【第027話】同じ視点と同じ思考 / チハヤ(果たし合い vsウィッグ)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

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・3on3のシングルバトル。学生のみ交換可。
・特殊介入(メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタル)は計1回まで。
・境界解崩は計2回まで。
・先に手持ちポケモンが3匹戦闘不能になった方の負け。

□対戦相手:ウィッグ
✕コロトック
✕ベラカス
◎カイロス(Used.M)

□学生:チハヤ
◎シキジカ
✕パピモッチ(Used.X)
✕パモ

※備考……現在、境界解崩「無衰ノ共鳴」が展開中。一度発生した音は減衰することなく、半永久的に反射し続ける。また、チハヤがヘッドセットを放棄。殺人級の騒音が、彼の耳を直に襲う。
「Equipaggiare il turbine(旋風を纏え)………《荒 サ ブ 嵐 ノ 巨 鎧 神 ブロウメイル・クレッシェンド》ッ!!!!」
「がぎゃぎゃぎゃーーーーーーーーーッ!!」
解崩器ブレイカーを続けて天高くかざし、2回目の境界解崩ボーダーブレイクを発動したウィッグ。
メガカイロスの周辺の空気がうねり、集い、そしてひとつの貌を成していく。
響き渡る凄まじい振動のせいだろうか。
無色透明な筈のは光をも歪め、そこに淡い輪郭を映し出す。
それはまるで………。

『がぎゃぎゃぎゃーーーーーーーーーッ!!』
「きょ……巨人ッ………!!」
そう……巨人。
巻き起こる旋風……大気の循環が作り出した、透明な巨人。
メガカイロスを中核とするように、巨大な機巧を産生したのである。

 《荒サブ嵐ノ巨鎧神ブロウメイル・クレッシェンド》……もはや効果の説明は不要だろう。
圧倒的な風圧を鎧のように纏い、そこに絶対不可侵の領域を生成する……!!
更にメガカイロスの特性は『スカイスキン』……ひこうタイプの境界解崩ボーダーブレイクであるこの技は、特性の効果によって倍の威力に増強される……!!
これこそが最後にチハヤを迎え撃つ、ウィッグの最終兵器リーサルウェポンなのだ……!!

「あ、あんな巨人、どうやって倒せっていうんですかーーーーッ!?」
「(巨人は確かに脅威……だがソレ以上にッ……!!)」
シラヌイは不安げな様子で、チハヤの方へと目をやる。
するとそこには……

「がっ……あああッ………!!」
激痛から、耳を抑え込むチハヤの姿があった。
現在、彼の耳は膨大な騒音に晒されている。
否……耳どころか、ここまでくると脳が直接的な振動でダメージを受けているレベルだ。
更にウィッグが境界解崩ボーダーブレイクによって嵐を巻き起こしたせいで、その爆音は加速度的に空間内に蓄積し始めている。

 それは本来、常人の身で耐えられるものではない。
チハヤもフード越しに首から上を強く押さえつけ、それでやっと正気を保っている状態だ。
極度の苦痛は、今にもチハヤを狂気の底へと誘い続けている。
最早、彼の発狂は時間の問題である……!!
「(ただでさえ不利な状況で、マトモに正面も向けていないッ……これじゃあ、口パクの伝令も出来ないじゃないか……ッ!!)」

 チハヤの身体は限界、戦力差も圧倒的……状況は、先よりも更に鮮明に絶望の色を濃くしていた。
「ちょっとテイル先生……本当に、チハヤくんは勝てるんですか!?こんな状況から!?」
顔色を一切変えないテイルに、シグレは詰め寄る。
「……勝てるって言ってるでしょう。」
それでも彼女は相変わらず、つんと澄ましている。
が……
それでも……彼女の首筋にも、一筋の冷や汗が伝う。
彼女とて、いよいよ断言ができなくなってきた状況なのだろうか。


 そんな彼らの心配を他所に、ウィッグはすぐさま攻勢に出る。
「(さっさと介錯してやるザマスッ……カイロス、『がんせきふうじ』ッ!!)」
「がぎゃぎゃーーーーーーーッ!!」
メガカイロスの周囲には、無数の岩の破片が生成される。
その岩は風に流されていき、弾丸の如くシキジカへと襲いかかる。

「(チハヤッ……早く指示をッ……!!)」
が、しかし……
「がっ……あああっ………!!」
「(だ、駄目だ……騒音のせいでソレどころじゃないッ……!!)」
シキジカに技の指示を出さなければいけないチハヤは、苦痛に悶えるばかりである。
正面を向くことすらままならず、ただただ己の意識にしがみつくばかりであった。

「める……めるるるるるッ!!」
いよいよチハヤの指示を待っていては埒が明かない……と、シキジカは自己判断でダッシュを始める。
降り注ぐ岩片のマシンガンを、フィールド外周を駆けるようにして避けていく。

 しかし単調な弧を描く軌道は、上空に鎮座しているメガカイロスからは丸見えだ。
先読みをしたカイロスは少し発射のテンポを遅らせ、そのままシキジカが次に踏むであろう地点へと岩を発射する。
「めるッ……!!」
が、偶然にもシキジカはそれを察知。
スピード落とさぬままその弾を回避すべく、跳躍にて岩片を回避した。



 ……そして、まさにその瞬間であった。
「め……めるるっ……!?」
「あっ………!!」
シキジカの身体が、ぶわりと宙へ舞い上がる。
ほぼ垂直、真上へと飛び上がった……原因は明白である。

「しまった……突風……!!」
そう……現在このフィールドには、凄まじい突風が吹き荒れている。
加えてシキジカは比較的身軽なポケモン。
ひとたび地面から脚を離してしまえば、そのまま容易に上空へと吹き飛ばされてしまうのである。
不幸かな……相手の攻撃を見切ってしまったのが、裏目に出たのだ。
宙に舞ったシキジカは、カイロスにとっては格好の餌食である。

「(これでチェックメイト……カイロスッ、『ハサミギロチン』で捻り潰すザマスッ!!)」
「ぎゃぎゃぎゃーーーーーーーーーーーーッ!!」
カイロスはガチガチとハサミを鳴らして、風圧を調整。
発生した圧力でシキジカへとダメージを与えようとする。
この巨鎧神はカイロスの随意のまま……あらゆる部位を、彼の思うがままに動かせる。
こうなればシキジカは、巨大な怪物の胃袋に放り込まれたも同然。
ただ無抵抗にすり潰され、消し炭になるだけ。

 ……のハズだった。
が、しかし。
「めるるるッ!!」
なんとシキジカはこの突風の中を突っ切り、自ら高度を下げたのである。
まるでこの嵐の中を走り抜けるかのように……!!
シキジカが移動したことで、メガカイロスの風圧攻撃は不発に終わる。

「(なっ……なぜザマスッ!?なぜこの嵐の中でマトモに動けるんザマスかーーーッ!?)」
ウィッグは驚愕する……が、無理もない。
まさか彼らが、この境界解崩ボーダーブレイクに対しての耐性を既に得ているなど、夢にも思わないだろう。
そう……この突風に晒される状況は、以前にシキジカは経験済みなのである。

「(やはり、正解だった……リッカとの訓練を、チハヤにやらせたのは……!!)」
答えは、数日前のリッカとの特訓。
地面から離れた空間で行った、リッカのドンカラスとの戦闘実践訓練。
これこそが、シキジカの空中歩行を盤石なものとしていたのである。
先に滞空歩行に身体を慣らしておいたお陰で、《荒サブ嵐ノ巨鎧神ブロウメイル・クレッシェンド》への対応が出来たのだ。

「(ふんッ……だが所詮は基礎が出来ている・・・・・・・・だけザマスッ!!これはどうザマスかッ!!)」
ウィッグは激しく両手を振るい、メガカイロスへとハンドサインを送る。 
「がぎゃッ!!がぎゃッ!!がぎゃぎゃぎゃーーーーーーッ!!」
何度も何度も、巨鎧神の中の風が……圧縮と膨張を繰り返す。
飛び回るシキジカを狙った即死級サドンデスの断頭攻撃が、何度も彼の身に襲いかかってきたのであった。

 風圧ギロチンの猛攻を、シキジカはすんでのところで回避し続ける。
コロトック戦にて『くさわけ』を連打していたことで、自身のスピードが上がっていたのが功を奏していたのだろう。
そして遂に、シキジカは風の流れに乗って、巨人の中核に位置するカイロスの元までたどり着く。
本丸を叩くことに寄って、この馬鹿げた機巧を終わらせようと狙っていたのだ。
渾身の『ずつき』こうげきが、カイロスを正面下方向から突き上げる。


 ……が、しかし。
「がぎゃぎゃあああああああッ!!」
「めるるッ!?」
そこで反射的に飛んできたのは、カイロスの『シザークロス』攻撃。
「あっ……!!」
シキジカはこの突風の中で、失念していたのだ。
カイロスというポケモンが……肉弾戦で最強クラスの性能を持つポケモンであることを。

 確かにこの境界解崩ボーダーブレイクは、非常に強力な効果を持つ技……
しかしだからといって、カイロス本来のスペックまでもが落ち込んだわけではない。
不用意に彼の間合いに入れば、パワー差で押し負けることは必至だ。
そのことを……シキジカは忘れてしまっていた。

 『シザークロス』によって弾かれたシキジカは、再びカイロスから距離を取ることを止む無くされる。
しかしそんな彼のことを、カイロスの遠隔ギロチンが容赦なく襲いかかってくる。
何とか『くさわけ』を起動して加速し、逃げ惑う……
が、しかし……その精度が徐々に落ちていく。
先ほどまで華麗に躱していたはずなのに、かなり動きが危なっかしくなっていく。

「そうだ……あそこはカイロスのテリトリーだ……長くは持たないッ……!!」
残念ながらシラヌイの言う通り……《荒サブ嵐ノ巨鎧神ブロウメイル・クレッシェンド》はあくまでもカイロスの随意で動かせる機巧。
今は回避を続けられていても、いずれは限界が訪れてしまう。
何かもっと具体的な策に出なければ、シキジカは敗北を待つばかりなのだ。
だが……

「でも、チハヤくんはあの状態ですよ!?シキジカだけであの状況を打開するなんてとても……!!」
そう、戦局を打開させるのは……いつだってトレーナーのひらめきに寄るものだ。
現場で戦うポケモンの一人称視点では、思考力にも発想にも……どうしても限界が生まれてくる。
だからこそ、ポケモントレーナーという俯瞰の視点に立つ存在が必要なのである。
が……そのトレーナーチハヤはほぼ機能停止。
こうなってしまえば、シキジカの状況打破は絶望的。
画期的な一手など、生まれるはずもなく……


 生まれる……はずも………


「……あれ、チハヤくんは何処に……?」
「あれ……そういえば……?」
シグレとシラヌイが気づいたときには、彼の姿はスタンバイコートに無かった。
もしやと思い、視線を動かすと……
「うっ……う、うう……上だッ……!!」
「ッ!!!!?」


 そう……なんとチハヤは、天高く舞い上がっていたのである。
カイロスの巻き起こした爆風に乗って、シキジカと同じ天井付近にまで……!!
「なっ……何ーーーーーーーーーーーッ!!?」
「(おバカーーーーーーーーーッ、なんと危険なッ!!?)」
あまりに突飛で危険な行動に、会場の視線はチハヤの方向へと一気に集結する。
それは勿論、シキジカも例外ではない。
嫌が応にも、彼の視線はチハヤを捉えることになる。
そんな彼は激痛をこらえ、手を差し伸べるようにしてシキジカに示す。

 トレーナーの姿を視認したシキジカは飛びつくようにチハヤの元へと向かう。
やがて着弾すると、彼の身体を支点にして重々しいキックを放つ。
そのまま勢いに任せて、鎧の中から脱出したのである。

 そしてこのやり取りの中で……シキジカは取り戻した。
状況を俯瞰で眺める冷静さを。
そしてこの絶望のなかに見出す。
相手を攻めるために有効な手段を。


 ーーーーー遡ること1日。
ウィッグ戦の前日に、チハヤはある疑問が頭の中に浮かぶ。
「はぁ……はんへほへはへほんはふほーほひへふんは?(訳:なぁ……なんで俺はこんな修行をしているんだ?)」
彼はパピモッチの隣で、ダンベルを吊るした棒を加えさせられていた。
顎の力を鍛える……というトレーニングなのだが、何故かチハヤまでもが同じことをさせられていたのである。

「……前にも言ったでしょう?あなたは正真正銘のバカ。頭で考えても、いざというときに解決策が思いつくとは考えづらい。」
「はぁ……ほーはへほ……(まー、そうだけど……)」
「……だから、できるだけポケモンと同じ動きを身体に叩き込んでおく。同じ動き、同じ視点を共有すれば、勝ちにつながる可能性は高くなる。」
そう……これこそがテイルの真意。
チハヤの身体に叩き込み、ポケモンの思考に近づける……そういった訓練の方向性なのだ。
「……もし困ったことがあったら。『ポケモンと同じように動く』これを意識しなさい。それだけでもだいぶ変わる。」
「ほ……ほーは……(そ……そーか……)」
「……わかったらあと10分耐えなさい。それまでは家には帰らせない。」
「ひひふはーーーーッ!!(鬼畜かーーーーッ!!)」

 ーーーーーこうしてチハヤはテイルの教えを守り、シキジカと同じ視点に立った。
その行動は結果的にシキジカを冷静にさせ、最適な解を導き出したのである。

「っし、あとは任せたぞ、シキジカッ……!!」
逆転の一手をシキジカへと託し、巨人から放られて落下していくチハヤ。
「めるっ……」
そしてシキジカは小さく頷き、最後の一手に手を伸ばす。
天高くから、カイロスに向けての必殺技を装填し始める。
口元に集結する光のエネルギー……その正体は……

「そ、『ソーラービーム』ッ!!」
ここに来て彼は、一番の大技である『ソーラービーム』の貯めに入った。
この攻撃にて、中核のカイロスを一撃で仕留めようとしたのである。
「そうか……近距離で殴り合っても勝てないッ……!!だからこそ、遠距離からの『ソーラービーム』を選んだんだッ……!!」
「で、でも……!!」

 そう、ソーラービームにはある重大な問題がある。
それは……
「(ふんッ……アレはあくまでも溜め技ッ!そんなモノを撃たせる隙は与えないザマスッ……!!)」
そう、『ソーラービーム』は溜めを要する点。
その隙を逃すウィッグではなかった。
すぐさま『がんせきふうじ』にてシキジカを狙撃しようと、狙いを定める。


 ……が、しかし。
「めるるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
カイロスが反撃するよりも早く、シキジカの口からは『ソーラービーム』の光線が放たれる。
質量の無い超熱光線は風圧の一切を無視し、まっすぐにカイロスを飲み込んだんである。
「がぎゃぎゃーーーーーーーッ!?」
「な……何ーーーーッ!?」
「(馬鹿なッ……あんなに早く『ソーラービーム』が発射できるわけがないッ……!!)」
何が起こったのか、理解が追いついてない様子のウィッグ。
慌てて上空に目を向けると、そこには答えが存在した。

「(……太陽?あ、あれは……まさかあの時のッ!!)」
ここでウィッグは思い出した。
先のベラカスとパピモッチの戦いを。
ダイマックスをしたパピモッチがラストに放った技は、『ダイアイス』ではなく『ダイバーン』。
この技は、ダメージを与えると同時に天候を『はれ』に変更する効果がある。

 その時の効果が残留していたおかげで、『ソーラービーム』を溜めずに発射する事ができたのである。
「……そう、これは謂わばボーナスタイム。今のうちにカイロスを仕留めれば……勝てる……!!」
カイロスに入ったダメージは甚大なものだ。
後一発もあれば、相手を撃ち落とすことは可能である。
「(これで……決めてくれッ……!!)」
朦朧とする意識の中、チハヤは祈る。

 シキジカはその思いに答えて、今度こそ最後の『ソーラービーム』を口元に装填した。
太陽の持続時間は残りわずか。
この攻撃で仕留められなければ、いよいよ敗北は必至だ。

「めるるっ……!」
最後の思いを受け取り、光を吸収していくシキジカ。
そして遂に、巨鎧神の中核をめがけてノータイムの『ソーラービーム』が放たれた。
「めるるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
超質量の熱光線が、カイロスをまるごと焼き尽くす。
この攻撃を二度も耐えることは、最早不可能。
勝負は決着……












 ……していなかった。
「ぎゃ……がぎゃぎゃッ!!」
「お……落とせてないッ!!?」
なんとカイロスは、『ソーラービーム』の一撃を耐えていたのだ。

「(危ないッ……『リベンジ』で攻撃の一部を反射させたおかげで、なんとか耐えたザマスッ……!!)」
「(う……嘘だろぉーーーーーーーッ!!?)」
間もなく、パピモッチの灯した太陽も陰り、日差しが終わりを告げる。


 ……出せる手は全て出し尽くした。
が……それでも、届かなかった。
[境界解崩ファイル]
☆荒サブ嵐ノ巨鎧神(ブロウメイル・クレッシェンド)
☆タイプ:ひこう
☆カテゴリー:S
☆使用者:ウィッグ・イヤーズ
☆効果:旋風を鎧のように纏い、巨人のような概形を形成する。圧倒的な気圧に阻まれるため、本体に攻撃を当てるには捨て身でこの風に飛び込むしか無い。この巨人の領域内の気圧は中心のポケモンの随意で変動させることが出来る。

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