【第049話】麻痺と四災 / チハヤ、蒼穹(果たし合い、vsオモト)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

« vs超変則侍 果たし合い ルール »

・4on4のシングル。学生のみ交換可。
・特殊介入は計3回まで。(※下記により実質0回)
・境界解崩は計3回まで。
・先に4匹全滅したら負け

□対戦相手:オモト
✕ケンタロス(原種)
✕ベロベルト
◎ケッキング
・???

□学生:チハヤ
✕シキジカ
✕パピモッチ
◎パモ→パモット
・ケンタロスRF-炎

※備考……現在、境界解崩「陽炎流柳派・昼想夜夢」が展開中。「大昔のカントー地方に伝わるバトル関連の迷信」が実現してしまう。現状判明した効果は以下の通り。
・『こおり』状態は治癒不可
・『はかいこうせん』は条件付きで連射可能
・特殊介入は使用不可
・『妖』『悪』『鋼』タイプは存在しないものとして扱われる
・『まきつく』に囚われた場合、技の使用が不可
・『特性』は存在しないものとして扱う
・『ドわすれ』は最強
(※注意……今回はシナリオの進行上、一部ポケモンの言葉を人語に翻訳した状態でお送りします。ご了承下さい。)



「パモが……光った……!?」
ケッキングの『はかいこうせん』が視界を遮るのとほぼ同時。
パモの身体が虹色に輝き始める。
その現象は、まさしく……

「しっ………進化だとッ!?」
そう、進化だ。
パモはこの戦いの最中にて、新たな力を手に入れようとしていたのだ。
間もなく『はかいこうせん』の勢いが衰え、その光線の中からは……パモとは異なるポケモンの姿が現れた。
体色がやや薄くなり、身体のサイズが心なしか大きくなっている。
「がじゃっ!」
「あれは……パモットか!」
そう、パモは新たに……パモットというポケモンに進化したのである。

 パモットはあれだけの火力の攻撃を受けたというのに、未だに膝を負っていない。
その絡繰は……
「ふむ……進化の際の無敵判定を使って、『はかいこうせん』をやり過ごしたのでござるか……!」
オモトの考察どおりだ。
ポケモンは進化をしている間は、一切のダメージを受けない。
パモがタイミングよく進化の時を迎えたお陰で、なんとか致命的な一撃を回避することが出来たのだ。

 『はかいこうせん』でパモ……改めパモットを仕留めきれなかったケッキングは、しばらくの硬直状態に突入する。
反撃するタイミングは……今しかない。
「よし……一気に逆転するぜッ!!パモット、『ほうでん』攻撃ッ!!」
「がじゃーーーーッ!!」
頬袋から火花を散らし、周囲に電撃を撒き散らすパモット。
何度も何度も……激しい攻撃を繰り返す。

 しかし……
「すろーーーー……!」
攻撃を受けている筈のケッキングは、その場に立ち止まったままピンピンとしている。
とてもダメージを受けている様子は見受けられない。
「ぜ……全然効いてないじゃないですか……!」
「やっぱり駄目だ……!窮地を脱したとは言え、まだまだ単体対象の攻撃としては微弱……!これじゃタフネスのケッキングは突破できないッ……!」
シラヌイの言う通り。
『ほうでん』のウリは、広範囲へバラ撒ける攻撃……ということだ。
ダブルバトルやその他特殊な状況であれば強力に作用するが……ことシングルバトルにおいてはあまり使い勝手の良い技とは言い難い。
特にケッキングのような高耐久のポケモンに対しては、その効き目は薄くなってしまう。

 が、しかし。
「……それはどうかな。」
「て、テイル先生……?」
「……確かに、あの技じゃケッキングは倒せない。でも……これは無意味な攻撃じゃない。」
「え……?」
テイルがそう呟いた意味は……後々わかることになる。

 そうしてパモットが『ほうでん』を乱発し続ける中。
遂に、棒立ちになっていたケッキングがわずかに動き出し始める。
『はかいこうせん』による硬直が解けた証だ。
「こんどこそ終わりでござるッ……オコリザル、『はかいこうせん』ッ!」
オモトはトドメの技を、ケッキングに出させようと指示を出す。

 ……が、しかし。
「……あれ?お、オコリザルッ!『はかいこうせん』でござるッ!おーーーい!?」
オモトの呼びかけに、ケッキングはピクリとも反応を示さない。
彼の方を振り返ることもせず、声も上げず……ただその場に、じっと固まっているだけだ。
命令無視をしている様子も見受けられない。

「お、オコリザルッ!聞こえてるでござるかッ!?おーーーーい!?」
その理由は……彼と真正面から相対しているチハヤには理解が出来た。
「(し、しめたッ……!ケッキングの奴、『まひ』で動けなくなってやがるッ……!!)」
そう、ケッキングは行動が鈍くなる状態異常『まひ』を罹患していたのだ。
このため、オモトの指示を聞き届けたはいいものの……身体の方が言うことを聞かない状態にあったのである。

 無意識とはいえ、何度も『ほうでん』を放っていたことが……結果的に、功を奏した形だ。
「ツイてるぜパモット!!このまま畳み掛けるぞ……『ワイルドボルト』ッ!!」
「がじゃじゃーーーッ!!」
身体中に火花を纏い、頭から一直線で突っ込んでいくパモット。
『こうそくいどう』で強化されたスピードが、その小さな体の突撃を後押しする。
その頭突きを、ケッキングは無抵抗で受け入れる。
「がじゃっ!がじゃっ!!がじゃーーーーーーーッ!!」
相手が何の反応も示さないのを良いことに、パモットは何度も何度も……『ワイルドボルト』の攻撃を断続的に加え続けたのだ。

 あまりにも棒立ちがすぎるケッキングに、シグレは不信感を覚える。
「お、おかしいッ……!いくら『まひ』でも、あそこまで動けなくなることってあります……!?食らった所で、精々移動速度が半減する程度な気が……」
が、この理屈は……またもシラヌイが見破った。
「……そうかッ!この空間ルールの『まひ』は、一度食らった後に何度でも重複するッ!!移動速度は半減どころじゃない……2分の1、4分の1と……何度も半減判定を受けたケッキングは、最早移動すらままならないッ!!」
「な、何ですって!?」
そう……ケッキングは、何重にも『まひ』を受けている。
故にその速度は遂にゼロへと近似……実質的に、ほぼ完全な行動不能へと陥っていたのだ。
結果的にオモトは、自身の敷いたルールのドツボにハマってしまった形となる。

 間もなく、タコ殴りにされたケッキングは……固まったまま、泡を吹き始める。
一切声を出せない状況なため分かり辛いが……確かに体力は底を尽きていた。
つまり、戦闘不能である。
「あぁッ……オコリザルッ……!」
「よしッ……残り1体だ!まだ勝負は分からねぇッ……!!」
「がじゃじゃ!」



 ーーーーー一方その頃。
黒衣らの座していた客席に、蒼穹フェアが帰還する。
「……おかえり。何かありました?」
上着の裾を避けてスペースを作りつつ、迷霧フォッグは尋ねる。
「あぁ……案の定だ。コイツを見てみろ。」
そう言うと蒼穹フェアはスマホを取り出し、画面を迷霧フォッグに見せる。
その映像は、先程送り出したコジョンドとオドリドリの首元に巻きつけていた小型カメラから繋がっているものだ。

「……っと、天井裏っすか。これが何か?」
「そこの右端奥手だ。よく見てみろ……ポケモンが居る。」
「えと、これかな………って、おいおいコイツ……!!」
その姿を目にした迷霧フォッグは、言葉を失ってしまう。

 ヌメイルやマグカルゴと同系統の、殻を背負った軟体動物の形態。
緑の体毛とツル植物のような葉に覆われた身体。
そして何より……全身を取り巻く木簡。
『カキ……シル……ス………』
謎めいた其の存在は、小声で何かしらの呪文を唱えている。
この異様な容貌のポケモンの名前を……彼らは知っていた。

「コイツは『チオンジェン』……っすか。」
「あぁ……パルデア地方の伝承に記載される、『四災スーザイ』の一角だな。」
四災スーザイ』……それは且つて、パルデア帝国の王が東方の国から購入した4つの神器。
『木簡』『剣』『器』『勾玉』……それらから生まれたとされる4匹のポケモンを、現在では通称としてそう呼んでいるのだ。

 そしてこの映像に映っているポケモンの名前は『チオンジェン』。
厄災の『木簡』から生まれたポケモンだ。
圧政に倒れた官僚らの怨霊が、木簡に宿って命を宿したポケモン……というのが通説だ。
しかし目撃例が殆ど存在していないせいで、現在でもその存在の是非は学会で議論され続けている。

「いや、おかしいっすよ……何でこんなポケモンがGAIAに?」
「だから報告に来たんだ。四災スーザイなんて、そもそも実在するかどうかすら怪しいポケモン……明らかに異常事態だ……!」
映像越しに映るチオンジェン。
今のところ危害を加えてくる様子はないが、その禍々しさは……映像越しでも伝わるほどだ。
現に、現場にいるコジョンドやオドリドリも……物陰に息を潜めたまま、動けなくなっていたのである。

「……GAIAの関係者か、はたまた災獄界ディザメンションから現世に来たポケモンか。ワケがわからないっすね……」
「あぁ。現時点で結論は出せんな。コイツについてのデータは、一度長雨レインか本部の所長に回した方が良さそうだ。」
画面越しのチオンジェンから目を離せないふたり。
興味、不安感……様々な感情が、彼らを密かに煽り立てていた。

「最初は交戦することも考えたが……下手をすれば最悪の事態になりかねん。もう少し情報が欲しい所だが、此処は帰還をさせたほうが賢明だろう。」
「っすね。とりあえず、アイツらに指示を……」
と、迷霧フォッグが言いかけた……まさにその時。
『ザッ……ザザザザザザーーーーーーーーーッ!!』
「なっ……映像が、乱れている……!?」
急にカメラの映像が回転し始め、ノイズが走り出す。

 しかしカメラを所持していたコジョンドがすぐに距離をとり、姿勢を正したことで……映像は正常に復帰した。
「さては敵襲だな……!でなければ私のコジョンドが、何の前触れもなく暴れるはずがないッ!!」
「え、えぇ……しかし一体誰が……?」
その答えは……オドリドリの方のカメラに写り込んでいた。
そこには……信じ難いものが映り込む。
「こ……これは……!?」




 ーーーーー時を同じくして。
競技館、天井裏。
チオンジェンの姿を影から観察していたコジョンドとオドリドリ。
しかしそんな彼らへ、何者かが急襲を仕掛けてきたのである。
物陰から飛んできた『かえんほうしゃ』の一撃が、彼らの額を僅かに掠めて過ぎ去っていく。

 咄嗟の判断でオドリドリを庇いつつ距離を取ったコジョンド。
「貴様……何奴ッ!?」
自らを襲った犯人と思しきポケモンに、コジョンドは語りかける。

 彼の視線の先に居たのは……目玉が大きく飛び出た、金魚のようなポケモンだった。
このポケモンの名前は『イーユイ』……『勾玉』から生まれた四災スーザイの一角である。
「我ラノ……邪魔ヲ……シナイデ頂キタイ……」
極端に巨大な眼球で、コジョンドらを睨みつけるイーユイ。

 しかしそれに臆すること無く、彼は反論する。
「邪魔だと?そもそも貴様らは一体、こんな所で何をしている!?」
「答エル……必要ハナイ……」
「貴様ら……只のポケモンではないな。トレーナーは誰だ。誰の指示を受けてこんな場所にいる?」
「答エナイト……言ッテイル……ダロウ……」
コジョンドが何度問答をしても、イーユイは回答する素振りを一切見せない。
その一方で、奥にいるチオンジェンは相変わらず呪文のようなものを唱えているのだった。

「駄目ですコジョンドさん……このポケモン、対話の意志がありません!」
「そうか。話す気がないなら仕方ない。此処は退いてやる。」
「フム……賢明な判断ダ……」
そうしてコジョンドはイーユイから目線を逸らすことなく数歩……後ずさる。
……が、しかし。

 次の瞬間……コジョンドは飛び上がったかと思うや否や、イーユイに向かって『とびひざげり』を食らわせたのである。
其の攻撃を、黒い炎の防壁で防ぐイーユイ。
一瞬のうちに攻防が繰り広げられ、両者はにらみ合いの状態に陥る。

「なっ……何をしているのですか、コジョンドさん!?撤退する筈では……」
「あぁそのつもりだったさ!しかし彼奴は……俺が飛び上がった瞬間、攻撃を加えようとしていたッ!不意打ちのつもりかッ……!?」
「……先程、気ガ変ワッタ。ヤハリ貴様ラヲ生キテ帰スノハ止メダ。」
「ッ……!!」
ギョロリと目玉をひん剥き、コジョンドらを強く睨むイーユイ。
殺意を交えたその眼が、彼らを捉えて離さない。

「チッ……武力行使はやむを得んか……!」
「(ま、マズいッ……私は一刻も早く、ご主人に報告を……!)」
遂に始まってしまった戦いの最中、撤退最優先の指示に従ってもと来た道を戻るオドリドリ。
しかし彼女の眼前には……

「あ……あぁ………!」
なんと、先程まで遠くに居たはずのチオンジェンが立ちはだかっていたのである。
その巨体で狭い路地にずんと鎮座し、退路を塞いでいたのだ。
虚ろな瞳を気だるそうに見開き、オドリドリを見下すかのように睨む。
「儂モ戦ウ……抜ケ駆ケハサセヌ……」
「ッ………!」
最早、逃れる術はない。
彼らに残された選択肢は、四災スーザイらと戦うことのみだ。



 ーーーーー一方其の頃、真下のフィールドでは。
オモトはボールにケッキングを戻し、次のポケモンを装填する。
遂にラストの1匹……チハヤの勝利は目前だ。

「さて……最後のポケモンでござる。拙者、後に退けぬッ……!」
「ッ……!」
「出でよ……コラッタッ!!」
そうしてオモトのボールから出てきたポケモン。

「「「「ちゅー!ちゅちゅーーー!」」」」
それは白く小さな、ネズミ型のポケモン。
4匹で群れを作っており、一見するとまるで家族のように見える。
そのポケモンの名前は……

「イッカネズミ……だと!?」
そう、イッカネズミ。
今回の言い間違いはそこそこ近かった。
しかしこのイッカネズミ……チハヤも存在は知っていたものの、使い手たるトレーナーは殆ど存在していない。
故にどんな戦術を仕掛けてくるかは……全くの未知数であった。

「(……一体何をしてきやがるんだ……今度はッ!?)」


[ポケモンファイル]
☆イッカネズミ(-)
☆親:オモト
☆詳細:GAIAの敷地内で捕まえたポケモン。オモトはコラッタだと思いこんでいる。放っておくといつの間にか数が増えている。現在は4匹家族。

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