episode4━Ⅸ 決着は唐突に

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「…」

一度気絶したからか、頭の中は覚めており、今の現状を冷静に把握する。

ヤイバ、ミリアン、ルーナ、シャルは全員気を失っている。中でも重症なのはシャル。腹を貫かれ、長くは持たない。もしこの力でナイトを倒せたとしても、まだあちらにはボスゴドラが控えている。今は傍観しているようだが、いつ向かってくるかはまるで読めない。…ナイトを倒すと豪語しておきながら、今はシャル達を一刻も早く治癒しなければならない…どうすれば…?

すると、脳内で先程のポケモンの声が聞こえた。

『ルト、聞こえるね?今の現状じゃあナイトを倒すことに専念出来なさそうだから…まずシャル君の傷を止めようか?』
「(お前、見えてるのか?止めるって…俺の治癒魔術じゃシャルの傷は治しきれないぞ)」
『君の目を通じて見えてるよ。…治癒じゃなくて、まぁともかくシャル君の側に寄って?』

ルトは言われた通り、ナイトから視線を外さずにシャルの側まで移動する。

「…?」

ナイトは不思議そうに眉を寄せてこちらを静かに見据えていた。

「(寄ったぞ、どうすんだ)」
『シャル君の体に触れて、私の言う言葉を復唱して。…『停止』(ストップ)』
「…『停止』(ストップ)!」

すると、シャルに触れているルトの手から通じてドーム状の薄い魔力が放たれ、シャルを静かに包み込んだ。すると…シャルの呼吸が止まり、溢れていた血も止まった。

「(おい!まさか…シャルは…!!)」
『違う違う、生きてるよ。その魔術は触れている対象の時間の流れを止めて隔離する魔術。今シャル君は瀕死のまま止まったのよ。これ以上血は出ないし死にもしない。ただし、ずっと続く訳じゃない。なんにせよ早く治癒しないといけないけど、一旦は安心できるでしょ?』
「(…良くわからないけど、これでしばらくは大丈夫なんだな)」

…ナイトはずっとこちらだけを見ている。今は俺にしか興味がないみたいだ。これならミリアン達も狙われない…のか。
いや、考えてる時間は無い、ナイトと戦わないと。

「…何したのか知らないけど、さっきからボーッとしてるね。早く向かってきなよ」

ナイトは痺れを切らし、こちらを睨んだ。

『じゃあナイトと戦おうか。その主の力の一部を使ってね。これから先は私が言わなくても、使い方が分かる筈。…頑張れ』
「(…わかった…!)」

ルトは折れた刀を構え、ナイトに立ち向かう。

「ッハァ!」

一歩踏み込んで距離を詰め、刀を上段から降り下ろす。
ナイトは少し下がり、それを避ける。

「く、折れた刀じゃリーチが…」
「やっ!」

ナイトはこちらの顔目掛けて、鋭い蹴りを放つ。━━まともに食らえばそれだけで痛手だ!『後ろに下がらないと』!

その瞬間、ルトは一瞬でナイトから離れており、空を蹴りつけたナイトは眉を寄せた。

「早い…いや、違う」
「こっ、これは…」

ルト自身も驚いており、何が起こったのか頭のなかで整理する。
━今、後ろに下がろうとした瞬間…いつの間にかナイトから離れていた。けど、その時はまだ足を動かしていなかった…まさか、これが…ディアルガの力だってのか?

ディアルガ。アルセウスが最初に創造したポケモンの一匹であり、時を司ると言われているポケモン。その力はアルセウスにも匹敵し、世界に時間の流れという概念を作り出したとされている。
━信じれない事だが、もし俺の中にその力があるとするなら…俺は、時間を操ることが出来るのか…?だとしたら今のは俺が時間を飛ばしたのか?それなら理由がつく…しかし、なんで俺なんだ。子孫ではないし、家系で強い繋がりが合ったという訳でもない。…いや、今はよそう。

「…何だか気持ち悪いね。ルト自身の実力は変わってないのに、不可思議な力が備わってる。私の知る限りで君にそんな力は無い筈なんだけど…どうなってんだか」

ナイトは飄々とした態度でこちらに走り出した。

「…なら、今度は…!」

その場でナイトは大きく上に跳び、両手にエネルギーを込めた。

「『ツインショット』!」

掌から複数の光線が放たれ、左右から光が迫ってきた。━ディアルガの力が本当なら…!

「…止まれ!」

ルトは一か八か、両手を光線に向けて叫ぶ。すると…光線はその場で静止し、エネルギーを失って塵になっていった。

「な…!?」
「出来た…!本物かよ…!」

ナイトも流石に驚き、より一層警戒が増した。
ルトは段々と力の使い方が解り始め次をどうするか、そう考える。すると、頭の中に一瞬激痛が走った。

「ッ…?」

だが痛みはそれで終わったので、気にも留めなかった。

「…………」

ナイトもまた、長考を始めていた。戦闘経験が豊富なナイトでさえ、先程のルトは理解できなかった。何が起こったのかまるで解らない。負けるとは微塵も考えてなかったが、油断は出来ない。ルトにとっては最悪だ。…油断が合ったナイトから、油断が消えてしまったからだ。

「…二つ目の特性…にしては一つ目の特性と特徴が合わないな。二つ目の特性が一つ目と大きく効果が違うパターンはマテリアを二つ持っている兵士だけ、私みたいにね。となると…」
「随分と悠長だな、余裕ってことかよナイト姉」
「いや逆。こう見えてかなり驚いてる。…今はとりあえず分からなくていいや。私が言いたいのは、どのみち君は私に勝てないよ。その妙な力を使ってもね」

ナイトは再び両手にエネルギーを溜め、左右から放つ。ルトは先程と同じようにエネルギーに向けて手を翳した。
その瞬間、ナイトもこちらに突っ込んできた。

「っ!?」
「その能力は驚異だ!だけど…!」

ナイトは左右のエネルギーと同時に拳を打ち抜き、ルトの腹に当たる。

「ガハッ!」

ルトは大きく吹き飛ばされ、ナイトは自身の放ったエネルギーに襲われた。
煙が晴れると、ナイトの両手は粉々に吹き飛んでいた。

「アイタタ、かなり痛いな。…ルトのその力は、見たところ『二回』までにしか同時に使えない。故に三回同時に攻撃をされると一発打ち漏らす。互いの実力が近いなら一発くらいわけないだろうけど…今はどうかな?」
「グ…ぁ…!」

ルトは腹の激痛に悶えながら、血を吐いた。
━肋が何本か折れた…!それに、たった数回の攻防でこの能力を見破られるなんて…!

ナイトは瞬時に傷を癒し、悶え苦しむルトの近くへとゆっくり近づいてくる。…さながら、死神の足音。明確な死の予感が、ルトの元にやってくる。

「…下手に動かないでね、楽に殺してあげるから」
「っ!」

ナイトは右腕にエネルギーを込め、思いきりルトの首を狙って降り下ろす。
その時だ。

「させるかよっ!」
「フン!」

ルトの目の前に、ガイラルとガブリアスが降ってきた。ナイトは驚き、攻撃を止めて大きく下がった。

「が、ガイラルさん!ガブリアスさん!」
「すまねぇ!待たせちまった!…で、これはどういう事だよ…!ナイト!」
「…………ちっ」

ナイトは舌打ちをし、その近くにボスゴドラが寄ってきた。

「…潮時だな。オメェもそろそろ限界だろ」
「みたいだね。…ルト!名残惜しいけどお別れだ。次会うときは…どちらかが死ぬときだ」

ボスゴドラは先程のような黒い穴を出現させ、先にボスゴドラがその中に入っていった。
続いて逃げようとするナイトに、ルトは叫んだ。

「…ナイト姉!本当に…元から敵だったのかよ!俺はまだ…!信じられない…」
「…………」

その言葉にナイトは振り返り、どこか悲しげな表情を浮かべて…闇の中へと消え去った。

「…ナイト姉……。…!?グっ…カハッ…!なん…」

戦いの緊張が解けるやいなや、ルトの全身に稲妻のような痛みが走り、血を吹き出した。ボタボタと血が垂れ、その場に俯せで倒れた。

「おい!?ルト!いきなりどうした!…シャル達の事もあるし、急いで治療しなきゃならんな…。ガブリアス!サーナイトに連絡は取れるか?」
「事前に話はしておいた。今すぐにでも運べるぞ」
「よし、ならこいつらをサーナイトのところに運んでくれ。この場は俺達に任せろ」
「了解した。…簡易テレポートポイント起動!」

ガブリアスは怪我人を一気に運び、テレポートした。

「…もう、やらなきゃならねぇって訳だ」

ガイラルはある決意と共に、その場を後にした。
簡易テレポートポイント
小型のデバイスから発動する持ち運び用のテレポートポイント。
一度使えば無くなり、一方通行専用である。
どの隊も任務の際は必ず一つは持っていくように義務付けられている

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