オレン

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作者:
読了時間目安:14分

この作品は小説ポケモン図鑑企画の投稿作品です。

 ぼく、メタモン。
 ふにゃふにゃしてて、あんまりしっかりしてない。
 でもいろんな姿に なることが出来るから、そんなに困らない。姿を変えるのは、たのしい。
 しゅみ、コーゴーセイ。ミドリのがないから、ほんとはコーゴーセイしてない。ただの、ひなたぼっこ。お日さまがぽかぽかして、きもちいい。

 ――ひっく、うぇぇん……

『……?』

 ぼく、おき上がった。どこからか、かなしい声がした。こんなにお天気ぽかぽかなのに、くもりの空みたいな泣き声がした。ふにゃふにゃしながら声をさがす。
 がさがさ。
 見つけた。

「うぇっく……ひっく……うえええええん……」

 ちいさい女の子いた。はなみずと、なみだを流して、泣いてた。
 かなしいのかな? ぼく、ふにゃふにゃしながら近づいた。
 がさがさがさ。思ったより、大きい音がした。

「っ!?」

 あれ?

「い、い、い……いやあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 女の子、大声で逃げてった。
 こまった。ぼく、足おそい。
 でも、姿を変えられる。

 へんしん!

 ぼく、ポニータ!
 とっても速い! ひずめを鳴らして、走り出した。これならすぐに追いつけるぞ!
 でも、そのあとは?
 ぼく、走りながら考えた。





「うえええええん!! いやあああああああ!! 帰りたいよおおおおおお!!」

 女の子、見つけた。やっぱり泣いてた。ぜっきょうしてる。ちょっぴり申しわけない。たぶん、ぼくのせい。
 でも、今度は大丈夫。

 へんしん!

 僕、男の子!
 女の子と同じ、人間だ!
 がさがさ、茂みの中から出た。

「っ! だ、だれ?」

 僕、大成功。女の子が泣きやんだ。
 でも、致命的ミス! そっくりに変身は出来るけど、喋れない。

『……』

 女の子が僕を見つめてる。僕、焦ってる。
 どうしよう。

「……あ、あなたも、まいご?」

 僕は首を横にふった。この森がお家だから、僕は迷子になりようがない。

「ちがうの?」

 首を縦に振った。僕は女の子に、手を差し出した。女の子が、じっと僕の手を見てる。恐る恐る、女の子が僕の手をとった。
 僕は、ほっとした。このまま、手を引いて森の出口まで送ろう。

「どこいくの?」
『……』

 僕、喋れない。
 ごめんね。

「もしかして、たすけてくれるの?」
『……』

 僕、チラッと女の子を振り返った。首を縦に振った。女の子がぱあっと明るい顔になった。
 お日さまみたいに、笑った。

『……!』

 笑った顔は、とても可愛かった。





 ぼく、メタモン。
 今日もコーゴーセイ。

「ねぇ、いないのー!?」

 ききおぼえのある声がした。ぼく、ふにゃふにゃしながら声へむかった。

「どこにいるのー!?」

 迷子の女の子がいた。こんどは泣いてないけど、さけんでる。森じゅうのともだちが、面白そうに女の子みてる。
 いたずら好きのイトマルが、つーっと糸を女の子のせなかに垂らした。

「ぎゃああああああああああああああ!!」

 女の子、さけびながら逃げた。
 森のおくへ。
 ぼく、しんぱいになって、追いかけた。
 またポニータに変身して、追いかけた。すぐに見つかった。

「うええええええん! ここどこー!?」 

 また迷ってた。

『……』

 へんしん!

 僕、男の子に変身した。がさがさ、茂みから出た。

「っ!? あっ! 見つけた!」

 女の子が僕に駆け寄ってきた。見つけたっていうか、僕が見つけたというか。

「あ、あのね、前にね、迷って、助けてくれて、ありがとう!」

 僕の複雑な胸中など露知らず、ぺこっと女の子が頭を下げた。頭を上げると、手にもったバスケットをぼくに見せた。良い匂いがする。ピクニックにでも来たのかな?
 でも、僕と女の子がいるのは、森の少し奥の日があまりささない場所だ。とてもピクニックしたくなる場所じゃない。

「それでね、その、クッキー焼いたの! おれいにって! ママと!」

 そう言って、女の子はバスケットの上のハンカチをとった。渦巻き模様のクッキーと、カラフルなサンドイッチが入ってた。
 僕は、眼をぱちくりさせた。

「あげる! それだけ! ばいばい!」

 女の子は全力で僕にバスケットを押しつけ、走り去ろうとした。
 木にぶつかった。
 ずるずると痛みにうずくまる。

「いたい……」
『……』

 僕は女の子に駆け寄った。
 女の子、危ない。とっても危ない。僕は、手を差し出した。女の子は涙目で僕の手をとった。

「うっうっうっ……いたい……」

 女の子はぐずぐず泣いている。赤くなったおでこと、小さな鼻を押さえている。

『……』

 僕は前と同じように、女の子の手を引いて歩き出した。つないでない方の手で赤いおでこを押さえ、女の子がついてくる。すこし歩いて、僕は木の前で止まった。僕は女の子の手を離し、ぐっと構えた。
 そして、走り、木に全力で体当たり!
 盛大に木が揺れた。ぐわんぐわんと幹が小刻みに揺れ、葉っぱが騒ぎ出す。騒々し葉っぱの間から、いくつか何かが落下した。その内の2つを落ちる前にキャッチすると、僕は女の子に渡した。

「え? これ、くれるの?」

 僕は頷く。女の子はきのみを受け取った。が、どう食べようか少し迷っているようだった。僕はもう一つを口に近づけると、がぶりと齧った。果汁が歯の間から滴り、甘い味が口の中に広がる。
 美味しい。

「……えい!」

 様子を窺っていた女の子も、同じようにかぶりついた。一口目を含むと、眼を輝かせる。夢中で食べ始めた。

「おいしい! ありがとう!」

 女の子が笑った。まだちょっと額と鼻は赤いけれど、にっこりと笑顔になった。

『……』

 僕、嬉しい。






「こーんにーちわー!!」

 女の子、また来た。

 へんしん!

 僕、男の子!
 でも今度は何の用事なんだろう?

「ママもね、お礼したいんだって! 家においでよ!」
『……』

 女の子は、とんでもない事を言い出した。その顔に悪気はないし、本人もきっとない。女の子は、僕が本当はメタモンだって知らないんだ。だから仕方ない。
 僕は眉を下げて、首を横に振った。

「駄目なの?」

 駄目。
 僕は、野生のポケモンだ。捕まったら、きっともう森に帰れない。お父さんも、お母さんも、友達も、帰ってこなかった。
 みんな森から少し出たところで捕まって、二度と帰らなかった。
 だから、僕は――今は一人。

「どうしても?」
『……』

 僕は、首を縦に振った。

「そっか」

 女の子は、悲しそうにそう言った。そのまま今日もお話ししたけど、しょんぼりしながら帰っていった。
 もう、こないかもしれない。

『……』

 ぼく、かなしい。










「おーい!!」
『……!』

 ぼく、がばっと起き上がった。すぐに男の子に変身して、森の入口まで走った。

「あ! いた!」

 女の子が森の入口で、にっこり笑って手を振っていた。

「今日は、じゃじゃーん! マフィンです! そして豪華版サンドイッチと紅茶です!」

 女の子は大変にテンションが高かった。

「一緒に食べよ!」
『……』
 
 もう、来ないかと思ってた。
 僕は、にっこり笑って手をさしだした。

「美味しいね!」
『……』

 女の子と、お日さまの当たる場所でサンドイッチを食べた。

「君って、ぜんぜん喋らないね」
『……っ!?』

 むせかけた。

「だ、だいじょうぶ!?」

 すぐに女の子が紅茶を渡してくれる。詰まりかけたサンドイッチを流し込みながら、動揺で崩れかけた体に集中する。危ない。どうせ変身だから、喉に詰まっても死なないけど、変身がばれたら一貫の終りだ。
 僕は紅茶を飲み終わり、じっと女の子を見つめ返した。質問の意図は何処にあるんだろう?

「私、ちょっと喋るのが苦手だけど、あなた喋らないから話しやすいよ!」
『……』
 にこにこしてる。
 なんだ、杞憂か。僕は安心して、次のサンドイッチに手をのばした。

 手が、崩れて、丸い塊みたいになってた。

「どうしたの?」
『……』

 サッと手を隠した。素知らぬ顔で、変身で作った服の袖を伸ばす。女の子は気がついて無いようで、僕が手をのばしかけたサンドイッチを掴んだ。細く、小さな手で持ったサンドイッチを、美味しそうに口に運んだ。

「でもお話しできないなら名前も分からないね。ねぇ、好きな風に呼んでもいい?」

 僕は手を隠しながら、首を縦に振った。
 まだ身体は落ち着かない。首筋を、変な汗が流れた。
 女の子は、気づかない。両手をパンと叩いて、僕に顔を寄せた。

「じゃあね、オレン! 前にくれた木の実、オレンの実でしょ? ママに教えてもらったの」
『……!』

 僕は、眼を見開いた。
 僕は、メタモンじゃなくて、オレン。ぶるりと、崩れかけた手が震えた。

『……』

 ぼく、うれしい?










 女の子、よく森にきた。ぼく、いつもへんしんして会いに行った。
 でも今日は、女の子はこなかった。
 来るって、言ってたのに。
 ぼく、そわそわする。おちつかない。
 どうしたんだろう。
 病気にでもなったのかしら。

『……っ』

 ぼく、森をとびだした。
 ポチエナに変身して、女の子の匂いを追いかけた。森をぬけて、小道をはしって、すぐに町についた。ちいさな町だった。
 でも、ひと、いっぱい。モンスターボールを持ったひとがいて、売ってるお店があって。

 すこし、こわい。

『……!』

 ぼく、かべに変身した。
 みんな、ぼく、きづかない。ぼく、息をひそめて、夜をまった。お日さまがかたむいて、しずんで、ひとがだんだんいなくなって。ホーホーがなきだして、人の声がきえた。
 ぼく、目だけ出してきょろきょろ。よし、だれもいない。

 へんしん!

 ぼく、ポチエナ!
 匂いのつづきをたどる。女の子の家は、すぐだった。2かいある、ちいさなお家だった。女の子は、2かいのおへやにいるみたいだ。ポチエナでは上がれない。

 へんしん!

 ぼく、ポッポ!
 やねにとんだ。まどから、へやの中を見る。
 女の子がベッドの中でうなっていた。ぜぇぜぇとあらい息で、ときどきせき込んでいる。まっかな顔から汗をながして、くるしそうだった。
 ぼく、森にとんでもどった。
 もどって、元気の出るきのみと、お花をあつめた。でも、ポッポじゃかかえられない。
 たくさん持ってってあげたい。すぐにもってってあげないと。

『……』

 ぼく、ちょっとムリすることにした。

 へんしん!

 ぼく――カイリュー!!
 まえに一回見ただけだけだから、ところどころあやふや。でも、なんとか、少しなら持ちそう!
 ぼく、りょうてにきのみとお花をかかえて空を飛んだ。まんまるお月さまが夜を明るくしてくれる。これなら迷わないぞ!
 ばさり、ばさり。
 夜空を、大きなつばさでとんだ。やねに降りようとして、みしっと音がした。おもすぎた。ぼく、あわててとびあがった。
 しかたない。飛びながらきのみとお花をおこう。まどにちかづく。

「……きみ、だれ?」

 女の子が、おきていた。

『……!!』

 ぼく、きのみとお花を落としかけた。女の子、ふわふわした目でぼくを見てる。

「きみ、空がとべるの?」

 ぼく、とべない。カイリューは飛べるけど。

「だったら、ごほっお願い。森に連れてって!」
 
 女の子、せき込みながらいった。

「今日、やくそく、してたの。ひゅー……げほっだから、いかなきゃ!」
『……! ……!』

 ぼく、ぜんりょくで首をよこにふった。げほげほ、女の子、くるしそう。たいへんなのに、森にいったら、だめ。

「だめなの? ……そう」

 しょんぼりしたけど、女の子、あきらめてくれた。ぼく、ほっとした。

「――会いたい、なぁ」

 ぽつりと、女の子、つぶやいた。

『……』

 ぼく、きのみとお花を女の子にさしだした。いっしゅん、女の子、きょとんとした。

「……? あ、ありがとう」
 
 ぼく、女の子にばいばいして、飛んだ。

『……っ!』

 少しとんで、女の子のお家からはなれると、ぼく、すぐにもとにもどった。ぼくより強いポケモンになるのは、ホントはすごくたいへん。とってもつかれた。
 町の中だけど、ちょっとだけ。ちょっとだけ休んだら、森にかえろう。

 ちょっとだけ。



「へぇ。こんな町中に、メタモンなんて珍しいな」



 ――だれかの、声がしたきがした。


 







「お前のメタモンって変わってるよな」

 悪友がたびたびそう言うが、正直俺もそう思う。 そもそもメタモン自体、表情が、笑ってるのか、怒ってるのか、泣いてるのか、よく分からん存在だ。でも、俺のメタモンはよく分かる。
 別に俺が「俺のメタモン最高! あいつの事なら何でも知ってるぜヘイヘイ!」と熱い友情を感じている訳でも、変態染みたポケモンブリーダーみたいに24時間表情と変化について観察日記をつけている訳じゃない。
 ただ、酷くあのメタモンは人間じみているのだ。
 時々、教えてもいないのに少年の姿をとるところを見ると、実際人間に強い興味を抱いていると思われる。

「オレさぁ、たまにあいつがメタモンだって忘れそうになるよ」
「馬鹿言うなよ」

 どうひっくり返っても、ポケモンはポケモンで、人間は人間。
 メタモンは人間になれないし、俺もポケモンにはなれない。

 しかし、あの少年がメタモンだと知らない人間がいて、仮に友達になったとして。その関係性はどういったものになるんだろう?

 ポケモンと人間は、何処までいっても友達的「主従関係」だ。
 それは俺たち人間が、ポケモンをモンスターボールに閉じ込める限り、変わらない事。

「なぁオレン。お前の目に、俺たちはどう映ってるんだろうな」

 少年の姿をしたメタモンは答えない。
 干からびたオレンの実が、かさりと乾いた音を立てた。


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