豪邸と荒れた海⑦

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:28分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「……コレ、本当に必要なんでしょうカ」
「俺も思ったけど、必要らしい」

タルトから貰った紙を頼りに、次々とダンボールに物を詰めていくディストとクォーツ。案の定その不気味な置物を見てクォーツは初めのディストと同じ疑問を感じていた。
メモの中には送る荷物とは別に、『地下室に保管するもの』という欄もある。それについて「地下もあるのかぁ」と呑気なディストと比べて、クォーツは少々不審に思っていた。だがそんなことを気にしたところで何にもならないだろうというのもわかっている。とりあえず今は荷物整理という名の依頼を遂行させることだけに集中したほうがいい……。

「……!?ウワッ……」

クォーツがそう思いながら取った箱が急に開いて、中からこれまた奇妙な人形が飛び出てきた。所謂びっくり箱というやつだろう。一体こんなの何に使うのか、と訝しみながらもそっと蓋を閉めて茶色いダンボール箱に放り込む。


「これで最後か?」
「そうですネ。あとはこのダンボール達をエントランスまで運べバ……」

そんなこんなでメモに書かれていた物は全て詰め終えた二匹。茶色のダンボールと白いダンボールが三個ずつ床に置かれている。ふと壁に掛けられている時計を見ると、その針は二時を指していた。
「終わったぁ」と伸びをしているディストの隣で、クォーツがもう一度メモを確認する。するとその裏面には『茶色の箱は玄関の近くに。白い箱はそのまま父の部屋に置いておいてください』と書かれていた。

「あ、これ、俺の霊力でなんとか浮かせられたり……」
「落としたりしたら大変なことになりますガ」
「普通に持ってこう!」

よいしょとディストが三つに積み上げられたダンボールを持ち上げる。ポルターガイストでも起こせれば楽に運べるのかもしれないが、残念ながらディストにそんなことは出来なかった。
それを若干ヒヤヒヤしながら眺めつつもクォーツは扉を開け、箱を持ったディストが先に部屋の外へ出ていく。そしてそのまま二匹はエントランスまで向かっていった。


「……」
「なんかすごい視線を感じる……」

後ろから、上のダンボールが落ちないか慎重に確認しているクォーツ。そんなクォーツの雰囲気を感じ取ってかディストはソワソワしていた。
だが今のところグラついたりしている様子はない。エントランスまであと少し、これなら問題なさそうだ。

「そういえばタルトって今どこにいるんだ?終わったの報告しないと」
「これには青い扉の部屋とありますガ……わかりまス?」
「あー、あそこか!なんか壁一面がガラスになってた場所!」

メモの裏側には親切にタルト自身がどこにいるのかも書かれていた。そこはきっとディストがタルトからフォボス地方について教えてもらった場所──初めに案内されたあの部屋だろう。
ついいつも通りリアクションをしようとしてしまったディストの影響で少しだけズレたダンボールを、クォーツが整える。

そして無事ディスト達はエントランスホールまで辿り着くと、入り口の近くにそっとダンボールを置いた。

「えーっと、あの部屋は確か……こっちだ!」

方向、というよりは壁等の装飾から道を覚えていたらしいディストは「あの海みたいな絵の方!」と先を指差す。少し不安ではあるが、今は彼に従うしかない。クォーツは黙ってそんなディストの後を追いかけていく。

「着いた。ここのはずだ」

クォーツの心配は杞憂に、何事もなく青い扉の部屋までやってきた二匹。ディストがコンコンとノックをすると、そっとその扉は開いた。

「あ、タルト!」
「……終わったか。お疲れ様」

二匹が伝える前に、察したタルトが言葉を発した。そして申し訳なさそうな顔をして続ける。

「すまない。任せきりにしてしまって」
「気にするな!それよりタルトは何してたんだ?」
「オレは少し調べ物をしていた」

そう告げると、タルトは二匹に部屋へ入るよう促した。中はさっきディストが来た時とほとんど違いはない。唯一気になるのは、テーブルの上に大量の本が積み重ねられていることぐらいだろうか。

「コレハ?」
「史書だ。いくつかはさっきディストに見せたが」

尋ねると、タルトが一つ手に取って見せた。それを受け取ったクォーツは本のページをペラペラと捲り始める。ディストが横からチラッと中身を覗いてみるも、やはり活字だらけで彼には向かないもの、すぐに視線をタルトに戻した。

「実はあのポケモン達について少し心当たりがあってな。それを確かめていた」
「あのポケモン達……って襲ってきた奴らのことか?」
「ああ。突然のことで頭が追いついていなかったが、後で思い出したんだ。やられたポケモンが光に包まれて消失する現象……それに似たようなものを本で見たことがあるのを」

そんな彼の言葉に、ディストとクォーツは驚きながらも興味深そうに耳を傾ける。
タルトは積み上げられた本の中でも特別厚そうな書を持つと、付けられた薄黄色の付箋のページを広げた。

「ここを見てくれ」
「……えーっと」
「『この時、世界に起きた異常な現象について』……ですカ」

相変わらず文字だけがぎっしりと詰められているそれに対して、ディストは目を滑らせる。代わりにクォーツがその内容を読み上げていった。

まず綴られていたのは異常気象、自然災害……それらはディストがすでにタルトから聞いていたものと同じだ。嵐が何日も続き、突然の地震や津波……火山の噴火まで、絶対に起こり得ないだろうことも含めてありとあらゆる災害が起きていたと。
だが問題は、その次に書かれているある現象の話だった。

『それらの災害と共にこの世界にはもう一つ不可解な現象が起きていた。そこら中に不思議な迷路のようなものが発生していたのだ。そうなった土地に一歩でも足を踏み入れてしまうと簡単には抜け出せず、最悪の場合閉じ込められたまま亡くなる者もいるほどに凶悪だった。──不思議なのはそれだけじゃない。その迷路の中に行ってしまうと、無数のポケモン達が迷い込んだものを狙って襲ってきた。これだけ聞くと単純にナワバリに入ってきた部外者を追い出そうとしているようにも思えるが、実際はそうじゃない。そいつらは、ただただ迷路の中をぐるぐると巡回し続けるだけで食事も睡眠も取らず、まるで殺戮兵器のように迷い込んだポケモンを探して、殺していった。そして反撃を受けると、彼等の身体は眩い光に包まれて、いつの間にかその姿を消してしまうのだ。──少し安直ではあるが、私はこの迷路のことを不思議なダンジョンと呼んでいる。』

「光に包まれて消えるって……」
「……おそらク、今日見たものと同じですネ」

『不思議なダンジョン』なんて聞いたこともない二匹は、その話に対してただ驚愕するだけだった。確かに今日戦ったあのポケモン達……彼等からも似たような雰囲気を感じていた。この本に書かれている通り、殺戮兵器という言葉がぴったりだ。

「……だが、なぜ同じような現象が起きたのかは不明だ。そもそもこの本には、所謂不思議なダンジョンの中にのみそのポケモン達は存在していたとある」
「じゃあ完全に一致ってわけじゃないのか」

ディストの返事に頷くと、本を閉じてタルトはそれをテーブルの上の大量の書物の中に戻した。

「……大昔の災害っテ、結局何が原因なんでしたっケ?」
「なんらかの要因によってこの世界の均衡が崩れてしまったせい……だとそれには書かれていたな」

もしかしたら昔の災害と何か関係しているのでは?というのは誰でも思いつくことだろう。だが今のところ災害なんて起きていないし、天候も普通だ。類似しているのは謎のポケモン達のことだけ……。

「また昔のような災害が起きる予兆か、あるいは誰かが幻影か何かで再現したのか……」
「後者であってほしいなー。自然が相手とか俺達じゃ太刀打ち出来ないしさ」

こんな話を聞いても尚楽観的な様子のディストだが、ふとそこで一つ思い出したことがあった。例の強盗の件だ。

「そうだ。タルトに聞いておきたいことがあったんだった」
「なんだ?」
「病院のテレビで観たんだけど、なんかあの襲撃とは別に街の中で金品を盗まれるっていう事件があったらしくてさ。タルトの家は大丈夫かなーって」

ふむ、と腕を組むとタルトは答える。

「特に泥棒が入ったような形跡はなかったが……念の為確認しておこう」

ディストから見ても何か無くなっていた様子はなかった。だが万が一の可能性も考えておいたほうがいいだろう。こんな大きい家ならば余計に。

「ディスト達はこれからどうする?」
「うーん……やるべきことはやったしそろそろ帰るか?」
「そうですネ。あんまり長居するのも悪いですかラ」

それを聞いたタルトは「わかった」と頷くと、お礼の物を取ってくるためそれまでエントランスで待っていてほしいと告げた。

そして言われた通りに玄関ホールまで移動した二匹は、タルトがやってくるまでの間を他愛のない会話を交わして過ごしていた。

「いやぁ何が貰えるのか楽しみだな!もしかしたらなんかすごいものとか貰えちゃったりして?」
「そういうことはあまり大きな声で言うべきではないと思いますけド……」

そんなディストの言うことに対してクォーツが面倒そうに返す、といういつも通りの光景がしばらく続くと、急にディストが真剣そうな様子でクォーツに一つ問いかけた。

「そういえばクォーツ。仲間を増やすって話、覚えてるか?」
「覚えてますヨ。『レジスタンス』を捕まえるためにチームを強化するって話でしょウ?」

今の『Metal Puissance』には困っているポケモンを助けていくのとは別に、『レジスタンス』という名前の集団をなんとかする、というのもチームとしての目標として入っていた。だがそれにはディストとクォーツの二匹だけではどうしても力不足となる。そのために、まずは他に強い仲間を増やしていこう!と決めていたのだ。……今のところそっちのほうは上手くいっていないのだが。

「俺考えたんだけどさ、今日会ったあの三匹……の誰かを仲間として勧誘したいと思って」
「……理由ハ?」

彼が言っているのはきっと、タルトとダチュラとシャワーズのことだろう。今まで何匹か依頼として関わってきたポケモンはいたが、ディストがそんなことを言うのは初めてだった。というよりはっきり「勧誘したい」と言われるのも初めてだ。
クォーツとしては特に拒む理由はなかったが、何故突然そんなことを言い出したのかは気になっていた。

「前俺達の弱点を改めて確認したことがあっただろ?確かあの時に出たのは地面タイプと炎タイプ……」
「ハイ」
「ってことは、今の『Metal Puissance』に足りないのは水だ」

つまり、相性補完として水タイプの仲間が欲しい!ということだ。

「……でしたらダチュラは関係ないのでハ?」
「まぁそうだけどさ、正直あの三匹で一番乗ってくれそうなのはダチュラかなって……」

クォーツにそう突っ込まれると、ディストは苦笑しながら頭(柄)を掻いた。

「私は別に構いませン……ガ、断られたらそれまでですからネ」
「わかってるわかってる!」

もちろん無理強いはしない、と釘を刺されたディスト。
そんなこんなでタルト達を『Metal Puissance』の仲間として勧誘することを決めたところで、一つの足音が自分達の側に近づいてきているのに気付いた。

「遅くなってすまない。これがお礼だ」
「えっ、こんなに!?」

そう言ったタルトの手にはお金が入った白い袋が。ディストはそれをありがたく受け取る。
正直なところ『報酬はなんでも』という文のせいかあまり現金をそのまま渡される、ということは少なかった。かといって今の『Metal Puissance』の知名度では『有料で依頼を受けます』なんて書いたところで、救助隊でもなんでもない自分達を誰も相手にするとは思えない。つまり苦肉の策でああいったポスターを書くことになっていたのだ。
ニコニコといつも以上に嬉しそうなディストを、少々冷めた様子でクォーツは見ていた。

「ありがとうタルト!あと実は一つお願いしたいことがあるんだが……」
「なんだ?」
「俺達『Metal Puissance』の仲間になってほしい!」

あまりにも直球な頼み方にクォーツもタルトも驚いた。そしてしばし考えるように腕を組んだままのタルトを、ディストはじーっと見つめ続けている。やっぱ無理かなぁなんて思い始めたその時、ついにタルトは口を開いた。

「オレでいいなら」
「マジで!?やったなクォーツ!仲間が増えた!」
「ハイハイ」

一番断られそうだと思っていた相手に了承されると、わーい!と両手を上げてわかりやすく喜ぶディスト。それを軽く流したクォーツは、そっとタルトに耳打ちする。

「本当にいいんですカ?」
「ああ。……だがオレとしては、ポケ助けよりディストの正体のほうに興味がある」
「……そういうことですカ」

……まあ理由はなんであれ仲間が増えたというのは喜ばしいことだろう。
そんな中すっかりテンションが上がっているディストは、その勢いのままパッと外を指差して二匹に告げた。

「よーし!じゃあ次はダチュラ達のとこに行くか!」
「……それ、オレは付いていったほうがいいのか?」
「そうですネ……多分」

完全にタルトも連れていく気満々な様子のディストを見ると、クォーツは申し訳なさそうにため息を吐きながら答える。
そんな彼等のことは露知らず、ディストは先に出口へと向かっていった──。


時刻はおよそ三時頃。ラメール海岸にたどり着いた『Metal Puissance』は、その奥の奥にある岩場までまっすぐと進んでいく。
今朝ほどではないがこの海岸にも少しポケモン達が戻ってきたような気がした。

「なんというカ……被害が出ているところと出ていない場所の差が激しいですよネ」
「な。タルトの家の近くは何もなかったみたいに平和なのに、病院を通り過ぎた辺りから急にあんなんでさ」
「それはオレも不思議に思っている」

あそこを通ってくるとどうしても今朝のことを触れざるを得ない。だが改めてラメールシティの現状を考えるとやはり不可解だ。……いや、そもそもあの事件に対してディスト達は真相を何一つ知らないのだから当然といえば当然なのかもしれないが。

そんな話を交わしていると、だんだん例の岩が──と同時に、見覚えのある小さな影も見えてきた。

「あっ!ディストさんにクォーツさん!……と」
「新しい仲間のタルトだ!」

そこには、あのシャワーズが海を眺めてちょこんと座っていた。
知らない顔に疑問符を浮かべる彼に対してディストが嬉しそうに紹介すると、タルトは軽く会釈して少し気まずそうにそーっと後退する。

「そっか、よろしくね。それで何かあったの?」
「いや、ちょっと二匹にお願いしたいことがあって……ダチュラって今どこにいるかわかるか?」
「ダチュラなら呼べば来ると思うよ。ちょっと待ってて」

また海の方を顔を向け、ふぅ……と深呼吸してから、シャワーズは精一杯でかい声を出してその名前を呼んだ。

「ダチュラぁー!」

するとそう何秒もかからないうちに、海中から大きなシルエットが姿を現した。ザバァ、とすごい水飛沫を上げて出てきたそのポケモンは、舵と錨に絡まっている藻からポタポタと水を垂らしながらディスト達のことを見下ろす……。
なんて、そんな威圧感とは裏腹に、そのポケモンはとても明るい雰囲気で話し出した。

「やっほー!言ってた通り会いに来てくれたんだね!」

そしてそんなダチュラの目が真っ先に向かったのは、やはり見覚えのない彼──。

「あれ。知らない顔だ!」
「『Metal Puissance』の新しい仲間、タルトさんでス」
「……は、初めまして?」

無邪気に、興味津々な様子で見てくるダチュラだが、どうしても初対面だと怖さは拭えない。タルトも例外ではないようで、代わりにクォーツが彼のことをダチュラに説明した。

「そうなんだ。いいなー」
「そうだ、そのことでダチュラとシャワーズに頼みたいんだが!」

ダチュラが羨ましそうにしているのを感じて食い気味に話を切り出したディストは、一斉に注目を集める。
ごほん、と咳払いのようなものをすると、真面目な顔を作ってディストは話し始めた。

「実はダチュラとシャワーズにも『Metal Puissance』に入ってほしいんだ」

その言葉を聞いた二匹の反応は……。

「えっ!?えーっと……」
「ぼくは良いよ!楽しそう!」

対極だった。シャワーズは驚いて答えに詰まった様子で、ダチュラはOKと即答。
想像していた通りではあったが、実際こうしてあっさりと了承されると驚く。

「いいんですかダチュラ?」
「うん。また何か新しいことしたいなーって考えてたところだったから!」

タルトの時と同じようにそっとダチュラに尋ねてみたクォーツ。嬉しそうに舵をくるくる回しているのを見ると、「ならいいのですガ……」と答えて身を引いた。

一方、シャワーズは少し考え込んでいるようだ。
そしてしばらくすると、決心した顔で、しかし言いづらそうに口を開いた。

「僕は……申し訳ないけど無理かも。ダチュラみたいに強くないしさ。ごめん、せっかく誘ってくれたのに」
「そっかぁ……うん、わかった。無理強いはしないって決めたからな」

返答を聞いた瞬間は悲しそうにしたディストだが、直後にはもういつもの調子で「気にするな!」と笑う。

そもそも『Metal Puissance』は、ディスト達がすでにそれなりの強さを持っているからこそ活動できるチームだ。いつ誰にどんな依頼をされるかわからない。救助隊ギルドのように、それぞれのレベル……ランクに合った依頼を選ぶことはできない。非公式な、政府に認められているわけじゃない活動ゆえに守られることもない。今のところは幸運にも危険な依頼は来ていないが、もし知名度が上がればそういうこともあるかもしれない。だからこそディストも仲間に加えるなら強いポケモンのほうがいいと考えているのだ。

「でも……もし何か力になれることがあったらその時は駆けつけるよ」
「おお、そりゃ心強いな!」
「ありがとうございまス、シャワーズ」

「ラメールシティのことなら任せて」と微笑むシャワーズに、ディストもニコッと返す。

そんな中、ダチュラは「うーん」と唸っていた。

「んー、まさか増えるとは思ってなかったからなぁ……宝石は四個しかなかったし……」
「どうしたのダチュラ?」
「タルトにも何かあげようと思ったんだけど良いものあったかなーって。ぼくのやつならあるけど」
「あ、いえ、お気遣いなく……」

よくわからないがわざわざそんな……とタルトは遠慮がちに首を振った。

ダチュラ達が会話している横で、クォーツはディストに問う。

「それでディスト。これからどうするつもりデ?」
「え?あー……歓迎会でも開く?」

特に何も決めてなかった様子のディストに、クォーツはでしょうねとため息を漏らす。


結局ディスト達は、シャワーズとは別れてこれからの活動について話し合うために一度タルトの家に向かうことにした。だがそこで一つ問題が……。

「ダチュラって入れるのか?あの扉、大きくはあったけど流石にここまでじゃなかったような……」
「それなら問題ない。ダチュラには横になりながら移動してもらえばいい」
「ご、強引……!」

そんなディストの疑問に結構無茶苦茶な返しをするタルト。……確かに入口を通れさえすれば問題はないのだが。
そして当の本ポケの反応は──。

「こう、ぐいっ!ってなればいいんだよね?それなら大丈夫!」
「いいんだ……」

そこには横に倒れ込んだような動作をしながらふよふよと浮くダチュラがいた。まあ良いって言ってるならいっか!とディストは納得する。その光景を見て、ここが広い砂浜でよかった、と内心クォーツはヒヤヒヤしていた。



そうして愉快(?)な新メンバーを迎えた『Metal Puissance』。
ディストと同じように立派な豪邸に目を光らせるダチュラと、なんだかんだ一番まともな気がするタルトと共に、改めてこのチームの活動内容と目的を整理した。

「言ってしまえばボランティア活動のようなものか」
「まあ今はそうなっちゃってるな。別に報酬なんてその辺の雑草でもいいわけだし」
「……それは流石にお断りしますけド」

エントランスにある円卓を囲みながら話し合うディスト達。ダチュラはそっと壁にもたれかかりながら話を聞いていた。

「それで『レジスタンス』ってなんなの?倒さなきゃいけないポケモン?」
「お尋ね者……つまりみんなの迷惑になることを繰り返している集団のことでス」
「そっかぁ。確かにそれは見逃せないね」

結局あれからそれらしきポケモンには遭遇していないにも関わらず、各地では今でも被害が出続けている。早くなんとかしないといけないのはわかっているが、未だに誰も捕まっておらず、奴等の正体がなんなのかの情報が一切出されていないこの状況。コツコツとみんなからの信頼を得るために依頼をこなすことが最優先なディスト達ではどうにもできない状態だった。

「とりあえずやるべきことはわかった。問題は連絡手段だが」
「今のところ依頼は俺達の家に届くようになってるからな。どうにかして共有したいけども……」

うーん、と腕を組んで考えるディスト。

「俺達が依頼のあるときにラメールシティに通うとか?来てるのって大体この街からのだし」
「……その度にダチュラとタルトのもとを訪れるのですカ?」

元々出不精であるクォーツは露骨に面倒くさそうな反応を示す。
だからそれ以外にいい案なんて……とディストが頭を悩ませていると、タルトが小さな声で言い放った。

「……もし二匹がいいなら、ここに住んでもらっても構わないが」


………………。


「エッ」
「マジで!?」







どこかの森にひっそりと佇む古い洋館。今日もその中からは賑やかな声が聞こえてきていた。

「オイラ上がりぃ〜!」
「ハァ!?マジかよストーム!リヴィールとかいう一番ポーカーフェイスなやつ残しやがって!」
「いやそれどういう文句……?」
「おいザント、手元には気をつけたほうがいいぜ?」

そこは洋館の入口もとい出口の近くなはずだが、なぜか四匹のポケモンが地べたに座ってトランプで遊んでいた。おそらくババ抜きだろう。
今上がって両手を天に掲げているのはストームと呼ばれた、青く筋肉質なカエル……のような姿をしているポケモン。
「クソォ!」と一回床を殴りつけたのはザントと呼ばれた、赤い身体でサングラスを付けているような模様が特徴的なワニのポケモン。
「そんなこと言われても……」と困惑しているのはリヴィールと呼ばれた、大きなハサミが特徴的な青いポケモン。
そして真っ先に上がって胡座をかきながらその様子を眺めている赤い猫のようなポケモン。

そんなことになってるとは知りもしないで、その扉を開く者がいた。

「あ〜疲れた疲れた……ってうぉおい!?なんでこんなところでトランプなんてやってるんです!?というかガエンさん見張りは!?」
「いやいや、見張りならしてるだろテイパー。それも四匹態勢で」

スリーパーのテイパーは、ものすごく疲れた様子でこの洋館へと帰ってきた。にも関わらずこいつらは……と内心はらわたが煮えくり返りそうな勢いだったが、すぐ首をふるふると振って視線を前に戻す。

「まああなた達がちゃんと仕事をしてようがしてなかろうがワタクシには関係ありませんからね!ワタクシは早くボスに報告しなければなりませんから!」
「報告ならクルーアルが全部してなかった?」
「してたしてた」
「それとは別件ですよぉ!」

「邪魔しないでください!」とわざわざ突っ込むために振り返るテイパー。だがすぐボスのいる部屋まで突き進んでいった。
残った四匹はそんなことお構いなくゲームを再開する。

「んじゃ感動の最終決戦の始まりだなぁ!」
「おっしゃああ!今日こそは勝つからなリヴィールぅう!」
「テンション怖……誰か助けて……」


「──とまぁそんな感じで、なんとかワタクシ達のやったことは有耶無耶にされておりました」
「なるほど。それは幸運だったな」

『ボス』であるドンカラスのクロウがいる部屋はいつもなら他にも誰かしら居座っているのだが、今日は珍しく誰もいなかった。
そんな中テイパーは無事報告を終える。

「……にしても、倒されると光を纏って姿を消すポケモン、か。聞いたことないな」
「ええ。本当にビックリしましたよ……そのおかげで誤魔化せましたがね」

クロウはそう言って残っていたコーヒーを全て流し込むと、翼で頬杖をつく。「持ってきましょうか?」とカップを見たテイパーにNOと首を横に振ると、じっとテイパーの方に睨むような目付きを向けて問いかけた。

「例のギルガルドは見かけたか?」
「うーん、見てませ……ん?」

いいえ、と首を振りかけた瞬間、テイパーの脳内に大きな剣のようなポケモンが思い浮かんだ、と同時にあの時話しかけてきたポケモンの一匹のことも気にかかる。

「どうした」
「えっ、あの……そのポケモンの相方?って誰でしたっけ?」
「ティラールの話だとジバコイルだな」
「えっ!?!?」

それを聞くととんでもない声量で驚いた。ジバコイル……確かにテイパーに話しかけてきたポケモンの中にいたはずだ。

「あの……ギルガルドの方は確かその変なポケモン達を追い払う手伝いをしてるのを見まして。ジバコイルに至っては、会話、しましたね……いや一緒にはいなかったのでポケ違いかもしれませんが!」

ハハ、と苦笑いしながらクロウのことを見るテイパーだったが、だんだんその眼光から逃れるようにすー……と視線をずらしていった。

「……わかった。もう下がっていい」
「あぇ?……あ、は、はいぃ!それでは!」

テイパーは冷たく言い放たれた言葉に一瞬固まるも、すぐ理解して慌てて部屋から出ていった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
「勝者〜リヴィール〜」

入口前。そこには敗北して床にへたり込むザントに、完全に賑やかしになっていたガエンとストーム、そしてババ抜きに勝利したリヴィールがいた。

「おいリヴィールぅう……次はイカサマありでやろうぜぇ……?」
「いやそういうのは遠慮したいんだが……!?」
「ババ抜きのイカサマってなんだろうガエン」
「さぁな。ぶん殴って無理矢理ジョーカーを取らせるとかか?」

そしてまたもやこんなところでワイワイしているガエン達のことなんて知らない一匹のポケモンが、その扉を開く音がした。

「……おい、邪魔だろこんな場所で」
「おっ、ティラールじゃねぇか!どこ行ってたんだ?」

そこには軽蔑の目を向けるジュナイパーのティラールがいた。それにいつも通りウザ絡みするガエンだったが、ティラールの反応はいつもとは違った。

「……どこだと思う?」
「あ?」

んなこと知らねぇと言いたげに睨むガエンを嘲笑するように「フフ」と声をこぼすと、ティラールはスッとその横を通り抜けていく。

「お前にとっておきな任務の下見だよ。詳細は後でクロウにでも聞いて」

それだけ告げると、ティラールはその場から去っていった。

「ガエンにとっておき……ってやっぱりアレ?」
「アレだろうなぁ」
「アレだな」
「アレアレうっせぇよお前ら」

ガエンが制すると三匹は笑い出す。
だが本ポケは少し引っ掛かっていることがあるようだった。

(アレの開催時期はまだ先だったはずだ。じゃあなぜ今……)

「アレ」が移っていることには気づかないまま、ガエンは考えた。だがそれも束の間。

「まぁいいか!んじゃお前ら、次はポーカーでもしようぜ!」
「おぉいいぜ!俺は今日の晩飯を賭ける!」
「おい馬鹿っ……また夜な夜なおれに作らせる気だろ……」
「ポーカーのルールってどんなんだっけ?」

後で聞けばいいだけか、とそのままゲームを続けようとするガエンと、その仲間達であった。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想