其ノ肆

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ありがとう。このネイルチップ、結構上手く出来たって自負してるんだ」

「自作なんですの?」

「うん、そうだよ」

「アイちゃんって、手先が器用なのですわね。メイクも良く似合ってらっしゃるし……アイちゃんは、紫色がお好きなの?」

「うーんどうだろう。確かに紫色をよく使うね。好きなあの子の色だから、自然と紫色の物を集めちゃうんだよね。紫のアイシャドウ、ケバい?」

「いいえ! ただ、紫色のメイクは使うのが難しいと聞いたことがあるので……使いこなせているアイちゃんは凄いなぁと……アイちゃんは、紫色も勿論似合ってますけれど、桃色や白色みたいな柔らかいお色も似合いそうですわよね」

「そうかな? そうだったらいいなぁ」

 アイビーはケラケラと笑い、自分の爪を撫でた。

「趣味なんだ、爪弄るの。元々は爪を噛む癖と首を掻き毟る癖を無くすためにネイルをゴテゴテ付け始めたんだけど、気付いたらネイルチップを作るのが楽しくなっちゃって。コスモはネイルとかする?」

「いいえ、興味はあるのですが……挑戦してみたことは無いんです。ネイルサロンの注文ページを見てみても、よく分からなくて……お裁縫は得意なんですけれど、お化粧はあまり得意じゃないし、ネイルも気後れしちゃって……でも、アイちゃんの爪とてもお綺麗だから、こんなに可愛く出来るなら、わたしもしてみたいと思いました。アイちゃんはご自分でやられているのですか?」

「うん。ネイルサロンでやるとお金かかっちゃうからさ。自分でやれば好き勝手に弄れるしね。

 今度一式持ってこようか? 折角だし、やらせてよ。ボク、友達にネイルしてあげるの初めてなんだ」

「! はい、是非!」

 コスモはまた嬉しそうに笑った。そのタイミングで担任教師が教室に入ってきたので、二人は会話を止め教卓の方を向いた。

 担任教師はまず自己紹介をして、それからクラスの生徒に一人一言ずつ自己紹介をさせて、今後の一年間の予定をザッと話して……と担任教師としてやるべき事を一つずつ行っていく。アイビーはそれをまたぼぅっと話半分に聞いていた。

 学校という場所はイベントが多いと聞いていたが、その通り随分色々とある。“遠足”とはなんだろう。“運動会”とは何をするんだ? “マラソン大会”とはなんだ? “文化祭”もよく分からない。分からないが、流れに身を任せていれば何とかなるだろうと楽観的に考えて、回ってきた自己紹介の順番も適当に済ませる。

「はじめまして。タイラ・アイビーです。楽しい学校生活にしたいです、よろしくお願いします」

 パラパラという拍手を受けながら着席して、アイビーはふぅと息を吐く。早速、この学校という空間を退屈に感じてきていた。

 やがて30人のクラスメイト全員の自己紹介が終われば、担任教師は一度教室を出て、それから30個のモンスターボールが乗ったプレートを持ってまた入ってくる。

「ではこれから、新しく皆さんの手持ちとなるポケモンを配布します。皆さんの中には、このポケモンがはじめてのポケモンになる人もいるかもしれません。この学園で過ごす間、皆さんは今日配られたこのポケモンと共に成長することになります。大切に育ててくださいね。それでは、出席番号順に取りに来てください」

 担任教師の言葉で、出席番号一番の生徒から立ち上がり、自分に割り振られたポケモンを取りに行く。アイビーも流れに沿って自分のポケモンを取りに向かった。

「はい、これがタイラさんのポケモンです。大切にしてくださいね」

「はい、そうします」

 アイビーは両手でモンスターボールを受け取って、自分の机に戻った。

「うわぁぁ!!!」

 その時だ、突然教室から悲鳴が上がる。驚いて振り返れば、教室の一角で腰を抜かした男子生徒とその男子生徒に敵意を剥き出しにしているポカブの姿があった。たしか、自己紹介で『ヤマキ・ライラ』と名乗った少年だ。自己紹介の時は下を向きオドオドしていて、頼りなさそうな印象を受けた。

 何をしたのかは知らないが、ポカブの怒りを買ったらしい男子生徒へ向けて、ポカブは[ひのこ]を放つ。男子生徒はまた悲鳴を上げて、彼の恐怖と動乱が教室内の生徒に広がり、生徒からポケモンにも広がり、にわかにパニックが起こる。担任教師は事態の収集をするために「落ち着いて!」と声を張り上げるが、子供達の悲鳴を収めることは出来ない。

 アイビーはやれやれと言いたげに肩を竦め、そちらへと歩いて行った。

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