豪邸と荒れた海⑥

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「……いませんカ」

それらしき家を見つけ、試しにインターホンを鳴らしてみるも誰も出ない。幸い家そのものに被害が及んでいる様子はないが……やはりどこかへ避難したのだろうか。
……避難。確か今は病院が避難所としても使われているんだったか。

「……行ってみましょウ」


現在のラメールシティは、技を受けて崩れてしまった建物の破片や、逃げることに必死でその場に捨てられてしまったゴミなどを片付けるポケモンでいっぱいだった。クォーツはそんなポケモン達を見ようとすらしないままその横を通り過ぎていく。有名な保安官の中に同じ種族であるジバコイルがいるからだろうか。たまに警察だと勘違いされて声をかけてくるものがいたが、その度クォーツは不快な気持ちを抑えて丁寧に否定した。

しばらく進むとようやく病院が見えてきた。真っ白で赤いマークが描かれているいかにもな建物だ。このような施設が街のどこに位置すれば最適なのかは知らないが、このラメールシティでは真ん中の地区に建っている。
壁を見ると、避難所の使用は自由で、病院の関係者に許可を取る必要はないという旨の貼り紙がされてあった。それもそうか、と思いながらクォーツは入口の目の前へと移動する。どうやら自動ドアのようでスーッと扉が開いた。待合室を覗いてみるも中はそれほど混み合っている様子はない。避難としてやってきたポケモン達はみなもう家へと帰っていったのだろうか。

──と、その中に。一匹見慣れた顔が混じっていた。

「ディスト」
「んん……?……って、クォーツ!?」

直前まで眠っていたのか。ぽやぽやした様子で声の方を向いたディストだが、その主がクォーツであることを認識すると一気に目が覚める。

「大丈夫でしたカ?」
「俺はこの通り元気!ただ、タルトはちょっと疲れ過ぎたみたいでこの病院で休んでる。今はその回復を待ってたところだ」

ディストが何をしていたのか事情を軽く説明する。やはりあのスリーパーの言っていた通りなのかとクォーツは改めて感じた。

「……とても強いポケモンがまさかディストのことだとは思いませんでしたけド」
「え、そんなふうに言われてたのか?いやぁ照れるな!」

ぼそっと呟いた言葉に反応すると、ディストがまた調子に乗り始める。……実際彼がバトルで負けたところを見たことがないせいか余計に腹立たしい。

「クォーツの方はどうだった?」
「私の方ハ……」

ディストに言われると、クォーツも自分がその間何をしていたのかを話した。

「へぇ……海の中にもいたんだな、あいつら」
「……ディストはあのポケモン達がなんだったのかわかりまス?」
「うーん……普通じゃないってことしかわからないな。ただ少なくとも霊ではない」

腕を組んで頭を悩ませるディスト。「そうですカ」とクォーツは俯く。
やはり彼もダチュラと同じように考えているらしい。

「あ、そういえば。クォーツはこれからどうする?」
「用事が終わったらまた集まろうと約束していまス」
「そっかぁ。んー、どうしようかな……」

再会はしたものの、クォーツはこれからまたラメール海岸へ戻らなければならない。……といってもまだそこまで時間が経ってないのもあり、今行ったところで誰もいないかもしれないが。

「ここにいても暇だし俺も行っていいか?」
「私は別に構いませんけド……」

待ってたんじゃないのか、という疑問はあるかもしれないが、ディストからしたら「ただ退屈」という気持ちが勝っていた。そもそもここで待っていたのも彼の独断であってタルトとそう決めたわけでもないのだ。もちろん、依頼の件や他にも聞きたいことは残っているが……勢いで物事を決めがちな彼にとっては、今はそんなのどうでもよかった。

「よし!じゃあ行こう!」

いつも通りのブレードフォルムで乗っていた椅子から降りると、クォーツより先にこの病院の外へ出ていってしまった。相変わらずの行動力、と思いながら追いかけるようにクォーツもドアの間を抜けると、そこにはボーッと立ち尽くしているディストの姿が。クォーツが呼びかけると深刻そうな顔をしながらディストは言った。

「ところで……待ち合わせ場所ってどこなんだ?」
「ラメール海岸、奥側にある大きな岩の近くでス」
「……よし!じゃあ行こう!」

改めて気合を入れ直すと、ディストとクォーツは共にラメール海岸へと向かっていった。



「あ、この埋まってるのって貝殻か?」

ラメール海岸は何匹かの警察がいるだけで、いつも通りの光景が戻っていた。元々ラメールシティよりは被害が少なかったのもあるだろう。ボコボコになってしまった地面もなんとか修復されている。ディストは初めて見るものに夢中のようだ。あの時は敵を倒すことに集中して景色なんて見る暇も無かったが、今ならゆっくり観光することができるかもしれない。

「……置いていきますヨ」

埋まっている貝殻を見てはしゃいでいるディストを見ると、クォーツは呆れた様子でため息を吐いた。先に進んでいるクォーツに気づくと、ディストは慌ててその後を付いていく。

「なぁ、一緒にいた二匹ってどんな奴らだったんだ?」

このそこそこ広い海岸では、奥までたどり着くのに少々時間がかかる。その間ディスト達は、ちょっとした世間話を交わしながら進むことにした。

「どんナ……シャワーズはとても真面目な方でしたネ。良くも悪くも普通でしタ」
「……それは、クォーツ的には良い事なのか?」
「もちろン。仲間思いで良い方だと思いまス」

当たり障りない答えだがこれでもクォーツなりに考えた結果だ。ディストはふむふむと頷いている。

「ダチュラハ……なんとなくあなたに似ている気がしまス」
「へぇ!例えばどんなところが?」

クォーツがそう言うと、ディストは興味津々に尋ねた。そんな彼にクォーツはズバッと答える。

「思いつきですぐ行動しようとするところとカ、あとゴーストなところとカ」
「ゴーストなのはあんま関係なくない?」

確かに気にはなるが、あまりポジティブな気持ちじゃないのがクォーツの様子から伺えた。微妙な気持ちで聞いていると、そのままクォーツは続けた。

「後ハ……純粋そうに見えて案外落ち着いて物事を捉えていたのが印象的でしタ。それほど感情的にならないというカ」
「それは俺も?」
「どうでしょうネ」

「えぇー」と異議を唱えようとするディストを華麗に無視するクォーツ。すると今度はクォーツからディストに話を振った。

「あなたの方はどんな感じだったんですカ?」
「タルトか?タルトは……面白い奴だな!」

ディストは曇りなき眼で言い切った。そして彼と話したフォボス地方という場所のことも一緒に伝える。もしかしたら自分がそこの出身の可能性もあることを。

「ヘェ……確かに面白いですネ」
「だろ?そこに行ったら何かわかるかなぁ」
「少しよろしいでしょうか?」

そんな話をしていると、いつの間にか近くにいた警察のポケモンがこちらに話しかけてきた。すると途端、クォーツの目が変わる。まるで軽蔑、あるいは厭忌しているかのように。

「私は見ての通り警察です」

そう言ってちょこんとお辞儀をする。そのポケモンはオレンジ色の犬のような見た目で、頭に警官帽を被っていた。
クォーツになんて種類のポケモンなのか尋ねようとディストが横を向くと、凄まじい嫌悪を感じてギョッとする。自分が応じたほうがいいと察してディストは慌てて相手に向き直った。

「あ、あぁ!もしかして聞き込みってやつ?ですか?」
「はい。あなた様は……この街と海岸を守るために戦ってくれたポケモンの一匹、ですよね?」

やはりあの件の調査をしているらしい。そのために目撃者や被害者に話を聞いていると。

「もしよろしければ敵の特徴など、覚えている限りで構いませんので教えていただきたく……」
「あー、それはいいですけど……」
「助かります」

クォーツをこのままにしておいていいのか気になって仕方ないままディストは質問に答えていった。
内容は簡単だった。どんなポケモンと戦ったのか、そしてそいつらはどこへ行ったのか。その場で光って消えたなんて正直に言って信じてもらえるか不安だったが、どうやら他のポケモンからも同じ証言をされたらしくあっさり信じてくれた。
もう一つの問題は、敵の種族がなんなのかディストは知らないということ。だが軽く印象的な部分を説明するとそれらしいポケモンの名前がすらすら出てくる。しばらくすると、警察は敵のある共通点を見つけた。

「水タイプのポケモンが多いですね」
「おぉ、確かに!そういえばクォーツが戦ったホエルオー?ってやつも多分水だよな?海にいたんだし」

勢いのまま思わずクォーツに振ってしまい、ディストは「あっ」と声を漏らした。

「あぁ、あなたも戦って……」

そしてクォーツの方に目を向けた警察は、最後まで言い切る前に言葉が止まった。その表情からは、ただただ驚きの感情だけが読み取れる。

「……まさか、あなたは」
「エェ、倒しましたヨ。その後の状況は彼が話したものと同じでス。まぁそれを見たのは私じゃなくて一緒に行動していた仲間ですガ。私は海の中には入れませんからネ」

クォーツはわざと相手の声を遮って捲し立てるかのように答える。警察はしばらく黙り込んでいたが、ディストが「おーい」と呼びかけるとハッとして顔を上げた。

「……ありがとうございました」
「いえいえ。調査頑張ってください!」

明るい調子でディストが声をかけると、相手は笑みを取り戻してペコっと会釈した後、その場から離れていく。そして別のポケモンに話しかけるのを確認すると、ディストは素知らぬふりをしてクォーツに言った。

「……さーて、さっさと行かないと日が暮れちまうな!」
「そこまで遠くありませんヨ。まだお昼時ですシ」

相変わらずなディストのノリにクォーツはいつも通り呆れながらツッコむ。
……触れたほうがいいのかもしれないが、なんとなく、まだ踏み込むべきではないとディストは感じていた。もちろんクォーツが元々警察官だったことは知っている。だがそれだけだ。昔何があったのかだとか、何が理由で辞めたのだとか、どんな仕事だったのかさえ一切話そうとはしない。
そうだ。誰にだって知られたくない過去の一つや二つぐらいあるだろう。所謂黒歴史というやつもそれに含まれるはずだ。

「まだ昼なのかぁ。色々ありすぎてもう夕方かと思ってたよ」
「……気持ちはわかりまス」

ハハ、と笑いながら先に進むディスト。クォーツもそれに付いていく。
もし聞けるなら、向こうから話してくれるのを待ちたい。……意気地なしと思われるかもしれないけど。


しばらくすると、目的の岩の近くに到着した。そこにはすでに一匹、クォーツ達を待っている青い影が。

「着いた着いた!誰かいるか?」

その影は、ディストの声を聞くとゆっくり振り返った。

「あ、クォーツさん……!と、もしかして……」
「こちらはディストでス。せっかくなので連れてきましタ」
「よっ!ディストだ、よろしくな!」
「僕はシャワーズ。こちらこそよろしくね」

三匹は簡単な挨拶を済ませると、まずクォーツが話を切り出した。

「どうでしたカ?」
「みんな無事だったよ。もちろん家もね」
「それは良かったでス」

ニコッと微笑みながらシャワーズは答えた。クォーツも安心した様子を見せる。

「あとはダチュラだけですカ……」
「ダチュラはハート島まで行くって言ってたからねぇ。少なくても一時間はかかると思う」

それまでどうしていようか、三匹で決めることにした。
ここから動かずに出来ること……何かあるだろうか。

……色々考えてみたが、結局ダチュラが来るまで三匹で雑談していることにした。なんやかんやそれが一番無難だと思ったからだ。

「記憶喪失かぁ。難しいね……」
「な。誰か俺の過去を探れるようなやつでもいればなー」

朝の出来事が嘘のように平和に戻ったラメール海岸。ただ波止場はそうすぐ直せるようなものではなくそのままだった。

「そういうポケモン……いたような、いなかったような……」
「マジで?いるなら会いたいなぁ」

シャワーズは岩にもたれかかって、ディストは砂浜に寝っ転がって、クォーツはそのまま浮いたままで、話し続けていた。

「……記憶喪失は精神的ショックから起こる場合もありますかラ、安易に知ってしまうとどうなるかわかりませんヨ」
「うーん、じゃあ徐々に教えてもらえば……!」
「あはは。でももしかしたら急に思い出したりするかもよ?」
「そうかなぁ」

他にも、『Metal Puissance』を結成した理由や今まで受けた依頼の話、シャワーズからはダチュラとの思い出や家族との話など、色々な話題を行ったり来たりしていた。

そうしている間に、海の方から何やら大きな影がこちらに向かってきていることに気がついたシャワーズ。

「あ、あれダチュラじゃない?」
「かもしれませン」
「えっ、どれ?」

シャワーズが指した先を二匹も見つめる。すると突然、ザバァと大きな水飛沫を上げて水中から一匹のポケモンが出てきた。沈没船からパーツを寄せ集めて作られたようなそのポケモンは、目の代わりであろうコンパスの針を一回転させてから問いかける。

「あっ!もしかしてディスト?」
「お……おう。そうだ、ディストだ」

クォーツ達の話を聞く限り決して悪いポケモンではない、と理解してはいるものの、流石に少し圧倒されてしまう。

「よかった!無事だったんだね!」

そう言って針を東に向ける。笑っている……?と察したディストは、それに合わせてかニコッ……と笑顔を見せた。

「ねぇ、ダチュラの方はどうだった?ハート島は……」
「特に問題なかったみたいだよ。ただ何匹かは念の為避難してきてたみたいだけど」

ダチュラの返事を聞くとシャワーズはホッと息を吐く。
ミラかキャモメ達が伝えたのか、それともあのホエルオーを見て奇妙に感じた者がいたのかはわからないが、海のポケモン達もずっと警戒していたそうだ。だが結局、あれ以降海に不審なポケモンが現れることはなかったと。

「あ、そうだ。これみんなにあげる!」

ダチュラはゆっくりと浜辺まで上がってくると、そっと地面に身を置いた。よく見ると藻の部分に何か光る物がある。そしてバラッとそれらを砂浜に落とした。

「そこで持つんだ……」
「大きい物はこれを使って運ぶよ」
「く、鎖?!どこから?!」

ディストがふと思ったことを呟くと、ダチュラはそう言ってぐいーっと錨を伸ばした。「危ない危ない」と止めたディストだが、ちょっとだけかっこいいと感じたのは秘密。

「これハ?」
「なんか海底に落ちてた綺麗な球!みんな好きなの取っていいよ!」

その数は四つ。赤い物、青い物、水色の物、薄くピンクがかった白い物──どれもとても美しく輝いている。何個かは完全な球体というよりは宝石のように見えるが……。

「すごい!……けど、いつ拾ったの?前ダチュラのとこ行ったときはこんなの無かった気がするけど……」
「結構最近だったと思う!」

普段そこまで意識しないでいるからか詳しい日付は覚えてないらしい。
そんな中ディストは一つの石をひょいっと拾い上げた。

「俺はこれがいいな!真っ赤でかっこいいし」
「おぉ!似合うね!」

フフン、としたり顔で赤い石を掲げるディスト。それをダチュラは称える。
そんな光景を呆れ顔で眺めるクォーツに、シャワーズは伝えた。

「クォーツさん、先に選んでいいよ」
「そう言われましてモ……」

うーん、と残りの石を見つめるクォーツ。少し考えてから一つの石の上に移動する。

「ではこれデ」

そう言って取ったのは白い球だった。なんとなく大きな真珠のようにも見える。

「じゃあ僕は……これにしようかな?」

シャワーズが手に持ったのは水色の石。「ぴかぴかだー」と呟きながら、空に掲げている。

「ぼくはこれね!海みたいで綺麗!」

器用に藻を操って余った球を持つダチュラ。確かにそれは深海を思わせるような深い青をしていた。

「……そういえばダチュラ。ディストは別に関係ないのに貰っちゃっていいんですカ?」
「いいよ!もともと二つあげる予定だったから」

本ポケがいいと言うのならこれ以上は口を挟まないことにしよう。それはそれとして真っ先に選んだディストには遠慮というものを学んでほしいと思うクォーツだった。

時刻はとうにお昼を過ぎている。ということは、普通であればそろそろ空腹が襲いかかってくる頃だろう。
みんなでわいわい話している中、グゥーと何かの音がその場で鳴り響いた。

「あはは……僕はそろそろお暇しようかな、お腹空いちゃったし。ありがとねダチュラ、宝物にする!二匹もありがとう!」

照れ笑いをしながらシャワーズは伝える。そういえばこの場で明確に『空腹感』を感じるのは彼だけだった。

「わかった、またねシャワーズ!」
「今日はありがとうございましタ」
「ああ。じゃあな!」

みなそれぞれ別れの挨拶を交わして、シャワーズを見送った。

……さて、ここでこのまま駄弁っているのも楽しいが、ディストにはまだやり遂げないといけないことが残っていた。

「……私たちはどうしましょうカ」
「俺はまだ依頼が途中だったから一回タルトに確認したいんだけど……」
「それじゃあ病院に戻りまス?」
「そうだな、そうしよう」

ヒソヒソと行われた会話から何を言いたいのか察したダチュラは、二匹が伝える前にニコッと針を動かして告げる。

「いってらっしゃい!」
「ああ!帰るときにはまた寄るよ」

短い時間でもうダチュラと仲を深めたディスト達は、そう約束してラメールシティへと戻っていった──。



「タルトさんならつい先程家に戻られましたよ」
「マジで?」

病院に着いた二匹。とりあえずディストだけ中に入って様子を尋ねることにした……が、受付のラッキーによると、もう大丈夫と判断されて家に帰ったとのことだった。他の被害者のように体に傷を負ったのではなく、ただ技の使い過ぎによる疲労のせいだったのもあってか食事を摂ってしばらく休んだらすぐ回復したらしい。
それなら良かった、と安心したディスト。そのことをクォーツにも伝えて一緒にタルトの家に向かうことにした。


崖の近くにあるその豪邸へは、街の入口から歩くとそこそこ……いやかなり時間がかかる。病院からだとその半分の距離とはいえ、やはり遠く感じるものだった。
そういえば建物への被害もここを境目に綺麗に分けられている。あの時のことを考えると街全体を見境なく襲ってきたのは間違いないはずだが、なんとも不思議なものだ。
そして何事もなくタルトの家の前までやって来た二匹。ピンポーン、とディストがインターホンを鳴らすと、朝と同じようにその機械の中から彼の声が聞こえてきた。

「はい」
「あ、タルト?俺だよ俺!」
「……ディストか」

一見詐欺のように思える返答をされるも、声からわかったのかタルトは冷静に答える。

「入ってきていいぞ。ただ門と扉の閉め忘れには注意してくれ」
「はーい」

確かにこれだけの豪邸なら泥棒にも狙われそうだしなーと呑気なディスト。
そこで思い出した。この街では例の襲撃とは別……なのかはわからないが、金品を盗まれるという事件も発生していたことを。念の為タルトにも確認しておこうと思いながら、ディストは門を開けた。

「……コレ、本当に一匹だけで住んでるんですカ?」
「今はそうらしいけど、多分前まではお父さんもいたんじゃないかな?」

ディストがドアノブに手をかけてゆっくりその扉を開くと、中には高級なホテルのエントランスのような空間が広がっていた。それを見て初めて来たクォーツは圧倒されている。外装から想定できる範囲ではあったが、それでもいざ目にすると凄いものだ。
そんな中タルトは、ディストの隣にいるポケモンに目を向ける。

「ディスト……と」
「同じ『Metal Puissance』の仲間であり副リーダーのクォーツだ!」
「……よろしくお願いしまス」

クォーツが話す前にディストがそう説明した。これが日常茶飯事なようでクォーツはもうツッコミすらしていない。

「オレはタルト。よろしく頼む」

微笑みながら丁寧に会釈すると、それとは一変、真剣な表情でディスト達に告げる。

「色々と話したいことはあるが……まずは依頼の件だな」
「ああ。どうしたらいい?」
「こんなことを頼むのは失礼かもしれないが……荷物整理はディスト達だけでお願いしたい。何をどうするかはこれに書いてある」

そう言ってタルトは一枚の紙を差し出す。ディストが受け取って内容を確認してみると、そこにはどれをダンボールに詰めるのか、その物の特徴等が書かれていた。

「オレは他にやらなければいけないことがあってな……頼めるか?」
「任せとけ!」

自信満々に答えるディスト。
こうして、ディストとクォーツの二匹でタルトからの依頼を遂行することになった。

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