青い目のお人形

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:3分
半月の夜にカゲボウズがふわふわあてもなく彷徨っていると、道の外れに捨てられたホテルがありました。おもしろそうと入ってみると、割れた大理石のフロントに、お人形が一体可愛らしくちょこんと座っていました。

青い目をしたお人形は、久々に訪れたお客様だわとカゲボウズを喜んで迎えてくれました。昔は立派な高級ホテルで、お人形は男の人と一緒に泊まっていたのだそう。本当は海を越えて遠い土地に行く予定だったのだけれど、部屋に置き忘れられてしまったのだとか。

カゲボウズはお人形とかくれんぼしたり、客室を案内してもらったり、展望フロアから夜の静かな小道を眺めたりして遊びました。そのうちお人形がしょんぼりした表情になったのでどうしたのか聞いてみると、本当はお家が恋しくて仕方がないの。と涙の流れない顔で泣き出してしまいました。

お家に帰ればいいじゃないかとカゲボウズが言いましたが、お人形は首を横に振ります。よく見ると、お人形の服の首元に引きちぎられたような跡があり、靴を履いていません。こんな姿じゃ帰れないとお人形は悲しそうに言いました。

カゲボウズはどうにかしてあげたいと思いましたが、自分ではどうにもできません。ジュペッタならどうにかしてくれるかもと、お人形を連れて一度洋館に帰ってきました。

いきさつを聞いたジュペッタはお安い御用さとお裁縫道具を取り出して、さっと服を縫い付け、慣れた手つきで足を測り目と同じ青い靴を作ってあげました。お人形は表情こそ変わらないものの、嬉しそうな声で靴が出来ていくのを見ていました。

新しい靴を履いて、縫い直した服をくるんと一回転して見せるお人形はとても満足そう。あとはお家に返してあげるだけです。ジュペッタが布の切れ端を縫い合わせて作ってくれた気球に「おにび」で点火して、夜の空へふわふわ飛び立ちます。

お人形の記憶を頼りに、捨てられホテルよりもっと先、町二つ分越えた海沿いの町にある赤いレンガが特徴的な建物まで無事に送り届けてあげました。お人形はカゲボウズにお礼を言って、お別れにキスをしてくれました。 カゲボウズは、照れくさそうにベロをちょびっと出して、洋館へ帰っていきました。

ジュペッタにちゃんと送り届けてきたよと報告して、嬉しいやら恥ずかしいやらな気持ちで眠りにつきました。また会えたらいいなぁと思っているようです。

アグノム歴456年11月8日のコラム
【幻の人形戻る】今月7日、同歴388年に赤レンガ人形館から盗まれ行方不明になっていた高級アンティーク人形が見つかったことが分かった。人形館入口に当時の姿のまま置かれていたのを出勤した館長が発見。装着していたアンシーダイヤの首飾りとオーガサファイア製の靴は無かったものの、館長は「戻ってきただけでもありがたいことです」とコメントしている。

きょうのおはなしは、これでおしまい

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想