覚醒の時
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
俺は『力』が欲しかった。
有名になる人物は、何らかの『力』を持っている者ばかりだ。
権『力』腕『力』智『力』。
『力』があれば人を助けることも殺めることも好きに出来る。
何かを従わせることなど容易だ。だが、それもこれも『力』があるならの話。
『力』が無ければ人を助けることも殺めることも出来ず、ただただ自分よりも『力』があるものに従うしか出来ない。
そして、従っていた人も自分よりも『力』があるものに従っていく…。
気づけば自分は各下。終わることの無い負の連鎖。
『力』があればいいのなら…。俺はこの世で最も強き『力』…。
暴れる『力』。そう、『暴力』を手にいれる。誰も逆らえない『力』を…。
ゴウカザルは手にエネルギーを込めながら、ルカリオ達に言う。
「良いよなぁ…。お前らには力があってさ」
ルカリオはそれを聞いて眉をひそめる。
「力だと?お前らが言うことか…?お前らは力があるから各地を襲っているんだろ。曲がりきった力をよ」
ゴウカザルはその言葉を聞き、溜め息をついた。
「わかってねぇなぁ…。お前らには、俺に勝る力を持っているって言ってんだ」
そのままゴウカザルは続ける。
「ルカリオには仲間に異常がないかを常に見ている。そしていざってときの思い切りの良さ」
「サーナイトなら他の人とは比べ物にならない魔力を持っている。そして冷静に回りを見れる判断力」
「…どれも俺には無い強さを持っている。羨ましい限りだよ…」
突然、突拍子もないことを言い出し、ルカリオ達は戸惑った。ゾロアークが一歩近づく。
「何が言いたいのさ…?」
ゾロアークが目を細めながら言った。
するとゴウカザルは腕に貯めたエネルギーを放ち、揺らめく炎の槍を作り出した。
「なぁに…、深い意味はねぇよ。ただ、やっぱり力は素晴らしいと思ってよ…!『槍』!」
その揺らめく炎の槍を、勢いよくゾロアークへと投げた。激しい熱風を放ちながら、ゾロアークへ接近していく。
「…なんなのさ!魔術!『魔法壁』!」
ゾロアークは槍が飛んできた方に右の手の平を向け、青い魔方陣が描かれた壁を作り出した。
”ガキィィィン”と鉄と鉄がぶつかり合うような音をたて、必死にゾロアークは『魔法壁』にエネルギーを注ぐ。
「ぐぎぎぎ…!強いね…!」
ただ投げただけの槍は、『魔法壁』を破ろうと威力が落ちずに当り続ける。ゾロアークは歯を食い縛り、何とか耐える。
「わお。頑丈だね…、その壁。じゃあ二撃目行っちゃう?」
またもゴウカザルは手にエネルギーを込めようとする素振りを見せた。流石のゾロアークも、2回目は耐えれそうもなかった。
だが、バシャーモとルカリオはそれを止めようと走り出していた。
「させるかよ!!」
バシャーモは直ぐにエネルギーを右腕に込め、ルカリオも両手に青い火を灯す。
「波動…!」
二人の全力の技が、ゴウカザルに繰り出される。
ゴウカザルはそれに対して、
「ふっ!甘いなッ!」
一歩前にゴウカザルは移動し、バシャーモの頭とルカリオの頭を掴み、二人の頭を地面へ叩きつけた。
「ぐぁっ!!?」
「うっ!?」
地面に頭が当り、小さく跳ねて倒れた。
二人の頭からは血が流れ出してきた。かなりの痛みなのか、二人は悶える。
「ル、ルカリオさん!バシャーモさん!」
サーナイトは取り乱し、二人に近づこうとする。
だが、ルカリオが倒れながらまたそれを拒む。
「…下がれぇ!お、俺達は…。ぐっ! だ、大丈夫だから…!」
二人は頭を押さえながら、ゆっくり立ち上がった。
「…」
体制をなんとか立て直した二人を見ながら、ゴウカザルは黙った。
だが、すぐにゴウカザルは槍を作り出した。
「まあ、いいか。…殺るか」
どうやらゴウカザルはルカリオの『オーラブレード』を見ていたようで、一言呟いた。
ゴウカザルが何かをしようとした時、槍を弾いたゾロアークが、ゴウカザルの目の前まで走ってきた。
「アンタの好きにさせないよ!鉄のムチ!『サイドワインダー』!」
ゾロアークは自分の爪を歪ませ、鞭のように変形させ、ゴウカザルを叩きつけた。ゴウカザルにダメージが響く。
「…っ!…アンタから寝るか…!?『槍』ぃ!」
鞭を受けながら、ゴウカザルはゾロアークの腹に槍を突き立てる。ゾロアークは腰を捻り、ギリギリでそれを避けた。
「っ!危ないね…ッ!?」
するとどういう訳か、避けた筈のゾロアークの腹に、深々と剣が突き刺さっていた。しかも、避けたのは槍なのにだ。剣はやがて消え、ゾロアークは口から血を吐き出した。
「が…ぁ……!?」
ゾロアークは意識が朦朧とし、うつ伏せに倒れた。腹から、血が流れ出す。
「ぞ、ゾロアークッ!…テメェェェっ!!」
バシャーモはその光景を見て、気が狂ったようにゴウカザルへと走り出す。ゴウカザルはそれを、ゆっくりと見た。
「…次はお前だな。…『焔』」
ゴウカザルは手に火球を作り出し、ゆっくりとバシャーモに投げた。受けるまでもないスピードだったので、バシャーモは避けた。
すると、火球がバシャーモを通り過ぎると同時に、火球から突然槍が飛び出した。
「なんだとッ!?うぐぁ…!!」
バシャーモは完全に油断しており、飛び出した槍に反応出来ず、左足に深々と槍が突き刺さった。ルカリオは戸惑う。
「ゾロアークッ!バシャーモッ!…クソッ!なんだあの技はっ!?…サーナイト、少し離れて回復を頼む」
サーナイトは言われる前に魔方陣を作り出しており、何かを唱えていた。ゴウカザルはそれを見逃さなかった。
「ケッ、させっかよ…!」
ゴウカザルはエネルギーを溜めながらサーナイトへと走る。そこに、ジュカインが立ち塞がった。
「…っ!」
ジュカインは無言でゴウカザルの右ほほ辺りを蹴りつける。ゴウカザルは少し足でブレーキを掛け、屈んでそれを避けた。すぐさまゴウカザルは反撃をする。
「『拳』!」
ゴウカザルはジュカインの横腹を右フック気味に殴りにいく。ジュカインのスピードなら余裕で避ける事が可能だ。だが、ジュカインは避けなかった。ジュカインに鈍いパンチがめり込む。
「…くっ!…は、はは!てめえの、技のカラクリが分かったぜ……!」
ジュカインは口から血を少し垂らしながら、ゴウカザルの右腕をしっかりと左手で掴んだ。ゴウカザルは唖然とする。
「…技の、カラクリ…?」
ルカリオはジュカインに聞き返した。ジュカインは左手に魔力を込める。ゴウカザルは手を離そうとするが、ジュカインは離さない。
「…くらえ!『気合玉』!」
ジュカインの左手から魔力が弾け、ゴウカザルは間一髪手を離し、少しだけ手の甲に引っ掻き傷が残った。
ジュカインは直ぐに佇むゴウカザルから離れ、ルカリオの隣に移動した。
「…奴の技は、魔力の変換だ。技を打って当たらなかった時に、別の技を打てる。その証拠に俺が殴られた時、別の技を打てなかったんだ」
ルカリオはそれを聞き、緊張が増す。
「…ルカリオ、お前等は逃げろ。さっきの二人、ほっとくとヤバイぞ。…生憎ゴウカザルは俺が狙いみたいだからな」
ジュカインはルカリオ達を巻き込んでしまった事に少し責任を感じており、罪滅ぼしのつもりでそう言った。だがルカリオは
「断る。俺は、いや、俺達はお前だけの為に戦っているんじゃねぇ…。それに、仲間を傷付けたコイツを…許しはしない!」
ルカリオはそう言い放ち、ジュカインは少し笑った。
そんな中に、バシャーモが体を起こした。足にダメージがあり、立ち上がれはしないのだが、ルカリオの方を向き、叫ぶ。
「もう、俺やゾロアークは動けねぇけど…。絶対に負ける訳にはいかないんだ!どうか、三人共頑張れ…!」
とバシャーモは叫んだ。ルカリオはそれを見て、深く頷いた。バシャーモの言葉で、ルカリオの顔つきが変わる。
バシャーモの声を聞き、ジュカインは
「…お前もいい仲間を持ってるんだな…。だが、ヤバくなったら…」
不意に何か言葉を言いかけるが、
「いや、やっぱりいい。俺の為だけに戦ってねえもんな…!」
ルカリオはそれに答える。
「ああ!仲間を傷つけたコイツをぶっ飛ばす!…足を引っ張るなよ!」
ルカリオとジュカインの利害が一致し、ゴウカザルへの戦闘体制を取った。
ゴウカザルは更にテンションが上がり、笑いながら
「ははぁ!いいねいいね!三人だけで戦うってのかい!なら来いよ!仲間と同じ目に合わせてやるよ!」
指をルカリオ達に指し、挑発した。
「違う!俺達だけで戦ってんじゃねえ!皆の期待を背負って来てんだよ!…『オーラブレード』!溢れる力を俺に!」
何を思ったか、ルカリオは剣を上に高く上げ、叫んだ。
すると、なにがあったのか『オーラブレード』から光がルカリオへと吸収されていき、ルカリオの体が光輝く。ゴウカザルは目を丸くする。
「父さん…母さん…そして、兄さん。これがこの剣を使いこなす方法なんだな…!」