開幕!バトルトーナメント⑦

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読了時間目安:25分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

※ツッコミどころ満載グダグダすぎるバトル描写
「勝者!オンバーン&グライオンチーム!」


勝利したポケモン達への歓声で会場が包まれる。今は二戦目が終わったところだった。

「そろそろ行ったほうがいいんじゃないか?」
「あ、そっか!そんじゃみんな、行ってくる!」
「頑張ってください!」

この大会ではなるべく長引かないよう『一試合二十分まで』という時間制限が設けられていた。……といっても、大体はそこまで行かずに勝敗がつくのだが。かかっても精々十分程度だ。バトルトーナメントは観ている側にも楽しんでもらえるよう考えて開催されている。おそらく遅延行為をする選手はテストの時点で振り落とされているのだろう。
……つまり三戦目が始まろうとしている今、ディストとダチュラは控え場所に向かわなければならないというわけだ。

ディストは片手に持っていた盾を刀身に通しシールドフォルムにチェンジすると、声援を送ってくれたフェザー達に笑顔で手を振ってダチュラの元へと急ぐ。
観客席の一番後ろまで来ると、ダチュラもディストを待っていたようで「はやくはやく!」と体をゆらゆらさせていた。

「ダチュラ!行こう!」
「うん!」


控え場所には次にバトルするポケモンが準備をしているのが見える。右と左、両サイドからコートに登場するため、ここにいるのは1チームだけだ。こちら側にいるのは──。

「あ、市役所で見かけた二匹だ」
「おっ、本当だ!」

ガオガエンとチョロネコだった。二匹とも余裕そうな笑みを浮かべている。こちらには気づいていないようだ。
そんなディスト達のところへ、スタッフらしきポケモンが近づいてきた。

「どうぞ、こちらへ」
「「はーい」」

選手はまずドーピングを行なっていないか検査される。小型の機械から発される赤いレーザーを全身に当て、何か異常があれば音が鳴って知らされる仕組みだ。もちろんディストにもダチュラにも異常は見られなかった。

「問題ナシ!……あとは、出番が来るまでこちらで観戦をしていただいて構いません」
「わぁ、モニターだ」

渡されたのは平べったい機械。その液晶には現在の会場の様子が映し出されていた。スタッフの説明によると、ロトムというポケモンがドローンなんて名前の機械に乗り移って撮影しているようだ。そういえば確かにそれらしきポケモンが何体かバトルコートの上で動き回っていた気がする。
どうやら今は向こうのチーム……フローゼルとニョロトノというポケモンが登場したところらしい。

「対するお相手は〜?ガオガエン&チョロネコチーム!」

そんな司会の呼ぶ声が響き渡ると、あの二匹はバトルコートへと真っ直ぐ歩いていった。
このような場に慣れているのだろうか。ガオガエンはコートへ上がるや否や客席に向けて笑顔で手を振り始めた。……よく見たら頭に何か巻いているように見える。今回の大会ではそれぞれ一つずつなら道具を持ち込むことが許可されていた。もしかしたらこの鉢巻も何かに使われるのかもしれない。
対するチョロネコも、自分の手にキスをして、それを観客に向けて投げかけた。会場は歓声と迎える拍手の音で大盛り上がりだ。

「いいなー。ぼくたちも登場のとき何かしようよ」
「何かって?」
「回転とか?ぐるぐるーって」
「いやいや、バトル前にそれはちょっと……」

目回るじゃんと苦笑いするディスト。数十秒すると、会場から聞こえてきていた賑やかな音は一瞬にして静かになった。二匹もモニターの様子に集中する。



「両チームとも準備はバッチリですね!それでは構えて……Ready GO!」

ミウの掛け声とともにゴングの音が会場に鳴り響く……と同時に、突然バトルコートが暗くなり始めた。何かがぽつぽつと降ってきているような……。

「これは……!雨です!雨が降っています!それもコートの中だけ!」
「ニョロトノの特性『あめふらし』によるものだな」

試合中は選手達に司会の声は聞こえないようになっている。つまり実況で相手が何をしてくるのか把握することは不可能だ。
小雨は一瞬のうちに豪雨へと変わった。これでは前すらよく見えないだろう。だがカメラには防水加工が施されているのか、画面に水滴が付くなんてことはなかった。おかげで試合状況もしっかり確認できている。
強い雨のせいで満足に動くことができないガオガエン達に対し、フローゼルはものすごい勢いで突っ込んでいった。

「速っ……!」

二匹ともギリギリのところで避けることができたが、それにしてもフローゼルの動きは速すぎる。

「とてつもないスピード!ガオガエンもチョロネコも間一髪のところで回避!」
「おそらく特性『すいすい』で素早さが上がってるうえに高速移動を重ねているのだろう」

フローゼルはニヤリと笑みを浮かべながら、休む暇も与えず再び二匹に向かって突撃していく。

「ニャ……なんとか晴れるまで避け続ければ……!」
「待て。あいつの手をよく見ろ!」

フローゼルからの攻撃を避けながらもガオガエンは未だその場から動いていないニョロトノを凝視した。よく見ると、彼女の片手に何か握られているのが確認できる。岩のような物が……そうだ、あれは。

「油断は禁物だぜ少年!」
「ニャッ!」

チョロネコがニョロトノに気を取られているうちにフローゼルは水を纏いながら突撃した。チョロネコの小さい体はそのまま遠くまで吹き飛ばされる。仲間の言葉にしてやられたな、なんて笑っているのも束の間。

「フローゼル!後ろ!」
「っ!」

だがほんの一瞬、こちらも敵に攻撃させる隙を与えてしまった。やらかした!とフローゼルが振り返った直後、ガオガエンが彼の喉元に向かって思い切り突きをかます。もちろんそれを仲間であるニョロトノが黙って見過ごすわけがない。ニョロトノはフローゼルへ声をかけた後、そんなガオガエンに対し遠くからハイドロポンプで狙撃していた。相手が技を使ってる最中に命中するはず、避けられるわけない──そう思っていたのだが。

「弱っちいなぁ!どうせならもう少し近くで撃ったほうがよかったんじゃないか!?」

おかしい。当たったはず。なのにガオガエンは余裕そうにそこに立っていた。どうしてと考える前に、彼が片手でフローゼルの首根っこを掴んでいることに気がつく。

「まさかお前……!」
「俺の推測だとこいつがアタッカー、んでお前がそのサポートってとこか?残念だったな。そんなんで片割れがやられたときにどう対処するつもりだったんだぁ!?」

ぽいっとフローゼルを遠くへ投げつけると、ガオガエンはニョロトノに向かってわざと煽るように語りかけた。耳を傾けてはいけない、雨音に意識を集中させろ、それはわかっているのに。彼はこの激しく降りつける雨の音さえも吹き飛ばすほどの大きな声で挑発してくるものだから。

「……!ダメ……だ!ニョロトノ!」

フローゼルはゆっくり起き上がり痛む喉を押さえながらなんとか声を絞り出した。だがその声は雨の音にかき消されてしまい届かない。
地獄突きを食らった後、フローゼルはハイドロポンプを防ぐための盾にされたのだ。普段なら大したことないダメージだが、今は天気の影響でその威力は増幅されている。
フローゼルは体勢を立て直し、星形の光を放ちながらガオガエンに向かって走り出した。高速移動で速さをさらに上げ、一瞬のうちに彼の元へ辿り着く。
スピードスターのおかげで少し動きを鈍らせることができたようで、ガオガエンは片腕で流れてくる星を防御しながらフローゼルのアクアブレイクを躱した。
チャンスだ、とニョロトノは再びガオガエンに向かってハイドロポンプを放つ。流石に反応しきれなかったのか、それは命中した。水の勢いに耐えきれずにガオガエンは後方へ吹き飛ばされる。

「やっ……」
「待ってニョロトノ!」

敵はガオガエンだけじゃない。もう一匹いる。先程のアクアブレイクだけでやられているわけがないというのに、ガオガエンに気を取られてしまって自由に行動できる時間を与えてしまった。

ガオガエンの相手は自分が、チョロネコの相手はニョロトノがしようとアイコンタクトで伝えると、フローゼルはじっとガオガエンの様子を見る。無闇に近寄ってはいけない。すると相手は多少ふらふらしながらも立ち上がった。

「あーあー。さっっっすがにあれが直撃すると痛えなぁ」
「お前の相手は俺がする!」
「そうかそうか」

そう宣言すると同時にフローゼルはスピードスターを放った。全方位に撒かれるそれを避けることは困難だ。だがガオガエンも二度も同じ手にかかるなんてことはなく、無理に躱そうとしないでむしろこちらに近づくため自ら光の星の中へと突っ込んでいった。

「この距離からなら……いける!」

フローゼルは深呼吸すると、自分も水を纏いながら勢いをつけてガオガエンに向かって走る。もちろんそんなことをしたらまた避けられてしまうだろう。相手だって先程のハイドロポンプで相当ダメージを受けているはずだから。
フローゼルは近づくにつれわざとそのスピードを少しずつ落としていく。思ってた通りお互いぶつかるギリギリのところでガオガエンは体を捻らせた。だが今回はそれでいい。それが狙いだ。

「そうくると思ってたぜ!」
「うぉっ!?」

フローゼルはそんなガオガエンの脚に対して回し蹴りをかます。そのまま真っ直ぐ突き進んでいくかと予想していたらしいガオガエンは、そのローキックを避けることができなかった。少しでも向こうの動きを鈍らせることができるならこちらが有利になるはずだ。

「やるな……だがっ!」

ガオガエンはすぐに体勢を立て直したかと思えば、一瞬誰かと目配せした後、その場で思い切り地面を蹴った。するとたちまち体がぐらぐらと揺れ出す──いや、揺れているのは自分じゃない。

「フィールド全体が揺れています!これは……!」
「地震だ」

フローゼルは地震でふらふらする足元に倒れないよう必死に耐えていることしかできなかった。そして少しして揺れが収まった瞬間、フローゼルは何か体に違和感を感じる。その方向を見てみると──。

「これオボンの実?ラッキーだニャ!」

今はニョロトノと対峙しているはずのチョロネコが、フローゼルの持ってきた道具であるオボンの実を手にして笑っていたのだ。

「なっ……!?いつの間に……!いやそれよりニョロトノは!?」
「それならあっちだぜ!」

その問いに答えたのはチョロネコでもニョロトノでもなかった。声が聞こえた時にはもう遅い。ガオガエンはぐるぐると回した腕を油断しているフローゼルに向かってぶつけた。そしてDDラリアットをもろに喰らって吹き飛ばされた先には、何やら様子がおかしいニョロトノが佇んでいた。

「に、ニョロトノ!何を……」
「チョロネコくーん!最高ー!」
「……は?」

よく見るとニョロトノの目にはハートが浮かんでいる。そしてこの反応。これはまさか──。

「あらら〜ニョロトノ選手、完全にチョロネコ選手にメロメロですね〜」

自分がガオガエンと戦ってる間に、ニョロトノはチョロネコからメロメロを受けていたのだ。
フローゼルは慌ててニョロトノを体を揺らす。だがニョロトノの視線はチョロネコから離れることはなく、一向に目が覚める様子がない。

「もー油断しすぎ!そもそもぼくちゃんのこと忘れてた時点で有り得ないんだけど!」
「ぐっ!」

その隙をついてチョロネコは自身の爪でフローゼルの体を切り裂く。鋭い痛みが走り、フローゼルはやられた傷を押さえながら敵二匹を睨んだ。
ダブルバトルはこういうところが厄介だ。それぞれ一対一に持ち込めればいいものの、こうして二対一になってしまったら警戒すべきことが増えてしまう。
あのオボンの実さえ取り返せれば……だなんて考えててもしょうがない。今は早くニョロトノに正気に戻ってもらわないと。自分だけであの二匹をどうにかするのは流石に難しいだろう。でもどうしたら?悩んでいる暇なんてないのに。

「でもよぉトラ……チョロネコ、このままじゃみんな興醒めじゃねぇか?」
「そう言われてもあれの解き方とか知らないし〜。一回殴ってみたら?」

その会話は小声かつ雨音のせいで誰にも聞こえていなかった。始めに比べて大分勢いが落ち着いてきていたが、それでもまだフローゼルが力を得るには十分な量だ。

「っ……ニョロトノ!」

どうやら奇しくも考えは向こうと同じだったらしく、意を決してフローゼルはニョロトノの頬に向かって尻尾で一発叩きつけた。それでも大したダメージにはならないよう手加減して。
ぶたれた頬を押さえながら、ニョロトノは目をパチパチさせる。その瞳には、先程のようなハートマークは見られない。

「あれ……?自分は何を……?」
「戻った!」

メロメロ状態が解けたと喜ぶのも束の間。

「試合中に敵から目を背けちゃ危険だぜ?」
「うっ!?」

ガオガエンはフローゼルに向けて電気を纏った拳を叩きつけた。思いもよらない技にフローゼルはその場に倒れ込む。なぜ、今になってその攻撃を、そんなことを考えながら彼はゆっくりと意識を手放した。

『……フローゼル、戦闘不能!』

一体のドローンロトムがフローゼルの状態を確認する。そこから告げられたのは、ニョロトノにとって絶望的な事実だった。だがフローゼルはすでにかなりダメージを受けていたのだ。そこに効果抜群の雷パンチを打たれてしまったのだから無理もないだろう。

「フローゼル!」
「いただきー!」

隣で突然倒れたフローゼルに目が行ってしまい、ニョロトノは近くにいるチョロネコに気がつけなかった。チョロネコはニョロトノが持っていた岩を両手で抱えながら挑発的にウインクする。

「爪研ぎくらいには使え……そうにないニャ」
「んなもん奪ってどうすんだよ」

ツンツンと岩を突いてみるが、表面が湿ってツルツルしていてすぐ落としてしまいそうだ。ガオガエンは何かを頬張りながら呆れたようにそんなチョロネコの様子を見ている。
二対一。それもサポートに徹するはずだった自分だけが残ってしまった。奥の手はあるが、あれはほとんど自爆と同じだ。

「お前の得意分野は知ってるぜ!あー、あれ、うたう?」
「惜しいニャ」

ニョロトノは二匹に向かってハイドロポンプを放った。ガオガエンが電気タイプの技を持っている以上、近距離は避けて遠くから狙うしかない。ふと空を見上げてみる。そろそろ晴れてしまいそうだ。

「まぁいい!そいつすら満足に相手できねー奴に負けるわけにはいかねぇからな!」
「はぁ!?何それ!どうしてもって言うから付き合ってやってんのに!」

二匹とも口喧嘩をしながらも直線的に撃たれたそれを余裕で避けていく。

「……!」

ハイドロポンプが消え去った途端、二匹は同時にニョロトノへ攻撃を仕掛けようとしているのが見えた。ガオガエンは片手にビリビリと電気を纏い、チョロネコが奪ったあの岩はいつの間にかその辺に放り投げられてしまったようで、彼の手からは鋭い爪のみが伸びている。
もう一度ハイドロポンプを使おうにもこの距離じゃ撃つ前にやられる。そう感じたニョロトノは咄嗟の判断でその場から高く飛び跳ねた。

「ニャッ!?」
「おっと!」

両者とも技が空振りバランスを崩す。だがガオガエンの方はすぐに立て直した。

「おいト……チョロネコ!上見ろ上!」
「えっ」

そんなチョロネコの頭上に、ニョロトノはものすごい声量で叫びながら落ちてくる。ハイパーボイスだ。その音にチョロネコは思わず耳を塞ぐが、突然のことで上手く避けることができずそのままニョロトノと激突した。

「ハァ……ハァ……」
「ハハハ!やるじゃねぇかお前!」

思い切り声を出したからか、ニョロトノは息を切らしながら倒れたチョロネコを見る。動く気配はない。
そんな中、まだキンキンとする頭を押さえながらもガオガエンは笑っていた。純粋に褒めてくれている……のだろうか。

『……チョロネコ、戦闘不能!』

ドローンロトムがそう告げた瞬間、ガオガエンはニョロトノの喉元を狙って爪を突きつけた。おそらくハイパーボイスを出させないようにするために。
だがニョロトノも大人しくその技を受けるようなことはなかった。また回避のためにぴょんと高く跳ねる。
ガオガエンの技はすでに出尽くしている。どれも近接技か、地面にいないと当たらないものだ。ならばやはりこうして距離を取ることを優先した方がいいだろう。
ニョロトノは目を瞑って、もう一度空から大声で叫んだ。
ちらりと目を開ける。ガオガエンは耳を塞いでいる……と思っていた。だが不思議なことに、そんな素振りを見せるどころかその場から一歩も動く様子がない。うるさくて怯んでいるから……?……いや、そうじゃない。彼の瞳は、真っ直ぐとこちらを見つめてきていた。

(……まずい!このままじゃ……!)

結果的にニョロトノのとびはねるは相手に直撃した。だがそれでガオガエンが倒れることはなく、むしろ落ちてきたニョロトノを両手でがっしりと受け止めていたのだ。なんとか抜け出そうとするニョロトノに対して、ガオガエンは容赦なく地獄突きを当てる。

「……あ……っ!」

痛みで悶えているニョロトノ。声を出そうにも小さく掠れた一音を放つだけが限界だった。
そんな彼女の胴体にガオガエンは無慈悲にもパンチを食らわす。そして掴まれたまま動かなくなったニョロトノを最後に、試合開始からずっと降り続いていた雨は止み、バトルコートへようやく太陽の光が差し込んだ。
ガオガエンがそんなニョロトノをぽいっと地面に投げると、ドローンロトムが彼女の近くにやってきた。ぐるぐると周りを回り、ロトムから告げられたのは──。

『……ニョロトノ、戦闘不能!』

ガオガエン達の勝利を示す言葉だった。







「……」
「ねぇディスト、どうだった?」

控室にて。ディストの持つモニターからは観客達の歓声が鳴り響いていた。
だがディストは試合の途中から画面を見つめて固まったまま。見兼ねたダチュラが一声かけてみると、彼はやっと顔を上げてモニターから目を離した。

「どう……どうなんだろう……」
「すごかったよねー。なんか今までで一番ガチって感じがした」

今までの試合は良くも悪くも『バトル』というスポーツのように思えた。もちろんそれが正解だし、今のバトルだってしっかりルールに則って行われていた。だけどなぜだろう。他のものより少し見てて辛かったような……。

「お疲れ様です!素敵なバトルでした!」

スタッフの声だ。聞こえた先を見てみると、勝負を終えたガオガエンとチョロネコがこちらへ戻ってきたところだった。「ありがとう!」とスタッフのポケモンに感謝の言葉を送ると、彼等は体力回復のためラッキー達の元へと向かっていく。

「まさかやられるなんて〜……」
「ま、いくら鍛えたとはいえお前じゃ流石に無理あるよなぁ」
「何それ!はぁ〜、こんなんなら断わっとけばよかったニャ……」
「そしたらティラールの奴に馬鹿にされてたぞ。俺が」
「別にガエンがどうなろうとぼくには関係ないんだけど」

そんな二匹の会話が聞こえていたディストとダチュラ。ダチュラの方は「よくわからないけど大変そうだな〜」なんて彼等のことを見ていたが、ディストはガオガエンのとある一言によって表情を変えた。慌ててあの二匹の方へと駆け寄ろうとする。

「ちょっと待……!」
「ギルガルド様、ダダリン様、ご準備をお願いします」
「はーい。……ディスト、どうしたの?」

だがそれはスタッフによって邪魔される。その間にあの二匹は休憩室に入っていき、その扉は閉じられてしまった。
心配そうにディストを見下ろすダチュラに対し、ディストはどこかそわそわした様子で扉を見つめていた。

「……前さ、俺らが最初に受けた依頼の話したじゃん?」
「うん」
「そこで出てきた悪い奴らがアリアドスってポケモンとジュナイパーってポケモンらしいって話もしたじゃん?」
「した」
「そのジュナイパーの方の名前、俺言ったっけ?」
「うーん、言われてないかも?」
「そっか……実はそれがさ、さっきあのガオガエンが言ってたティラールって名前だったんだよ」

誰の耳にも入らないよう小さく、ボソボソと会話する二匹。最後ディストから言われた一言にダチュラは驚いてコンパスの針を一回転させた。聞き間違いなんかじゃない。ダチュラにも確かにはっきり聞こえていたのだ。その名前が。

「もちろんただの同名って可能性もある。種族もわかんないし」
「なるほどね……ちょっと気にかけておいてもいいんじゃない?万が一のことを考えて」
「う、うーん……でも別に普通だったよな?ルール違反とかもしてないし」
「あのルカリオも何も言ってなかったよね」

うーん、と二匹で頭を悩ませる。本当にただの偶然なのだろうか。仮に彼等があのジュナイパー達の仲間だとして、本当に彼等が『レジスタンス』なのだろうか。それすらもわかっていないというのに。

「そろそろ時間です!」

何はともあれ今はそんなこと気にしている場合じゃない。ディストからしたら気にするなというのは無理な話なのだが、そのせいでバトルで負けたら元も子もないのだ。
二匹とも急いで準備を終え、呼んでくれたスタッフのポケモンの元へと向かった。







「うぅ、次ですよ次!緊張してきた……」
「なんでフェザーが緊張しとんの?」
「だって!ディストさんもダチュラさんも本当によく頑張って……うぅ」
「泣くな泣くな!まだ始まってすらおらんのに!」

一方観客席にて。そわそわと落ち着かない様子のフェザーをレイジが宥めている横で、クォーツは何か気がかりなことでもあるのか先程の試合から一言を発さずじっと考え込んでいた。見兼ねたタルトが片手でちょんちょんと突つくと、クォーツはようやく顔を上げる。

「なぁクォーツ。何かあったのか?」
「……先程のガオガエンとチョロネコで少し引っ掛かることがありましテ」
「あぁ、あの二匹か……引っ掛かることって?」

そういえばあのトーナメント表を見ていたときもクォーツはこの二匹のことを気にしていたような。実は知り合いとか?なんて思っていたが、この言い方からするとあまり良い意味ではなさそうだ。
クォーツは少し迷いつつも、タルトに話すことにした。

「昔私が警察として働いていた頃、ダークコロシアムという名前の違法トーナメントが問題になっていたんですけド」
「だ、ダークコロシアム?」

まぁ知らなくて当然だろうとクォーツは軽く説明を挟んだ。要約すると、選手は全力の殺し合いを行い、観ている側はどちらが勝つか賭けるというもの。賭けるものはもちろんお金だ。

「言ってしまえば裏社会のアレコレですヨ」
「なるほど……それで?」
「その中でいつも優勝を取り続けているって噂があったポケモンが二匹いたんでス」
「……もしかしてそれが?」
「その片方が確かガオガエンでしタ。名前はわかりませんガ」

その辺は担当外だったので詳しいことまでは知りませんけど、とクォーツは付け足す。
この大会では混乱を招かないように選手はみな種族名で呼び合うという決まりがある。そもそも本来は名前があるポケモンの方が珍しいのだからそれで特に困りはしない。……なぜか『Metal Puissance』にはそんな珍しいポケモンが四匹も集っているのだが。
だからあのガオガエンが何者なのか知る余地がないのだ。それにもし本ポケだろうと裏と同じ名前で活動するとは思えない。故にどう足掻いても推測止まりにしかならなかった。

「ふむ……チョロネコの方は違うのか?」
「……さっき思い出したんですけド、チョロネコについては前『レジスタンス』について調べたときに見かけたような気がしまス」
「な、なるほど……それは少し気になるな……?」

タルトは驚いた様子で下嘴に手を当てる。だがこちらに関しても全く確証はない。現状ただの言い掛かりだ。「私の気にしすぎであることを願いますガ」とクォーツはため息を吐いた。

「次の試合で準決勝戦に出場する最後のチームが決まります!」

司会のその声が聞こえると、クォーツ達は一斉にバトルコートへと視線を移した。

「……一応、気にかけてはおこう」
「そうですネ」

どちらにせよ今はディスト達の方に集中したい。この話は一旦置いておくことにし、二匹ともそれ以上言葉を交わすことはなかった。

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