Episode 63 -Marching in light-

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 えっこたちの前に姿を現す、現在の調査団のメンバー4匹。彼らを加えたえっこたちは、2つの聖地に向かう行軍の作戦会議へと移っていく。
 クチートに呼びつけられて、まさしくドタドタといった具合に駆け上がる足音が2匹分。慌ただしく姿を見せたのは、みずうさぎポケモンのマリルリと、きのこポケモンのキノガッサだった。

「よっしゃ、一番乗り!! これで俺は遅刻組の中じゃ一番マシってこったよなー? セーフセーフ!!」
「どこがだよ、遅刻してるのに開き直るな『ネロ』!! というか3時間も遅れてんだし少しは申し訳なさそうにしろよお前ら!!」

「だって『シャルル』の奴が足引っ張るからー。」
「僕足引っ張ってないですー!! 遅刻したのは主に残り2匹のせいですからっ!!」

ネロと呼ばれたキノガッサはいかにもお調子者で底抜けに明るく、少し幼さの残るシャルルという名のマリルリは、そんな彼に振り回されっ放し。見た感じそんな印象だろうか?


「紹介しよう、そこのキノガッサがネロ、接近戦が得意な鉄砲玉役で22歳。そっちのマリルリはシャルル、遠距離攻撃を得意とするサポーターで14歳だ。」
「おー、えっこ先輩たちじゃないっすか!! お久しぶりです、ご無沙汰してましたっ!!」

「相変わらず騒がしい連中だな……団長の頭痛の種になってないだろうな?」

クチートはネロとシャルルを一同に紹介する。彼らはハリマロンえっこたちとは面識があるらしく、何ともいえない鬱陶しそうなリアクションで出迎えられていた。


その後、先程の2匹とは対象的にゆっくりと階段を上がる足音が、会議室に段々と近づいてきた。
やがてそのまま徐ろに入室してきたのは、眼鏡をかけたはつでんポケモンのエレザードと、ピンク色をしたふゆうポケモンのプルリルだった。


「団長、ただいま帰った。今回も実に面白いダンジョンでな、ついつい長居をしてしまったよ。磁鉄鉱の原石がわんさか採れるものでね、宇宙からの隕石が溜まりやすい土地なのかもな。」
「やっぱ遅くなったのお前のせいか……。毎回待たされる俺の身にもなってくれよー、『イヴァン』よー。」

「私は何回も早く帰ろうって言ったのに……リーダーが大丈夫大丈夫って…………すみません……。」
「あー、もうそう落ち込むな『メアリ』、9割方そこのアホのせいだから……な?」

鉱物を片手に嬉しそうに語るエレザードのイヴァンと、か細い消え入るような声でどんよりとするプルリルのメアリ。メアリを宥めるフローゼルの代わりに、デンリュウが溜め息混じりに立ち上がる。


「そこの彼がエレザードのイヴァン君です。30歳の最年長で、彼らのチームのリーダーを務める地質学者。もう一方の彼女はメアリ、18歳。チームの紅一点でとことんネガティブなのが玉に瑕ですが、白魔法の腕前は折り紙付きですよ。」
「ところで気になるのですが、やはり彼らの名前って……。」

「ああ、全員偽名だよ。何でも人間に語り継がれた、おとぎ話の王族の名前を取ったらしいな。」

クチートによると、ネロ、シャルル、イヴァン、メアリの4匹はいずれも例に漏れず偽名を名乗っており、犯罪者からの逆恨みを回避できるようにしているらしい。
そんな調査団のメンバーたちにアークの一同を紹介し終えると、いよいよ本格的な作戦内容の企画へと話題が移る。








 「まあいい、丁度アークのみんなにも聖地について説明し終えたところだ。お前らは既に聖地とか、そこで起きてることに関しては分かっているだろう? とっとと作戦についての話し合いを始めるぞ。」
「うむ、確かえっこ殿にローレル殿といったな? 何とも……えっこ先輩と同じ名前のポケモンがいるというのも奇妙だが……。おっと失礼、私たちはあなた方に同行させていただく。どうかよろしく頼むよ。」

「はい、よろしくお願いします。ところで、他のメンバーはどのように?」
「それに関してですが、ワタシとケロマツのえっこ君とローレルさん、それから調査団のみんなは結晶の神殿へと向かいます。ハリマロンのえっこ一家といるか君、ローゼン君はテンケイ山を頼みます。」

「ワタシとフローゼルとニアはここに残って作戦状況を管理する。互いのチームの得た情報などを、逐次共有する必要があろう。」

やはり一刻を争う状況だけあって、2つのチームで一気にアタックをかけるようだ。結晶の神殿担当はえっこ・ローレル・デンリュウ・イヴァン・ネロ・シャルル・メアリの7名、テンケイ山担当はハリマロンえっこ・カイネ・メイ・マーキュリー・カザネ・いるか・ローゼンの7名となった。


「えっこにカイネ、君たちはテンケイ山に行く前に『おだやか村』に立ち寄りなさい。しばらく振りだったでしょう?」
「しかし、それならば何も作戦前に立ち寄らずとも……一刻を争う状況なのですし。」

「『コノハナ』さんにきちんと元気な顔を見せておくのです。それにカイネのお爺様のお墓参りも済ませておきなさい、君たちの手腕を信用していない訳ではありませんが、これからの戦いの中では、本当に何が起こるか分からない。やれる内にやらねば、ですよ?」
「ではお言葉に甘えさせていただきます。」

そんなやり取りを聞いて、えっこやローレルたちは不思議そうな表情を見せていた。そんな彼らにデンリュウたちが説明する。


「『コノハナ』さんとは、えっこの育ての親のことですよ。かつてはダークマターの手先としてえっこを騙したこともありましたが……カイネたちの心に触れて改心し、ずっとえっこのことを本物の父親のように見守ってきた方です。」
「私もあの方には全く頭が上がらないくらいだ……。血は繋がっていないけれど、私の人生の苦楽を共に苦しみ、そして喜んでくださった、私にとっての父親さ。」

「それから『おじい』は私の育ての親。私もミュウの転生体だから親なんていないけど、村に住んでたアバゴーラのおじいが、私をずっと見守って育ててくれたの。ちょっと怒るとガミガミうるさかったけどね。」
「とはいえ、彼は高齢でな……10年前にご逝去された。私とカイネが、いわゆるできちゃった婚になってしまった際にも、心の底から祝福してくださった、そんな情に厚く優しいお爺様だったよ。」

口惜しそうに語るハリマロンえっこの様子からして、おじいは血は繋がっておらずとも、とてもよい父親代わりの存在だったようだ。
コノハナが住み、おじいが安らかに眠っている地こそ、カイネの故郷である『おだやか村』という場所であり、テンケイ山の麓に位置しているらしい。


「さて、思い出話はここまでにして次に移ってください。よろしくお願いします。」
「ああ、そうだな。まずは両チームともに共通目的として、『現地の異変や被害の有無を調査すること』、『レギオンやレギオン使いが現れた場合には速やかに討伐すること』、これらを遂行してもらうことになるぜ。」

「現地で例のレギオン使い共が現れる可能性は非常に高い……。したがって奴らとの交戦になった場合には、何かしらの情報を上手く聞き出すことを心がけるとしよう。奴らを生け捕りにして連行し、情報を吐かせることができれば、なおよしなのだがな。」
「そのときは任せてよ、拷問のフルコースを彼らに振る舞うからさ、はははっ!!」

相変わらずのローゼンの趣味の悪い笑いに、誰もが引き攣った笑いを見せて沈黙している。このままでは埒が明かぬと、えっこが口を開く。


「あの……地図上で確認してみると、俺たちがいるワイワイタウンから結構離れてますよね? 2つの聖地ってどっちも……。どれくらいかかるんですかね?」
「ざっくりで計算すると3~4日程度だろうか。もちろん、私たちもどちらの聖地にも訪れたことがあるのだが、道が分かっていてもやはりそれなりに距離があるのでね……。」

「アンタたちや俺たち調査団メンバーは、ワイワイタウンから平原をひたすら進むことになる。困ったことに鉄道や長距離バスといった交通手段は通ってなくてな。神殿まではそんなにアップダウンこそないものの、果てしない道のりになるぜ。」

えっこの疑問に答えるイヴァンとネロ。標高差かまそこまでないのが幸いではあるが、代わりに神殿までの距離は溜め息を禁じえない程に長く、とにかくストイックで辛い行脚となりそうだ。


「おだやか村まではそこまでは離れてないはすけど、こっちのルートはかなり高い山を超えなきゃならないんだよね、確か……。」
「カイネさんの言う通り、とっても険しい山道です……。標高2500mの山地を突っ切るから、体調崩さないといいけど……。」

「うげぇ……そんな山道大丈夫かなぁ……。僕何だか自信がないや……。」
「うるせぇな、お前もダイバーなんだから辛抱してついて来い。辛い中を頑張って突破するからこそ、成長できんだぞ。」

メアリが心配そうに呟くのを見て、思わずいるかも弱音を漏らす。そんな彼を諌めるようにマーキュリーが小突くと、いるかは気合を入れ直すかのように目を強く瞑ってから、再び開いた。


「いずれにせよ、聖地に辿り着くまでも長く険しい道のりになる。だから今日は準備と休息に集中し、明日朝に出発することとしよう。平原のど真ん中や山道で、体力の消耗による行動制限に見舞われてしまうと死の危険性も出てくる。急ぎたいところだが、ここは慎重に出るべきだ。」
「クチート女史の言う通りだ、自然を甘く見ると大変な目に遭うかも知れない。ここは万全の態勢を整えて向かうことにしよう。長い目で見ると、その方が近道ともいえるからな。」

「よかったぁ……取り敢えず休めるんだ……。昨日は本当の本当に一睡もしてないし、早くベッドで休みたいよ……。」
「ん? 俺たちレギオン騒ぎの2時間くらい前に消灯したよな? お前そんなに寝付き悪かったん?」

「あーーーー、誰のせいだと思ってるんですかねー?」

いるかはわざとらしく低い声でそう答えてみせた。対するマーキュリーは不思議そうな顔つきで首を傾げている。彼の鈍感さは折り紙つきのようだ。










 夜9時過ぎ。えっこは眉間に皺を寄せながら、デンリュウの部屋の受話器を握っていた。


「ユーグさーん、本当にセレーネに変なことしてませんよねー? 後、ゲームやりすぎてないですよね? あー、それから野菜残してるかも知んない。いっつもブロッコリーとかカリフラワーをこっそり残すんですよー、ちゃんと食べさせてくださいよ? ねぇ、聞いてますユーグさん!?」
「あー……もう分かってるよーっ!! 君って過保護なんだから全く……。セレーネ君ならいい子にしてるよ。先に言っとくけど、ちゃーんと宿題もやらせてるからね、心配ご無用!!」

「ならいいですけど……。今セレーネは?」
「ゲームしてるね。あれは子供の間で流行ってるのかな? マーイーカが墨を飛ばして陣取り合戦するシューティングゲーム。結構上手いみたいだよ、彼。」

すると、えっこが一層表情を険しくして受話器を耳に押し当てた。


「そんなこと何でもいいです!! もう寝る時間なんだから、やめさせるように。ユーグさんみたく夜ふかしさせちゃダメですからね!!」
「失礼だなぁ、僕が夜ふかしする羽目になるの、95%くらい先生のせいだからね!! あの課題の量は血も涙もないんだから、全く……。」

「あのぉ……もう30分程電話を占拠されていますが……もうそろそろよろしいですかね?」
「あわっ、ごめんなさいっ!! もう終わりにしますーっ!!」

えっこは苦笑いするデンリュウに囁きかけられ、慌てて受話器を置いた。デンリュウはやれやれと肩をすぼめる。


「えっこさん……やっと終わりましたか……。全く、君はセレーネに対して過保護すぎですよ?」
「それユーグさんにも言われたー。そんなことないと思うけどな。まあ、セレーネもちゃんといい子で待ってるみたいだし、トレさんも看護師さんナンパしてるくらいには元気みたいだし、向こうのことは大丈夫だな。」

「しかし、明日からの行軍は大丈夫でしょうか……。場合によっては、僕もレギオン使いと初めて相対することとなる……。」
「心配するな、君のことは俺が必ず守る。そして、君は苦境を跳ね返す力を持っている。その強さは、俺だってあの晩目の当たりにしたんだ。自信を持っていいと思うよ。」

えっこが微笑みかけると、ローレルも無言で軽く頷いて応える。そこにデンリュウものそのそと歩み寄ってきた。


「ええ、えっこ君の言う通りですとも。我々調査団も付いていますからね。百戦錬磨のワタシ、デンリュウが一緒とあらば、何も恐れる必要などないのですっ!!」
「そ、それ自分で言っちゃうんですか……。でもハリマロンのえっこさんの上司だったポケモンとその仲間だから、確かに心強いことこの上ないです。一緒に頑張りましょうね!!」

自信満々の顔つきで胸を張るデンリュウに対し、えっこは苦笑いを見せる。ローレルは、そんな2匹の様子に笑みを漏らすのだった。


「うあーっ、やっとふかふかベッドで寝られると思ったのにー!!」
「まあそう落ち込むなって、俺たち調査団はどんな環境でも眠って休息が取れるよう、こうして普段から藁の寝床で眠ってんだ。郷に入っては郷に従えってな、ははは。」

一方調査団本部1階では、寝室のベッドを見ているかが落胆していた。どうやら調査団には藁葺きのベッドしか存在しないらしく、昨晩マーキュリーのイビキのせいで一睡もしておらず、ふかふかベッドによる疲れの解消を期待していたいるかは頭を抱えている。


「まあいいか……昨日はマーキュリーさんのイビキがうるさすぎて眠れなかったし、藁のベッドでも余裕で眠れちゃいそうですよ……。」
「あー……兄貴のイビキヤバいからね……。普段は音楽スタジオに追いやって寝かせてるくらいだし……。あそこなら防音壁あるし、地下だからね。」

「うーん、もう眠くて倒れそう……。おやす……み……なさい…………。」

藁のベッドにうつ伏せに倒れ込んだいるかは、そのまま数秒で夢の世界へと入ったらしく、男子高校生とは思えぬ愛くるしい寝顔を見せ始める。
カザネとフローゼルは、顔を見合わせてから揃って肩をすぼめてみせた。


「懐かしいね……。私と君が調査団にいた頃は、まさにこの部屋で、こうして寝泊まりしてたんだもんね……。」
「ああ、この藁の寝床も相変わらずのようだな。茎がグサグサと刺さるから、ゴロンと豪快に寝転ぶこともできやしない。まるでその場に地雷でも埋まっているかのように、そっと寝転がるこの感覚が何ともいえないもんだ。」

ハリマロンのえっこは、藁のベッドを目の前に、溜め息混じりに顔をしかめている。カイネはそんな彼に身体を寄り添わせていた。


「それにコートやスカーフが藁まみれになるのは嫌だ。あーっ、というかベストもじゃねぇか、何で寝るために裸にならなきゃならんのだ……。」
「ふふ、ポケモンなんだから別に恥ずかしいことじゃないでしょ? それに何か、一瞬だけ20年前くらいの君みたいな口調で、ちょっと面白かったなー。」

「やれやれ、そんなに今の私……いや俺の喋り方が気に入らないときたか。もう若くはないんだ、無茶振りするな。」

すると、カイネは得意げに片目を閉じてハリマロンえっこを睨んでみせた。まるでいつも彼が他のポケモンに対して偉そうにする態度のようだ。


「『それより早く寝ることにしようぜ、昨日の騒ぎで瞼が重いのだ。君は俺の妻の癖に、俺が寝不足に弱いことを忘れてしまったのか?』とか?」
「何だそれは、20年前の私のマネか?」

「『他に何があるというんだ? 全く、君の想像力の乏しさには毎度驚かされる。』ってな感じでしょ?」
「小っ恥ずかしいからやめろ、私は断じてそんなに陰険な語り口などしない。はぁ……分かった、もう降参だ、頼むから寝かせてくれ。君も疲れを明日に残すといけない。一緒にゆっくり休もう。」

「うん!! お休み、えっこ。」

カイネはどこか低い声でハリマロンえっこの言動を真似てみせる。
ハリマロンえっこは少し顔を赤くしながら困惑の表情を見せると、やがて会話を無理やり切り上げ、カイネを抱き寄せて寝床に入った。


こうしてワイワイタウンでの夜は更けていき、明日の旅立ちの第一歩の時が刻一刻と迫りくるのだった。


(To be continued...)

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