他のポケモン達の声が聞こえてきていた。

「そうだ。一つお願いしたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「お金貸して」

ドンカラスは一瞬、少し驚いたかのように目を見開いた。

「……お前はあいつらが負けると思っているのか?」
「どうだろうね。でももし無理だったらそうするしかないでしょ」

ジュナイパーは背を向けて腕を組み、淡々と答えた。カーテンが閉められ灯りも程々な部屋の中、しばらく沈黙が続いた後、ドンカラスはテレビに視線を戻して小さな声で返事する。

「……別に私だけのものじゃないからな、好きに使えばいい」
「ありがとう」

その言葉を聞いたジュナイパーは満足げにしながらこの部屋を出ていった。
一匹残されたドンカラスは、コーヒーの入ったカップを持って画面の先の仲間を見る。だが、頭の中は別の考えで埋め尽くされていた。

(……何か企んでいるのか?)

そこでようやく画面の中の試合に変化が起き、ドンカラスは静かにその行く末を見守ることにした。

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