(6)リスタート

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読了時間目安:10分
今回ちょっと長いです!
何かがおかしい。

オレ達二匹以外の気配がない。
本当に、怖いぐらい誰もいない。何もない。
どういうことだ?
こういう場所には、野生のポケモンの一匹や二匹、いるはずじゃ……


呆然と目の前を見ていると、ワシボンのくしゃみで我に返った。
「さ、寒」
思いだしたかのように、ワシボンが体を震わせて水をはじきだした。
オレはこおりタイプだから寒さはあまり感じてない。
飛んでくる水を腕で遮りながら、オレも足についた砂を払った。

ふと真上を向いたら青空が見えた。
上の方には霧がかかっていない。どうりで環境の割には明るいわけだ。

日光から見るに、今は昼か。
さっきの嵐は何だったんだ。嘘みたいだな。
時間が経ったのか。



とりあえずすみかを探さないと。
そう思い、オレはワシボンを連れて森の方へ向かう。
ワシボンは少し不安そうだったが、だれもいないことは分かっていたようで、素直についてきた。
なんとなくだけど、少しずつ森に慣れてきているような感じがする。
オレといることで……いや、今ここにだれもいないからか。

道中きのみも拾いながら歩いていく。
同じやつばかりだ。
一つかじる。
この感じだと……いろんな色のがあるけど、全部固くて味が薄そうだ。
まあ腹の足しにはなるから大丈夫か。
ワシボンにも分けた。

木や草はそれなりに生えているが、隠れられるような場所がなかなかない。
これは時間がかかりそうだな。
夜になる前に見つけられるだろうか。


池を見つけた。
森にあったのと同じようなものが、自分の背丈ぐらいの草をかき分けた先にあった。
一口飲んでみる。
おいしい、これは飲めるやつだ。

「僕もいい?」
「ああ」
オレの様子に安心したのか、ワシボンも飲み始めた。
周りを見る。風の音しかしない。
あの時みたいに誰からも襲われることなく、ワシボンは水を飲み終えた。

草がまあまあ高いし……
池の所をすみかにしてもいいかもしれない。


一応少し不安なので、別の場所も探すことにした。
それにしても、恐ろしいぐらい静かだな。

「あれ?」
しばらく歩いていると急に森がひらけて、目の前に砂浜が広がった。
さっきと同じ色の砂、白い海にこの深い霧……
つながってたのか?
森のまわりを砂浜が囲んでいるってことか?

「あ、あれ……」
ワシボンが指をさした方を見る。
砂浜が横に長く続いていた。
霧で見えなくなる少し手前に、誰かが二匹で横たわっている。



横たわっている!?

いるじゃねーか他のポケモン!!




走った。
全力で二匹の方へ向かった。
待って、待ってといいながらワシボンもついてきている。

野生のポケモンにこんな近づき方するのは危険だと分かっている。
でもなんだか行かなくてはいけない気がした。
さっきから不気味なくらい静かなのも相まって、感覚もおかしくなっていたんだろう。

ついた。
自分の息は荒くなっていた。
手も震えている。

足の生えた丸いきのみみたいなポケモンと、背中に甲羅がある青いポケモン。
二匹とも目を固く閉じている。
「おい、おい!!大丈夫か、目を覚ませ!!」
体をたたくが反応なし。
息は……ある。

冷や汗が顔からつたって落ちた。
良かった、生きてた。

「え、起きない……?!どうしよ、も、もしかして」
後ろでワシボンが顔を真っ青にしていた。
そうだ、今オレが取り乱したらダメだ。

「大丈夫、助けるぞ」 
「うん、どうすれば……」
「さっきの池につれていこう、水飲ませよう!!」
「わ、わかった!」

ワシボンは飛び上がり、ひょいっと甲羅がある方を持ち上げて森へ飛んでいった。

(え、そっちの方がでかいのに……?)
意外と力持ちなんだな……
まあいいか、とオレもきのみのポケモンを抱えて池へ急いだ。



ワシボンは池に先についていた。
いまだに動かない二匹に少し水をかけてみる。

わずかに動いた。
ワシボンもこれで安心したようだ。
次は口の中に水を入れてみた。
二匹は同時にせき込んだ。

「う……」
甲羅のポケモンが声を出した。力は入っていない。
きのみのポケモンも目を細く開いた。

よかった。
声をかけながら、さっき拾ったきのみを小さく切って二匹にあげる。

しばらく手当を続けていると、二匹は起き上がれるようになった。
ゆっくりだが会話もできるようになった。
きのみのポケモンはアマカジ、甲羅のポケモンはゼニガメというらしい。
二匹の話を聞いていくと、彼らもひどいめにあっていたことが分かった。

話がひと段落した後、アマカジは泣き出した。
「生きてて、よかったよぉ……うわーん!!」
この二匹も怖い思いをしていたんだ。
人間のせいで。

「だ、大丈夫ですか」
ゼニガメが、慌てて泣き出したきのみのポケモンの背中をさすり出す。
「でも、本当に、助けてくださってありがとうございます……」
彼も、話の後に泣きはしなかったものの憔悴した顔をしていた。


そんなこんなで、夜になってきた。
霧のかかっていない真上から星空が見える。

森も黒くなり始め、ワシボンと二匹がきょろきょろと周りを見渡しだした。
周りに何もいないと、それはそれで静かすぎて逆に怖い。

火、おこすか……。

「ワシボン、枝集めながら来てくれるか」
「枝?わかった!」
オレは枝集めもやりながら、二匹をつれて先ほどの砂浜へ出た。
ここでやってもきっと大丈夫だが、
やはり森の中で大きなことをしたらヤバそうな気がする。

砂浜に出た。真ん中あたりまで進んでいく。
二匹は海から目を背向けた。よほどトラウマなんだろう。

集めた枝を積み、氷の塊をこすらせて摩擦で火をおこした。
音を立てて枝が燃え始めた。
「わあ」
「おお」
「すごい……」
周りが急に明るくなり、三匹とも火に見入っていた。

こおりから火をつくれるなんて不思議な話だが、オレの力ではできちゃうんだよな。



「明るいね」
ワシボンが呟く。
「そうだな」

……よく考えたらなんだこれ。
ちょっと前偶然拾ったワシボンに、会ってまだ数時間のアマカジ、ゼニガメ。
メンバーが謎すぎる……

「あの、ほんとに助けてくれてありがとう」
アマカジも話し始めた。
「ああ、別にいいんだ」
「ぼく達、あのままだったと思うと……」

こうやって数匹で会話するのはいつぶりだろう。
あーあ。楽しいな、やっぱり。

なんて考え事をしていたら、
いつの間にかワシボンがオレに助けられた話を二匹に話していた。
得意げに見える。
ちょっと、恥ずかしいんだけど……
ていうか二匹、目が輝き始めてないか?


「わたしも仲間になりたい!」
「えっ」
思わず声が出てしまった。
嘘だろ、この流れ、

「ぼ、ぼくからもお願いしたいです。行くところなくて」
ゼニガメも丁寧に頭を下げてきた。

やっぱりか。
また仲間……

「いいね!みんなで仲間になりたい!」
ワシボンが嬉しそうにいう。
おいおいおいやっぱりオレにあってからなんか変わってるってワシボン!!
まあ悪くはなってないからいいけど……



仲間。
仲間……
あの時みたいだ。

もう一生作る気なんてなかった。
正直ワシボンとも途中で別れるつもりだった。

「仲間!」
「わーい!よろしく!」
「え、もう決まったんですか……?」
火の向こうにみんなの笑顔が見える。
またやっても、いいのかな。
だってこんなに楽しいし。

「あっ」
ワシボンが何かに気づいたようにオレの方に振り向いた。
「あの、どうする……?」
「ん?」
「だってリーダーだし」
「え、オレが?」
でもこの中だったら、立場的にオレがリーダーってことになるよな。
オレがみんな助け始めたんだし、たぶんオレが一番強いし……

ここで断ったらみんな悲しむし。


そうだ、またやればいいんだ。
オレがみんなを守る。
そのために、オレはオレの力を使う。
そうだ、それでいい


「うん、仲間。みんな仲間だ!よろしく!」
アマカジはぱあっと顔が明るくなり、ゼニガメも何度もありがとうと言っていた。
ワシボンの顔も明るくなった。
「笑った!」
「?」
「だってずっと顔固くて怖かったから」
「ええ?!」
マジか。気を付けないと。



「よし、じゃあ名前決めよう」
「「「名前?」」」
「仲間といったら名前さ」
仲間を作る。そう決心したからにはちゃんとしないとな。
自分のテンションが上がってるような気がした。

「ワシボンワシボン、わし、ん、……シンにしよう」
「おおー!そういうことですね!」
「僕、シン……!かっこいい!すごい!」
かっこいいかは分からないけどな。
ていうかこんな名づけ方でみんなはいいのか……?
とにかく、このワシボンはシンとなった。

……という感じで、アマカジとゼニガメもアマとゼニーになった。
アマは楽しそうに「あまあまー」「ぜにぜにー」とオレの名付けの真似をしていた。
横でゼニーは困り笑いしている。


「シンにアマ、ゼニー、これからよろしくな!……もう暗いな、池の方で寝よう」
「ねえ、きみの名前は?」
アマにぽかんとした顔で聞かれた。
すっかり忘れてた。どうしよう、何て言おう。

「オレはニューラ」
「あ、そうなんだ」
シンがぽろっとつぶやいた。
そういえばワシボンに会ってから割と経っていたのに、オレのこと何もいってなかったな。
「ニューラさんと言うんですね。ニューラ、ニュー……」


「じゃあヒロは?」


ゼニーがうーんと考え込んでる最中に、アマがオレに向かってぱっとつぶやいた。
「ヒロッ?」
「うん!全然かかってないけど……助けてくれたヒーローだもん!だからヒロ」
「わあ、すっごくいいね!それに、ヒロは[[rb:拾> ヒロ]]ってくれたヒーローだし!」

一通り盛り上がった後、オレ達は池へ向かい寝ることにした。


オレは仰向けになって星空を見ていた。
「『ヒロ』、ね……」
オレに新しい名前がついた。

起き上がって横を見ると、ベット代わりの草の上で三匹がすやすや寝ていた。
一応周りを見渡す。
本当に何の気配もしない。
再び寝ころんだ。

仲間を作るって決めたんだ。
これからはオレが頑張っていくんだ。
「ふーっ……」
息を吐いて、目を閉じた。
やっと名前が決まりました。

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