開幕!バトルトーナメント②

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「おはようございます!」

寝ているディストのところへフェザーが勢いよく襖を開けてやって来た。

昨日の夜、「明日は早いですよ!」ということで夕食を終えたディストとダチュラはそのまま就寝することになったのだ。健康上それは良いのだろうか、と思うかもしれないが、ゴーストタイプである彼らにとって食べてすぐ寝るとなんとやらは特に問題にはならない。

フェザーの大声により無理矢理起こされたディストはぽやぽやした頭のままそっと起き上がる。
ちらっと時計を確認すると、針は五時を指していた。午前五時。普段であればまだすやすやと眠っている時間だ。

「まだ五時!?もう少し寝ててもよくない!?」

思わず口に出して驚いてしまうディスト。だがその衝撃によって一緒に眠気も吹っ飛んでいった。

「いいえ!あの大会で優勝を目指すとなればみっちり修行する必要がありますから!」

こんな時間でも元気そうなフェザー。
フェザーはディストの「優勝する」という願いをただ全力で応援したいだけ……つまり、これもディスト達の為ということ。
その思いを無下にするわけにはいかないか……とディストは納得した。

「朝食は一時間後の予定ですのでそれまではゆっくりしててもらって構いませんよ!」
「えーと……寝るのは?」
「ダメです!しっかり胃腸を動かしてからじゃないと……!って、もしかしてディストさん達には関係ない……?」

『胃腸』という言葉を発してから、ハッと嘴を押さえる。そして目の前のディストのことをまじまじと見つめた──どう見ても彼の体の中に臓器が詰まっているとは思えない。それはダチュラも同じだろう。
どうしよう、と慌てる様子のフェザーを見て、ディストは咄嗟に言葉を紡いだ。

「た、多分そうだけど!でもなんか頭を起こしてからってのは悪くないんじゃないか!?よくわかんないけどなんか健康そうだし!」
「そ、そうですかね……?」
「そうそう!本ポケの俺が言ってるんだから間違いない!ダチュラもわかってくれる!多分!」

必死に答えてくれるディストを見ると、フェザーは少し落ち着きを取り戻した。自分より焦っている者を見ると逆に冷静になってくるというあれだ。
フェザーは持っているクキをギュッと抱きしめながら俯く。

「……すみません。取り乱してしまって」
「いいよいいよ。それよりダチュラはもう起きてるのか?」
「どうでしょう……ディストさんの次に起こしに行こうと思ってたので」
「じゃあ俺も一緒に行こうかな!」

そう言うと、んーと伸びをしてからブレードフォルムにチェンジする。本当に気にしてなさそうなディスト、それにフェザーはホッと安心すると同時に、自分の未熟さを改めて再認識した。

「そういえばディストさんってずっとそのフォルムですけど、何か理由が?」
「うーん……強いて言うなら動きやすいから?そのせいでクォーツにはよく「周りには気をつけるように」って注意されてるけど」
「なるほどなるほど……」

「なんとなく?」なんて特に意味はないらしいディストはそう話すと苦笑いする。それでもフェザーは真剣に彼の言葉を聞いていた。
そういえば昨日の夕飯の時、フェザーはそれぞれに合った方法で鍛えてくれると語っていた。もしかしたらそのために尋ねてきたのかもしれない。

「それでは行きましょうか!」
「おう!」

顔を上げて外を緑のクキで指すフェザー。すっかりいつもの調子に戻っているディストが元気に返事をすると、二匹はダチュラの元へと向かっていった。


外はまだ暗い。夏ならすでに日が昇ってきていてもおかしくないのだが、十一月下旬ともなるとそうはいかないだろう。
冷たい風を受けながら、二匹は裏にある蔵へと進んでいく。

「……本当に蔵なんかでよかったんでしょうか。この季節だと寒いでしょうし……」
「大丈夫大丈夫!ダチュラは暗くて冷たい場所の方が落ち着くって言ってたからさ」

フェザーは心配しているが、深海を好んでいるダチュラにとってはむしろ好都合だった。それに他にダチュラが入れるような建物がそこくらいしかなかったのだから仕方ない。
蔵の前までたどり着くと、フェザーは深呼吸したあと思いっきりその扉を開けて声を出した。

「失礼しまーす!ダチュラさん、おはようございます!」

真っ暗なその中には、さまざまな道具とともに静かにダダリンが佇んでいた。……何も知らなかったら驚いてしまうかもしれない。
フェザーの声に反応してか、ダチュラはだらんとなっていた体を起き上がらせるとゆっくりこちらに顔を向ける。しっかり二匹の姿を捉えると、その雰囲気とは似つかわしくない明るい声で答えた。

「おはよう!」
「おはようダチュラ!まだ五時だけど!」

蔵の中に入っていくと、ディストとダチュラは手と錨の爪で「イェーイ」とハイタッチを交わす。フェザーはその様子を入口の前から眺めていた。

「仲が良いんですね」
「そりゃあ仲間だしな!」
「ねー」

そりゃそうか、と二匹の返事を聞いて笑うフェザー。どこか哀愁に満ちた彼の顔に気づいたダチュラは、不思議そうに舵を傾けた。

「別にフェザーを仲間はずれにしてるわけじゃないよ?」
「えっ!?いえいえ!仲間はずれとかそんな風には思ってませんよ!」

動揺したように一瞬目を見開くが、すぐ頭をぶんぶんと振って否定する。「そう?」とまだ納得していないダチュラはじーっとフェザーを見つめる。

「よくわかんないけど……寂しいならそう言ってくれていいからな!」
「ですから違いますってー!」

ぽん、と頭に手を置いて言うディストに「ディストさんまでー!」とフェザーはクキで軽くぺちぺち叩く。その表情からは、少し困惑しながらも楽しそうな様子が伺えた。


「それでは朝食の時間にまた呼びに行きますので!」
「「はーい」」

そう告げるとフェザーは一匹で建物の中へ戻っていった。
わざわざ狭い室内へ戻るのは面倒だ、というダチュラに付き合ってディストも蔵に残ることにしたのだ。
それにしてもあと約一時間程、何をして過ごしていればいいのか……。

「ディストは戻ってもよかったのに、本当にいいの?」
「まぁどっちにいてもすることがないのは一緒だし、それならダチュラといたほうがマシかと思って……」

そう答えるとディストはダチュラの体にもたれかかる。正直一匹だけで睡眠を除いてこの残り時間を潰すのはかなり辛い。インドア派かつ一匹で静かな時を過ごしたいクォーツならまだしも、常に何か楽しいことを求めているディスト達にはこういう時間は苦痛でしかなかった。
このバトル道場、確かに練習に使えそうな道具は揃っているのだがそれ他の娯楽は一切ない。せめてバトルに関するものでも本くらいあれば……と思ったがそれもないらしい。
自分に寄りかかりながら暇そうに空いている右手をゆらゆらさせているディストを見兼ねて、ダチュラは考えた。

「それじゃあぼくの昔の話でもしようか?」
「探検隊やってたときの?」
「うん。そういえばシャワーズ以外の子のこと話してなかったなーって」

ディストはダチュラを見上げる。
ダチュラの探検隊の話は今までもよく聞いていたのだが、確かにその時見た光景や見つけた宝物等の話ばかりで具体的なチームのメンバーのことはあまり知らなかった。むしろシャワーズ以外にも仲間がいたのか!?という驚きすらある。

「探検隊って何匹でやってたんだ?」
「えーと、ぼくとシャワーズとモルテって子の三匹でやってたよ」
「へぇ、そのモルテ……って子はどんなやつだったんだ?」

ディストが気になって質問すると、ダチュラは目らしきコンパスの針を東に向けながら語り始めた。

「確か、ぼくたちと同じゴーストタイプで、目はピンクっぽくて真っ白でゆらゆらしてて……」

種族名で伝えてもディストにはわからないだろうとなんとなくの容姿の特徴を並べていく。
だが、ゴーストタイプということで興味が出てきたディストが雰囲気や性格について尋ねた途端、ダチュラはピンと針を北に向けて考え込んだ。そして少し言いにくそうに続ける。

「まぁ一言で言うと……ちょっと変な子だったかな」







「……アノ」
「此処が『Metal Puissance』のアジトで間違いないか?」
「アジトっテ……まぁ間違ってはいませんけド」

同時刻、ラメールシティにて。
いつもこの時間、すでに起きているクォーツはいつも通りリビングルームで例の史書の続きを読んでいたところ、突然ピンポーンとインターホンの音を聞き、「こんな時間に誰だ?」という疑念を抱きながらも対応しに外へとやってきた。そして今、門を境に見つめ合っている真っ白なサンゴのようなポケモン──サニゴーンがその相手だ。

「そうか。随分と立派な住処だな」
「ハァ……どうモ。それでこんな早朝に何の用ですカ?」

そびえ立つ豪邸を見上げながらサニゴーンは感心したかのように頷く。褒められているのだろうか。
よくわからないが早く要件を済まして帰ってほしいと考えたクォーツは、早速用事を聞き出そうと切り出した。

「此処にダチュラが住んでいるという噂を聞いたのだが」
「……知り合いの方ですカ?」
「まぁそんなところだ」

普段海にいるポケモンであることからなんとなく予想がつくが、やはりダチュラの知り合いのようだ。おそらく『Metal Puissance』内で一番友好関係が広いのはダチュラだろう。そうじゃなきゃ声をかけただけで海に住むポケモンからたくさん依頼が来ることもないはずだ。
それにしても、もしダチュラに用があるのならタイミングが悪い。面倒だがクォーツは一応その旨を説明することにした。

「申し訳ありませんが今ダチュラは留守ですヨ。あと一週間程は帰ってきませン」
「何?何故だ?」

それを知るとサニゴーンは驚いたように目を見開く。

「バトルトーナメントって知ってますカ?あれに出るために別の場所で修行してるんですヨ」
「トーナメント……成程。流石ダチュラ、いつまでも挑戦する心を忘れないとは」

フフフ、と怪しげに笑うサニゴーンに対し、なんだこいつと思う気持ちが強くなってきたクォーツ。

「……念の為聞いておきますが用件ハ?」
「いや、これといって頼みたいことがあるわけじゃない。ただ久しぶりに此方に戻ってきたからな。ついでに友達の顔を見に来てみようかと思っただけだ」
「ハァ……」

本当に都合が悪い。これなら居留守でも使ったほうがよかったんじゃないかとすら一瞬考えたクォーツだが、一応チームの仲間の友達であるポケモンに冷たく当たるのも気が引ける。

「……本ポケはいませんガ、せっかくですので上がっていきまス?」
「いいのか?助かるな。此処まで辿り着くのにかなり時間を要したせいか体力が尽きかけているんだ」
「そうですカ……大変ですネ」

相手の話を雑に流しながらクォーツはガラガラと門を開放した。そして先導するように玄関の方まで進んでいく。
真ん中くらいまで来ると、ふとちらりと後ろを振り返ってみる。そこにはまだ門から中に入ってすぐくらいのところで佇んでいるサニゴーンがいた。

「……それは疲れからですカ?」
「いや、それもあるが、どうも陸だと動き難くてな……海中なら流れに乗って移動できるんだが」

なるほど。殻を引きずるようにゆっくり移動しているのを見て、さっきの時間を要したという言葉の意味を理解した。どこから向かうかにもよるが、確かにこの速度だとここまで一体何時間消費するのかわかったもんじゃない。
……冷静に分析している場合ではないのだが、だからといって今自分にできることはここから頑張れーなんて応援することくらいだ。手や枝を引っ張ろうとすれば今度はこちらが動けなくなるのだから。
……そういうわけでクォーツは、サニゴーンが自力でこちらに移動してくるまで、ただその様子をじーっと静かに見つめることしかできなかった。


「どうゾ」
「有難う」

なんとかエントランスまで来れたサニゴーンを、休めるようソファへと案内する。言っといてなんだが座れるのか?というクォーツの疑問を、彼女はぴょんと精一杯力を込めて飛ぶことで解決した。

「そういえば名前を伺っていませんでしたガ……」
「モルテだ。貴方は?」
「……クォーツと申しまス」

無いなら言わなくても、と伝える前にサニゴーン──モルテは答えた。

「そういつまでも怪しまれていては此方も気が休まらない。そろそろ私とダチュラの具体的な関係でも説明しようか」
「いや怪しいというよリ……まぁそうですネ。お願いしまス」

何から察したのかそう告げると、モルテは懐かしむような口振りで語り始めようとした。正直今は疑念より面倒な気持ちの方が勝っているのだが、わざわざそれを言ったところで何か変わるわけでもない、と飲み込んだ。

「ダチュラが昔探検隊を組んでいた、というのは知っているか?」
「知ってますヨ」
「それなら話が早い。私はその探検隊のメンバーの一匹だったのだ」

モルテはフフン、と目を細めて口角を上げた。驚いただろ、とでも言いたげに。
だがクォーツの反応はというと──。

「ヘェ……そうなんですネ」

薄かった。当たり障りのない返答一つで済ましてしまうくらいには。それなのにモルテは意に介さずに話し続ける。

「ダチュラがリーダーで、その仲間である私とシャワーズを加えた三匹で組んだ海底探検隊……懐かしいな。あの頃の私はまだ青かった」
「そうですカ……」


それからしばらくはモルテの思い出話が続いた。ダチュラの語るものとは違い、どちらかというと自分自身に関しての自慢のようなものばかりで普通であれば聞いててうんざりしてくるだろう。
だがクォーツからしてみれば適当に相槌を打っているだけで問題ない会話は正直楽だ。それっぽいタイミングに「ヘェ」「すごいですネ」なんてリアクションしておけばいい。……まぁただ聞き流しているだけなのだが。

「そういえばそのトーナメントとやらはどこで開催されるものなんだ?」

そんな中、あまりにも突然話題を戻されて一瞬思考が止まった。どうやらモルテはかなりマイペースらしい。
クォーツはワンテンポ遅れて答えを返す。

「……キラメキシティですヨ。ここからだと少し遠いですガ」
「ああ、彼処か……成程。有難う」

素直にお礼を伝えて微笑みかけるモルテ。
ふと時計を確認してみると、もうそろそろ六時になるところだった。

「少し長居し過ぎたか。そろそろ失礼しよう」
「わかりましタ」

モルテはそう言ってソファからぴょんと飛び降りると、ずるずると殻を引きずりながら玄関へと向かっていく。
……行きと同じ道を通っているにも関わらず、不思議なことに何故か床には傷一つ付けられていない。もしかして殻自体は大して重くないのだろうか。それともこれもゴーストタイプだから……なんていう都合の良いアレなのか。

相変わらず時間はかかったが、少しは疲れも取れたのか来た時よりは早く門のところまで辿り着いた。
モルテはまだ開いている門の外から振り向いてクォーツに告げる。

「よければこれからもダチュラと仲良くしてやってくれ。私も何かあったら依頼しに来よう。それじゃあ」

そう言い残してモルテはゆっくりと去っていった。クォーツも「ありがとうございましタ」とその様子を見送る。
彼女の姿が見えなくなると、クォーツは大きくため息を吐いて空を眺めた。

(どうしてこういうときに限って社交的なディストがいないのだろう)

やはり彼のようなフレンドリーなポケモンは『Metal Puissance』……いや、チームに一匹は必要なんだ。そう改めて認識したクォーツは、六時には届けられていた依頼の手紙を確認すべく銀色に輝くポストの取り出し口を開いた──。







「へぇ……なんていうか、面白そうなやつだな」
「面白いよ。たまに何言ってるのかよくわかんないとことか!」
「ディストさーん、ダチュラさーん!」

結局時間がやってくるまでダチュラの思い出話を聞いて過ごしていたディスト。気づけばもう時刻は六時を回っていた。フェザーの呼びかけでそのことを知った二匹はいそいそと蔵から出てくる。空はうっすらと明るくなっていた。

「朝ご飯何?」
「お鍋です!」

屋内へと向かっている途中、雑談程度の気持ちでダチュラが問いかけると、フェザーはニコニコしながら答えた。ディストは「楽しみだなー」なんて呑気にひとりごちる。だがダチュラの反応は芳しくなかった。

「昨日の夜もそうだったよね?」
「え!?そ、それは……」

ダチュラから好意的じゃない返答が返ってくるとフェザーは怯んだ。本ポケにそのつもりはないが、約四メートルもある巨体の持ち主の機嫌を損ねたらやばい、なんて思ってしまうのは普通のことだろう。
それでもフェザーはちゃんと説明しようとダチュラを見上げた。

「これはこの道場の決まりと言いますか……先代もそうしていたと聞きましたし……」
「朝昼晩全部同じってこと?」
「は、はい……」
「それをずっと続けてたの?」
「そうです……」

気になったことを納得するまで追究するタイプのダチュラは、それだけで引くことはなかった。
圧に負けて萎縮しているフェザーを見て、ディストは慌てて二匹の間に割って入る。

「まぁいいじゃん?俺達なんていつもただの木の実むしゃむしゃ食ってるだけだし」
「うーん……でも朝からお鍋は重くない?」
「あーそれは確かに?」

二匹が議論しているときも、フェザーはしゅんと気を落としながらとぼとぼと歩いていた。
そんなフェザーの前にダチュラは回り込んで一つ尋ねる。

「ねーフェザー。ご飯について文句もらったことなかった?」
「食事に関して……毎日はさすがに飽きるという声を頂いたことはあります……」
「あるのか……」

それを聞くとディストはグーにした右手を目下に持ってきて考えているポーズを取った。フェザーは「?」と疑問符を脳内に散らばせている。

「もしかしたらそれも弟子離れの原因の一つかもよ」
「なっ……!?」

ダチュラの言葉にフェザーはショックを隠しきれない表情のまま固まった。ディストがなんとかフォローしようと声をかけてみるも、彼は無言で下を向いたまま。
どうしようか困ったディストはダチュラにそっと耳打ちする。

「ちょっと言いすぎたんじゃないか……?」
「だって、先代だかなんだか知らないけどそのポケモンの意思だけ尊重して、肝心のお客さんの声に答えないのはおかしいじゃん?」
「それくらい大事だったとか……」
「そのせいで道場が潰れたら本末転倒だよ」

確かにその通りではあるのだが、こんなフェザーの様子を見てもまだ続けられるなんて……とディストは腕を組みながら考える。
そして、よし、と意気込むと二匹に対して宣言した。

「……わかった!難しい話は飯の後にしよう!それでいいよなダチュラ?」
「いいけど別に難しい話なんてしてな──」
「フェザーも!いいよな!?」
「……!す、すみません!そうですね、早く行きましょう!」

ダチュラが余計なことを口走る前にディストが大きな声でフェザーに呼びかける。フェザーはハッとして二匹に笑顔を向けると、足早に進んでいった。

先に行くフェザーを自分のペースで追いかけるディスト達。ふとダチュラがディストに訊いた。

「ぼくなんか変なこと言った?」
「いいや、俺もどちらかというとダチュラの意見寄りだ。ただまあ……相手がショック受けてたら、ちょっとマイルドに伝えてみるとか……」
「改善点があったら教えてほしいって頼んだのは向こうだよ」
「……あー!そういうこと!?」

もやもやが晴れたらしいディストは「なるほど……」と呟きながら空を見た。
というのも、あのダチュラが量の多いものに対して、朝は重い、なんて感じることがあるのか不思議だったからだ。
初めて大水槽に入れたとき。あのときの夜ご飯の時間に「そもそもいくら食べたところでエネルギーになるだけ。だから空腹とか満腹とかよくわからない」とダチュラ自身が語っていたのを、ディストはわかるわかると共感していた……ということがあった。それを覚えていたからだろう。
ディストが何か勘違いしていたことを知らないダチュラは「むしろそれ以外に何が?」と言いたげに舵を傾けている。
そういえば昨日はそういった目的でここを訪れていた。これ以上何か言うのは余計なお世話かな、なんて遠慮していたディストとは裏腹に、ダチュラはまだそのことについてしっかり考えていたらしい。

「てっきり鍋が嫌なのかと……」
「そんなことないよ!美味しかったし」

ニコニコしながら言うダチュラ。ディストはホッと胸を撫で下ろした。

「でもさ、そこまでショック受けるほどのことなのかな?」
「どう思うかはポケモンそれぞれだからなぁ。よっぽど先代を慕っているのか、あるいは単純にダチュラが怖かっただけかも……」
「え……」

そんな会話を交わしていると、いつの間にか道場が目の前に。ディストがガラガラと扉を開けて二匹とも中に入る。フェザーが気を利かせてくれたのだろうか。奥の部屋の襖はすでに開放されていた。

二匹が先へ進むと、そこには昨日の夜と同じように長机の上に鍋とコップと小皿と箸が乗っている。広い部屋を見渡してみるも、フェザーの姿はどこにもなかった。

「怒らせちゃったかな」
「いや、そんなことは……多分……ないはず……」

ダチュラの声からその感情は読めなかったが、ディストはなんとなく落ち込んでいるような気がして慰めようと声をかけた。だが彼が怒っていないなんて保証はどこにもなく、どうしても歯切れの悪い言葉しか出てこない。
そんな二匹の話し声が聞こえたのか。左奥にある台所らしき部屋から、フェザーが慌てた様子で出てきた。

「……あ、すみません!どうぞ食べてもらって構いませんので!」
「フェザーは?」
「私は……少し用事がありまして!終わり次第戻ってきますから!それでは!」

止める間も無くフェザーは暖簾の奥へと姿を消してしまった。やはり少し印象が悪くなってしまったのだろうか。
とはいえ考えていても仕方ないのでディスト達は言われた通り先に食べていることにした。

「今日って確かエントリーするために市役所へ行くんだよね?」
「フェザーはそう言ってたな。もしかしたらその準備でもしてるのかも」
「そっかぁ」

何事もなく、二匹は軽く世間話をしながら鍋を食べ進める。


そしてしばらくして。そろそろいいかな……とディスト達が箸を置いたとき、彼は戻ってきた。

「すみません!戻りました!」
「おぉフェザー。おかえり!」

急いで帰ってきたらしいフェザーに、ディストは笑顔で答えた。

「あ、もういいんですか?遠慮しなくても……」
「いいよ。フェザーの分が無くなっちゃうし」
「あ……ありがとうございます」

フェザーはダチュラに一言礼を伝えると、すぐ目を逸らした。そして俯いたまま隣り合っている二匹の向かいに腰を下ろす。

「さっきはごめんね。怖がらせちゃって」
「え!?いやいや!こちらこそ……ダチュラさんはこの道場のことを考えて意見してくださったというのに勝手に固まっちゃって……」

あくまで言い寄ったことは悪くないと思ってるんだなぁ、とダチュラの言葉を聞いて感じたディスト。実際正論ではあるだろうから仕方ないのだが。
対してフェザーは、特に怒りを見せる様子はなかった。むしろ心の底から申し訳ないと、頭を下げながら謝罪している。

「……そうですね。あなた達には話しておいたほうがいいかもしれません。この道場がどういう理由で作られたのかを」
「え?どういうこと?」

真剣な面持ちで語るフェザーを見てディストは困惑する。反してダチュラは、静かに彼の言葉の続きを待っていた。

「このバトル道場……実は元々は、相撲の稽古場だったんですよ」

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