(ヒロ視点)
森の入り口の手前にて。
「ついたよ!」
「あ、ありがとう……」
汗だくのシンがオレの方に振り返る。達成感に満ち溢れた顔をしていた。
嘘だろ?
ついてきていいとは言ったが。
「なんで行き方分かってるんだ?」
もともとは海の上に氷で道を作ってなんとか行こうとしていたというのに、シンはオレを足で掴み、島から森へ一直線に飛んで行った。
霧がかかっているところを容易く抜けた。
いや、抜けたとしても、その先にどこまでも同じ海の光景が広がってるはずなんだが。
「行き方?うーん、なんかよくわかんないけど、わかったんだ」
「お前……すごいな」
「え?そ、そうかな、えへへ」
≪照れ≫≪嬉しさ≫ ≪恐怖≫
「!」
わずかに≪恐怖≫がある。
そうだ、ここは森だ。シンにとっては地獄。
でもここで一匹で待たせるのも危険だ。
「シン。これから森に入る」
「……うん」
シンが真剣な表情になる。
「きのみをとりに行くだけ。バトルは極力しない。他のポケモンにも何もしない」
シンはオレと目を合わせて頷く。
「それでも何かあったらオレが守る。オレから離れないでくれ」
「わかった、僕、森頑張る」
≪恐怖≫はまだある。でも、初めて出会った時や初めて水を飲みに行った時とは全然違う、いくらか覚悟を決めたような顔をしていた。
洞窟での泣き顔が浮かぶ。
少しずつだが、本当に少しずつだが凛々しくなってきている。
すごいな。
なんでそんなにすぐに成長できるんだ。
うらやましいよ。
「……よし。行くぞ」
「これくらいだな」
しばらく集めた結果、目の前にオレ達の背丈ぐらいのきのみの山が出来た。
空もちょっと暗くなってきていた。
「すごい、ヒロ」
「ん?シンも頑張ったじゃないか」
「そういえば、これどうやって持ち帰るの?」
「そうだなぁ」
もともとやる予定だったことするか。
「よっ」
手から小さい吹雪を出す。きのみが岩のような氷の中に閉じ込められた。
「こうする」
口を開けて驚いているシンの顔が氷に映った。
「こう見えても軽いから島まで持ち帰れるぞ」
「やっぱりすごいや、ヒロは」
シンが氷を触りながら呟く。
ていうかついさっきもすごいって言われたような。
「こんな強い氷作れるなんてすごいな、どうやって強くなったの?」
「……それは」
「!!」
なにかくる
とっさにシンを掴み、自分もろとも伏せさせた。
上を≪敵意≫が通る。
がさっと草が音をたてたほうを振り返ると、自分達よりも大きなポケモンが一匹、怒りの形相でこっちを見つめていた。
薄汚れている毛は逆立ち、先が二つに分かれた長いしっぽが激しく動いていた。
あれ、こいつ……
「あくタイプだろお前」
大きなポケモンは低い声を出しながらゆっくりと近づいてくる。
シンの肩を持ったままこちらも少しづつ後ずさりをする。
きのみをとりに行くだけ。バトルは極力しない。他のポケモンにも何もしない。
シンの足取りが少しふらついている気がする。恐怖からかもしれない。
ていうか、あくたいぷって何だ?
わからないが、とりあえず今はシンを守らないと……
しかしシンの方に視線を移したその刹那、
「ぐはっ」
腹に衝撃が走った。シンから手が離れ、背中が地面に思いっきり叩きつけられる。
足で腹を思いっきり踏まれている。
「ヒロッ」
震えた声が聞こえる。
「お前に聞いてんだよあくタイプ!!」
逆光の顔が身動きの取れないオレをどなる。
ああ、
やっぱりそうだ。はっきり覚えている。
池のヤツだ。
シンと知り合って、すぐに水を飲みに行った時の。
あの時と一緒だ。怒っている。恨んでいる。
「許さない、倒す」
視線の正面を陣取る薄く汚れた額の石が光りだした。
音をたててエネルギーが溜まり始める。
まずい、攻撃してくる、
エネルギーの玉の大きさが頂点に達した。
その時。
「嫌だー!!」
シンの声と同時に、オレを踏みつける足がぐんっと離れた。
目の前のポケモンがふらつきだす。
視界の端にそのポケモンの体にタックルするシンが見えた。
その瞬間大きいポケモンの額からビームが発射される。
岩か木か、何かに当たって反動でそのポケモンの体がさらにバランスを崩す。
「シン……!?」
何してるんだ、いろんな意味で!!
驚いているオレの前に大粒の涙を浮かべたシンが現れる。
「逃げる、はやくっ」
息が荒い。気持ちが読めない。
少しパニックになっているようだ。
こうやっていつも逃げてきていたんだろうな。
そんなことより、はやくしないと
シンと目を合わせ無言で向こうを指さし、その方向に二匹で全速力で逃げた。
「待て、逃げんなあくタイプ」
結構な距離を走っている。
(あいつは、なんでだ)
さっきのポケモンのことが頭から離れない。
シンも小さい声で「怖い」と呟きながらついてきている。
そうだよな。知らない、大きいポケモンが急に全力で襲い掛かってきたからな。
かさっ
「「!」」
草の音がした。
受けた衝撃が大きすぎて、オレら二匹とも冷静さを欠いていた。
「あっ?!」
驚いてよろけた拍子に、足で草のようなものを踏み抜いた。
「ヒロ!ヒロッ!!」
目の前が土の色になる。
シンの声が遠のいていく。
何かをする間もなく、オレは尻餅をついた。
目の前に、土でできた空間が広がっている。
(穴に落ちたのか……)
「ヒロ!!」
「うおっ?!」
声が馬鹿でかく響く。後ろにシンがいた。
「大丈夫?!」
「なんだぁ?見ねぇ顔だな」
「久しぶりの投稿すぎて僕たちがきのみ集めるのにすごくてこずってたみたいになってるよ…」