依頼をこなせ!④

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「狭くて悪いな!」
「気にしないでくれ。むしろこんなちゃんとした建物で食事できるなんて初めてのことで……」
「わーい!」
「こら!他のポケモンの家で暴れちゃいけないよ」

あれからディスト達は無事ラフズタウンに戻り、ブルーのルルにあのネックレスを返すことができた。
もちろん、泥棒のはずのラッタも一緒にやってきて彼女は酷く混乱していた。それでも、しっかり説明して何度も謝って……そして、傷一つできていないネックレスを見せると、なんとか落ち着きを取り戻してくれた。
それからルルは、ディストとクォーツに「感謝の気持ち」として少しばかりのお金とそこにいた人数分のヒメリの実を分けてくれたのだ。
初めは「そんな、こんなに……」と遠慮したのだが、宝物を取り返してくれたお礼として半ば強引にディスト達に持たせると、そのまま彼女はその場から去っていってしまった。
そして今、おそらく午後12時を過ぎた頃。そのヒメリの実を森の小屋……厳密には、クォーツの家でいただこうとしているところだった。

クォーツが机に置いてあるポスターやペンを片付けると、ディストは貰ったヒメリの実と、帰りに採ってきた他の木の実をその上に並べる。だがその机の周りを見て「あっ」と小さな声を上げた。申し訳なさそうな顔でディストはラッタ達を見やる。

「椅子2個しかないや……なんとか座れるか?」
「面倒なので先に言っておきますガ、私達のことはお気になさらずニ」

そこには椅子というより、木箱と表現するほうが正しそうな四角い物体が2個あった。
ディストはそもそも座る必要がないし、クォーツは身を置けるならなんでも構わないからだろうか。大きさからしてクォーツはこれを2個繋げて使っていそうだが……。

「……段ボール箱でも持ってきましょうカ」
「……いや、問題ない。コラッタ、ちょっと来てくれ」
「はーい」

父親ラッタはコラッタを抱き抱えると、そのまま木箱の上に座った。その隣に母親ラッタも座る。

「おぉ、よかった!じゃあ昼飯にするか!」
「やったぁ!」

わーいと両手を上げ、父親ラッタの手から離れそうになったコラッタ。父親ラッタは「ふぅ……」と息を吐いた後に、落ちないように少しだけ力を強めて、コラッタに「あまりはしゃぎすぎないように……」と注意した。
それをディストは微笑ましそうに見る。

「あれ?クォーツ、こっちじゃなくていいのか?」
「お気遣いなク」

ルルから貰ったヒメリの実だけ手に取ると、クォーツはもう一つある部屋の扉を開けた。小さい、ちょっとした個室だろうか。ディストの引き留める声を軽く流すと、クォーツはそのまま個室の中へ入っていってしまった。

「……ねぇ、やっぱりお暇したほうが……」
「いや、クォーツはもともとあんな感じだ。あんまり他のポケモンに関わろうとしないというか……あ、でも誤解しないでくれ。あいつはめっちゃ良いやつだからな」
「ああ。それは今日のことを思えばよくわかるよ」

母親ラッタが父親ラッタに耳打ちした言葉が聞こえると、食い気味にディストが話し出した。
父親ラッタは最後の言葉にうんうんと頷く。それにさっきも、ラッタ達の座るところを気にしてくれていた。どんな理由であろうと気にかけてくれたことが嬉しかったのだ。

「お腹すいたよー」

長い話にコラッタが待ちきれずに手をぶんぶんと振る。
それを見ると、ディスト達は笑いあった。
今日初めて出会って、しかもその一匹は泥棒として追っていたはずなのに、こんなにすぐ仲良くなれるものなのかとディストは少し嬉しく思っていた。
そしてみんなしっかりと机に向き合うと、両手を合わせる。

「悪い悪い!そんじゃ」

「「「「いただきまーす!」」」」







「……帰りましタ?」
「お、クォーツ。ラッタ達なら新しく住めそうな場所を探しに行ったよ。この森になるかどうかはわからないって言ってたけどな」
「そうでしょうネ。あんな目に遭ったのにまだここに滞在できるとは思えませんかラ」

お昼を食べ終えみんなで世間話を交わした後、ラッタ達は新しい巣を探すべくこの家を出ていった。せっかく見つけたこの森の巣は、またいつあのポケモン達に狙われるかわからないという理由で諦めたらしい。
それも当然だ。片や人質、片や脅されて無理矢理犯罪者として巻き込まれてしまったのだから。
なんだか少し寂しく思ってしまったディストだったが『Metal Puissance』として活動していれば、きっといつかまた会える。そう感じて最後は笑顔で見送った。

「本当に情が湧きやすいんですねあなたハ」
「別にいいだろ!それよりクォーツは何してたんだ?結構長いことそっちにいたけど」

ため息を吐いたクォーツにディストは手でぺちぺちと反撃する。
クォーツはそれを冷めた目で見ながら、めんどくさそうにディストの質問に答えた。

「彼等のことを調べていましタ」
「ティラールとヴェレーノのこと?」
「ハイ。あそこまでのことを手慣れたようにやれるなんて普通じゃありませんからネ。お尋ね者として救助隊に依頼されてるかもしれないと思いましテ」

確かに。あの二匹の様子だとあれが初犯とは思えない。もし他のところでも似たようなことをしていたなら、誰かが然るべき場所へ通報しているはずだ。

「なるほどなー。それで、結果は?見つかったのか?」
「それらしきものはありましタ」
「おぉ!」

クォーツの説明によると、最近各地で『レジスタンス』と名乗る怪しい集団が目撃されているらしい。集団といっても、犯行の際はヴェレーノとティラールのように二匹か一匹で行動していることが多いようだ。
そしてその犯行とは。窃盗や誘拐に暴行……等、やりたい放題の模様。
そして様々な救助隊や警察に逮捕依頼が届くにも関わらず、現在でも『レジスタンス』と名乗るポケモン達は一匹も確保されていないため、詳しい事は何もわからないままらしい。

「目撃ポケモンの中にアリアドスも含まれていましタ。もちろんこの情報だけでは断定までは出来ませんけド」
「ふーむ。ティラールのほうは?」
「探してみましたガ、ジュナイパーの情報はありませんでしたヨ」

とりあえずわかったのは『レジスタンス』という名前の組織があるということ。そしてそこにアリアドスもいるかもしれない、ということ。更にそのポケモン達は誰も捕まっていないということ……。

「……仲間かどうかに関わらず、どうにかしたほうがいい連中ってのはわかった」
「そうですネ」

そんな恐ろしい連中がいるなんて。ディストは今朝あった出来事を思い出していた。
もしかしたら、今このときにもその『レジスタンス』は悪事を働いているのかもしれない。そのせいで苦しむポケモン達も──そう思うだけでゾワッとする。
そして、同時にそんな彼の脳裏にはこんな考えも過っていた。
──警察も、救助隊でさえも苦戦しているお尋ね者。もしそのお尋ね者を……。

「……俺達で捕まえたらかっこいいんじゃないか?」
「ハイ?」

故意か無意識かわからないが、ディストから漏れた言葉にクォーツは困惑した。

「そのまんまの意味だよ。俺達『Metal Puissance』がその『レジスタンス』って奴等を捕まえる!」
「集団に二匹だけで挑むのは無謀でしょウ」
「そうだな。だからそのために鍛えるんだ!」

呆れているクォーツとは裏腹に、ディストは自信満々に答える。もちろんクォーツがそんなやる気だけで付き合ってくれるとは思っていない。
ディストは、速攻で思い付いたクォーツを納得させるためのそれっぽい計画を語り始めた。

「まずチームとして俺達に足りないのは知名度だ。そのためには活動を増やして信頼を築く必要がある」
「ハイ」
「そして次に足りないのは戦力だ。俺達自身が強くなる必要もあるが、どうしてもそれだけじゃ難しい場面もあると思う。それにお尋ね者の集団に俺達だけで向かうのは無理がある」
「そうですネ」
「ということで」

「これからの『Metal Puissance』の活動内容は、とにかくポケモンを助けまくる!ついでに仲間も増やしてパワーアップ!そしていずれ『レジスタンス』を捕まえる!もちろん先を越されたらそれまでだ!……どうだ?悪くないだろ?」

速攻にしてはよくできたであろう計画を話し終えると、しばらく沈黙が続いた。きっと真剣に考えてくれてるのだろうとディストは特に気にせずじーっとクォーツの返事を待つ。
しばらくすると、クォーツは顔を上げて言葉を発した。

「……まァ、何も目標が無いよりはいいかもしれませン」
「だろ?」
「ですが一つ気になる点ガ」

ディストが腕を組んで「良い計画だろ」と言う前にクォーツが言葉を続ける。

「仲間とは具体的にどのようナ?」
「それはまぁ……強いやつとか?」
「雑ですネ」
「いいだろ!強いほうがいいし、それにいっぱいいるほうが楽しいし!」

仲間についてはまだ何も考えていないことを誤魔化すように笑うディストに、目的が変わってるような、と思いつつもクォーツはそれ以上異議を唱えることはなかった。
確かにまだ現実味はない話にも思える。今日戦ったあの二匹──もし彼等が『レジスタンス』の仲間なら。奴等は運なんかではなく、十分な実力を持って逃亡し続けていることになる。それを止めるにはこちらも相応かそれ以上の力を持つ必要があるだろう。
だが「困っているポケモンを助ける」という理念を持っている以上、そんな悪党の話をスルーできるはずもなかった。
もし少しでも力になれるなら、それは悪いことではないだろう。

こうして『Metal Puissance』には新しい目標が生まれた。
『レジスタンス』と名乗る悪の組織。各地で目撃されているにも関わらず、未だに誰も欠けていない。そんな連中を捕まえること──。

そのためにもまず、ディスト達は本格的にチームとしての活動を始めることにした。

「まずはこのポスターをそこら中に貼り付けるところから始めるか」
「迷惑そのものですネ。先に私達のほうが通報されるのでハ?」
「それは困る……じゃあ、片っ端からポケモンに何か困ってないか声をかける?」
「それこそ不審者ですネ」
「どうしたらいいんだよー……てかクォーツも否定だけしてないで何か考えてくれ!」
「ハァ……そうですネ、デハ……」

とりあえず今日は、今後の活動のために色々と話し合うことにした。名を広めるためにどうするか、仲間を増やすのにどうするか、報酬の受け取りについて……等。
リーダーであるディストの提案を、(本人は認めていないが)副リーダーのクォーツがなんとか使えるように改善していく──。

……果たしてこのチーム。『Metal Puissance』は、本当に上手くいくのだろうか?

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