【第026話】投げ捨てる命綱 / チハヤ(果たし合い vsウィッグ)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

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・3on3のシングルバトル。学生のみ交換可。
・特殊介入(メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタル)は計1回まで。
・境界解崩は計2回まで。
・先に手持ちポケモンが3匹戦闘不能になった方の負け。

□対戦相手:ウィッグ
◎コロトック(※『さいきのいのり』による復帰)
✕ベラカス
・???

□学生:チハヤ
◎シキジカ
✕パピモッチ(Used.X)
✕パモ

※備考……現在、境界解崩「無衰ノ共鳴」が展開中。一度発生した音は減衰することなく、半永久的に反射し続ける。
 ーーーーーどれだけ愛されても。
どれだけ親しまれても。
過ぎゆく時間に流され、忘れられる。
その時代の流行としての役割を終えた音波信号は、何処にも残らない。
飛ぶように売れたジャケットも、狂うほど求められたサインも。
最後は燃えるゴミになって終わる。
それがどれほど懸命に作ったものかなんて、世間様うけとりての知ったことじゃない。

 ……そんなもんだ。
自分ら凡人の創作物おんがくなんて、所詮はそんなもんだ。



 ーーーーーGAIA東エリア体育館、2F観客席。
その最前席にて、気だるそうな様子でチハヤとウィッグの試合を眺める者が居た。
チハヤらのクラスメイト、イロハ・クレナイだ。
スマホを片手に背もたれにもたれかかり、ふんぞり返った様子でフィールドを見下ろしている。

「(チッ……ホントはこんな所来たくなかったんだが。ペチュニアの奴にデータ取ってこいって言われたからな……。)」
彼女の様子を見るに、かなり不本意なようだ。
近寄りがたいオーラを周囲に撒き散らしている影響か、彼女の周囲には誰一人として人が座っていない。
実際、彼女の表情や高身長も相まって、その人払いの効力は凄まじいものとなっていた。

 ……最も、ある者には効かなかったようだが。
「いっけなーい、遅刻遅刻ーーーーーー☆」
「(………は?)」
一昔前の少女漫画のような台詞を口にしながらどたどたと客席へ入ってきたのは、ニット帽とジャージを着用した女子生徒。
そう……黄昏トワイライトである。

 彼女は周囲を見渡して空席を見つけると、イロハの隣へと駆け寄ってくる。
「ねーねー、お隣座って良い?良いよね?やったー☆」
「は?ちょ……」
イロハの返事を待たぬまま、黄昏トワイライトは勝手に席を陣取る。
「(コイツ……会話を自己完結させやがった……。)」
呆れかえるイロハを他所に荷物を置いてフィールドの様子を伺う黄昏トワイライト
かと思ったら、おもむろにイロハの方を向いてずいと迫ってくる。

「えへへ、ねーねーそこの赤いおねーさーん☆今、バトルはどんな感じ?」
「(うわ、うぜぇ……)」
非常に面倒そうな様子ではあるが、無視を決め込んでも却って煩くなるだけだ……と彼女は察する。
諦めたイロハは、黄昏トワイライトとの会話を試みることにした。

「……今、学生チャレンジャーの方が2匹殺られて特殊介入も使い切った。んで、試験官センコーの方がベラカスで『さいきのいのり』を使ったから、残り2匹。状況は1対2だな。」
「うわー、ウィッグせんせー大人げなーい☆ぶーぶー!」
黄昏トワイライトはそう言って頬を膨らませつつ、親指を下げる仕草を見せる。
真剣勝負である以上、大人げないもへったくれもあったものではないのだが……

「……っつーか、この境界解崩ボーダーブレイクなんとかなんねぇのか。領域外には届いてないとは言え、振動が激しくて叶わねぇ。」
「だよねだよねー☆ウィッグせんせーのこの技、なんかすっごい汚いんだもん!」
「(汚い……?まぁ、確かに見栄えは良くねぇが……。)」
独特の表現をする黄昏トワイライト
「知ってる?コロトックって、すっごく綺麗な音を出せるんだよ。こんなぐっちゃぐちゃにしたら勿体ないのになぁ……」
どうやら彼女は、ウィッグの《無衰ノ共鳴リゾナンサ・イナヴスタヴィラ》のことをあまり気に入ってないようだ。

「……っつーか、中にいるウィッグアイツは大丈夫なのかよ。こんな爆音、生で聞いたら耳が逝くだろ。」
イロハの疑問は、至極最もであった。
現在、フィールド内の騒音は数値にして1000dB。
電車が線路を走る時に発生する騒音の、実に10倍……常人の耳に流したら、間違いなく聴覚ごとお釈迦になる音量だ。
ヘッドセットをしているチハヤはともかく、何も装備のないウィッグに耐えられるものではない。

「んー、大丈夫だと思うよー?」
「どーいうことだ。」

「だってせんせー、もう耳聞こえてないもん。」
「………え?」



 ーーーーー倒したはずのコロトックがボールから再登場し、困惑するチハヤ。
「(なっ……コロトックの戦線復帰だとーーーーーーッ!!?)」
ベラカスが散り際に残した『さいきのいのり』が、更なる延長戦へと突入させたのである。
これでウィッグの残りポケモンは2匹……対してチハヤのポケモンは、むしタイプに不利なシキジカのみ。
更にウィッグにはまだ境界解崩ボーダーブレイク1回と特殊介入1回の使用権が残っている。
状況は、まさに絶望そのものといって差し支えないだろう。

「これはマズい……チハヤがここから勝つのは無茶だ……!!」
「そ……そんな……!」
追い詰められたこの状況に、シラヌイもシグレも肩を落とす。
当然だ。
こんな状況で勝てると思う方がどうかしている。
……が、それでも。
テイルだけは一切表情を動かさない。
ただ淡々と、目の前で戦うチハヤを見つめていたのである。
「………。」

「(もはや奴は虫の息ッ……ここで決めるザマスッ!コロトックッ!!)」
「きるるるーーーーーーっ!!」
相手に脅威はないと判じたのか、コロトックは左腕にて『いやなおと』、右腕にて『シザークロス』を装填しながらシキジカに飛びかかってくる。
吹きすさぶ雑音の嵐の中、もうチハヤの言葉はシキジカには届かない。
この現場対応は、シキジカ本人に任されることとなった。
「(落ち着けシキジカッ……正面から向かってくる相手には……!!)」
チハヤがそう祈った時。
「めるるーーーーーッ!」
シキジカは天高く跳び、コロトックを超えるようにして反対側へと回り込む。
「(そう……ジャンプッ!それがお前の特技……活かして正解だぞーーーーッ!!)」

 だが、この程度の切り返しは相手も想定済みだ。
すかさず軽い踏み込みでUターンを決め、すぐに着地間際のシキジカを狙って斬りつけて来ようとする。
しかしここで一度宙を舞ったシキジカは、着地までのタイムラグを生かしてトレーナーの方に目配せをする。
彼の目には、必死に口を動かすチハヤの顔が映っていた。

『 う け と め ろ 』
音声が使えない中では、複雑な指示はできない。
最小限の口パクで、シキジカへと伝言をするチハヤ。
その言葉の解釈は、全て現場のポケモンへと任せられた。

 着地を決めたシキジカをめがけて、『シザークロス』の攻撃がクリティカルにヒットする。
「きるるるーーーーッ!!」
「めるるっ……!」
が……それと同時に。
コロトックの腕はシキジカを攻撃した瞬間、動きが急に鈍くなる。
そして直後には……

 なんとコロトックの身体が、ツル植物に巻き取られたのである。
着地間際に置き土産で残した『やどりぎのタネ』が付着し、芽を出したのであった。
カウンタートラップを踏んだコロトックは身動きが取れなくなり、その場で転がるしかなくなる。
その隙を、チハヤらは見逃さない。

『 ぶ っ と ば せ 』
「めるるるっ!!」
口の動きを確認したシキジカは『ずつき』を選択。
突き上げるようなヘッドショットをコロトックにぶち当て、天高く放り投げるような形で突き飛ばす。
近くの壁まで飛ばされたコロトックは、背中側からダメージを喰らう。

『 も う い ち ど 』
そのまま怯んだコロトックをめがけて、再度突っ込んでいくシキジカ。
好機とばかりに、ここで畳み掛けるつもりのようだ。

 ……が、しかし。
「きるるるるっ!!」
「(なっ……アイツ、自力で拘束を解きやがったッ……!?)」
なんとコロトックは『やどりぎのタネ』を自ら振りほどき、そのまま立ち上がったのだ。

「そんな……やどりぎの効力が、あんなに弱いはずがないのに……!?」
「恐らくは腹部の振動だ。音を自在に操って、あの拘束を解いた……この空間内でコロトックへの拘束は、長くは持たないッ……!!」
そう……コロトックは音を自在に操るポケモン。
ベラカス同様、この特殊な空間内では相対的な強化が施される。
小手先の変化技は、通じにくくなっているのだ。

 更に突っ込んでくるシキジカに、真正面から縦方向の打撃を与えるコロトック。
急に止まれない相手に、痛烈なカウンターを刺したのだ。
1発……其の攻撃に怯んだら更にもう1発……状況は一気に逆転した。
「(まずいッ……此方が劣勢じゃねぇか……!!)」
「(これ以上好き勝手にはさせないッ……『ねばねばネット』で動きを止めるザマスッ!!)」
「きるるるーーーーーーっ!!」
コロトックは粘性の糸を吐き出し、シキジカを拘束し返す。

 狙われたのは脚……膝より下を地面に固定し、ノックバックすら許さないタコ殴りの準備を整える。
「めるるっ………!」
シキジカは足元に張り付いた糸を振りほどこうとする。
……が、びくともしない。
素のパワーがそこまで高い訳では無いシキジカにこの拘束を振りほどくことは、至難の技である。
「(駄目だシキジカッ……ここは一旦落ち着いて技を出さないと………!!)」
藻掛けど藻掛けど、状況が良くなることは一向に無い。
チハヤはシキジカに、懸命に指示を送る。
「(マズいッ……シキジカが冷静さを失ってやがるッ………俺の指示に気づいてねぇッ……!!)」
先ほどからチハヤが何度も口パクで指示を送っているが……今のシキジカには、『後ろを振り返る』という単純なことをする余裕すらない。

「(これでシキジカは動けないッ……終わりザマスッ!!)」
「きるるーーーーーッ!!」
コロトックはトドメを刺さんと、両腕を大きく振り上げる。

「マズいッ……シキジカがッ……!!」
万事休す……最後の一撃が、シキジカに襲いかかる………!!













 コツン……













 ……と、フィールドの横を、何かが転がる。
ちょうどシキジカの目の前に着地する形で投げ出されたソレは………

「へ……ヘッドセット!?」
そう、ヘッドセット。
チハヤが首に下げていたソレが、フィールドに投げ出されたのだ。
「めるっ……!?」
何事か……と振り向いたシキジカ。
其の目線の先には……

『 く さ わ け 』

 と……口パクをするチハヤの顔があった。
「め……めるるるるるっ!!」
その伝言を読み取ったシキジカは、後ろ足を思い切り蹴り上げる。
草木を掻き分ける勢いの後ろ蹴りは、足元の糸を振りほどき……

 そして彼自身の身体を、天高く押し上げた。
正面から斬り伏せてきた『シザークロス』の一撃は、空を切って地面に着地する。
「(なっ……!?)」
シキジカはコロトックの上を取る。
そしてそのまま、重力の落下に従い『くさわけ』を食らわせ返した。

「めるるーーーーーッ!」
「きるっ!?」
コロトックの急所……裏首筋をめがけて、強烈な後ろ蹴りが2発叩き込まれる。
更に地に伏せたコロトックを踏みつける形で、ダメ押しの一撃が炸裂する。
返しの大ダメージが入り、相手はノックアウト。

「き……る………。」
こうして再度、コロトックは戦闘不能となったのである。
ウィッグのポケモンは残り1匹……なんとか踏みとどまったのである。

「よしっ……これで残りは1体ッ……!!」
「っ……で、でも……ッ!!」
そう……致命的な問題があった。

「(やっべぇ……耳が……くそ痛ぇええええええええええええええええええッ!!)」
そう……この環境下でヘッドセットを外すことは自殺行為。
爆音がダイレクトに、チハヤの耳を襲うのである。
まさに捨て身の反撃……彼の耳の安寧を差し出しての一撃だったのだ。
フードを被り、ぎゅっと押さえつけ、必死に耐える。

「(ふん……馬鹿ザマス。これでは長くは持たないザマス。)」
そうしてウィッグはコロトックを戻し、次のボールを構える。
「(……さっさと終わらせるザマスッ!)」
投げ出されたボールの中から飛び出てきたのは……

「がぎゃぎゃぎゃっ!!」
「(か……カイロスッ!!)」
くわがたポケモンのカイロスだ。
むしポケモンの中でもトップクラスの攻撃力と防御力を併せ持つ、戦闘特化の強力なポケモンだ。

「(カイロス……!ま……まさか………!!)」
チハヤが目を凝らした其の瞬間……なんとウィッグは、解崩器ブレイカーを取り出したのである。

「(さて、ラストスパートッ!!カイロス、メガシンカザマスッ!!)」
「がぎゃぎゃーーーーーーーーーーーーッ!!」
カイロスの全身が、虹色の卵殻のようなものに包まれる。
やがて卵殻は弾け、中からは翅が生えて機巧化したカイロス……メガカイロスが姿を表したのだった。
「(メガシンカッ……ここでかッ……!)」
ただでさえ強力なポケモンが真の力を開放し、フル装備の状態で襲いかかろうとする。


 ……が、これだけにとどまらない。
ウィッグは更に解崩器ブレイカーを起動し、天高く構える。
「(つ、続けて……!?ま、まさか………!!)」

『 Type - Flying / Category - Status 』

「Equipaggiare il turbine(旋風を纏え)………《荒 サ ブ 嵐 ノ 巨 鎧 神 ブロウメイル・クレッシェンド》ッ!!!!」

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