第145話 時は満ちた。ゴールド編

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 予定より早く戻ってきたゴールドは扉を開けると、ジム内を清掃していたグリーンを目にした。
 大分荒れてしまったジムをポケモン達と一緒に片付けている。

「お待たせしましたっすー!」

 出て行った時とは真逆のいい顔をして戻ってきたゴールドに少しだけ口角をあげてグリーンは出迎えた。

「早かったじゃないか。む、進化してるな。おめでとう」
「グリーン先輩……!」

 身体も心も大きくなって帰ってきたトゲチックの頭を撫でてやりながら褒めてやるとゴールドは手をわなわなと震えさせるので不思議に思ったグリーンは声をかけた。

「な、なんだ」
「トゲチックをトゲキッスにしたいんすよ! こいつがそう言ってるみたいで思えて!」
「ほう?」

 何をする気だこいつはと若干怯えながらも返答すると、ゴールドはトゲチックの両脇に手を突っ込んで抱き抱えるとグリーンの目の前にズイと出す。

「どうすか」
「ああ、目つきと言うか目の中に意思を感じるな。進化条件は確か……光の石だったな、ほら」

 目の前にいるイケメンにトゲチックは目をそらすことなく立ち向かった。その結果、無事に光の石をグリーンから手渡される事に。

「え、これくれるんスか?」
「ああ。お前のために持ってきたんだ。使ってくれ」
「ありがとうございます! よし、トゲたろう、最終進化だぜ!」

 あっさりと渡された石にまじまじと本物なのかと疑うトゲチックと、疑う事を知らない眼差しで光の石をトゲチックに持たせるゴールド。
 光の石を持ったトゲチックは大事そうに両手で持つと、淡い光りを発光させてから体内へと消えていた。そして、その淡いが身体中を駆け巡り姿を変えた。

「しかし、お前ら目の色がそっくりだな。マイも同じような事を思ってるだろうな」
「マイ……。そ、そうっすね! グリーン先輩! せっかく片付けてくれましたけど修行開始と行こうぜ!」
「ああ。受けて立つ!」

 無事に最終進化したトゲキッス。翼のような物が生えた身体に違和感があるのか右に傾いたり左に傾いたり忙しそうだ。
 それでもグリーンの言葉の通り「目の色はゴールドにそっくり」で性格まで似ているようだ。
 バトルと分かった瞬間顔付きが戦闘モードに変わり闘志を燃やす。

◆◆◆

 グリーンとの修行を終えたゴールドは真っ直ぐにアヤノと同じルートで1の島に向かった。オーキド博士から「虹色チケット」を預かっていたグリーンからもらったおかげでどこの島にも自由に行けるようになり、ゴールドは少し上機嫌だ。

「さーて! マイを探しに行こうか!」

 1の島のポケモンセンター前にいたゴールドはナナシママップをもらい4の島を確認中。
 暑い太陽が体力を奪う。目を細めながらルートを検索している途中、いかにも怪しげな少年達がコソコソと話をしていた。
 真っ黒な半袖Tシャツに真っ黒なズボン、そして口元には黒いマスクを着用。

(ここのヤンキーか? まあマイは絡まれてなさそうだけど……さっきから何を話してんだ?)

 ポケモンセンター前のベンチに座っているゴールドに対して、少年二人はベンチの真横に胡座をかいて座る。

「なあ聞いたか! 女の子を誘拐したらしい!」
「ひゅー! まじかよクールだな! ポケモン誘拐だけじゃなくて人まで誘拐するなんて最高にクールだぜ団長!」

 何やら物騒な話題で盛り上がる。ゴールドは目を丸くしてから落ち着きを取り戻してもう少しだけ話を盗み聞きする。

「その女の子、なんでも王子さまを迎えに来たとか言ってた!」
「まじかよクールだな! 確かギャラドスに乗ってたんだよな? カッコいいよなー! ギャラちゃんとか呼んでたけど!」

 耳を疑った。女の子で王子さまを迎えに来てギャラドスのギャラちゃんを所有している、これは完璧にアヤノの事ではないかと。

「おいオメェら」
「な、なんだよ!おま……え!? まさか団長!?」
「はあ?」

 マップを握りしめて少年達を見下ろす。一人の少年が眉間にしわを寄せて威嚇をしてきたが途中から子犬のような潤んだ瞳に変わられた。

「漆黒の黒髪に鋭い目つきは人を殺すようだ! そして金色の瞳! ああ! まさに団長! お会いできて光栄です団長!」
(勘違いしてるみたいだな……。まあいい、しばらくは話を聞いてみるか)
「団長クールですね! こんな所でマップを見ているなんて!」

 どうやらこの少年達はバビロン団の一員だが下っ端のためボスの姿をハッキリとは見た事がないらしい。
 たまたま「目つきが悪く」て「黒髪」の「金色」の瞳のゴールドを団長だと誤認している。

「ああ、だろ? それでお前ら女の子を今どうしてる?」
「確か3の島のジュン姐さんの所に置いてあるとか!」
「なるほどな。それでお前ら頼みがあるんだが俺をアジトまで連れて行って来れ」

 悟られないように慎重に言葉を選んで団員に尋ねると、素直に答えられる。

「「 アイアイサー! 」」
「よーし頼んだぜお前ら!」

 二人から元気な声をもらいゴールドは少年達が乗ってきたと言われる小型ボートに乗り込んだ。

(マイを迎えに来たつもりがアヤノを迎えに行くなんてな……。一応マイにも連絡を入れておきたいが、こいつらの前でポケギアを操作するのはちと問題有りだな)

 しばらくの間グリーンのそばにいたため冷静に物事を分析する事が出来た。
小型ボートは物凄いスピードで水しぶきを上げて島と島の間を駆け巡ぐりとある島で止まった。

「団長! 着きましたぜ!」
「サンキューな。じゃあ俺は戻るから」
「アイアイサー!」
「団長またお話し聞かせてください!」

 マップを見ながら来たわけではないのでここがどこの島なのか分からない。団員達が島から遠いところまで小型ボートを走らせるのを確認してからポケギアを取り出す。

「お! ちょうどマイから電話か。よぉマイ!」
『ゴールド! たいへん! たいへん! アヤノが誘拐されちゃった!』
「おう俺もさっき団員から聞いた。それで今ボスのアジトの前にいる。でっけぇビルをそのままアジトとして利用してやがる」

 久しぶりにマイの声を聞いたゴールドは内心胸をなでおろした。元気そうな声なのは確かだが焦りを感じ早口になっている。

『団員って?』
「ああ、なんでも団長は俺そっくりの目の色と髪の色らしい!」
『勘違いされちゃったんだね。あ、そうだ! ゴールドどうしてアジトの前にいるの? アヤノを助けるんじゃないの?』

 ゴールドから詳しい事を聞いたわけでもないのにマイは感じ取る。いつの間に空気が読める子になったのかと涙が出そうにもなった。

「アヤは3の島にいるらしい。マイはそっちに向かってくれ。俺は団長に話をつける。なんでもポケモン誘拐をしてるらしいじゃねぇか! 許せねぇ!」
『分かった! けど気をつけてね! カントー地方の先輩達にも連絡してそれぞれの島に行ってもらうの! ゴールドはどこの島にいるの?』
「それが分かんねぇんだ! 悪いな! けど任せておけ! 俺なら大丈夫だから!」

 ゴールドは団長の説得、最悪ポケモンバトルになる事は間違いないだろう。それを想定してゴールドはあえて危険な道を選び、マイにアヤノの救出をさせる事で「友達を助ける勇敢な心」を学ばせる事と、ゴールドが説得する間の「時間稼ぎ」になる事まで計算済みだ。

『信じてるから! それじゃあわたし、レッドさん達にも電話するね! また電話するよ!』

 大丈夫と力強く言われてしまってマイは答える返事は一つに絞られた。
 信じてるから、それだけでゴールドは強くなれる。

「おう、気をつけろよ? またな、マイ!」
『うん、ありがとう! またね、ゴールド!』

 ポケギアの電話を終えて二人はそれぞれ行動を起こした。

(さて、俺も行くか!)

 不気味にそびえ立つビルは所々の壁にヒビが入っていたり、コンクリートがむき出しになっていたりと無残な姿。
 生唾を飲み込んでゴールドは走り出した――

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