32話 第4試合

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年8月8日改稿
「それでは第4試合。 ハルキさんと――」
「サラ、俺が行く。 異論は認めん」
「え!? ちょっ、団長! ……はぁ、仕方ないですね」

有無を言わさずにバトルフィールドに出て行ってしまったカリムにサラはため息をついた。

――――――――――――――――――――

「それでは第4試合。 ハルキさんとギルド団長のカリム。 バトルフィールドにお願いします」
「ええ!? 僕の相手ってカリム団長なんですか?」
「最近、書類整理や話し合いだので体を動かしてなくてなー。 すっかりなまっちまっているから、サラに頼んでいれてもらった」

頼んだというよりかは強引に入った感じだが、そんな事をハルキは知る由もないので思わぬ対戦相手に生唾を飲み込んだ。

「というわけで、お前の力見せてくれよ」
「ぜ、善処します」
「それでは始めてください」

サラの試合開始の合図を聞いた瞬間、ハルキは『こうそくいどう』で加速しながら距離を縮め、右手で『きあいパンチ』を繰り出した。
その攻撃をカリムは両腕をクロスさせて『まもる』の体勢で受け止める。

「先手必勝とはやるじゃねぇか」
「ッ! まだですよ!」

『きあいパンチ』を防がれたハルキは、そのまま無数の泡を高速で相手にぶつける技『バブルこうせん』を放つが、カリムの『まもる』を崩すことはできず、カリムに距離を取られてしまった。
もう一度、『こうそくいどう』で距離を詰めようと走り出したハルキに、カリムは『りゅうのいぶき』を放つ。
ハルキは大きく前にジャンプをすることで『りゅうのいぶき』を回避したが、空中に回避する事を読んでいたカリムは既に右手で『ドラゴンクロー』を放ってきた。
ハルキは咄嗟に左手で攻撃を受け流し、右手でカリムに思いきり反撃の技『カウンター』を放った。
カリムは少し驚いた表情をしたが、左手で『カウンター』をガードし、無防備に当たるのだけは避けた。

「っ! 危なかったー」
「ハァ、ハァ……。 今の攻撃でも崩せませんか」

地面に着地して、お互いに一定の距離を保った状態で向き合うハルキとカリム。
先ほどの攻防でハルキは息が多少上がっているが、カリムはまだ余力を残しているようであった。

「最初の『きあいパンチ』にも驚いたが、まさか『カウンター』まで使ってくるとはな。 ここまで接近戦に特化したポッチャマを見るのは初めてだ」
「僕も自覚はありますよ」
「ハハッ! 面白い奴だな。 なら、次はこっちから仕掛けるぞ」

カリムは『かげぶんしん』を繰り出し、複数の分身と共にハルキを円形状に包囲した。

「さあ、どうする?」
「こうします!」

ハルキはその場で回転しながら『あわ』を繰り出し、自分の周囲を『あわ』で満たした。

「『あわ』か。 威力や速度は良くないが攻撃範囲に優れている技を自分の周囲に使うことで防御に使うか。 悪くない手だが、守っているだけでは俺には勝てないぞ!」
「守っているだけじゃ、ないですよ!」

カリムが分身に紛れて攻撃を仕掛けようと動いた瞬間、明らかに『あわ』よりも弾速が速い攻撃『バブルこうせん』が『あわ』に紛れて本物がいる位置だけに向かってきた。

「何ッ!? くっ!」

まさか、本体がいる位置がすでに見破られているとは思わなかったカリムはその攻撃をまともにうけた。
カリムが『バブルこうせん』に怯んでいる間にハルキは接近し、『きあいパンチ』で追撃するが、カリムの『まもる』にまた防がれてしまった。
だが、もう一度、『まもる』で防ぐことを読んでいたハルキは後方にバク宙をしながら『バブルこうせん』を放ち、砂埃を巻き起こした。
『まもる』によって、カリムには大したダメージにはなっていないだろうが、ハルキの狙いは砂埃でカリムの視界を塞ぐこと。

(これで、カリム団長から僕は見えない。 そして『まもる』は連続では発動できない。 その隙を突く!)

ハルキは着地すると同時に体に水を纏う技『アクアジェット』を使い、カリムに突撃する。
しかし、砂埃で視界が悪くても、カリムはハルキが攻撃を仕掛けてくる方向がわかっていたようで、突撃するハルキ目掛けて迷わず『ドラゴンクロー』を振り下ろしてきた。
ハルキはそれを見て、すかさず右手の『きあいパンチ』で対抗する。
ハルキの拳とカリムの爪がぶつかり合う。
『アクアジェット』の加速力もあり、技同士のぶつかり合いはハルキに軍配があがったが、カリムは『きあいパンチ』を受けたことで体勢を崩しながらも、すぐに『りゅうのいぶき』で反撃をした。

「うわあっ!」

『りゅうのいぶき』が直撃したハルキの悲鳴が上がる。
本来ならば、ここで技の勢いに押されて後退させられる状況だが、ハルキは距離を取られたくなかったので『アクアジェット』継続して発動する事によって、その場に踏みとどまった。
しかし、いくら『アクアジェット』の水流に身を包んでいても、このまま継続的に『りゅうのいぶき』を受けていると、いずれは限界がきてポッチャマという軽い体のハルキは簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。
だからこそ、ここでハルキがとるべき選択肢は1つしかなかった。

「前に……でるッ!!」

身に纏った『アクアジェット』の水流を強め、『りゅうのいぶき』の中を真っ向から強引に突っ切った。
素直に後退すると思っていたカリムに、この行動は予想外だったようで、少し動揺が走った。
その動揺をハルキは見逃さず、右手でパンチを繰り出すが、カリムの反応も早く、咄嗟にその攻撃を右手で受け止められてしまう。
だが、ハルキは攻撃を止められたのに口元を緩めて小さく笑った。
そう。 不意の攻撃に対する反応がどんなに早くても、咄嗟に動くのは日常的に使いなれている利き腕。
ここまでの攻防でカリムは右腕を使った攻撃を主軸にしてきた。
力を込めるにしても手加減するにしても、それは慣れている利き腕のが断然しやすい。
ハルキはその事にいち早く気づき、そこからずっと自分も同じように利き腕である右手で攻撃を繰り出すようにした。
その結果、カリムは無意識のうちにハルキの右手のパンチを強く警戒するようになっている。
無意識の警戒、それは警戒対象の攻撃を防いだ瞬間にわずかに警戒を緩めることに繋がる。そして今、カリムはハルキの右手による攻撃を防いだ。

「『きあいパンチ』!!」
「がはっ」

ハルキは本命の左手による『きあいパンチ』をカリムの腹部に命中させ、カリムの口から小さな悲鳴が漏れた。

「ッ! こんのおおおおッ!」

本命の攻撃が命中した事で油断しきっていたハルキの右手をカリムは掴んで、思いきりぶん投げた。

「うわああっ!」

ハルキのポッチャマとしての体はいとも簡単に投げ飛ばされ、そのまま重力にしたがって背中から地面に叩きつけられた。
なんとか立ち上がろうとした瞬間、ハルキの首筋に冷たい感触が伝わってきて、視線を上に向けると、ハルキの首筋に爪を突きつけているカリムの姿があった。

「ま、参りました……」
「はい! そこまでです」

両手をあげて降参の意思を示すと、すぐにサラが試合終了の号令をかけ、カリムは首筋から爪をどかすと、かわりにハルキに向けて手を差し出した。
ハルキは戸惑いながらも差し出された手をとると、そのまま勢いよく掴み起こされた。

「あ、ありがとうございます」
「俺に『まもる』を継続させつつ、視界を潰す『バブルこうせん』。 さらに『アクアジェット』の推進力を生かした『きあいパンチ』。 ……っと、そこまでは読めていたんだが、まさか俺の攻撃を強引に突破してきたあげく、その勢いで振りかざしてきた右手がブラフで左手が本命だったとはなぁ~。 やるじゃないか新人さんよ!」
「偶然、作戦が上手くはまっただけですよ」
「ヘッ、よく言うぜ。 ったく、ザントとリルもとんでもない奴ら連れてきたもんだ」

清々しく笑いながら歩き出したカリムの後を追うようにハルキはバトルフィールドを後にした。

――――――――――――――――――――

「ハ・ル・キィ~! お疲れさま~! スッゴくかっこよかったよ~」
「バチュチュ~♪」

オボンの実を受け取った瞬間、ヒカリが全力疾走して抱きついてきた。
なんとか倒れないよう踏ん張れたが、抱き着いてきた勢いでヒカリの頭に乗っていたバチュルがハルキの顔面にダイブしてきて視界がふさがれてしまった。

「うわっ! えっ!? ちょッ、どうしたの!?」
「エヘヘ~」

なんとか顔に張り付いたバチュルを頭の方にどけ、突然の事に顔を赤くしながら、しどろもどろになっていると、ヒビキがゆっくり歩いてきた。

「ハルキくん。 お疲れさまです!」
「ありがとう、ヒビキ。 ……その、ヒカリどうしたの?」
「フフッ。 ハルキくんの事がとっても心配だったんですよ。 ヒカリちゃんってば、ハルキ君の試合見ながらとっても忙しかったんです」

ヒビキが女の子らしく片手を口に当てて、微笑みながら何故こうなったのか説明してくれた。
まず、試合が始まる前に対戦相手がこのギルドの団長だと知ったヒカリは、とっても心配して、あたふたしていたらしい。
そして試合が始まり、ハルキが優勢だと嬉しそうにし、劣勢だとオロオロしてと、そんな事を繰り返す絵にかいたような、一喜一憂をしていたそうだ。
ちなみに、ヒカリの頭に乗っていたバチュルもヒカリの動きを笑顔で真似ていたらしい。
単純にヒカリの素振りが見ていて面白かったのだろう。

「そんで? くっついたまま俺のところに来たと」
「ヒカリちゃんがとっても幸せそうだったので」
「にしてもくっつきすぎじゃねぇか?」
「ま、まあ、僕を心配してくれたみたいだし、無理にほどくのもあれかなーって……」
「エヘヘヘ~」

頭に氷の入った袋をのせて、上半身だけ起こした格好で話を聞いていたアイトはハルキの腕にしがみついているヒカリを呆れた表情で見る。

挿絵画像


「……んまあ、なんにせよお疲れ。 わりと惜しかったと思うぞ」
「ありがとう。 でも、手加減してくれていたと思うどね。 アイトは調子どう?」
「んー、もう少し休めばたぶん動けるかな」
「アイト君、あまり無茶はしないでくださいね」

軽く肩を回しながら体の調子を確かめているアイトにヒビキが心配そうな顔で言った。

「大丈夫、大丈夫! わりと平気だから心配すんな!」
「こういう時って、逆に大丈夫って言われると余計心配になるよねー」
「バチュ。 バチュ」

ヒカリの言葉にバチュルもうんうんと頷いている。
確かに目立った外傷こそないが、頭に氷をのせて、さっきまでベッドで横になっているポケモンに大丈夫と言われてもあんまり説得力はない。

「えー、それじゃあ、何て言えばいいんだよ?」
「言葉なんて無くてもいいです。 ただ、きついのを無理に隠す必要はないんですよ?」
「別に隠してるつもりはないんだけどなー」

これに関しては、アイトだけでなくハルキにも当てはまることであった。
そもそもハルキ達が暮らしていた元の世界――
つまり人間の世界だと、幼い頃からきついと言わせてくれない環境が多いので、無意識のうちに大丈夫と答えてしまうのが癖になってしまっているのだろう。
けど、こちらの世界は知性こそ人と大差ないが、向こうの世界にいた時と違って、ピリピリした空気がほとんどない。
きっと自然溢れる世界で、誰もが何かしらの力を持っているからこそ、誰かを思い、助け合うというのが当たり前になっているのだろう。

「まあ、今回は誰がどう見ても大丈夫じゃないのは一目瞭然だけどね。 だって、ほのおタイプなのに頭に氷のせて冷やしてるぐらいだしさ」

しんみりしそうな空気を変えるべく、ハルキが茶化す口調でアイトにそう言うと、みんな一斉に笑いだした。

「ハハハ、確かにこれで大丈夫って言われても説得力ないわな」
「ほんとだよー。 というかヒコザルが頭に氷の入った袋乗せている時点で変だよー」
「違和感すごいです」
「バチュチュチュー」
「そんなに言うことないだろー。 それなら、頭にバチュルを乗っけてるハルキだって十分おかしいはずだ」
「え、僕に振るの? でも、少なくともアイトの頭の上にバチュルが乗るよりはおかしくないと思うよ」

ハルキの言葉にヒコザルの頭にバチュルが乗った光景を一斉に思い浮かべた。

「なんか、バランス崩して、バチュルが落っこちちゃいそうです」
「それになんか暑そうだよねー」
「バチュゥゥ~」
「ほらね?」
「ほらね? ……じゃねぇ! クッソぉ~、なんか負けた気がする!」
「フフッ。 アイト君、それぐらい素直に感情を出しているぐらいがちょうどいいんですよ?」
「わ、わーってるよ!」

ヒビキが小さく笑ったのを見て、顔が赤くなったアイトはそれを誤魔化すように、慌ててそっぽを向いた。

「その、……ぁりがとな」
「え? 何か言いました?」
「ああッ! なんでもねぇよ!」

アイトは照れくさいのを隠すようにベッドに再び横になると、タオルを頭にかけて顔を隠してしまった。
そんな姿にヒビキは「もーう、アイト君ってば」と言って笑っていた。

(素直に本音を言えない部分は僕も同じだからちょっとずつ。 ……ほんの少しずつでいいから素直になっていけたらいいな)

アイトとヒビキのやり取りを見ていたハルキはふとそんな風に思ったのであった。
ポッチャマの常識を無視した接近重視のポッチャマです!!

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