スウィートメロディを一度だけ

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ある日フーパがリングを使って遊んでいると、一つのリングから素敵な歌声が聞こえてきました。なんだろうと思って覗きこんでみると、どこかのポケモンセンターの一室で、プリンが歌っていました

いい歌だなぁと聞きほれていると、途中で終わってしまったのでどうしたものかと見ていると、どうやらプリンは病気の様子。けほけほむせこんでしまって、歌うのを諦めてベッドに横になってしまいました

次の日。またリングを使って覗きこんでいると、プリンは窓から外を見つめて悲しそうにしていました。気になったフーパはリングを通り抜けてプリンのところへおでまし~!プリンは突然現れたフーパにびっくりしているようです。

けれどすぐに打ち解けて二匹は仲良くなりました。話を聞いてみると、プリンは最近になってこのポケモンセンターへやってきたのだけれど、入っているのは自分一匹だけで誰も遊びに来てくれない。トレーナーもこの頃お見舞いに来てくれないそう。

することがなくて大好きな歌を歌ってみるけれど、いつも途中でむせこんで歌えなくなってしまって、つまらなかったようです。それなら一緒に遊ぼうよとフーパはいろんなおもちゃを取り寄せて、夜が更けるまで遊びました。

それからしばらくの間、フーパは毎日プリンのところへ行っては遅くまで遊んでくるのでした。そのうちどうしても一曲作って歌いきりたいと相談されて、フーパは楽器やCD、時にはポケモンオーケストラを取り寄せて、その場で演奏してもらったりしました。

プリンはおとりよせをいつもすごいすごいと喜んでくれたので、フーパも張り切っていたようです。曲作りも順調に進み、あともう少しで完成というところまで来ました。しかし、フーパはプリンの病状が悪化していることに気が付きませんでした。

あと一息というときになって、プリンは体を転がすことも出来ないほどになってしまいました。声をかけても生返事のような、曖昧な反応をするばかり。それなら、自分がこの曲を完成させてみようとフーパは思い立つのですが、これがまったく上手くいかないのです。

洋館に戻ってムウマージに相談すると、 当り前よ、その曲はプリンのものでしょう。いくらあなたがなんでも取り出そうが、時空を歪めようが、街を滅ぼす力を持っていたって、誰かの夢を叶えることは出来ないのよ と諭されてしまいました。

ポケモンセンターの一室で一日ぐったりしているプリンを見守っていることしかできない、もやもやした日々が続きます。もちろんお薬もお医者様もとりよせてみたけれど、プリンの容体は良くなりませんでした。

曲の最後が決まらないまま、二週間ほど経った頃。歌声に気が付いてリングをくぐってみると、プリンが元気な様子で起き上がり歌っていました。 よかった、元気になったんだとフーパは喜び、曲作りも再開。 いよいよ最後の仕上げです。

出来上がったのは、プリンが昔トレーナーと一緒に住んでいた海辺を想う歌。窓から見える光も届かないような森を響き渡るその歌は、聞いていると目の前に白い砂と青い海が広がって、いまにも潮の香が漂ってきそうなくらい。

フーパはぽかんと口を開けたまま歌を聞いていました。曲の終盤に差し掛かると、知らぬ間に涙がこぼれて床を濡らしていました。プリンは歌い終わると満足そうに笑って――――

やわらかな光が差し込む白を基調とした海沿いの部屋。寄せては返す波の音が静かに通り過ぎていく。部屋の住人は知らない、過ごした時を切望する甘い声の哀しい歌が収められたCDが、机の上にぽつんと置かれている。

きょうのおはなしは、これでおしまい

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