少しだけ物語が動きます。(当たり前か)
オレは再びワシボンの手を引き、とある場所へと向かった。
しげみをかきわけてどんどん進んでいく。
「本当に出るの?どこにいくの?」
「とにかくいこう、オレが守るから大丈夫」
不安になっているワシボンを引っ張って進む。
引っ張る、といっても、ちゃんと歩いてついてきてくれているから、拒んでいるわけではないはずだ。
オレは、平静を保てているのだろうか。
ふと気になった。
まあ大丈夫だろう。
ついた。
森の探索をしている時にたまたま見つけた港だ。
茂みからのぞき、船を指さす。
「あれに乗るぞ」
ここに泊まっている船はいつも海の方へ行く。大きいやつも小さいやつもだ。
今回のは……中くらいだな。
それに、船に中に乗り込む人間やポケモンはいつも違うやつらばかり。同じやつを見たためしは今のところない。
だから、遠くにいけるはず。
そういえば、たまに何も泊まってない日もあったな。今更だけど、今日がその日じゃなくて本当に良かった、とオレは胸をなでおろした。
『ブルーチャ海ツアーへご参加の皆様、こちらへどうぞ』
『楽しみだねー!』
『写真撮ってモンスタにあげよ』
人間達が何かを話しながら続々と船に乗り込んでいる。
「あれに乗るの?あの人達にバレちゃうかも」
「いや、屋根だ」
船を指さしていた腕を上にあげた。
「上る場所も見つけてる。行くぞ」
オレは泊まっている船の一番近くに生えている木に、爪をひっかけながら登っていった。
ワシボンは飛んでついてきた。
屋根と同じ高さぐらいの枝から、勢いよく飛び移る。
少しだけ冷気も駆使し、音を立てないように屋根へ着地した。こう使うのは便利なんだけどな。
ワシボンも屋根についた。飛べるのはやはり楽なのだろうか。
「これでいくんだね!」
「ああ」
ワシボンは少しわくわくしているようにも見えた。
きょろきょろと周りや海を見始める。
次第に下の人間共の様子も見ようとしだしたので、さすがにバレるからよせと屋根の真ん中の方へ引き寄せた。
なぜかはわからないが、≪不安≫が少なくなってきているのは良かった。
しばらくして、船は動き出した。
「どこいくの?」
「分からない」
「えっ」
「あ……」
船(の屋根)に乗って少し経ち、海の香りにも飽きてきた時。
やらかした。
ポロッと何も考えずに喋ってしまった。
「えっと、ちょっと行く所の名前忘れて、だから分からないんだ」
「……」
「まあ、森よりはずっといいところだから、大丈夫だから」
ワシボンから目をそらし、独り言のように答えてしまっているオレがいる。
……ワシボンと会ってからオレ、なんかむちゃくちゃになってないか。
どうしてだ。なんでだ。
なんか軽はずみなんじゃないか。
さっきも船のことを何も考えずに連れ出したし。
久々に一人じゃなくなって、体が困惑しているのか。
ああ、もっとちゃんとしないと。
オレが守らなきゃいけないんだから。
「そっか。森よりいいなら、僕大丈夫!ありがとうね」
沈黙が流れる。
船はまっすぐ進んでいる。
(どうしよう。どこに行こう。何も考えていなかった)
船が少し揺れる。
(これは、どこに行くんだろう)
船が揺れる。
(森はダメだ、ワシボンの、仲間のために。街も人間共がいる)
揺れる
(どこへ行ってるんだこれは、そもそも、オレに行けるところなんてあるのか)
「……の」
揺れる
オレは、どうすれば
「……の、」
「あ、あのっ!ちょっと、船がっ!!」
「え?」
その瞬間、大きな衝撃が屋根から伝わった。
船が一気に傾き、オレたちは海に放り出された。
水の中にドボンと落ちた。
急いで海から顔を出すと、壁のように高くたつ波が目に入った。
黒すぎる雲から雷も大きな音を立てている。
ひびが入った船、のようなものが沈んでいくのも見えた。
波がこちらに来る前に、片手から出した冷気で全て凍らせる。
使っていない方の手の爪で切り裂いた。
なんだ、海はさっきまでこんなことになってなかったのに、いつの間に荒れたんだ?!
考え事をしてて、気づかなかった、
そうだ、ワシボンはどこだ?!
仲間が、いなくなるっ、
「ワシボン!!」
波だった氷の塊の向こうで見つけた。
船の残骸のようなものにつかまり、必死に海から顔を出している。
「……クソッ!!」
オレのせいだ!!
冷気を発射し、自分の周りの水を凍らせる。
その上に乗り、全速力で走った。
襲ってくる波を凍らせて壁を蹴るように進み、氷上を走りながら冷気でさらに道を伸ばして、ワシボンの方へ向かう。
波によって、走った後の氷の道はどんどんと壊されていく。
「はあ、は、助けてっ、」
波にもまれるワシボンをなんとかつかまえた。
「絶対に、はなすなよ!!」
どうにかしてこの状況を打開しようとするが、海の荒れはもちろんオレの思い通りには止まらない。
氷で足場を作ろうとしたり波を止めようとしたりしたが、ワシボンと一緒に波に翻弄され、技がなかなか海の方に当たらない。
ワシボンは目をぎゅっとつぶりオレの体にしがみついている。
しがみつく翼も、≪恐怖≫と寒さでガタガタと震えていた。
クソッ、どうにかしなきゃ、
何もできない中、ふと気づくと視界に霧がかかっていた。
「!?」
周りが霞んでいる。
なんだこれは、まずい、
何が起きているのかわからないが、とにかくワシボンを離さないようにぎゅっと抱き続ける。
ついに周りが全て白くなり、何も見えなくなった。
オレの体も震え始めた頃、
急に地面に足がついた。
さっきまであんなに海の中でもがいていたというのに。急にあっけなく静かになった。
「……?」
一体何が起きたのかがわからない。
水がいつの間にかオレの腰くらいの高さになっている。
とりあえず抱いていたワシボンの位置を上げ、水に体がつかないようにした。
どういうことかと思い周りを見渡すと、
「……ん?」
霧の奥の方に、海ではない色が見えた。
それに導かれるかのように水中で足を動かしていくと、突然広い砂浜が視界に入ってきた。
向こうには森への入り口のようなものも見える。
海に投げ出されて、いつのまにかどこかに流れついていたのか。
しばらく砂浜を歩き、海から遠くなった安全なところで、ずっと抱いていたワシボンをおろした。
ワシボンも急に状況が大きく変わっていたことにやっと気づいたようで、あっけにとられていた。
二匹で目を合わせる。
そして、前を見る。
オレたちは、空一面を霧に覆われた不思議な陸地に立っていた。
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