海の街へお引越し①

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読了時間目安:23分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「エッ」
「マジで!?」

住んでもいい、こんな豪邸に!?と嬉しそうなディスト。それは助かるけど本当にいいのか……?と戸惑うクォーツ。いいなー、と羨ましそうに二匹を見るダチュラ。と、反応はそれぞれだった。

「エット……ご家族の許可とかハ?」
「気にしなくていい」

ただ淡々と返され、そ、そうですか……とこの場は聞くことをやめたクォーツ。

「なぁクォーツ。俺はここに住みたい」
「ハ、ハァ……まぁお邪魔じゃないなラ……」
「ぼくも住みたいなー」

真剣な顔でディストから迫られると、そっとタルトへ目線を向ける。
あの家は元々ただの空き家だったのを勝手に住処にしていただけだ。それにラフズタウンから少しでも離れられるのなら、クォーツとしても特に断る理由はない。
クォーツからの視線に気づくと、タルトは構わないと伝えるように頷いた。

「ダチュラはその……ずっと陸にいて大丈夫なのか?」
「んーん。せめて一日に一回は海に浸からないと干からびちゃう」
「え、なんで?」

ぼくもぼくもー!と熱い眼差しで見てくるダチュラにも、もちろん良い……と答えたいところだったが、種族上心配に思う面も多かった。
その大きさゆえこのエントランスホールと地下室以外に入れるのかどうかはもちろんだが、一番は本体のことだ。
どういうこと?と疑問符を浮かべているディストに対してクォーツはボソッと教える。

「ダチュラの本体はあの海藻でス」
「え!?そうだったのか!?」

てっきり自分達と同じような存在かと思っていたらしいディストはそれを知って大変驚いた。まさか侵食系とは……と畏怖の念を抱いてるディストに、「侵食系って何?」「別にそこまで変わらないのでは……」と突っ込みたい衝動をクォーツはなんとか抑える。

「一日で一回でいいなら問題ないか。わかった」
「やったぁ!」
「だが問題はもう一つある。ダチュラが住めそうな部屋が、ここか、地下室しかなさそうなんだ」

タルトは腕を組みながら悩んでいる。ここはここで部屋と呼ぶのも微妙なラインだし、地下室なんてなんだか仲間外れにしているようで申し訳ない、と。

「地下室……っテ、物置部屋というわけではないのですカ?」
「物置部屋もある。だがそれとは別にもう一つスペースがあるんだ」

父親の部屋にあった物の一部を『地下室へ保管する』と書かれていたことを思い出してクォーツは問いかけた。
スペースがある、という言葉に興味を持ったのか、ディストは一つ提案する。

「なぁ、一回見学してみたらどうだ?地下室俺も気になるし!」
「ぼくも見てみたい!」

便乗してダチュラもお願いすると、タルトは、ふむ、と少し間を空けてから返答した。

「……わかった。付いてきてくれ」

タルトは椅子から立ち上がると、この家へ来てまず目に入るあの大きな階段の方へ歩いていく。ディストとダチュラ、クォーツも彼に付いていった。
そうしてタルトが足を止めたのは、階段の前……ではなく、横だった。

「ここに扉がある」

そう告げて彼が指した場所にはわかりにくいが確かに扉のようなものが見える。タルトがそっとそれをスライドさせると、その中には地下へと進む階段が続いていた。
階段下に収納スペースが備わっているということはたまに聞くが、まさかこんなものがあるとは。一体この家はなんなんだ……?とクォーツは疑問を抱く。

「おおっ!本当だ!」
「なんか秘密基地みたいな隠し方だね」

そんな中ディスト達はすごいと無邪気にはしゃいでいた。
先を覗いてみると、どうやら感覚を開けて壁に照明が付けられているらしい。暗くて周りが見えないという状況は考えなくてよさそうだ。
タルトが降りていくと、その後ろをディスト、クォーツ、ダチュラの順番で付いていく。ダチュラは低い天井に合わせて体の向きを変え、壁や床に傷を付けないよう慎重に移動していった。

少しして一番下までたどり着く。そこは上と同じように明るく、壁も床も白い空間が広がっていた。面積の話をすると流石にあそこまでの広さはないが、それを除くと窓が見当たらない以外は特に変わりはない。
左側と右側にそれぞれ扉が見える。さっきの話を聞くに片方はおそらく倉庫だろう。

「こっちの部屋だ。開けるぞ」

タルトが向かっていったのは右側の扉。左のものと比べると少し小さいが、屈めばダチュラも入れそうだ。
タルトによってそっとその扉が開かれると、その中には──。

「おおおお!?なんだアレ!?」
「大きな水槽……でしょうカ」

広い空間の中に大水槽。水は入っていないが、それでもすごい迫力だ。壁が黒いことも相まって余計にそう感じる。
その他には、まるでレストランのように丸いテーブルと椅子のセットが何個か配置されていた。

「すごーい!ここ何の部屋なの?」

ダチュラは興奮してディスト達の横を通り抜けて先に大水槽へと近づいていった。

「おそらく……レストランだな」
「レストラン!?なんでそんなものが家に!?」

普通の家庭にあっていいものじゃないだろうとディストはびっくりしてタルトを見る。だがクォーツは、何かを確信したように彼に問いかけた。

「もしかしてこの家ハ」
「ああ、きっとクォーツの考えている通り。ここは昔、ホテルとして使われていた建物なんだ」

クォーツが言い切る前にタルトが答える。「ほてる?」とダチュラは少し遠くからだが不思議そうに話を聞いていた。

「ホテル・ラメール。あることが原因で営業停止をやむなくされたらしい」
「あること……?」
「……まぁ、端的にいうと赤字ってやつだな」

昔のラメールシティは今ほど発展しておらず、観光客もそれほど多くなかった。そのうえ海が見える綺麗な場所というと他にも有名な地があり、ずっと営業難が続いていたらしい。それに崖の上、という立地も少々不安を煽る。

「今ラメールシティにある宿泊施設は街が発展して需要が増えた結果新たに作られたものだ」
「なるほどなぁ……それはわかったけど、なんでタルト達はそんなホテルに住んでるんだ?」
「……父が買い取ったらしい」

衝撃の言葉が耳に入って、ディストは「うぇ!?」と変な声を出して驚く。クォーツもリアクションはしないものの、心の中では驚愕していた。

「父は腕の良い医者だからな。金ならあるんだ」
「医者……すごいですネ」

それなら納得という雰囲気を出しているクォーツだが、ディストとダチュラにはよくわかっていないようだった。それを察したタルトは、二匹にわかるように説明を始める。

まず病院に勤めているポケモンは、わかりやすく言うと二種類の役職で分けられている。一つ目は自らの持つ力で患者の体力や不調を回復させることができるポケモン。ディストがタルトを連れていった時に声をかけてくれたのがそのポケモンの一匹、ラッキーだ。患者の案内や受付も任されているらしい。
そしてもう一つ。簡単に治すことのできない、いわば病気や欠損……ディストで例えると、剣先が折れてしまった、等の大変な状況を解決するために働いているポケモン。
タルトのお父さんは後者だそうだ。

他ポケモンの命がかかっている大変な仕事……だからこそなるための難易度も高く、重宝され、それ相応の給料が貰えるよう国から指定されているらしい。

「つまりめっちゃお金が稼げる仕事ってこと?」
「まぁそうだな」

なるほど〜、と二匹は理解した。

「そういえばそのお父さんは今どちらヘ?」

何気なく尋ねたクォーツの言葉に、タルトは固まった。そして忌わしげな顔でぽつりと呟く。

「……フォボス地方だ」

………………。

「フォボス地方!?」

フォボス地方といえば、タルトがディストに教えてくれたあの場所のことだ。もしかしたらディストの故郷かもしれない、と言って。

「……ディストには話しておいたほうがいいか。実はフォボス地方は、王家や貴族、上級国民が住むリベルテ王国と、それ以外の平民が住むクェイク・スライという場所に分かれているんだ」

今の彼には、朝話してくれた時のような楽しそうな雰囲気は感じられない。ディストはもちろん、クォーツもダチュラも黙ったままタルトの話に耳を傾けていた。

「ある日、そんなリベルテ王国のポケモンが何匹かうちにやってきた。そしてあいつらは、どこで知ったのかわからないが父が優秀な医者であることを見越してある頼み事をしてきたんだ」

そこまで聞くと、話の流れからディスト達も何を言われたのか想像がついた。

「『貴方程の優秀な医者は珍しい。是非フォボス地方にもその力を貸してほしい』とな」

そこで、はぁ、とため息を吐くとタルトは続ける。

「父は始めは断った。だがあいつらは引かずに、嘘をついてまで父を連れていったんだ」
「嘘?」

ダチュラが尋ねた。

「……リベルテ王国で、一ヶ月だけでいい。そしたらレーヴ地方に帰ってもらって構わない。父はそれなら……と了承してフォボス地方へ行った」

ディストはそこでタルトが言っていたことを思い出す。

「……確か、結局向こうに住むことになったって」
「そうだ。父は結局クェイク・スライに住まわされた。フォボス地方は王の許可がない限り立ち入ることも出ることも叶わない。嵌められたんだよ、あいつらに」

その目からは酷い憎悪が感じられた。それもそうだろう。リベルテ王国へ、一ヶ月だけでいいと言ったのに、実際は二つともお父さんを連れていくだけの虚言だったのだから。

「ディスト。お前に興味を持ったのもそういう理由だ」
「……あっちに住むポケモンなら何か知ってるんじゃないかっテ?」

タルトのその言葉に、ディストではなくクォーツが口を挟む。タルトはそっと俯いて、首を縦に振った。

「純粋な好奇心と半々だった。すまない」
「ええ?……あー!だからあの時なんか威圧感すごかったのか!?」

そういえば記憶喪失だと伝える前、ディストに何をしにきたと問いかけてきた時。少し様子が違ったような気がする。

「よくよく考えてみれば、フォボス地方に住んでいたとしてそんな上の事情を知っているとは限らない。少し懐疑的だった」

タルトはそう謝罪してディストに頭を下げた。謝られた本ポケは「いやいや!」とブンブンと体を左右に振っている。

「まぁなんだ!疑うってのは別に悪いことじゃないと思う!攻撃してきたわけでもないし!」

ディストは必死にタルトに伝える。スッと一瞬クォーツに目を向けると、また続けた。

「クォーツだって何事もまず先に疑ってかかるし!」
「それはそういう性格なだけでス」

ほらクォーツも何か言って!という雰囲気を感じ取ったのか、テキトーに流すクォーツ。
すると意外にも、ダチュラがディストに続いて言葉をかけた。

「海でも似たような感じだよ。信用する相手は選ばないと酷い目に遭う」

それはディストが知っているダチュラとはかけ離れたイメージの言葉だった。出会って一日も経ってないのにこんなこと考えるのはよくないかもしれないが、どちらかというと騙されやすそうな印象だったのだ。
「案外落ち着いて物事を捉えている」というクォーツからの評価は当たっているのかもしれない。

「……ってことで!ダチュラもこう言ってるからさ、気にしなくていい!な?クォーツもそう思うだろ?」
「なんであなたはそんなに必死なんですカ?」

まるで捲し立てるかのように喋り続ける彼に対して、クォーツは呆れたように左右の目を細める。
そんなディストを見て、当のタルトの反応はというと──。

「……フフ。やはり面白いやつだな、ディストは」
「わかるー。ぼくも初めて見たときはもっとクールなのかなって思ったもん!」
「ええ!?なんで!?」

タルトはそう呟いて口角を上げた。いつの間にか近くに戻ってきていたダチュラも、タルトに同意するように話しながらコンパスの針を東に向ける。
そんな二匹が持っている自分へのイメージに異を唱えながらも、ディストは楽しそうにしていた。

「……それデ、結局ダチュラの部屋はどうするんですカ?」

本題からずれてきていると感じたクォーツはそっと軌道を修正しようとする。
ハッとしたタルトが、ダチュラに尋ねた。

「ああ。オレとしてはあの水槽に水を入れればあそこにダチュラが住めるんじゃないかと思ったんだが……」
「暗さもちょうどいいし、タルトが許してくれるならぼくはここがいいな!」

そう答えたダチュラは、どういう原理かわからないが針をニコッと変形させる。
それを聞いてほっとしたタルトは、今度はディストクォーツの方を向いた。

「それじゃあ次は二匹の住めそうな部屋を案内しよう」
「わかった!」
「お願いしまス」
「じゃあぼくはエントランスで待ってるね」


そうして一階まで戻ってきたディスト達は階段を上がって二階へ、ダチュラはそのままエントランスホールで待機することになった。

二階はどうやらホテルでいう客室が並んでいる空間のようだ。確かにこの天井の高さだと、ダチュラが入るには常に体を倒しておく必要があるだろう。

「階段が近いこの一帯のどこかを二匹の部屋にしたらいいんじゃないかと思うんだが」

パッと見た感じ向かい合わせで合計十個の個室があるようだ。おそらく奥の方にある曲がり角の先にもう少し続いているのだろうが、タルトの話によるとどこも中は同じようになっているらしい。それならわざわざ遠くを選ぶ必要はないと思ったそうだ。

「とりあえず中入ってみてもいいか?」
「ああ」

ディストは試しに階段から一番近い個室の扉を開けてみる。
明かりの付いていないその中は少し薄暗い。
壁も床も木で出来た部屋には、ベッドや収納スペースにテーブルやソファなど、生活に必要そうな家具は一通り揃っていた。……ディスト達からしたら使えそうなものは少ないが。

「他の部屋も大体こんな感じだな。違うのは窓からの眺めくらいか」

ディストが窓を覗いてみると、空は薄くオレンジがかっていた。
タルトの話を聞いて、景色が違うのか?と気になったディストは、今度は今いる部屋の向かい側にある個室に入ってみる。
そこは──。

「暗っ!え、なんで!?」

明かりがないことは想像がつく。だがまさかこんなにも真っ暗な空間が現れるとは誰が思うだろう。
驚いているディストの横から、タルトがポチッと壁にあるボタンを押した。

「こっち側の部屋は窓がないんだ。こういった欠陥もこのホテルの廃業に繋がったのかもしれないな」

明るくなった部屋を見渡してみると、確かにそこには窓らしきものがなかった。それ以外はあちら側の内装と同じらしい。
これはこれで一部には需要がありそうだが……。

「なるほどなぁ、これはちゃんと選ばないとダメそうだ」
「私は暗いほうが落ち着くのですガ……」


他のところも様子を見たりしてみて考えた結果。
ディストは初めに入った階段に一番近い窓がある部屋。クォーツはその向かい側の窓がない部屋にすることに決めた。
ついでにタルトも「せっかくだし!」というディストの説得によって二階に自室を移動することとなった。ディストの隣の個室に。

そうしてエントランスホールへ戻ってきた三匹は、無事どこに住むか決まったことをダチュラに話した。

「にしてももう夕方かぁ。どうするクォーツ」
「今から行けばまだ暗くならないうちに帰れそうですガ」

荷物を持ってくるために一度森の小屋へ戻りたいとディストとクォーツは考えていた。だが外はすでに夕焼け。もうすぐ夜がやってくる時間帯。
いや、暗くなるだけならまだいい。二匹が懸念しているのはラフズタウンのことだ。あの森に行く一番の近道には、必ずあの町を通る必要がある。
日中も騒がしいラフズタウンだが、夜はそれ以上に荒れている。おそらくこの時間にはもう──。

「よし!帰るのは明日にしよう!どうせ他にも色々やらなきゃいけないし!」
「それもそうですネ」

結局今日はタルトの家で休むことにしたディストとクォーツ。タルトももちろんOKしてくれた。

「じゃあぼくは帰るね、また明日!」
「ああ、わかった」
「またなー!」
「さようなラ」

ダチュラも今の住処に一度帰りたいと考えていたらしく、今日は海に戻るとのことだった。
それぞれ別れの挨拶を返してダチュラを見送ると、残った三匹は例の青い扉の部屋へ向かっていった。

「ここはホテルでいうとなんの部屋なんだ?」
「……ちょっとした休憩スペース?眺めも良いしな」

実際運営していたところを見たわけじゃないタルトは、流石にどこがどんな目的で作られた部屋なのか全てを把握しているわけではない。
タルトは「好きにくつろいでいてくれ」と言い残すと、どこか別のところへと姿を消した。

「よーし!じゃあ俺はテレビでも観るかな!」
「あんまり騒がないでくださいヨ」

早速ディストはテレビの電源を入れ、クォーツはテーブルの上に残されていた史書からテキトーに一つ選んで読み始めた。

テレビには、病院で観たものと同じようにニュース番組が映されていた。今は、どこかの誰かが自分の受けている差別についての話をしている様子が流れている。

『何故我々野生で育ってきたポケモンは街へ立ち入る許可すら得られないのか!?』
『野生で生きている弱い種族のポケモンがどんどん減ってきている事実についてどうして目を瞑るんですか?』

内容を要約すると、今の自分達のように街等で住んでいるポケモンと、野生……つまりは森等で暮らしているポケモンの間でいざこざがあるらしい。
どうやらそれぞれ色んなルールも異なっているようで、例えば野生で餌を求めて他のポケモンを狩ることは許されているのに、街の中で同じことをしてしまうとお尋ね者として捕まってしまう……とのことだった。

「確かによくわかんないな……つまり街の外だったらOKってことなのか?」
「住民として登録されていないポケモンは野生扱いされるんですヨ。どこの街や村にも属していない今の私達は野生ってことですネ」
「へぇ」

ふと呟かれた疑問に、クォーツが丁寧に説明してくれた。
どこでもいいから街や村の住民票に乗っていないと野生扱いされ、中にはそんなポケモンの立ち入りを禁止している場所もあるとのこと。
そして一番問題なのは、野生同士の争いでは警察は動かないこと。被害者が街のポケモンで加害者が野生のポケモンなら動くが、その逆なら動かないということ。もちろん、街に損傷を与えた場合は誰だろうが問答無用で捕まるらしいが。

「明日はその辺の手続きもしないといけませんネ」
「はぇー。大変なんだなぁ」

確かにそういう話ならこのラメールシティで暮らすほうが得られるメリットは多そうだ。クォーツが同意してくれた理由も、もしかしたらこういうことだったのかもしれない。
そこでニュースの内容が次のものに変わった。

『次は、本日キラメキシティにて行われたコンテストの様子をお届けします』

『コンテスト』。その言葉を聞いてディストはハッとテレビへ視線を戻した。
そこには色んなポケモンが、着飾ったり、技を使って自分の魅力をアピールしたりしている様子が映っていた。キラキラとしたアイドルのようなポケモン、スタイリッシュでかっこいいポケモン、愛嬌のある可愛いポケモン……等他にも色々。どうやら種族は問わないようだ。

「興味でもあるんですカ?」
「あーいや、実は今日……」

クォーツから問われると、ディストは今日の朝タルトの家へ向かう途中に出会ったララのことを話した。

「ヘェ……催眠術ですカ」
「そうそう。もしかしたら今日のこととなんか関係あるかなーって思ったんだけど……よくわかんなくてさ」

実は時々思い返していたディスト。だがどうしても誰がどんな理由でそんなことするのか思い浮かばなかった。

「まぁいいんじゃないですカ。確かに気にはなりますけどそのことで悩んでも仕方ないでしょウ」
「……それもそっか!」

その辺は自分達の出る幕じゃない、とクォーツに言われこれ以上考えることはやめたディスト。

それからも色々なニュースが流れ、クォーツに教えられてからようやくチャンネルを変えられることを知ったディスト。

そうしてしばらく過ごしているとやっとタルトが戻ってきた。その手には様々な木の実が入ったバスケットを持っている。

「強盗の件だが、特に何か盗られてはいなかった。一応監視カメラも確認してみたが誰かが侵入した様子もない」
「そっか。ならよかった!それでその木の実は?」

テーブルの空いているところにバスケットを置くと、タルトは答えた。

「夜ご飯……と言いたいところだったが、ディスト達が何をどれくらい食べるのかわからなくてな。とりあえず木の実にしてみたが……」

読んでいた本を閉じると、クォーツはテーブルに積まれている史書の片付けを手伝う。

「おぉ、ありがとう!って、なんか見たことないのも混じってる……」
「ああそれか?それはマトマの実だな」

ディストがそっと手に取った木の実は、とても真っ赤でトゲトゲしている……これは食べても大丈夫なものなのだろうか?という疑問が浮かび上がってきた。

「……とりあえず!みんなお疲れ様!いただきます!」

ディストはそう言うとマトマの実を一口……。

「…………」

元気だったディストからは、その木の実を含んだ途端、表情が消え去った。そして。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

火を吐くようなことは流石になかったが、その辛さに耐えきれず暴れ始めてしまった。

「……タルト、水ヲ」
「わ、わかった」

このままじゃ家の物が壊れる、と感じたクォーツがタルトに水技で止めてほしいと頼んだ。
タルトはみずでっぽうを、ディストに向かって放つ。
水を当てられたディストは少しだけ落ち着きを取り戻したようで、そのまま床にそっと倒れ込んだ。

「もう一生食べない」
「すまない。そこまで辛いものだとは……」

不貞腐れた様子のディストに、タルトは「ハハ……」と苦笑いする。
ディストはもうマトマの実なんて食べてやらないと強く心に決めていた。


そんなこんなで夜ご飯も食べ終えた三匹。
食べている途中に明日の予定も一応確認を済ませていた。
今の時刻はおよそ七時頃。明日はきっと忙しくなるし、今日も色々とあって疲れていた三匹はもう寝ることにした。

「んじゃまた明日ー!」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさイ」

そう告げると、みなそれぞれの個室へと向かっていく。

ダチュラから貰った球をタンスの上へそっと飾ると、カーテンを閉めて明かりを消し、ディストはその場で寝転がる。
クォーツはともかく、ディストはベッドという慣れないものに対して「自分が乗って毛布とかもし切っちゃったら大変なことになるのでは?」という不安を抱えていた。そのため結局床に直で身を休ませることにしたのだ。

今日だけで本当に色々あった。楽しかったと言ったら不謹慎に思われるような事件もあったが、それでも何もないよりはワクワクするものだ。
ディストはそんなことを考えながら、深い眠りへと落ちていった。

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