Episode 82 -Stained memory-

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読了時間目安:21分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 狂気の産物ともいえる謎の絵で染まった旧閉鎖病棟。その犯人を追うえっこたちチーム・テンペストは、遂に相手を最上階に追い詰めるも、そこで一つの事実が明かされることになる。
 大量の不気味な絵が壁の随所に描かれた旧閉鎖病棟の待合室。この狂気の産物を生み出した張本人が潜んでいるかも知れないという状況に、えっこたち4匹は全神経を研ぎ澄ませて警戒している。


「何も動きがないね……。やはり既に別のフロアか部屋にでも移動してるんだろうか?」
「チッ……ふざけた真似しやがって……。こんな趣味の悪いコケ脅しで俺たちがビビると思ってんのかよ!? オラァ、コソコソしてねぇでとっとと出てこいよ!!!!」

「ちょっ、マーキュリーさん、落ち着いて……!! ここはかなり老朽化した建物ですし、そんなことしたら倒壊しますって!!!!」

痺れを切らしたマーキュリーは、近くにある目玉の絵が描かれた壁を、力任せに殴り付けて粉砕した。慌ててマーキュリーを説得するえっこだったが、次の瞬間何かの音が一行の耳に入ってきた。


「えっこ、マーク、避けろっ!!!!」
「うわっ!? 何だこの光線!?」

「サイケこうせんかよ!? 敵はエスパータイプか!!」
「今、一瞬だけ敵の影が曲がり角から見えた……。確かに魚の骨みたいな、鳥の骨格みたいな、枯れ木みたいな、例えるならそんな感じの姿だったよ!!」

トレの一声のお陰で攻撃を回避するえっことマーキュリー。ユーグの見張っていた方向からサイケこうせんが飛んできたらしく、彼曰く敵の姿は枝分かれする細いシルエットが特徴的とのことで、ガマゲロゲから聞かされていた目撃情報とも一致している。


「野郎っ……!! でもこれでぶちのめす理由ができたってもんだよなぁ?」
「注意して後を追うぞ。だがここは奴の根城だからな……何か罠があるかも知れねぇ。無策に突っ込むな!!」

マーキュリーとトレに続き、えっことユーグも気を付けながら敵の消えていった方角へとひた走る。先程ユーグが敵の姿を目撃した曲がり角の壁に背中を付け、その先を用心深く確認するトレ。
やがて彼は無言で頷いて合図をすると、他のメンバーと共に曲がり角の先へと駆け出していった。


「ここも絵に溢れてる……。しかも絵の内容が変わってますね、これは人間みたいです……。俺たちに馴染み深い姿をしている……。」
「確かに、ポケモンじゃねぇ感じの生き物が描いてあんな……。えっこの言う通り、間違いなく親父から見せられた人間の資料にそっくりな形だぜ。」

「でも頭や足、手の平などが異様に大きく描かれている……。それも片方だけ大きかったり、変に細長かったり……。一体どうして……?」

1階の通路はまたもや謎の絵で埋め尽くされていた。しかも今度は人間型の生物の絵が数多く描かれており、その大半の身体の一部が異様に大きくなっている。


「ねぇ、あそこを見てよ。青いペンキが階段に滴り落ちてる。敵は2階に逃げたんじゃないかな?」
「上等だ、コソコソ逃げ回るならどこまでも追いかけて、後がないとこまで追い詰めてやるぜ!!!!」

「目玉の絵……×印だらけの目や口の絵……大きな手足の人間……。一体何なんだろう、もしかして関連性が……? 何かを伝えようとしているのか……?」

ユーグが指し示す先には2階への階段があり、上の方から青いペンキが階段へ滴り落ちていた。マーキュリーが拳をボキボキと鳴らす中、えっこはこれまで目にしてきた病棟の絵の数々を思い出し、深く考えるようにそう呟いていた。









 2階に入ると、階段のすぐ脇に小さなガラス窓付きの鉄扉が見えた。その扉に青いペンキが塗り付けられていたため、えっこたちは意を決して扉を押し開けた。


「ここからは入院病棟みてぇだな。とはいえ、何だか牢屋みたくなってやがる……。明らかに普通じゃない病棟らしいな。」
「恐らく、重度の精神疾患の患者を収容する入院病棟なんだろうね。鉄格子にベッドとトイレだけの部屋……。まるで刑務所の中みたいだ。」

トレとユーグは病棟の中を見渡すとそのように呟いた。2匹の声が冷たい空間にこだまする中、一行は閉鎖病棟の鉄格子だらけの病室の前をゆっくりと通り過ぎていく。


「おい、あれ見てみろよ!! 何で病室に電気椅子みてぇのがあんだよ!!」
「聞いたことがあります……。昔、精神病への理解が今ほど進んでいなかった時期に、患者の頭に直接電極を差し込んで、電気ショックを与える療法が存在していたと……。あの電気椅子は、恐らくそのための医療器具ではないでしょうか?」

「言えてるぜ、頭に被せる電極部分が取り外せそうな形になってるしな。恐らく、脳の任意の場所に突き刺せるようになってるんだろう。治療のためとはいえ、色々と狂ってんな……。」

マーキュリーが指差す病室は、壁も床も天井も一面が青のペンキでべったりと塗り潰されている上に、中心部に電気椅子のような古ぼけた装置が置いてある。

青色の部屋の中で1つだけ浮き立っている錆色の椅子は、えっこやトレの言う通りに脳に電気ショックを与えるための治療具なのだろうか?


「ここにも奴の気配はなしか……。こうなったら、最後の3階に行くしかないね。何か誘導されてるみたいな気さえするけどさ。」
「待ちな、確か3階に通じる階段はここだけだよな? 他にも2つあるにはあるが、既に解体されて行き来できないようになってるらしい。野郎が逃げたときのことも考えて、俺がここに残って待ち伏せしとくぜ。」

「分かりました、相手を取り逃がしてしまったときは、すみませんがお願いします。」
「そっちも気を付けて行ってこいよ。こうも頭のイカれた野郎だから、マジで何しでかしてくるかも予想できねぇしな。」

トレの指示で、えっことユーグとマーキュリーの3匹が3階へ向かうことになった。最もスピードや戦闘能力の高いトレは、敵の逃走を阻止するために階段付近でじっと息を潜めている。


「またしてもこれはっ……!! 何か、完全にサイコパスの域ですねこりゃ……。まるで虐殺でも起こったみたいな……。」
「だがここはもう取り壊し済みで、あるのはただっ広いフロアと柱だけみてぇだな? とっとと出てきやがれ、かくれんぼは終わりだぜこの野郎!!!!」

取り壊しが進んで壁が取り払われた大広間には、まるで飛び散った血飛沫の如く赤いペンキが無造作にばらまかれている。マーキュリーが叫ぶ声が大広間にこだました直後、何者かが中央の大きな柱から顔を覗かせた。


「やっとお会いできたね。さて、こんなふざけた真似をしてる理由を聞かせてもらおうか? 建築物の不法侵入及びペンキによる汚染、これだけでも立派な犯罪だよ?」
「あっ、あなたたちもワタシの芸術記録を破壊するつもりなのデスか……!? ならば、戦うしかないのデス……!!」

「芸術……!? ちょい待ちです、ユーグさんもマーキュリーさんも攻撃は控えてください。俺な少し話をさせて欲しいんです。」
「はぁ!? こいつは俺たちに攻撃まで加えてきた張本人だし、ユーグの言う通り……えっと……。まあ何でもいい、犯罪者だぞ犯罪者!!」

「いいから、少し俺に時間をください。話を聞いてみて俺を攻撃してくるようなら、もうやむを得ませんが。」

えっこはマーキュリーを宥めるとヘラルジックを発動し、蒼剣を出すための腕輪や脚輪を放り捨てた。カランと軽い金属音が小さく鋭く響く中、えっこはゆっくりと今回の騒動の犯人であるポケモン・シンボラーへと歩み寄っていった。


「心配しないでください、さっき投げ捨てたのが俺の持ってる全ての武器です。だから今は丸腰、あなたに直ちに危害を加えるつもりはありませんよ。その芸術というもの、少しお聞かせ願えますか?」
「…………ほ、本当に何もしないのデスか?」

「ええ、約束します。そこの2匹にも攻撃を止めるように話しましたから。個人的に何か引っかかるのです。あなたが単純な気まぐれや酔狂で、ここまでの作品を作り上げるとは思えない……。何か、伝えたいことがあるのではと感じています。」
「分かりマシタ……。あなたならお話を聞いてくれそうデスから……。」

シンボラーは自らもえっこに近寄り、事情を打ち明け始めた。










 「ワタシがこの作品を手掛けた理由の前に、ワタシが生まれた経緯をお話する必要がありマスね……。ワタシは、この病院のこの病棟で生み出されマシタ。」
「この病棟で……? ここに産婦人科なんてあったかな……?」

「そうではありマセン。ここに暮らしていた者たちの言葉や思いが形となり、魂が宿って生まれたのがワタシデス。皆さんも見てきたのデショウ? ここは末期の重病患者や精神病の隔離病棟、そして障害者の保護病棟として使われてきた場所なのデス。彼らは通常の人間やポケモンよりも強い思念を残しマス……。だからこうして、ワタシのような存在が形となって現れるのデス。」

どうやらシンボラーは、この病棟に入院する患者の思念や意思が具現化して誕生したポケモンらしい。不治の病や末期症状を持ったが故に死にたくないという強い思いが生まれたり、精神を病んだり障害を持つために他人とは違う何かが見えたり、そういった者たちの思念は一際強く残留するのだという。


「ところで、お前さっき人間って言ったよな? ここってポケモンが作った病院じゃなかったのか?」
「おっしゃる通り、今の病院はポケモンが作ったものデス。しかし人間の時代にも、ここには高い医療技術を持つ国が存在し、あらゆる病気を扱うことのできる最先端の医院があったそうなのデス。だからこそ、世界中からあらゆる患者……とりわけ他では手に負えなくなった者たちが送られてくることになったと聞いていマス。」

「なるほど……もしかしてその思念や意思を、ああしてペンキによる絵で表現しようと……?」

えっこがそう尋ねると、シンボラーは縦に何度も首を振り、壁についた赤いペンキの染みをじっと眺めながら口を開いた。


「ワタシが生み出されたのは、きっとこの場所で外の世界に出ることも叶わず、生きたいという願いも断ち切られ、人知れず力尽きていった者たちの思いを未来に伝えるためだと思いマス。だからワタシはこうして筆を取る。この建物が歴史や記憶から抹消されてしまったら、ここでワタシに願いを託した者たちの思いがかき消されてしまう……だから……。」
「……。」

そう呟くシンボラーの元に歩み寄るマーキュリー。そのまま乱暴にペンキの入ったバケツを奪い取るのを見て、えっこが慌てて引き留めようとする。


「ちょっ、何やってるんですかマーキュリーさん!!!! そんな無下に彼の思いを……!!」
「あ゛ーっ!! 泣がぜるじゃねぇか、このっ!!!! お前の熱い思い、よく分かったぜ!! 俺もお前の力になる!! うわぁぁっ!!!!」

「(マーキュリーさんって意外と涙脆いのか……!?)」

マーキュリーは滝のように涙を流してぐすぐすと鼻を鳴らしながら、ペンキを壁にぶちまけた。えっこは呆れ半分安堵半分といった表情でそれを見つめている。


「俺もその芸術とやら、手伝うよ!! ペンキぶちまければいいんだよなぁ? なら俺に任せてくれればいくらでもっ!!!!」
「あ、いや……お気持ちは嬉しいのデスが……。ペンキは全てああ見えて、計算した場所に撒いてマスので……。」

「だってさマーク。彼の筆筋は、僕らに真似できるものじゃあなさそうだ。だけど、ペンキをぶちまける以外にも僕らにできることならあると思わないかい?」

マーキュリーは張り切ってペンキ入りのバケツを両手に持つが、どうやらシンボラーの作品に勝手な力添えはできなさそうだ。そんな中、ユーグがあるアイデアを一同に告げる。








 「どうした、入りたまえ。」

菜花総合病院の本館最上階にある院長室。まるでホテルのスイートルームのような豪華な絨毯と大理石の彫刻、それにポケモンの彫像が並ぶこの部屋の扉を叩く音があった。


「失礼いたします。あなたがこちらの院長先生ですね? 我々は今回薬局のガマゲロゲさんから依頼を受け、旧病棟の調査に当たっていたチーム・テンペストです。お初にお目にかかります。」
「おお、この度はご苦労であったな。それで、内部はどのようになっていた? 不届き者はばっちり捕まえたのだろうね?」

「ええ、それはもちろん。とっ捕まえて尋問しましてねー。それで色々と面白いことが分かったんですわ。」

院長を務めるのは白衣に身を包んで立派なヒゲを生やした、青色のブルンゲルだった。そんな彼のデスクの前に、トレが率いるチーム一行がぞろぞろと並んで立つ。他のメンバーが少し不安な面持ちを見せる中、トレは院長に事の次第を報告していく。


「何だと!? あの病棟に芸術作品を!? そんなことが許される訳がないだろう、あそこは解体して他の事業者に売却する運びだ、悪いがそのシンボラーには立ち退いてもらう!!」
「やはりそうですか……。俺らとしては、あの場所で思いを残して亡くなっていった患者たちのモニュメントとして、旧病棟を残したいと考えてるんですがねー。」

「却下だ、実力行使をしても構わぬから、とっととそのシンボラーを追い出してこい!!」
「やれやれ、お話が分からないお方とはねぇ……。俺が出会う医者って、たまたまなんだろうがロクなのがいねぇな。俺の親父といいそこの院長といい。」

すると、トレの言葉に反応するようにブルンゲルの青いボディが赤く変わり、遂に激昂の表情へと変わっていった。


「ダイバーの分際で、依頼主でありここの最高責任者である私を侮辱するのか!!!? 貴様のことをダイバー連盟に訴えるぞ!!!!」
「どーぞご勝手に。それならそれで、こっちにも面白いネタがあるんすわ。これ、何でしょうねー?」

トレは懐から、ジッパー付きのビニール袋に入ったものを取り出した。それは針がむき出しのまま付いた注射器であり、かなり長い間野ざらしにされていたのか、ところどころがホコリや泥にまみれていた。


「それは何だ!? そんなもので一体どうすると!?」
「これね、あそこの旧病棟の地下に不法投棄されてたんすよね、それも大量に。シンボラーの奴、クソ真面目で融通の効かない奴なもんで、毎月どれだけの不法投棄があるかをチェックして、地下の部屋に片付けてたんですよね。この医療器具、全部菜花総合病院のマークが付いてるんだよな。」

「なっ、それは……。」
「シラ切るんじゃねぇぞ、あの土地取り壊して他の事業者や病院に売るなんて計画も嘘っぱちだろうがよ。この病院や他の病院の医療ゴミを引き受けて、あそこに埋め立ててポケットマネー肥やす算段なんだろうが、違うのかよ? なあ、院長さんよぉ?」

注射器などの医療ゴミは、通常厳格に決められたルールに則って破棄し、特定の事業者が処分する必要がある。ところがブルンゲルは医療ゴミを旧病棟に不法投棄して、本来処分に充てる予算を懐に入れていたらしい。その上、あの土地を取り壊した後は医療ゴミの埋め立てまで画策しているというのが、トレの推理だ。


「く、口から出任せを……!! 根も葉もない噂でそんな……名誉毀損で訴えるぞ!!!!」
「まだ証拠ならありますよ。病院側の医療ゴミの過去2年間の毎月の統計と、シンボラーが計量したゴミの量が、ほぼほぼ1kg単位で一致するんですよねー。医療ゴミの出処は明らかですね。」

「んで、コイツが何よりの動かぬ証拠だぜ。マーク、再生してやってくれ。」

えっこに毎月のゴミの計量統計を突き付けられてうろたえるブルンゲル。そんな彼を追い詰めるように、トレがマーキュリーに合図を出す。マーキュリーはかすかに口元だけ笑うと、complusの音声ファイルを再生した。


「はぁ……何で幹部クラスの俺たちがこんな汚れ役を……。」
「まあいいじゃないか、これで院長に気に入られること間違いなしだぜ? 院長の意向を誰にも知らせることなく、こうして旧病棟にゴミをぶち撒けると。」

「よくできたもんだよなー、これで処分費に充てた予算が浮いて、病院側は丸儲けって奴だ。」
「旧病棟をぶっ壊したら、今度は埋立地を作って医療ゴミの埋め立て受け入れもやるそうじゃないか。そうしたら、今度は俺たちも甘い汁をすすれるかもなー!!」

それは何者かの会話音声だった。内容から察するに、ブルンゲルの指示の元内密に医療ゴミを不法投棄している病院幹部のものらしい。


「なっ、お、お前ら!! 一体どこでそれを……!?」
「病院内から匿名の内部告発がありましてね。そもそも僕らが、こんなしっちゃかめっちゃかな推理を何の根拠もなしに立てるとお思いで? 安く見られたものですねー。」

「さ、どうすんだ? 今から旧病棟の取り壊しを中止して不法投棄をやめること、そして匿名のタレコミを流した奴に不当人事を行わないことを確約して泣き入れるんなら、隠密に済ませてやってもいいんだぜ?」

最早ブルンゲルに選択肢などなかった。元の体色よりはるかに鮮やかなブルーに変貌したブルンゲルは、トレたちの条件を承諾して誓約書にサインした。








 「やっぱりあなたですよね、こんなタレコミを持ち込んだのは。ね、ガマゲロゲさん?」
「タネ明かしをするまでもなくでしたか……やはり、あなたにはいかなる隠しごとも通用しそうにないと、その瞳を見ただけで直感しました。だからこそ、寸前のところで院長に反旗を翻そうと思ったのですよ。えっこさん、あなたなら信頼できると思ったから。」

「お褒めに預かり光栄です。あなたは調剤薬局の管理職としてのポストにあり、院長の不正を知っていた。しかしそれに対して不満を持っていても、反抗することは難しかった。あの権力の塊みたいな病院の王ですからね……。」

旧病棟に戻ってシンボラーに事の次第を報告する一同。すると、えっこが突然階段の方に目をやる。そこにはこちらを覗き見するガマゲロゲの姿があった。


「そんな折、院長に代わって旧病棟の調査依頼を任されることになりました。今まで彼の言いなりになっていた私でしたが、賭けに出ることにした。登録されているダイバーのプロフィールを眺めていて、これはと思った。案の定、駆け出しなのにかなりの功績を挙げているようで。」
「な、何か照れるじゃないですか……。それで表向きはシンボラーさんの排除に見せかけて、俺たちを現地に向かわせた、と。」

「ええ。しかしシンボラーさんがこの奇妙な出来事の原因だとは知りませんでした……。私としては、院長の不正を暴いて欲しいというのが本来の目的でしたからねぇ。」
「ま、どっちにしたっていいじゃねぇか。院長の野郎の悪事は止められたし、ここの取り壊しも防げた訳だし。ゴールからは逸れちまったが、一応オッケーだろオッケー!!」

ガマゲロゲは今回の依頼を利用してえっこたちに旧病棟の医療ゴミ投棄の事実を見つけさせ、院長に一矢報いるつもりだったらしい。しかしシンボラーの作品が想像していた以上に完成していたために一行の注意がそちらに向き、事態が思わぬ方向へ転んだようだ。

とはいえ最終的に悪は討たれるべきもの。ガマゲロゲがえっこを見込んで送ったタレコミの情報を元に、えっこたちはシンボラーの要望を通すべく院長に挑むこととなった。


「とにかく、この度は本当にお世話になりました。まだ未定ではありますが、ここの建物は病院併設のミュージアムとして活用しようと考えています。かつてここで行われていた非道な治療、不治の病に倒れていった入院患者、一族の厄介物扱いを受け、病院に押し込められた障害者……様々な思いを克明に残す場所なのですからね。」

ガマゲロゲは、ここを力なき者たちの声を残すモニュメント的存在にしたいと話す。シンボラーもそのアイデアに同調している様子だ。

医療の発展や歴史の中には数々の功績もあれば、闇の側面もまた数知れず存在する。そのダークサイドの1つが、現実としてこの旧病棟を舞台に行われていたからには、この場所で1つでも多くの負の財産を後の世に語り継ぐことで、その過ちに償うことができるのかも知れない。

えっこたちはシンボラーやガマゲロゲの思いがそういった力に姿を変えることを強く願いながら、白い城塞のような建物を後にするのだった。


(To be continued...)

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