第16話 “Doomsday Device”

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 セキタイタウン周辺海域において、光線砲が飛び交う音は鳴りやまない。撃った数だけポケモンの命が燃え尽きていく死の音は、着実に侵略軍の数を減らしてはいたが、それでも形勢逆転に至るには程遠い。
 とある艦は、一向に減る気配の無いポケモン達に劣勢を強いられていた。黒い機体のあちこちに《破壊光線》で穴を空けられ、《冷凍ビーム》で翼は凍り、《10万ボルト》で艦内に流れるエネルギーを引っ掻き回され、あちこちでオーバーロードによる爆発を引き起こした。破片の散らばる通路を歩けば、爆発に巻き込まれたのであろう、全身の皮膚が赤黒く焼け爛れている骸があちこちに転がっている。
 艦の名前はディスラプション号。破壊の名を背負う、リベンジャー号と並んでロケット団の精鋭に数えられる艦だった。レックウザの《破壊光線》でバリアーを破られるまでは。
 だが死人で溢れかえった艦の中でたった1人、しっかりと艦長席に腰を落ち着かせている男がいた。彼は、既に死亡して床に転がっている元艦長の女性の代わりに、さっきまで生きていた操舵手やエンジニアの指揮を執っていた。今はもうエンジニアとの通信は断たれ、操舵手も隔壁の爆発で散った破片が側頭部に突き刺さって倒れている。天井から無数のケーブルが火花を散らして垂れ下がり、時折彼の皮膚に落ちてその表皮を焼いていた。
 既に艦内放送で脱出命令は下してある。それが一体何人に届いたか、あるいは脱出する事ができたのか、確かめる術は無い。だが艦長代理として、やるべき事は果たした。あとひとつだけ、最期の大仕事を残すのみだ。

『自爆まで、あと30秒』

 コンピュータの冷たい音声が響き渡る。
 男は乱れる息を整えながら、自らの脇腹を椅子ごと貫通して刺さっている大きな合金の破片に視線を下ろした。そして、それが無性に可笑しく思えて笑いが込み上げてきた。
 笑いながら正面のひび割れたスクリーンを見やると、未だ大勢のポケモン達が艦の周りを飛び交っているのが見えた。脇腹が無事であれば、腹を抱えて笑っているところだ。笑って笑って、笑う度に腹からおぞましい激痛が全身に広がっても笑って、苦しくなって一呼吸置いたところで、彼は最期の瞬間を迎えた。

 遥か後方から広がる大爆発の余波が、僅かにリベンジャー号を揺らす。平時であれば黙祷し、哀悼の意を表すところであろう。誰ひとりとして意識の欠片も注ごうとしないのは、目前に迫るレックウザへの対処に追われていた為であった。

 セキタイタウンの北を守るは、古代の姿に回帰した海の王、ゲンシカイオーガ。水中のみならず、空でさえも己の領域として悠然と泳ぐ姿は、ここが戦場である事さえも忘れさせてしまうほどに堂々としていた。だが、空を泳ぐゲンシカイオーガがひと度海の唄を歌えば、ぶくぶくと周りに水の弾が浮かび、大きく育っていく。一見して穏やかなそれは、膨大な量の水を極度に凝縮した超水圧の塊である。それらが大砲のように弾き跳んで、空に浮かぶ航空艦や海を進む海上艦を次々と撃ち貫いていった。
 《根源の波動》、天災と謳われる技のひとつである。

 おそるべき怪物は南にもいた。
 空間を司る者、パルキア。その暴虐ぶりは二つ名に恥じぬものであり、戦艦を、人体を、バターを切るように手あたり次第に斬り刻んだ。
 パルキアが腕を振り上げれば逃げる他なし、絶対に回避せよ。そのような命令が徹底して広がっているほど、パルキアが放つ絶対の一撃《亜空切断》は恐れられていた。ひとつの空間をふたつに強制分離する光の刃には、バリアーなんて役に立たない。撃たれる前に倒すしかないのである。

 周辺海域の防衛線に限れば、侵略軍の伝説級は、ミュウツーとゲノセクトを除いても5匹である。40万ある敵兵のうち、たった5匹と言えば、エドウィン達にとっては幸運であった。むしろ短期間で取り急ぎ同盟艦隊を整える事ができたからこそ、この数に抑えられたと言っても良い。
 だがレックウザが空ででたらめに身を捩りながら猛り狂い、こちらに向かって来るのを見れば、数字上の幸福感など吹っ飛んでしまう。リベンジャー号のブリッジにて、エドウィンはまさに今《破壊光線》を放とうと大きく死の顎を開くレックウザと立ち向かっていた。

「私の合図で反転世界へのゲートを開け。座標、前方50メートル先だ」

 エドウィンは物怖じせず、スクリーンの遥か向こうに見えるレックウザを睨みつけて言った。
 彼の希望に沿うべく、乗組員達は一斉に動いた。複雑な計算に従い、ブリッジのコンソールから操作して装置を動かす。だがレックウザは待ってくれない。リベンジャー号の準備が整ったかエドウィンが確認を取る前に、《破壊光線》が轟音をあげて空気の壁を突き破りながら迫ってきた。

「今だ!」

 しかし、確認など必要なかった。
 リベンジャー号の4本の翼の先から細く白いビームが前方のある一点に照射され、激しい気流を生み出すと共に、空間をこじ開けるようにぽっかりと大きな口が開いた。世界の裏側、反転世界へと続く出入り口だ。《破壊光線》の目前に現れたそれは、《破壊光線》を飲み干した途端に縮んでいき、元の空間へと戻っていった。
 その先に受けるべき命令は、乗組員も分かっていた。

「ターゲット、レックウザにロック!」
「発射!」

 男性兵器士官とエドウィンの流れるような報告と命令のもと、リベンジャー号のあらゆる場所に設置された砲台から黄色い光線砲がレックウザに向かって伸びていく。
 ちょうど《破壊光線》を撃った直後の反動で蛇のような細長い身体ごと仰け反っていたところへの攻撃である、いかにレックウザが空の王者と言えども直撃は免れなかった。
 隔壁やバリアー越しでなければ鼓膜を破いたであろう轟音のような悲鳴をあげて、リベンジャー号やそれに並ぶ艦隊から何発、何十発と砲撃を浴びたレックウザがふらふらと逃げていく。それを数十匹の鳥やドラゴンといったポケモン達が守るように間に割って入ってくる。
 だが、エドウィンにはそれを逃がすつもりは無かった。

「レックウザの頭を狙って撃て!」

 エドウィンの命令に従い発射された光線砲は、真っ直ぐレックウザの頭部を狙い澄ましていた。ここで命を絶たなければ、後に何百、何千と犠牲者が出る。そう判断しての追い討ちであった。
 しかし命中寸前のところで、《守る》の動作も間に合わないと察したのであろう、援護に入ったポケモンの中でも特に素早いクロバットが側面から光線の先端目掛けて鋭く交差する翼で切り裂く《クロスポイズン》を繰り出した。結果、クロバットは大爆発を起こして粉々に砕け散ったものの、レックウザは悠々と逃げ果せることができた。
 力の入ったエドウィンの拳が、緩んだ。

「すみません、レックウザを逃しました」

 男性兵器士官が申し訳なさそうに言うと、エドウィンは両手の指を交差させながら意気込んで。

「他にもまだまだいるぞ」

 と言って、戦略マップに映る次の敵に目を向けた。





 同じく戦略マップを見つめるゲノセクトは、エドウィンとは逆に興奮を抑えるので精いっぱいであった。
 不気味な蔦に覆われた司令室から見下ろす戦場は、今のところ良い勝負を繰り広げている。人間の軍艦を一隻落とす間に、その100倍以上のポケモン達が死んでいく。その度に興ざめな女性ミュウツーの横槍が入るも、それでもなおゲノセクトは興奮していた。
 人間が新たな大量破壊兵器を開発する度、あるいはそれを実際に使う度、このような興奮をどうやって制御していたのか聞いてみたい程である。『これ』は自分の知る限り最も恐ろしい兵器だ――もっとも自分の常識は3億年前のものだが――。あらゆるポケモンの技を遥かに凌駕する兵器だ。アルセウスの《裁きの礫》をも上回るやもしれない。
 差し当たって惜しむべくは、自分がその瞬間、戦場で直に目撃できない事であろう。血沸き肉躍る瞬間を最期に味わえる彼らが若干羨ましくもある。
 さあ、いよいよだ。三千年の時を経て、この偉大なる兵器の犠牲者となる事を誇って逝くが良い……。

 ゲノセクトの企みを、未だ知らぬ人間達。
 だが戦況は決して不利なものではなく、幾らかの艦を失ったものの、確実に各地の戦場で小さな勝利を積み重ねていた。レックウザを撃退したリベンジャーも2、3の勝利を経て、機体に攻撃を受けたのであろう焦げ跡を刻みつけながらも、艦隊を引き連れてポケモン達を光線砲で蹴散らしていた。

「艦隊の被害報告!」

 リザードンやウルガモス達からの《火炎放射》をバリアーに浴びながら、リベンジャー号のブリッジでエドウィンは報告を促す。
 進路決定のための情報集めに苦心していた女性オペレーターが、せわしなく手を動かして求められた情報を確認した。

「テンガン号が撃沈、部隊の残りは我々を含めて8隻だけです!」
「第13艦隊が近過ぎるぞ、もっと北部から攻める筈だ!」

 成功を重ねているエドウィンの心に、それがチクリと刺さっていた。
 西部から進攻するリベンジャー号率いる艦隊や他部隊は《守る》の防衛ラインを突破した後、扇状に広がって進攻する手筈であった。しかし戦略マップを見れば、伝説級や大勢のポケモン達に押されて、艦隊の範囲が徐々に狭くなっているのだ。
 これが単に敵が強いだけの話なら良いが、と、エドウィンは祈りながらも戦略マップを見つめた。

「また敵部隊が後方より接近しています!」
「後部光線砲、ダウンしました!」

 立て続けに入る知らせは更にエドウィンを悩ませた。執拗な攻撃を受けて、とうとう1週間で組み立てた突貫工事に限界が来たのだ。
 思わず舌打ちを漏らしながらも。

「ダメージコントロールチームを向かわせ、修理させろ! それまではバリアーにパワーを回して防御態勢を取れ」

 制限時間の戦場で受け身に回らざるを得ないとは。それも、自らの故障で。
 エドウィンは情けなさにため息を吐きたい気持ちに駆られても、それを我慢して呑み込み、戦略マップを注視し続けた。この隙を突かれて何かあっては困る。身の回りは今は艦隊の援護に任せるとして、注意だけは怠らないようにしなければ。
 彼の予感は、悪い方向で的中していく事となる。

「艦長、侵略軍に動きが。伝説級のポケモン達が一斉に進路を変更、後退していきます」

 報告を待たずともエドウィンには分かっていた。確かに戦略マップ上でも特に注意すべきポケモン達を示す刺々しいマークが一斉に最前線から離れている。
 だがそれよりもエドウィンにとって奇妙だったのは、戦略マップを映したスクリーンの奥に広がる空と海の景色の中に、敵であるポケモン達に混じって交戦中の艦隊が遠くに見えた事である。
 それは本来ならば進攻する上では見かけない筈の艦隊であった。

「どうして第17艦隊がそこにいるんだ?」
「敵が南部に集中したため、攻めきれなかったようですね。このまま両艦隊と合流して正面突破という手もありますが」

 フレデリカが確認を取ったこの情報が、エドウィンの顔を青ざめさせていった。

「まずい……!」

 扇状に広がった西部進攻軍が、北の広がりも南の広がりも抑えられ、今まさにひと塊になっている。片方だけであれば偶然で済んだであろう、これが敵の罠である事に確信を抱くには十分すぎる材料であった。
 敵は我々を一網打尽に撃破するつもりだ!

「全同盟艦に通信を送れ、リベンジャー号とミラーゲート号で反転世界へのゲートを開く! 近隣の艦は直ちに反転世界へ避難せよ!」

 と、エドウィンが叫んでも、女性通信士は神妙そうに首を横に振って。

「通信不能、変調された《電磁波》で妨害されています」
「解消しろ!」
「すぐには無理です……!」

 全てが狙い澄ましたように動き始めた。しかしそれらを知った頃には、もう手遅れである。
 男性科学士官の報告が、それを裏付けてしまった。

「成層圏に高エネルギー反応を確認! 古代兵器です!」

 もう考える暇も無い。
 エドウィンはただ必死に叫び散らした。

「リバース・ドライブ起動だ、ただちに反転世界に避難しろ!」

 同刻、セキタイタウン周辺の戦場から遥か上空には花が浮かんでいた。本来ならば肉眼では目にする事ができないステルス技術を施されていた花は、多量の紫外線を浴びてややステルスが解け、ガラスのように透過した花として宇宙と地球の境界線で咲いていた。
 その姿のなんと美しい事だろう。その表面を蠢く蔦によって覆われてしまっているものの、花弁の一枚一枚それぞれが太陽の光をプリズムのように反射させて眩い輝きを放ち、花の先端に伸びる水晶のような雌しべは死の受粉を待ちわびていた。色こそステルス技術のお陰で無いものの、花を覆うおぞましい蔦さえ無ければ、兵器でさえ無ければ、最高の芸術作品として世界中から称賛を受けたに違いない。
 ゲノセクトと女性ミュウツーは、巨大艦に咲いた花の付け根部分に構えていた。片やできれば外に出て実際にこの目でその瞬間を見たかったと零すも今か今かと待ちわびる子供のように、片やこの一撃で命を散らす大勢の為に祈るように目を閉じて、その瞬間を迎えた。

 三千年の昔、この兵器は二度に渡って多大な犠牲者を出してきた。一度目は1匹のポケモンを蘇らせるために、二度目は大勢の命を奪うために。その規模は歴史家の研究から推測して得た当時の人口、ポケモンの生息数から考慮すると割合は大きいものの、絶対値で見れば、現代で考えるとそう多い数ではない。少なくとも、現代と比較しての話である。
 その証として、つい最近フレア団の野望によって兵器が起動した時、ある少年少女らとポケモン達によって野望は阻止されたものの、被った被害はゼロである。破壊の規模も少なく、兵器が発射した砲撃が兵器自身に降り注ぎ、その姿を地中深く埋めた程度であった。

 結局その後の研究によって、古代においては最大のエネルギー発生装置がポケモンそのものだった為、兵器もその程度の威力だったのだと結論付けられた。しかし今、花は現代においても最も膨大なエネルギーを生み出す反物質反応炉という養分を得た。起動の為に命を吸わなくて済む代わりに、花はより大きな破壊力を身につけてしまったのだ。
 専門家たちは口を揃えて言った。今の花の破壊力は、現代の科学力を持ってしても予測不能である、と。

 太陽の光を背に浴びて、花はその先端に透明な雫を溜め始めた。雫はすぐにぶくぶくと太り、巨大に育っていき、やがて雫は花と同じ大きさまで育った。それは決して溜め込んだエネルギーそのものではなく、エネルギーから発する放射線が周りに広がって見えただけの現象である。しかし危険な物ほど美しく見えるもので、巨大な雫が儚く割れて中身が溢れ出るように拡散した瞬間、それは始まった。
 まるで天から神の光が降り注ぐような光景だった。雌しべの先から一筋の光が地球の表面に延びて、何隻かの戦艦と交戦中のポケモン達ごと瞬時に焼き払った。細いだけの光はどんどん太く広がっていき、同時にセキタイタウン周辺の海を蒸発させ、その海底すら砕いて掘り進んでいく。その広がる勢いは留まる気配を見せず、むしろ勢いを加速させて次々と戦艦やポケモン達を呑み込んでは無差別に蒸発させていった。
 ある艦は逃げられないと悟るや否や、ありったけのパワーをバリアーに回した。また、あるオオスバメは身を守るべく飛ぶ事を捨てて身を翼で覆い、《守る》に専念した。それらの懸命な努力をゴミのように踏み散らかして、神の如き光は等しく消し飛ばした。
 更には地形にも被害を与えた。ついにはマントルまで光線が届き、周辺一帯の地殻に巨大なひび割れを起こさせたのである。海底には新たな海溝が生まれ、そのひびは陸にまで伸びて、端はセキタイタウンに差し掛かる寸前に及んだ。

 それは遠く離れたカントー地方、ジョウト地方、その他多くの地方にも少なからず影響をもたらす事となる。特定の地域には地震を、他の地域にも大津波という形で災害を送り届けるも、それは数時間後の話である。
 とにかくそれだけ遠くの地からも、空を見上げれば天から降り注ぐ威光が地を焼く様子を見届けることができた。史上最悪の兵器が使われた瞬間を、人々は恐れ戦き、ただ同盟艦隊の無事と勝利をひたすら両手を合わせて祈るばかりであった。

 ようやく光が収まると、リベンジャー号は再び反転世界から空間に渦のようなゲートを開き、僅かばかり生き残った艦隊を引き連れて現実世界へと戻った。そして一面に広がるまっさらな光景に、ただただ口をぽかんと開ける事しかできずに、乗組員達は総じて立ち尽くしてしまった。
 何も、何も残っていないのである。まだ遠くに北部進攻軍と南部進攻軍が戦っているのが見えるだけで、先ほどまで戦場だった一帯は綺麗なまでに一掃されていた。多少海が荒れて大渦を形成しているだけで、空は雲を吹き飛ばされたお陰で晴れ渡り、その下には戦艦もポケモンも、その残骸さえ残っていなかったのである。

「なんて事を……」

 覇気がごっそりと抜け落ちた口調で、エドウィンはぽつりと言った。
 その時だけは、ポケモン達の接近警報のサイレンが鳴り響いても自分の仕事に集中する気にはなれなかった。万単位で瞬時に命が奪われた跡を、ひたすら落ち着いて眺めているしかできなかった。
 やがて、新たに向かってきたポケモン達がリベンジャー号のバリアーに迸る《10万ボルト》の電流を浴びせてきてブリッジが揺れると、ようやくエドウィンは夢から覚めたばかりの寝起きのような声で訊ねる。

「被害は?」
「新たに確認が取れない艦は……128隻です」

 フレデリカの声も、やはりエドウィンと同じで呆けていた。いや、彼よりも先に、彼に伝達すべく情報を集めて把握した彼女の方がより絶望の色を帯びていた。

「セキタイタウンのジェネシス放射線兵器のエネルギーレベルを探知しました、予想通り、この規模だと間もなくカロス地方全土の環境を造り替えられてしまうでしょう」

 彼女は泣きそうな震える声で更に続ける。

「世界中から侵略軍の援軍の第1波が到着するまであと15分もありません、既に被害は艦隊の半数近くにのぼり、前方には伝説のポケモン達、上空からは古代兵器が……」

 次々と攻撃を浴びせられ、火花の散るブリッジに、その声が虚しく響く。
 その後の声がどんな報告をしたかはまったく覚えていない。エドウィンはいくら報告を受けても、いくら機体に攻撃を浴びても、命令はおろか息をする事さえすっかり忘れてしまっていた。だが打つ手無し、それだけは認めたくなかった。

「前進だ」

 命じられる事はただひとつ。既に諦めを帯びているせいか、まったく熱のこもらない声でエドウィンはそれを唱えた。
 乗組員も、副官のフレデリカも、それに異論を挟まなかった。もう何もできない、だが何かしなければならない、その矛盾した葛藤が彼らを死の谷へと突き動かしていった。

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