Episode 61 -Explorers-

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 無事にワイワイタウンに到着したえっこたち。調査団本部の団員通用口から何食わぬ顔で侵入するハリマロンえっこを、ある1匹のポケモンが出迎えてくれるのだった。
 午後1時57分、レギオン騒ぎの影響もあり定刻より2時間半以上遅れてワイワイタウン北港に入港したフェリーから、えっこたちがぞろぞろと降りてくる。

えっこは接岸するとさすがに回復したらしく、ローレルの肩を借りながらゆっくりと歩みを進めていた。


「酷いですえっこさんー!! 俺が船酔い体質だからって突然気絶させるなんて……それにローレルもー。」
「手荒な真似をして済まなかったな。だが、この特注のコートとスカーフを汚されたらショックで立ち直れなくなっちまう。だからああするしかなくてだな……。」

「へー、よく言うねー。それと同じコートもスカーフも、君の書斎のクローゼットに10セットくらい入ってるでしょ?」
「ふむ、君の目は節穴か? あれは1つとして同じものはないオーダメイド仕様だぞ? 愛する夫の私物も区別できぬとは……やれやれ、君もまだまだだな。」

ハリマロンえっこのやたら細かすぎるところへのこだわりは、どこか異常なものがあるらしい。加えて、気難しくて鼻につくような回りくどい言い回しは、最早どうあがいても拭えない彼の持ち味のようだ。

カイネもそんなハリマロンえっこの様子に、くすくすと笑いを見せている。


やがて一行は路面電車乗り場へと到着し、路面電車で調査団本部のある場所へと向かうこととなった。

北港から6駅先、大きくカラフルなドーム状の建物が見えてくる。ハリマロンのえっこはすかさず停車ボタンを押すと、一同に次の駅で降車するよう促した。


「あれが調査団本部……何か、遊園地の建物みたいなデザインしてますね……。」
「昔からああなのだ……どうやら近くにある旧市街のポップでカラフルな街並みに合わせようとしているらしいが、近くの広場が大人しめな色合いをしているせいで、絶妙に浮いてしまっている気がする。」

「言えてるね。なーんか趣味が悪そうな景観してるや、ははは。」
「相変わらず容赦ない物言いですね……。」

えっこ、ハリマロンえっこ、ローゼンがそんな会話を繰り広げる中、いるかはデジカメであちこちの景色を撮影しているようだ。カザネはそんないるかの様子を見て呆れ返っている。


「あのなぁ……僕らは遊びに来たんじゃないんだぞ? それに、そんなに写真ばっかし撮りまくってたら田舎者って感じがして恥ずかしくないのか?」
「だってー、ワイワイタウン来るの初めてなんですもんー!! それに噂に名高いワイワイタウンのポケモン調査団ですよ? 一生ものの思い出になりそうだし……。」

「もう、浮足立ってアホなことしでかすんじゃないぞー。僕らSteam cored heartsの顔に泥を塗ったらゆるさないからなー。」

電車が停留所に停まると、えっこたちは一斉に車両から降りて調査団本部を目指す。調査団本部は停留所から徒歩2分程の場所に位置しており、周辺には商店やカフェ、お宝の換金所などの冒険者向け施設が一通り揃っているようだ。

ハリマロンえっこは調査団本部の裏口へと回り、慣れた手付きでドアのパスコードを打ち込んだ。
無機質な電子音と共にガチャリとドアが開く音がし、ドアを押し開けたハリマロンえっこは、他のみんなにも中へ入るよう無言で合図をした。









 調査団本部の一階中央部は、大きな空間が広がる吹き抜けになっており、二階へと通じる螺旋階段に加えて謎の巨大な球状オブジェクトが鎮座している。しかしよく見ると、その巨大な水晶玉のような物体はところどころがパズルピースのように欠けているようだ。

「ありゃりゃ……また『ガショエタワー』を壊したね……? せっかく私とえっこが完成させたのに、こう何度も壊されてリセットされちゃ、救いようがないってもんだよ……。」
「何ですか? そのガショエタワーというのは……?」

「そこに居座っている巨大な球体のことよ。世界中の地図情報を、探検・調査記録と共に全て記録してあるモニュメントなんだけど、ここの団員さんが時々うっかりデータ消去しちゃうのよ。過去に一度、父さんと母さんが完成させたのに、また元に戻っちゃってるし……。」

ガショエタワーを見上げて尋ねるローレルに対し、メイがそう説明した。調査団というだけあり、ここのメンバーはポケモンたちの依頼の傍らに世界各地を探検して記録し、その情報をガショエタワーにアップロードするのだという。


「おやおや、何やら騒ぎ声が聞こえると思えば……。君たちはお客なのですから、正面玄関から入るべきですよ、えっこ?」
「これは失礼、しかし団員通用口のパスコードを長年変えていないのは、セキュリティ上非常に問題があるのでは?」

「ワタシはここのパスコードを忘れると、最悪の場合帰れなくなってしまいますからねー。歳のせいか正面玄関に行く道が分からないことが多くて、はは……。」
「それって昔からだと思うけどなぁ……前々から方向音痴だし。」

二階から続く階段を下りながら、えっことカイネに親しげに話しかけるポケモンの姿があった。それは1匹のデンリュウであり、初老と思われる見た目をしている。


「ともあれ再びこうしてお会いでき、誠に喜ばしく存じます、団長。……いえ、それは適切ではありませんでしたね。特別顧問殿とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「うーむ、特にはこだわりませんけどねー。」

「あのデンリュウって一体……? 何か、あのえっこさんがあそこまで腰を低くして接するのって珍しいような……。」
「当たり前ですよ、あの方は父さんの元上司で、この調査団を作り上げた元団長なんですから……。今は団長の座を譲って特別顧問になってますけど、もの凄く偉いポケモンなんですから……!!」

普段のふんぞり返った気難しい学者気質の態度が嘘のように、ハリマロンえっこはデンリュウに対して丁寧に接している。
そんな様子に目を丸くするえっこに、カザネはひそひそとそう説明する。やがてハリマロンのえっこがこちらを向いて一同に語りかけた。


「紹介しよう、この方がポケモン調査団の初代団長であり、現在はその経験と手腕を活かして特別顧問として活躍されているデンリュウさんだ。」
「『デンリュウさん』って……そんなの見れば分かりますよー。まさかデンリュウっていうのが本名じゃあるまいし……。」

「ええ、ワタシにはれっきとした本名はありますが、ここではそう名乗らせてもらっています。現団長を務める『フローゼル君』や、考古学者の『クチート君』、給仕係の『ペロッパフ』君に関しても同様です。」
「な、何でまたそんな……。凄く変な感じ……。」

何故か名前ではなく種族名で紹介される、特別顧問のデンリュウ。えっこはそんな彼に疑問をぶつけるが、デンリュウは他のメンバーも同様なのだと話す。


「敢えていうならば、『監督の名はアラン・スミシー、キャストもほとんどはジョン・ドウとジェーン・ドウ』とでも。」
「な、何か意味不明なこと言ってるし……。」

「『特別顧問・団長以下一部を除くメンバーは、諸事情により匿名希望。』そういう意味ですよね、デンリュウさん?」
「調査団の業務を行う中で、お尋ね者を討伐する依頼なども多々ありましてね……。そのせいで犯罪組織などから恨みを買うことも多いのが、我々の避けられぬ宿命なのです。将来的に誰かと結ばれて家庭や子供を持ち、団を抜けることになった際などに足が付かぬようにと、匿名を貫く習わしがワタシたちのような業界には伝統的にありまして。」

デンリュウの一言を受けて頭の上にクエスチョンマークが湧き出るいるか。そんな彼に助け舟を出すかのように、デンリュウに対してローレルが語りかけると、彼は匿名を持つ古くからの慣習に関してそう解説した。


「んー、じゃあそこのおじさんとカイネちゃんとニアちゃんも匿名かな? だってここで働いてたんでしょ?」
「いや、私たちは例外だ。そもそも私は結婚する気も家庭や子供を持つ気もなかったから匿名は使わなかったし、カイネは何も考えないバカだから、説明は受けたのに本名で登録しちまった。」

「私も3歳くらいからここでお世話になってたから、匿名なんか使ってないよー。だってそんな子供、犯罪組織だって誰も相手にしたりしないもーん。」
「彼らは数少ない本名での在籍者でしたからね。現在ここにいる者は、ワタシのような種族名を名乗っているタイプか、本名ではない何らかの仮名を用いているタイプだけです。」

そう言い終わると、デンリュウは上へと登る階段に足をかけ、えっこたちに対してついて来るように促した。












 「おーっ、えっことカイネとニア、それに子供たちもみんな来てるじゃないか!! またみんな大きくなっちまったなぁ、オイ?」
「フローゼル団長、大変ご無沙汰しておりました。今回はメイたちはもちろん、彼ら他のチームのダイバーたちも作戦に加わらせていただきます。何卒よろしくお願い申し上げます。」

「そんなにへりくだることもないぞ。ワタシたちはいつだって家族のようなものだ、例え君たちがアークに移ろうとな。今回はワタシからもよろしく頼むよ。」
「ええ、ありがとうございます。クチート女史もお変わりないようで何より。」

相変わらずのえっこの様子にどこか違和感を覚えつつも、一同は二階の会議室に続々と入っていく。


「さてと、えっこにカイネにニアにブイゼ……おっと、フローゼル君でしたね。えっこたちがこうして目の前にいると、何だか昔の癖でつい……。」
「やれやれ、アンタもボケてきたんじゃねぇか? ま、それよりも早速作戦会議に移ろうか。俺はここで団長をしているフローゼルだ。そこにいるのが考古学者兼副団長のクチート。もう一匹給仕係のペロッパフってのもいるが、今は厨房で飯作ってるかつまみ食いしてるかのどっちかだな。」

「後者でないことを祈ろう。さて、まずは最近起きていることについてだ。恐らくはえっこから話を聞いていると思うが、この水の大陸にある2ヶ所の聖地がレギオンにより襲撃されている。いや、正確にいうならば襲撃されているというより、何だか奴らの方も様子が変でな……。」

団長のフローゼルに紹介されたクチートは、会議室のホワイトボードに張られた地図を棒で指し示す。一ヶ所はこのワイワイタウンから北に行った場所、そしてもう一ヶ所は西の方角にずっと進んだ大陸の内地にそれぞれ聖地があるらしい。


「巡回しているような、何かを探し求めているような、そんな動きをレギオンたちがしていると聞きました。」
「その通りだ。通常奴らはそんな統率の取れた行動なんてしない。だがあそこを最近うろついてるレギオンたちは、何か共通の目的のブツを探し求めているかのように、聖地そのものを破壊したりすることなく彷徨ってる。そこがとても奇妙なんだよ。」

「間違いなく奴らだ……。レギオンを操る勢力が存在し、俺たちダイバーは奴らと幾度となく戦いを繰り広げてきました。あのレギオン使いのポケモンたちが、何らかの目的で聖地に手を出そうとしているに違いない……。」
「確証は持てませんが、私も彼の意見に同意です。あそこは私たち人間が見つけ出し、ポケモンたちが今日まで受け継いできた魂の発着点……。理由までは推測しかねますが、この世界の生命や魂そのものに奴らが介入しようとしていることも十分考えられる。」

フローゼルとクチートの説明に、2人のえっこがそのように言葉を返した。すると、ローゼンが一瞬考え込む素振りを見せた後、突然質問を投げかけた。


「そもそも、その2つの聖地が魂の発着点ってことだけど、どういう意味なのかな? 僕のいた世界にそんなものは存在しなかった。もしその場所の持つ特徴を押さえることができれば、自ずと奴らが何を企てているのかが見えてくるかも知れないし。」
「いい着眼点ですね、彼らがわざわざ執拗にあの場所を狙うからには、あの聖地でなければならない理由があるはず……。」

「つまりあの聖地に特有なものを把握することが、より正確な推理に繋がる……。いいだろう、少し長くはなるが、2つの聖地とこの星の生命や魂についての理論を説明することとなるな。」

ローゼンの問いかけに反応したデンリュウとクチートは一度会議室を後にし、1分程で資料を手にして部屋へと戻って来た。

この水の大陸に存在するという魂を司る2つの聖地とは、一体いかなるものなのだろうか? 


(To be continued...)

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