【二】身軽な少女

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 デコボコ山道は、その名の通りデコボコ道が続いている。平坦な場所はほとんどない。
 下りはもちろん、上るのも大変だ。物好きな人間や血気盛んなトレーナー達が修行場所として通るくらいで、一般的な観光客はほとんど使わない。
 温泉や飯をより良いものに、という理由でその山道を下ろうとするヒノテも、物好きな人間の一人だった。
 ホウエンを歩き回り、ある程度の道程には慣れているヒノテでも油断すると危険だ。手をついて荒地を超え、大小様々な石に、岩に気を付け、バトルだバトルだと視線を送ってくるトレーナーの視線を振り払い、フエンタウンを目指す。
 まだまだ先は長い。今晩予約した旅館は夕飯がうまい事で有名だった。それを思い浮かべながら山道を下り続ける。
「これだけ荒れていると、えらく時間がかかるもんだな」
 登る時も自力で山頂まで行こうとしていたのだが、ロープウェイ係員の「大変なのでお勧めしませんよ」という言葉に従って、本当に良かったとヒノテは思った。
 僅かな休憩所の様に存在していた平坦な場所で、比較的平らな岩に腰掛ける。ヒノテは終わりの見えない下山道にげんなりしつつ、息を吐く。しばらくの間、ぼうっと変わらない景色を見つめていたが、こうしていてはいつまで経ってもフエンタウンには辿り着けない。
 温かい湯で足を伸ばす事を想像し、立ち上がって再び一歩を踏み出した時、ヒノテはぎょっとする光景を見た。
 自分が苦労して下りている山道を、身軽さに身体を預け、勢いで駆け上がって来る少女が一人。
 大きな声で騒ぎ立てながら、遠くにいた少女が近づきだんだんと大きくなってくると同時に、更に後方の存在にヒノテは気付く。
 小さく聞こえていた、ヴー! という低い鳴き声が、だんだんと大きくなる。文字通り身体のバネを利用して軽々と山道を登るポケモン、バネブーの群れが少女を追いかける。
 咄嗟にヒノテは腰のボールホルダーに手をかける。
「おい! 君!」
 呼びかけに返答する事なく、少女は騒ぎながら勢いよく横を過ぎ去った。舌打ちを一つして、ヒノテは少女が過ぎ去ったその荒れた山肌にボールを投げる。青を基調とした逞しい身体。太い手足。少女の後方から群れで迫るバネブー相手に、その巨体はがなり声をあげて威嚇した。
「ラグラージ、まだだ! もう少し! もう少しだけ引き付けろ!」
 片をつけるなら一発。群れで迫るバネブーに力の差を教えてやれば、すぐに引き下がるだろう。
 上下に跳ねながら迫るバネブー達に狙いをつけるのは難しい。ヒノテのラグラージは器用なポケモンではなかった。狙えるところまで引き付けなければ、力の差など示せない。
「……よし、よし、今! ハイドロポンプ!」
 ラグラージが首を上げて反動をつける。目の前に立ちはだかった敵に、バネブー達は避ける事なく集まって向かって来る。これならいける。ヒノテは確信し拳を握ったが、
「だめええええええ!」
 何故か戻って来た少女の声に驚き、ラグラージは明後日の方向に水流を放出。格好良く少女を守ろうとしたヒノテとラグラージだったが、何も出来ず、そのままバネブー達の突撃に巻き込まれた。

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