ある日ゴースが壁抜けをして遊んでいると、見知らぬ町にたどり着きました。町中にはそれは大量の鍵が埋め尽くさんばかりにいくつも山を作っていて、ニンゲンは住んでいないようです
その代わり、たくさんのクレッフィが住んでいました。ここは使われなくなった鍵がたどり着く「鍵の墓場」と呼ばれる所で、クレッフィ達は自分が気に入った鍵を集めて家を建て暮らしているそうです。
ある者はひたすらに鍵束を作り、ある者は可愛い装飾の鍵を集ていたり、ある者は鍵に合った扉を作ったり。クレッフィ達の個性的な家々に、ゴースはなんだか見ているだけで楽しくなってきました。
町のはずれまで行くと、質素な家が一件ありました。不思議なことに、その家のドアには鍵穴がありません。けれど、中からはジャラジャラ音がするので、クレッフィが住んでいることは確かなようです。
近づいてみると、一匹のクレッフィに、やめとけやめとけ、そいつは鍵を独り占めするような悪いやつだ。一つも渡さないもんだから、みんな怒って鍵のないその家に閉じ込めたんだ。近寄らないほうがいいよ。と注意されました。
近寄るなと言われたら入りたくなるのがゴースの性格。ガス状の体でするりと扉をくぐり抜け、家に入ってみました。
中は外観とは違って、金銀宝石を豪華に使った鍵でいっぱいでした。件のクレッフィは、特段に大きな宝石が付いた鍵を重たそうに鳴らしながら、めそめそ泣いていました。
声をかけてみると、突然入ってきたゴースにびっくりしながらも、クレッフィは言いました。もう反省しているのに誰も相手にしてくれないよう。このままずっとこんなところに閉じ込められるなんて嫌だよう。
ゴースはどうにかしてクレッフィを出してあげようと考えました。しかし窓もなければ壁も分厚い、扉はもちろん開かないし、うーんどうしよう……。
そうだ!とゴースはひらめきました。クレッフィに目を閉じるように言いました。そうそう、ゆっくり深く眠りにつくみたいに。そしたら、自分がふんわり浮いているのを想像するんだ、体と気持ちを離すみたいに。どう?ふわっとしてきたら成功さ。
ゴースに言われた通りにすると、クレッフィは体が軽くなってきたような感覚になりました。ゴースが扉をすり抜けて、やってみなよと声をかけます。クレッフィがえいっと扉に体当たりすると、そのまますり抜けて、外に出られました。
外に出られたクレッフィは大喜び。ゴースといっしょに町を出て、どこまでも広がる曇天の空を浮かんでいくのでした。
きょうのおはなしは…ん?クレッフィの住んでいた家はどうなったのかって?
その後鍵の墓場に訪れた欲深いニンゲンの手で扉は壊されて、中にあった鍵は全部持って行かれてしまったそうな。大きい宝石のついた鍵も、クレッフィの体ごと盗まれてしまったそうだよ。