過去からの招待状

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

第二部最終話です。短いです。

●あらすじ
 ヤレユータンが砦を去った後、マニューラはようやく頭の整理をする時間を手に入れた。だが、結論に近づこうとすればするほど、彼女が目を背けた過去が浮き彫りになっていく。それでも、彼女は完全に孤独ではなかったかもしれない。相性も居心地も悪い、奇妙な男女の友情だけがそこにあった。




 厩の扉が重苦しく閉まる音を聞き届けた後、私は機を逃した質問のことを考えていた――すなわち、冠を私の額にかざすと、何故か急激に体調が悪化することだ――もう一度試してみても良かったかもしれないが、私には自分を傷つける趣味はない。

 砦に一匹取り残された私は、藁の中に落ちた針を探す真面目な警察のように(盗賊が警察のようにとはおかしな話だが)砦の中を探し回った。私にとって、独りになれる時間は何よりも大切だった。身体を動かしながら、証拠の一つ一つを頭の中で組み立てる作業をしていると、私は森に棲んでいた頃の自分に戻った。

 私は老婆の身体を調べていた。ガルニエ号と今回の一件で、裏切られし者の狙いの一つが、五大家の遺産であることは確実だ。ユキノオーは老婆を拾ったと言っていたが、実際は彼女に隠れ蓑として利用されていただけだ。彼女は、私が夢の館で宝を取ったタイミングを狙い、息を潜めていたに違いない。ユキノオーも運がなかった。私が眠るのを待てるだけ辛抱強くて、呑気な男だったらと思うと、賢者の言う通り、計算高さは気まぐれな運の前では役立たずかもしれない。

 私は上官室に戻って窓の外を覗いた。ルカリオと裏切られし者との繋がりは信じられなくなった。彼の行動にはまるで一貫性がない――父の夢を見る度に、自分が死に損なった理由を考え続けてきたが、それは、私が五大家の遺産に近づくのを彼が待っていたからではなかろうか。そのくせ、ガルニエ号で私の命を狙ったのは何故か――ルカリオ・アウラスは二匹以上いるのではないだろうか。ゾロアークとレントラーを私から奪ったのは、どの「ルカリオ・アウラス」なのだろうか。

 私は石の狭い書庫室で歴史書を読んでいた。私が夢で逢った、あの少女と婆やが懐かしい理由はどう考えても説明がつかなかった。あの光景は少なくとも二十一年以上前のことだが、彼女らのことを記憶するチャンスがあっただろうか。私が森に棲んでいた頃、母は森で私を身ごもり、私が物心つく前には森を出たというが、実際は死んでいたのではないかと子供ながらに考えていた。それに、ルカリオ・アウラスが来るまでは、私は森の外には一度たりとも出ていない(出ようとしたこともあったが、父の幻を見せる力で森の中まで戻された)。

 私の記憶には矛盾がある。私は何者だろう。ルカリオ・アウラスとは誰なのか――

「まったく、いつまで待たせる気だ!話は済んだろ!凍えさせるつもりか!」

 書庫室の外に、包帯を巻き直したムクホークがいた。私は仮面をし忘れていた。

「あ……」

 我々の間抜けな声は同時に出ていた。私は思わず顔を背けた。

「お前はよく分からん女だな」

「どういう意味よ」

「仮面が必要なほど醜くないだろうに」

「あまり見ない方がいいわ。あなたも呪われる」

「呪い?そりゃいい。もう二回も見ちまった。組織からは消された。既にお前に殺されたようなもんさ」

 私は彼の方をちらりと見た。不躾で、不器用な、開拓期のタフガイのしたり顔があった。
「みみっちい貸し借りはナシなんだろう、俺達は」
 素顔を見た男に、こんなにあっさりとあしらわれた経験はなかった。私は心のどこかで身勝手な悔しさと安心感を覚えていた。

 証拠は何一つ出なかった。だが、私は少しも気にしてはいなかった。この家捜しは物思いに耽るための口実だったような気がする。物を探すとは、思い出を見つけることなのだ。

明日は、家族の男・グラエナ君が主人公のお話が三話続きます。乞うご期待。

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