30話 第2試合

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年8月6日改稿
「それでは、第2試合、ヒカリさんとヒースさんお願いします」
「よし! それじゃあ行ってくるね! ハルキ、バチュルをお願い。 バチュルはここでハルキと一緒に私を応援しててねー」
「バチュ!」

ヒカリの頭の上からハルキの頭の上に飛び乗ったバチュル。
どうやら、どのポケモンでも頭の上がいいようである。
バチュルの頭を軽く一撫でした後、ヒカリはバトルフィールドに出て行った。

「チッ、あたしじゃないかー」

ヒカリが立ち去った後、隣からラプラの悔し気な声が聞こえた。

「僕達の出番はたぶんないんじゃないかな」
「あたいとしては、出番ないほうがゆっくりできるから楽でいいけどねー」
「あれ? 対戦相手が誰かって決まってないんですか?」
「ああ。 対戦相手が事前に分かってると対策練る奴もいるかもしれないからな。 というかイオだったら絶対に対策練る」
「うっ。 確かにお姉ちゃんの言うとおり僕なら対策練っちゃいそう」

相手が何のポケモンかわかるだけでも対策のしようがあるため、実力がどれ程か知りたい技能測定においては、対策する時間を与えないよう、考慮してくれているのだろう。

「もしかしたら、俺やリルとも当たるかもしれねぇぞ?」
「そ、それは勘弁願いたいですね。 ハハハ……」

バチュルと出会った森でアリアドスに囲まれた際、ザントとリルがアリアドスを倒した際の光景を思い出し、ハルキは苦笑いを浮かべた。

「……あんな腹にパンチで無双してたバケモンとは戦いたくねぇわな」
「あら? アイト君、何か言ったかしら?」
「いえ! なんも言ってません! それより、今日も天気がいいですねー」

優しく微笑みかけたリルから何か黒い物を感じたアイトは慌てて話を逸らしたのであった。

「あのぉ……アイト君。 そろそろ、この体勢はちょっと……その、恥ずかしい……です.」

アイトに膝枕してもらっていた、ヒビキが顔を赤くしながらアイトにそう言った。

「ああ、ごめん。 ごめん。 これじゃ見にくいもんな」

アイトがヒビキを起こしてあげると、ヒビキは恥ずかしさからなのか顔を真っ赤にしていた。
漫画なら頭から湯気が飛び出てもおかしくない様子だ。

「ん? 顔少し赤いぞ? 熱あるんじゃないか?」
「だ、だだだ、大丈夫です! ご心配なくです! そ、それよりヒカリちゃんはどんな戦い方するのでしょうね?」
「そういえば、ヒカリが戦ってるところって、見たことないからなー」
「で、です」

ヒビキの気持ちに気づかなさそうなアイトをじとっとした目で見ていると、リルがハルキの後ろに来て、小声で耳打ちをした。

「その様子だと、ハルキ君はヒビキちゃんが恥ずかしがっている意味、わかってそうね。 まったく、どうしてこうも鈍感なのかしらね……」
「鈍感というかデリカシーがないというか。 ……ザントさんもあの性格だと、こういう事には鈍そうですよね」
「そうなのよ。 いつも困らせられているわ」
「もしかして、リルさんはザントさんのことが好きなんです?」
「なっ!?」

どこから聞いていたのかヒビキがハルキとリルの会話に入って、いきなり爆弾を投下してきた。
その威力はすさまじく、今度はリルの顔がすごい勢いで真っ赤になった。

「べ、別にそんなんじゃないわよ! あいつとは昔からの腐れ縁ってだけで、ちょっと他のポケモンより贔屓目で見ちゃうっていうか、その……」

リルが観念したようにため息を溢すと、ザントに聞こえないようハルキ達に言った。

「ハァ……。 まだ、黙っててね。 いつか私が直接伝えたい事だから」
「もちろんです! ね? ハルキ君」
「誰にも言いませんから」
「ありがとう」
「おーい。 お前ら試合、見なくていいのか?」
「なに話しているか知らんが、そろそろ始まるぞ」

ハルキ達が3匹さんにんでコソコソ話しているところに、話題の中心であるザントとアイトが声をかけてきた。
まったくハルキ達が何を話していたのか察してすらいない2匹ふたりに、ハルキ達は揃ってため息をついたのであった。

―――――――――――――――――――――――――――――

「私はヒカリ! ピカチュウのヒカリだよ! よろしくー」
「俺はヒースだ。 種族は見ての通りザングースだ。 よろしく頼む」

ヒカリの対戦相手であるザングースのヒースの自己紹介を聞いたところで、サラが試合開始の合図をし、バトルが始まった。

「こちらからいかせてもらうぞ、『きりさく』!」
「ならこっちは『アイアンテール』だ!」

ヒースがヒカリに接近し、『きりさく』を繰り出したので、ヒカリも対抗して『アイアンテール』で迎え撃った。
両者の攻撃はぶつかりあい、均衡状態になったが、すかさずヒースが空いたもう片方の手で2度目の『きりさく』を繰り出し、ヒカリを吹き飛ばした。

「うわあ! ……っそれなら、『10まんボルト』!」
「おっと」

吹き飛ばされながらも、ヒースめがけて攻撃をするヒカリだが、ギリギリ避けられてしまった。
ヒカリはなんとか体勢をたてなおし、再度、接近してくるヒースめがけて『エレキボール』を3、4発連射したがそれもなんなく避けられてしまう。

「『エレキボール』は狙いも定めやすく、連射もできて牽制択としては有用な技だ。 だが、弾速が『10まんボルト』よりも劣っていて、弾道さえ予測できれば回避するのは容易い」
「やっぱり、そうだよねー。 私も始めて使った時、そう思ったからねー。アハハハー」

ヒースの分析を聞いても、緊張感なく笑うヒカリ。

「……余裕だな。 ならこちらも遠慮なくいくぞ。 『でんこうせっか』!」
「さすがに近づかれると戦いにくいなー。 なら、私も『でんこうせっか』だ!」

ヒースが攻撃するために『でんこうせっか』を使ったのに対し、ヒカリは距離をとるために『でんこうせっか』を使用した。
これにはヒースも少し驚いたようで、感心したようにヒカリに言った。

「ずいぶんと面白い使い方をするな。 だが、俺が技を行使し続ければ、いずれお前はバトルフィールドの隅に追いやられて、逃げ場がなくなる」
「うん。 だから、そろそろやめるよー」

今までヒカリは下がるために使い続けていた『でんこうせっか』の力を前に進むために変更した。
ヒースに向かってジャンプし、頭から突っ込むヒカリ。
急な方向転換に対処が遅れたヒースはその攻撃を真っ向から受けて、後ろに吹き飛ばされた。

「ぐわぁ!」

ただの『でんこうせっか』とは思えないダメージを受けたヒースは、ここで攻撃の手を緩めるのは良くないと判断し、何とか立ち上がると、ヒカリに接近しようとした。
だが――

「なっ!? こ、これは!」
「『くさむすび』だよ。 さすがにこれだけ近いと、すぐに距離詰められちゃうからねー。 これであなたは動けない!」

足を『くさむすび』によって拘束され、その場から動けなくなったヒースにヒカリは『エレキネット』を縄のように使い、ヒースを拘束した。

「……フッ。 ここまでされたら俺にできることはもうないか。 ……この試合、俺の負――」
「サラさ~ん! ヒースを捕まえたよ~」
「イテテ! おい! 降参するから引きずるな! イタイ、イタイ! ちょっ、俺の話をきけぇー!」

必死に声をあげて抗議をするヒースの声は、ヒカリに全然届いておらず、満面の笑みで拘束したヒースをズルズルと引きずりながらサラの元に駆け寄っていくヒカリ。
こうして技能測定の第2試合の決着がついたのであった。

―――――――――――――――――――――――――――――

「第2試合はヒースさんが降参したので、これにて終了します。お2匹ふたり共、お疲れ様でした」

オボンの実を受けとると、ヒースは「ひどい目に合った……」とげっそりした表情でベンチに戻っていったが、ヒカリは対照的に笑顔で手を振りながらベンチに戻ってきた。

「ハルキー! やったよぉー!」
「う、うん。 お疲れ様……」
「ヒカリちゃん! すごかったです!」
「ありがとー!」
「ま、まあ、お疲れ」

駆け寄ってくるヒカリにヒビキは満面の笑顔で出迎えたが、ハルキとアイトは苦笑いを浮かべていた。

「……無邪気な笑顔でザングースを引きずるピカチュウの図って、中々に衝撃的だよな。 ハハハ……」
「そうお? ありがとう!」
「いや、誉めてる訳じゃないんだが」

ハルキは1度、同じような光景を見た事があった。
ハルキとヒカリが出会って間もない頃、エイパムを捕まえた時にヒカリが今回と同じことをしているのを目にしてはいたが、やはり何とも言えない光景ではあった。

「それより、ヒカリ。 お前、結構技の熟練度高いだろ? 『エレキネット』を網じゃなくてロープみたいな形状にするのは制御魔法でも難しいことなんだぞ」
「え、そうなんですか?」
「そうだぞ。 あたいはともかく、不器用なラプラじゃできなさそうだしな!」
「あ、あたしにだって、それぐらいできるさ! ……たぶん」

クロネに言い返すラプラだが、その語尾は少し弱気であった。
元々、ヒカリの『エレキネット』しか見てこなかったハルキはヒカリのように、網と言うより縄のような用途で使う技かと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

「つまり、ヒカリみたいに技を習熟させれば制御魔法でするような芸当ができちまうってことか」
「その通りです。 もちろんみんながみんな、ヒカリさんのようにできるわけではありませんが、少なからず魔法が不人気の遠因にはなっていますね……」

耳をへたりと垂れ下げながら俯きながら答えるイオ。

「私は魔法、好きだけどなー。 すごく強いと思うし、絶対必要だと思うよー」
「うん。 ヒカリの言う通り、魔法でしかできないことって必ずあるだろうし、それだけでも価値は充分あると僕も思うよ」
「そうですか? ……そうですよね!!」

イオはハルキの言葉を聞くと、下げていた耳をピンとたてて、笑顔を見せた。

「おい、ヒカリ。 さっきの試合で気になることがあるんだが」
「なあに? ザント」

僕の頭の上に乗っていたバチュルを自分の頭の上に乗せながら、ヒカリは話しかけてきたザントの方に振り向いた。

「『でんこうせっか』でヒースを攻撃した時、何した? どうみても、お前のが体も小さいし、勢いもなかったはずだ」
「確かに、同じ『でんこうせっか』なのに、なんで勢いが乗っていて、体が大きいヒースさんが押し負けたんだ?」

アイトもザントの聞いたことが気になっていたようで、ザントと一緒に問いかけた。

「え? ヒカリがあの時、使った技って『でんこうせっか』の勢いを利用した『ロケットずつき』じゃないんですか?」
「その通り! ハルキ大正解!」

笑いながらパチパチと拍手をするヒカリとそれを真似るバチュル。
なんだか照れ臭いなとハルキが思っていると、ザント達の視線が自分に向けられている事に気付いた。

「え、僕、なんか変なこと言いました?」
「いや、何でハルキはあれが『ロケットずつき』だって、わかったんだ?」
「何でって、そう見えたとしか……」
「そもそも、『ロケットずつき』は予備動作が必要な技だぞ」
「予備動作、してましたよ?」
「いつしてたの? 私には全然わからなかったわ」
「『でんこうせっか』で下がっている時にしてましたよ」
「あたしには、普通に逃げまくっているようにしか見えなかったけどなー」
「僕もまったく見えなかったです」
「っていうか、『ロケットずつき』の予備動作って、その場で動かないで力を溜めるんじゃなかった?」
「そのはずです! なのによくわかりましたね! ハルキ君すごいです!」
「バチュ! バチュ!」

ハルキはみんなから質問攻めにあって、てんてこ舞いの状態になっていた。
そもそも、この質問に答えるべきなのはヒカリのはずなのだが、当の本人であるヒカリはそしらぬ顔で、オボンの実を美味しそうに食べていた。

「ちょっ、ヒカリ! 食べてないで、説明してよ!」
「ん~? もー、しょうがないなぁ~」

オボンの実を食べ終わったヒカリは、やれやれと言った表情でハルキとみんなの間に入った。

「つまり、ここまでの話を纏めると、ヒカリちゃんは『でんこうせっか』で下がりながら『ロケットずつき』の貯める動作を平行して行って、それをハルキ君はなんとなく見ていてわかったって事でいいのかしら?」

ハルキとヒカリはリルの言葉に静かに頷いた。

「なるほどね。 確かに『でんこうせっか』よりも格段に威力が高い『ロケットずつき』ならヒースの『でんこうせっか』に勝てても不思議じゃないわね。 まあ、なんでヒカリちゃんはそれができるのか。 なんでハルキ君は見ただけでわかったのか、色々と疑問ではあるけど、本人達もよくわかっていなさそうだし、これ以上考えても意味なさそうね」

リルが話を整理し終えたタイミングでサラから次の試合の組み分けが発表された。

「では、そろそろ次の試合を始めます。 第3試合は、アイトさんとザントさんです」
「ゲッ!」
「よっしゃあ! 俺の出番だ。 楽しみにしてるぞ~? アイト」
「お、お手柔らかに……」

ザントが大喜びで立ち上がってバトルフィールドに向かうなか、アイトはため息をつきながらザントの後ろをついて行った。

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