【三】メグリ

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 ピョンピョンと飛び跳ねるバネブー達に囲まれ、ヒノテとラグラージは荒れた山道に座り込んだ。どうしようもない。少女一人守れず、何の抵抗も出来ない。
 何のためにホウエン地方を渡り歩き、力を付けて来たんだと、自分の情けなさにヒノテは心底凹んだ。
 デコボコ山道に生息するバネブーの群れ一つ止められずに、他に一体何を出来るというのだ。並んで座るラグラージも、ショックを隠せず意気消沈していた。
「お兄さんのラグラージ、すごいねえ!」
 ピョンピョン飛び跳ねるバネブーの中に、少女が一人混じっている。
 ラグラージのハイドロポンプを、すんでのところで邪魔をしてくれた少女であり、ヒノテが助けようとしていた少女だった。
「ビュー! って、あんなに勢いのあるハイドロポンプ、私見たことない!」
 不安定な足場を物ともせず、少女が楽しそうに跳ねる。それに合わせて、バネブー達も鳴き声を上げた。
「……楽しそうだな、お前ら」
 はあ、と溜息をついたヒノテは、攻撃してこないバネブー達を見てすぐに悟った。
「遊んでいただけなんだな」
「そうだよ。デコボコ山道で鬼ごっこ。この子達は、私の遊び相手」
 紛らわしいことこの上ない。少女がポケモンに追いかけられていたら、襲われていると思ってしまっても仕方がない。
「だったら、なんであんなに騒ぎながら走ってるんだ。襲われていると思うじゃないか」
「あのねえお兄さん。鬼ごっこなんだから、追いかけてもらわないとつまらないでしょ。それに、大きい声出して、私について来てもらわないと。ただデコボコ山道を走り回ったら、バネブー達が私を見失って散っちゃうかもしれないじゃない? トレーナーさん達に迷惑をかけるかもしれないよ?」
 両手を腰に当てて、ご丁寧に説明する少女にヒノテは圧倒される。
 とんでもない才能を持つ少女もいたものだ。この歳で、ポケモンの群れを従えている。天才的な才能を持つ少年少女はちょこちょこ見かけるが、その度にヒノテは、トレーナーとしての力の差を感じていた。
 自分のポケモン達と一緒に、大分力を付けて来たつもりだったが、まだまだという事らしい。
「悪かったよ。遊びの邪魔しちゃって」
 理解を示したヒノテに、少女は満面の笑みを浮かべた。
 襲われていないのならば、出る幕はない。ラグラージをモンスターボールへ戻し、ヒノテは立ち上がった。
「先を急いでいるから、それじゃあね」
 温泉と飯が待っている。その事を思い出し、バネブー達を掻き分け、再び山道を下り始める。
「フエンタウンにいくの?」
 後ろから声を掛けて来た少女へ、ヒノテは振り返った。
「そうだけど」
「じゃあ、一緒に行こうよ! 私、フエンタウンに住んでるの」
 デコボコ山道は、修行の場でも物好きが通る道でもない。少女にとっては、庭でしかないようだ。ずっと遊び場として駆け回っているのであれば、あの身軽さも納得だった。
 この少女についていけば、一人で下りるよりも早くフエンタウンにつくかもしれない。
「そうなのか。じゃあ、案内を頼んでもいいかい?」
「もちろん!」
 周りにいるバネブー達を集め、解散! と叫ぶ。遊びは終わりとばかりに、バネブー達は固まったまま山道を下りていく。彼等の住処に戻るのだろう。
「それじゃ、行こっか。案内を務めさせていただく、メグリです。よろしくね」
「ヒノテだ。よろしく頼むよ」
 少女メグリが、羨ましく映った。自分にも、あんな才能が欲しかった。幾度となくヒノテはそう思って来たが、もう過去は過去。今更嘆く事はない。それでも、たまに思ってしまう。マグマ団という組織を止めた、あの少年のように、自分もなってみたかった。何年経っても、それは、変わらない。

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