(2)奈落の天国

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住処に運んできてしまった。自分ぐらいのポケモン一匹が広く寂しく住むにはちょうどいいサイズの洞窟が、二匹入ると結構狭く感じられる。

野生の世界だから本当は自分以外のことなどどうでもいいのだが、オレはこいつを、あんなことまでしてほっておく訳にはいかないように思ってしまうのだ。

未だ気を失っている小さいポケモンを一瞥する。
……これから、どうしようか……



だんだん仄暗くなってきた。夜になろうとしている。
そういえば、昼からまだ何も食べていなかった。さっき集めていたきのみも、あそこに置いてきてしまったことに気づいた。急いで行ったとしてももう他のポケモンにとられているだろう。まあ仕方ないか。

こんなこともあろうかと……とは特に考えずに、気まぐれで貯めていた予備のきのみをとりに、洞窟の少し奥の方へ向かった。小さな穴(オレが掘った)の中からいくつかとり出す。
(……あいつにもとりあえず食べさせるか)
いつもより多めに抱えた。

「!」「ひっ」
戻ると、さっきまで寝ていた小さいポケモンが起きていた。暗めだった奥の方から出てきたオレと目があった途端、小さな悲鳴を出した。
さっきまでは寝ていて見えなかった、お腹についた空気の刃の跡が痛々しい。

「だ、大丈夫か、そんなにケガしてたのか」
ケガがひどい、もう起きた、≪恐怖≫が強い、≪冷静≫が一つもない、オレが怖がらせた、間違えているかも、彼に敵だと思われているかも、

いろんな要因が頭の中でぐるぐる混ぜ合わさり、焦りが出てくる。

「どこ、ここ」
彼はオレの問いには答えず、しかし目を合わせながら独り言のようにしゃべり出す。
「シレマさんは?なんで?」
「ここどこなのっ?」
だんだん彼の目に涙が溜まっていく。息も少し荒くなり始めている。シレマとは、さっきの人間のことだろうか。

「……人間はたおした。だから安心していい、大丈夫だから」
「……!」

「なっ……なん、で……」
彼の顔から一気に血の気が引いていくのがわかった。
「えっ」
予想外の反応に言葉が詰まる。

「また……また、森で、くら、す、」
「捨てられ、た、また、終わった」
「……うわああああああああああああっ!!!」
彼は堰を切ったように大粒の涙を流して泣き出した。

「ど、どうしたんだ?!おい、落ち着くんだ、」
「ああああぁぁ……」
大きな傷跡と共に泣く彼を前に、なにもすることができないでいた。




(視点が変わります)



僕は、二回捨てられた。

……うっそうと茂る、薄暗い森の中で僕は生まれた。自分の周りにある何かを力いっぱい足で押し、割り、初めて外という場所に出た。手をたくさん動かしてみる。周りを見ると、たくさんの色が目に入って眩しくなる。

楽しくて目をつぶっていると、突然バサバサッと大きな音がする。
「うあぁ!」
何かが上の方に行った。首を動かすと、いくつかの小さな影が空を飛んでいるのが目に入る。
「……な、にー?」
影の中にひときわ大きいものが一つあった。真ん中を飛んでいる。自分にとって大切な存在、という認識が頭の中に浮かぶ。

「さあ、かかってくるんだ、我が子どもたちよ」
大きい影がそう言った途端、周りを飛んでいた影が一斉に鳴き始め、その大きな影の方へ向かっていく。
互いにすごい勢いで近づいたり離れたりを繰り返す。空中で大きい影が自由自在に飛びながら、手をブンブン振っている。小さい影はよけ続け、それに当たることがない。

ぽかんとしていると、大きい影がこちらへ向かってきた。
微動だにできずにいると、大きい影は僕の入っていた巣のへりを足で掴み、ぐわんとひっくり返した。

「うわあっ!」
落ちる恐怖から、とっさに影のように手をバタバタさせる。何が起こっているのかわからず、必死にそうするしかなかった。体と視界がぐらぐらする。

「さあ、くるのだ」

大きな影はじっと僕を見つめている。優しく、しかし僕を「相手」として見ているような目をしていた。

なに?どうしたらいいの?まさかさっきのみんなみたいにするの?
無理だそんなの、僕にはできない、こわい、わからない


影の目から光が消えた気がした。
「そうか。……すまない」
影自体の存在も視界からふっと消える。びっくりしているうちに大きな手でバシンと叩かれ、バランスを崩し、僕は森の中へ落ちていってしまった。
「わああああっ……!!」


「君は、我らについていけない子だ。この世界では、もう……」
「パパー!おなかすいたー」「ぼくもー」
「!ああ、今食べ物をとってくる……いい子で待っているんだぞ、我が子どもたち」





森の中。
弱肉強食の世界。僕は地獄に生まれたのだろうか。

大きなポケモンはあらゆる場所に潜んでいる。もし見つかったら全速力で走って逃げる。
「待てえ!今日の晩飯いい!!」
「おい、俺が先に見つけた獲物だぞ!」
「くそどこいった、絶対食ってやる」
安心なんてこの世になかった。体と心をすり減らしながら、毎回たまたま逃げおおせているだけだった。いつか逃げる気も失せ、自分がいなくなるのではないかと思うと立てなくなりそうだった。捕まるだけだから、立つしかなかった。



『うお、こんなところにワシボンいることあるのか!ラッキー!』
逃げ続ける日々を送っていたら、ある日急に人間に出会い、「ゲット」された。
ボールの中、不思議な空間に入れられ、人間_____シレマさんの家へ連れていかれた。

そこには、僕みたいな手、いや翼をもったポケモンがたくさんいた。彼らは僕を食べようとしなかった。
シレマさんは食べ物をくれた。何日ぶりだろうか。

『いやー、いいポケモンが手に入ったな。これで俺のひこう軍団がもっと強くなる』
みんな笑っていた。

ここは天国だった。最高の仲間に出会えたのだ。

『よーしおまえら!一斉に「そらをとぶ」だ!!』
みんなで空を舞った。追いつくことはできなかったが、一生懸命後を追った。
だってここは天国だから。
ふらついていた僕の飛行もいつのまにか治っていた。

『ブレイククロー!エアスラッシュ!』
シレマさんの指示でわざをくりだす。初めての経験だ。
並べられた的に当てられたとき、とても嬉しかった。
『うーん的倒せないのか……まだまだやらねえとだな』
こんな幸せでいいのだろうか。
読んでくれてありがとうございます。




生まれながらの 戦士と 呼ばれる。 生まれて すぐに 親に 挑み 認めてもらわなければ いけない。

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