31話 第3試合

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年8月7日改稿

今回、かなり独自の解釈が多いです。
「アイト君、頑張ってです!」
「おう!」
「ザントさんは手強いから油断するなよー」
「わかってるって!」
「お腹にパンチされないように気を付けてねー」
「バチュチュ~!」
「お、おう。どうにもならなさそうだが気を付けるわ」

ハルキ達の声援に軽く答えながら、アイトはバトルフィールドにいるザントに視線を向けた。
アイトが知っているザントが戦闘していた場面は、始めて会ったアリアドス戦の時しかないが、ハルキの事で頭がいっぱいだったので、正直、ザントが何をしていたのか、あんまり覚えていない。
ハルキ曰く、オコリザルのアングって名前のお尋ね者と戦闘した際は、ハルキと会話しながら攻撃を受けきっていたようなので相当な実力者だと思ってよいだろう。
アイトも人間時代、運動神経が良いのを活かして、色んな部活の助っ人として、他校の強い奴と何度か勝負したことはあったが、その分野で特筆して上手い奴らには全く歯が立たなかった。
おそらくザントもそういった奴らと同じと考えていいだろう。
しかし、だからといって、簡単に負けてやるつもりもない。
アイトは不適な笑みを浮かべながら、バトルフィールドの中央で待つ、ザントの前まで来た。

「へっ! いい面構えじゃねぇか! こいつは楽しめそうだな」
「そりゃあどうも。 言っておきますけど、俺だって、ただで負けるつもりはないですよ!」
「そうこなくちゃな!」
「それでは試合を始めてください」

サラの号令と共にアイトは大きく後ろに下がりザントから距離をとった。

「初手から距離をとるか。 悪くない選択だ」
「あいにく、腹パンは勘弁してほしいんでね」

アイトの表情は笑ってこそいるが、内心ではどうすればいいかと脳をフル回転させていた。
相手はサンドパンのザント。
どう見ても接近戦が得意な種族のポケモンな上、本人も前に接近戦が得意と言っていた。
わざわざ相手が得意な土俵に上がる必要はない。
しかし、接近戦が得意なら当然、距離をとられる事を想定した対策もしているはず。
なら、ザントの性格的に次にする行動は――

「まあ、やっぱりそうだよな」

アイトが下がるのに反応して、ザントが躊躇わずに突っ込んできた。

「何を考えてるか知らねぇが、俺は距離をとられたら、すぐに埋め直せばいいって考えでねッ!」

アイトは『ひのこ』を使いながら直線的ではなく、半円を描くように下がる事で逃げ場が無くならないように距離を保とうとしたが、ザントのスピードは早く、牽制目的の『ひのこ』を『きりさく』で弾きながら接近してくる。

「ッ! このままじゃジリ貧だな。 こうなったらアレを試してみるか!」

アイトは逃げるのを止めて、その場で横に回転しながら炎を纏い、ザントが接近してくる方向に向かって『かえんぐるま』を使った。
狙いがつけにくい技でも向こうから接近してきてくれるのならば、細かく狙いをつける必要はない。
アイトの読み通り、ザントは気にせず『かえんぐるま』状態のアイトに『ブレイククロー』で対抗した。

「あっっつ! やっぱ、素手で炎は触るもんじゃねぇな」
「うえっ。 気持ちわりぃ……」

ザントが炎に怯んだ所を攻撃できたら良かったのだが、アイトは目を回していてそれどころじゃなかった。

「なんだ? 自分の技で目、回してんのか? 面白いやつだなー、ハハハ!」

何とかめまいを落ち着かせたアイトは、『かえんぐるま』はいざという時以外は使わない方がいいと心に刻んだ。

「さあ! 続きといこうか! 言っとくが今度は目が回っていようが待たないからな!」
「お気遣いどうもッ!」

アイトのめまいが落ち着くのを待っていてくれたザントは、アイトが大丈夫だと確認すると、再び接近するべく動き出した。

「今度は逃がさねぇぞ!」

ザントは地面に拳を叩きつけ、相手に向かって地面から尖った岩を次々に出現させる技、『ストーンエッジ』を繰り出した。

「うわっ! そんな間接的な攻撃ありか!?」

アイトは慌てて突き出る岩を避けるが、その岩影に隠れてザントが接近し、アイトの背後から『シャドークロー』による強烈な一撃をくらわせた。

「ぐあっ!」
「悪いが容赦はしねぇからな! 『がんせきふうじ』!」

ザントは『ストーンエッジ』によって突き出た岩を叩き割ると、倒れているアイト目掛けて大量に投石した。
バトルフィールドは激しい砂煙で覆われ、アイトは『がんせきふうじ』の技名通り、大量の岩の中に封じ込まれてしまった。

「いってぇー。 これ、人間だったら確実に死んでるぞ……」
「やるじゃねぇか!」

岩をかき分けてなんとか這い出てきたアイトに、ザントはすかさず『すなあらし』を放った。

「ハハッ……。 本当に容赦ねぇな。 岩の次は砂嵐の中に閉じ込められるのかよ。 クソッ、この視界の悪さじゃ、ザントがどこにいるかわかんねぇ。 だけど、それは向こうも同じはずだ」
「そいつはどうかなッ!」
「ぐあっ!」

何処からともなく現れたザントがアイトに『きりさく』を放った。
アイトは攻撃を受けた方向を見るが、ザントはすでにそこにはいなかった。

「こっちだ!」
「うあっ!」

今度は別方向から切り付けられたアイト。
視界が悪い砂嵐の中で何故こちらの位置が正確に分かるのか疑問に思っていると、ザントがその疑問に答えてくれた。

「視界が悪いのは同じとでも思っていたのかも知れねぇが、あいにく俺は種族的に『すなあらし』の吹き荒れるフィールドこそ本領が発揮できるフィールドだ。 お前からしたら何も見えなくても、俺からしたらばっちり見えるんだわ!」
「ッ!」

今度は正面からアイトのお腹にパンチを入れたザント。

「そうっ……っすか。 ご丁寧に説明、あざっす。 でも、これで……捕まえたぁッ!」
「なっ!」

言葉を途切れさせながらも、アイトはザントのパンチを受け止めていた。
そのまま、両手でザントの腕を強く掴み、不敵に笑うと至近距離で『かえんほうしゃ』を放った。

「くッ、……やるじゃねぇか」
「今ので倒れてくれたほうが、俺としては嬉しかったんですがね」
「正直、今のは効いたがまだ俺は倒れねぇよ」
「へへっ、やっぱそうですよね」

まだまだ余裕な表情のザントに苦笑いを浮かべるアイト。
視界も少し霞んできたし、体力的にもおそらく次が最後の攻撃になるだろう。

(視界も少し霞んできたし、体力的にもおそらく次が最後の攻撃だ。 それに、この熱さ……。 おそらくヒコザルの特性である[もうか]が発動している。 俺に対してダメージは無いんだろうけど、思ったよりも熱い)

[もうか]が発動している状態で威力が上昇した炎タイプの技を当てる事が出来れば形勢逆転できるかもしれない。
だが、そんな事はザントも気づいているだろう。。
リスクを考慮して、離れた位置からの『かえんほうしゃ』では簡単に避けられてしまうのは明白、なら、リスクを承知の上で接近する必要がある。
だが、当然それも読まれているので妨害されるだろう。

(せめて、この[もうか]で無駄に溢れている炎を違うことに使えたらな……)

そんな事を考えていると、ふと昨日、マジカルズが言っていたある言葉を思い出した。

(「あー、さっきも言ったが電気で剣を作るぐらいなら魔法なんか使わなくても出来るようになっちまうんだよ」)
(「僕達、ポケモンは技を出す事なんて、息をするのと同じように当たり前に出来る事なので、コツさえ覚えてしまえば魔法なんかに頼らずとも、電気の剣みたいなのは作れちゃうんですよ」)

技を使うのは息をするのと同じ……。
アイトは人間時代、『ひのこ』や『かえんぐるま』なんて芸当は出来なかったし、やろうと考えたことすらなかった。
しかし、この世界でヒコザルと言うポケモンに姿を変えてからは意識せずとも、自然とそれが出来るとわかっていた。
なら、今、発動している特性の[もうか]はどうだろうか。
[もうか]によって尻から出る炎の量はいつもの数倍は出ている。
しかし、意識してやっているわけではなく、無意識に自然と出来ている事だ。
ならば、無意識的にできている事に意識を向けてやってみればどうなるだろうか?
もし、陸上選手が走るフォームに意識を向ければ、よりフォームは効率的なものになり、結果として走るのが早くなるかもしれない。
もし、歌手が呼吸方法に意識を向けて歌うようになれば、腹式呼吸などによって喉の負担を軽減する事に成功し、結果として大きな声で歌えるようになるかもしれない。
なら、ポケモンにそれを置き換えるとどうなるだろう?
それは、技を使う事、特性を使う事、これらに意識を向けることだろう。
技に関しては、マジカルズが言っていた事や第2試合でヒカリが見せた『エレキネット』のように意識的に変化させることができる事は既にわかっている。
ならば、特性も意識的に変化させることは十分に可能なはず。
そう結論付けたアイトは、[もうか]による炎をコントロールするため、目を閉じてイメージした。

――――――――――――――――――――

ザントは『かえんほうしゃ』によって受けたダメージとアイトが出す、ひときわ大きな炎を見て、ヒコザルの特性[もうか]が発動していると確信した。
おそらく、アイトの体力的に次の攻撃が最後となる。
当然、その最後の攻撃で勝ちを狙いにくるだろう。

「さて、どうくる?」

油断なく、アイトの様子を見ているザント。
すると、アイトは大きく深呼吸をすると、目を閉じた。
一体何をするつもりなのかと見ていると、だんだんアイトから放出される炎の勢いが弱まっていき、やがて消えた。

「なんだ? 自分から[もうか]を抑え込んでいるのか?」

この状況で[もうか]を抑える事にアイト側からしたらメリットは無い筈。
そもそも、自分の特性を自分で抑えるポケモンなんて今まで見たことなかったザントは、何か面白い事を企んでいるアイトに思わず笑みを浮かべた。

――――――――――――――――――――

(……熱い! めっちゃくちゃ熱い! マジでなんなんだこの炎!!)

アイトは自分の炎に若干怒りをぶつけながらも、[もうか]による炎を抑える事に成功した。
のだが、[もうか]による炎は相当な熱量のようで、意識的に炎を抑えた結果、高熱を出した時のように体がものすごく熱くなった。
どうやら炎が溢れ出ていたのは、体内にこの熱を溜め込まないようにするためのようだ。
生物としての本能なのか、ピンチになると自分でも熱いと感じるほどの熱量を持った炎を出すようになるのだから、ポケモンの体は思っている以上に不思議だ。
『ひのこ』や『かえんほうしゃ』、それに『かえんぐるま』といった技は何故、使う側がやけどしないのか?
きっと人間の常識や理屈と照らし合わせたところでわかることではない話なのだろう。
だからこそ、アイトの予想通りなら、この[もうか]を使ってある事が出来るはずだ。
体の中に抑えた熱量を違う形で体外に放出する。 そんな方法が。

(……そうだ。 ただ、放出されていただけのエネルギーを今度は体全体に行き渡らせるイメージで。 集中しろ。 きっとできるはずだ)

――カチッ

目を閉じたアイトの頭のなかで何かがはまったような気がした。
その瞬間、アイトの体から炎が湧き上がった。

挿絵画像


先ほどとは違い、炎は尻からだけではなく、腕や膝からも燃え上がっていた。
これには試合を観戦しているポケモン達も少しざわついたが、アイトにそれを気にかけている余裕はなかった。

「それがお前のとっておきってわけか」
「とっておきというか、思いつきでやったら出来ただけ……ですがねッ!」

アイトは力強く地面を蹴ると、ザントに向かって一気に接近した。
その速度はすさまじく、ザントは咄嗟に『ストーンエッジ』を使い、自分の目の前に壁を作った。
アイトはせり上がってくる岩を『かえんほうしゃ』で破壊し、炎を纏った拳で殴りかかる技『ほのおのパンチ』を繰り出した。

「もらったあああ!」
「あめぇ!」

ザントは壊されることも読んでいたようで、連続で『ストーンエッジ』を発動していたようでアイトの目の前に再び岩が迫っていった。
アイトは速度を緩めることなく、岩に炎を纏った右拳を叩きつけた。

「うおおおおおお!」

そのまま、迫りくる岩を次々に破壊しながら突き進み、最後の岩を破壊し、ザントに『ほのおのパンチ』を繰り出すが、ザントは腕をX状に構え、『まもる』の体勢でその攻撃を受け止めた。

「ハハハ……。 マジかよ。 ……まいった。 俺の降参だ」

アイトは全身から力が抜けたようにその場に尻餅をついて降参をした。

――――――――――――――――――――

「おつかれ、アイト」
「あぁ、ハルキ。 ありがとう。 やっぱ勝てなかったわ」
「結果として、勝てなくてもいい試合だったよー」
「そうです! アイト君かっこよかったです!!」
「バチュチュ!」
「ハハハ、みんなありがとうな」

ベッドの上で仰向けになった状態のアイトはハルキ達に向かって力なく笑いかけた。
試合終了後、ザントは他のポケモン達と同様、オボンの実を貰ってベンチに戻ったが、アイトは無理した特性の使い方をしたという事で、念のため医療班が用意したベッドの上で横になって休んでいる。

「大きな外傷もないし、体力を消耗しているだけね。 このまま少し横になっていればそのうち動けるようになるわ」
「ありがとうございます」
「お礼なんていらないわよ。 これが医療班である私達の仕事なんだから」

診察してくれたタブンネのアイネは笑いながらそう言った。

「そうだよ。 私達がこの子の体調を見ておくから、君達は試合観戦に戻っていいよ。 それに次はハルキ君の出番でしょ?」
「……わかりました。アイトを頼みます」

アイネと一緒に看病をしてくれるプクリンのカリンにお辞儀をすると、ハルキはバトルフィールドに目を向けた。

「頑張ってねー、ハルキ~」
「ハルキ君、頑張ってください! わたし達もベンチから応援するです!」
「バッチュッチュッ~!」
「ありがとう」

手を振りながら対戦を終えたヒカリ達はベンチに戻っていった。

「ハルキ。 俺もここからお前の試合見ているから、頑張れよ!」
「うん。 アイトにあんな試合見せられたんだ。 僕も相手が誰であれ、最後まで諦めないで頑張ってみるよ!」
「ヘヘッ、そうこなくちゃな!」

アイトはニッと笑うと仰向けのまま手のひらを広げた状態で右手を差し出し、ハルキはそこに自分の右手を合わせるようにぶつけた。

――パンッ!!

いつも通りの音が鳴り、アイトとハイタッチを済ませたハルキは、真剣な表情でバトルフィールドへと歩いて行った。
はい。画力が足りなくて上手く表現できませんでしたがあんな感じです(笑)
簡単に解説しますと、本来は外部に1点集中して放出するエネルギーを全身に巡らせたため、急激にアイト君のスピードや身体能力が向上したと思ってもらえればOKです!

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