第144話 下には下の苦労がある。マイ編

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

(ほんとに来るのかなぁ……こうも暗いとさっき寝たのに眠くなるよ)

 マイは夜の海岸に来ていた。暗闇に隠れているポケモンは分からないけれど、静かにしていると聞こえて来る波の音に耳を岩陰に隠れて聞いていた。

(それにしても修行が始まって一週間くらいだよ? なんかイベント起きるの早いなぁ)
「フィ……?」
「ん? どしたの、フィーちゃん。何か聞こえた?」

 今日は満月ではないのでエーフィの話している言葉は理解出来ない。二つに分裂している尻尾をピンと上に立てて、なにかを察知。
 マイはエーフィの顔に近づこうと体育座りから四つん這いになる。

「フィ!」
「海からこっちに来てる!?」

 額の宝石か目に反射。何かを目で捉える。自然界の波音のみが音楽だったのに、機械音が聞こえて来た。
 唸らせるような、波を勢いよく切り裂くような音。これはモーターエンジン?マイは足りない頭で考えるが答えは出ない。
 やがて静かな波音だけに戻ると今度は砂浜を歩くと音。さくさく、さくさくとビーチサンダルで堂々と歩く音。そして、マイのポケギアのメールの着信音。

(おいおい!? 誰だよこんな時にメールなんてー! アヤノ? 捕まった? 助けろ? 意味わかんないよ! 冗談なら後にしてくれ!)

 時刻は夜の十二時を回った。懐中電灯で照らした砂浜を歩く音は段々とマイに近づいて来る。
 ポケギアの電源を今更切っても遅い。覚悟を決めて眼をつむった。

(見つかる!)
「……!」

 辺りを警戒するかのような懐中電灯にマイは照らされ掛けた、が。エーフィのとっさの判断で出された技「光の壁」でマイを雲隠れさせる。違和感はあるが丸見えよりは幾分かはマシ。

「気のせいか子供の声が聞こえた気がするんだが? まあいい、ほら甘い香りを放て」

 男の声。まだ声変わりもしていない、少年らしき声がした。

(何かする気だ! あのポケモンは確か……リングマ! 甘い香りは確か野生のポケモンの出現率を上げる、だっけ?)

 暗闇でハッキリとは見えないが、月の明かりで薄っすら見えるのは二本足でしっかり立つポケモン、そしてお腹に丸井模様が見えるとマイはリーグで勉強した時を思い出し名前を引き当てた。

「おーおー出て来た出て来た馬鹿が」
(ミニリュウが出て来た!)
「リングマ、適当に相手をしていろ。その間に俺が撃つ」

 甘い香りに引き寄せられたポケモンはマイのはじめてのポケモンであるミニリュウ。鼻を懸命に使ってリングマに近寄ると、襲い掛かって行くリングマに驚いてその場を動けないでいた。

(撃つ? モンスターボールでゲットするの……? それにても言い方おかしいしなぁ)

 少年の言い回しか分からないがマイは首を傾げて推理する。

「流石リングマ、もういい戻れ。後は俺が、撃つ……!」
「えっ!?」
「誰だ?! やっぱり誰かいるのか!?」

 最後まで信じたかったが、少年は言葉通りピストルか何かでミニリュウに弾丸を撃ち放った。
 苦しそうにもがくミニリュウを見てマイはいても立ってもいられずに声を出してし立ち上がってしまう。

「あなたがこの島のポケモンを暴走させた犯人なんだね!」
「なんだよ藪から棒に。証拠でもあるのかよ」

 少年の背丈はさほど高くはない。同い年か、一年上くらい。短く切りそろえた髪をオールバックにしていて、オレンジ色の目がマイを捕らえて離さない。

「証拠はそのピストルと弾!」
「どうやって俺からこれを奪うってんだ?」
「力で奪う! 行って、フィーちゃん!」

 厭らしく細める目と力強く相手を睨む目。マイはエーフィとリングマのバトルを持ち掛ける。随分余裕そうな少年は砂浜にどっかり腰を下ろして、好きに戦えと命じる。奥歯を噛み締めてマイとエーフィは全力で戦う。

◆◆◆

「ごめんなさい、本当にごめんなさい。だって君チャンピオンなんでしょ!? 俺が勝てるワケないよ!」

 結果はマイが圧勝。エーフィの念力でリングマの動きを封じた後に破壊光線で一発ノックアウト。瞬殺された少年は土下座をしてマイに許しをこう。

「そんな事より!」
「そんな事より!?」

 マイの言葉に勢い良く顔を上げる少年の顔に砂が付いているのかぎゅっと目を瞑り、口に入った砂を必死に唾と一緒に出している。

「暴走ポケモンはアンタの仕業かって聞いてんの!」

 仁王立ちをして腰に手を当てるマイは少し得意気。まるでゴールドになったようで嬉しかったのだ。

「はい、そうですごめんなさい。ちょっと腹が立ってやってました」
「八つ当たりで島のポケモンを暴走させて、島の人がどれだけ困ってるか分かってんの!? 引きづり回して謝ってもらうかんね!」

 素直に理由付きで答えたのにマイの怒りは案外しぶとく足踏みをして脅すような態度を取る。やっぱり顔は楽しそう。

「ごめんなさいごめんなさいそれだけは許してくださいボスに何て言えばいいんだ……うう」
「ボス? なにそれ?」

 何度も額を地面に擦り付けて謝る少年がつぶやいた台詞にマイは耳をピクリと動かし聞き逃さなかった。

「そ、それは言えな「フィーちゃん、破壊光線の準備」ごめんなさい言いますから!」

 気まづそうに顔を上げて視線をずらす少年の顔面にエーフィを持っていき満面の笑みで指示を出すしかけて、止められる。

「分かればよろしいー! で、アンタはどこの組織? ボスっていうくらいなんだし何かの組織でしょ?」
「俺はバビロン団所属の下っ端さ……。最近ポケモン誘拐で有名って知ってるだろ?」

 エーフィを地面に戻してやりマイは仁王立ちから土下座する横に体育座りして聞く。
少年もとい下っ端くんは何だか誇らしげに口角を上げて言う。

「知らない! ていうか、え!? ポケモン誘拐!?」

 思わぬ反応が出た。マイが下っ端の首元を掴み大きな瞳を更に大きくして聞き返す。

「ごめんなさい! でもボスは誘拐したのにしばらくすると元のトレーナーに帰すんだ……。俺が一生懸命誘拐したのにあっさり返して、腹が立って……。この特性のピストル弾でポケモンを撃ってましたすいません怖い顔しないでくださいー!」
「特性のピストル弾って何が特性なの?」
「あかぼんぐりに含まれる辛いエキスがあるんだ、それを抽出して弾に塗り込む、それをポケモンの体内に入れると興奮するって算段さ! 頭良いだろ俺!」

 どうやらこの下っ端は調子に乗ると痛い目を見る事を忘れるらしく、マイは目を半目にして呆れ返る。

「その知識を他で活かせばいいのに……」

 しかし、次の言葉は調子に乗る下っ端くんでも心に刺さるものがあるらしく苦虫を潰した様な顔つきで言った。

「でも二日前に他の団員が女の子を誘拐したみたいなんだ、俺幻滅だよ……。しかも噂だとその女の子を助けに来た男も気絶させたとか……」
(アヤノのメールは本当だった? アヤノが誘拐、それを助けた男? コウちゃん? ソラ兄ちゃんは地元に帰ったからあり得ない……)

 考え込むマイに恐る恐る尋ねる下っ端くんは土下座を辞めてあぐらをかいて一言。

「俺帰ってもいい?」
「駄目だよ。家に戻ってキワメお婆ちゃんに説教されなさい!」

 エーフィの念力で身体を固定されて手足の自由をなくすと、カイリューの手で持って運ばれる。抱きかかえてやる訳でもなく、買物袋を片手で持つように箱ばれた。

◆◆◆

「ほほう、こいつが犯人か。まずは一発……はは、嘘じゃよ。しかし人間まで誘拐とは。下っ端のお前には通達されてないと?」

 キワメ宅に着くと、意外と早かったなぁと言いたげに玄関から顔を出した。
 カイリューに首根っこを持たれている下っ端はカオを青ざめながらキワメに言った。

「は、はい。俺みたいな下っ端には来なかったです、だから仲間外れみたいに思えてポケモンに八つ当たりを……。あの、この念力解いてくれませんか……はい、駄目ですよね」
「わたし、助けに行かなきゃ。友達が捕まってるんだ!」

 息苦しいのかマイでは許してくれないと、キワメに上目遣いで尋ねるが、二人の視線は痛かった。いつもは丸くて優しい円を描いているマイの目がゴールドみたいに目付きが悪くなっている。

「待て。お前一人でか? そのアヤノとやらは相当な実力者、そして助けに行った男も中々の実力があるはずじゃ。それでも駄目だったのなら尚更一人では危険。仲間を呼ぶんじゃ」
「うん、そうだね。ねえ、アヤノは、誘拐したっていう人はどこにいるの?」

 友達を誘拐、知らないキワメは聞きたい事が山程あるが今にも飛び出して行きそうなマイを言葉で引き止めるのが精一杯。マイもそれを分かってくれたのか浅い呼吸を何度かして冷静を取り戻す。

「そんなの俺だって知らねえ! ただ、4の島以外に一つづつ幹部がいるのは確かだ。だからどこかの島に誘拐された奴らはいると思う……なぁ、いいだろ? 離してくれよ!」

 流石下っ端。ボスのいる島ですら知らないと来た。バビロン団の人数は不明だが島の数だけの幹部ならマイの知り合いでなんとかなりそうだ。
 と、まあ。少なからず貴重な情報提供をしてくれた下っ端くんにキワメが応える。

「仕方ないの。今度はワシのカイリューに面倒をみてもらうか。エーフィ、カイリュー、良くやった離してやりなさい」
「はあー自由だ」

 マイのカイリューの手を軽く叩いて、地面にダイブさせる。エーフィも力を抜いてやり手足の使用を許可。
 下っ端くんは大口を開け、両手を広げ自由を謳歌。そんな下っ端くんの肩をキワメが顔を黒くして抑えつける。

「誰が自由だと行った? しばらくはワシの召使いになってもらうからのぅ! ほほほ! さあ、マイ! 全部で七島、ここは除いて六つの島がある! 仲間を呼ぶのじゃ!」
「分かった! 先輩達の力を借りる!」

 マイがいなくなるという事で下っ端くんがマイの代わりにお世話係に任命。
 説明を簡単に受けたマイは部屋に駆け足でもどりいつもの服装、白のワンピースにピンクのパーカーを着て外に飛び出した。

「キワメお婆ちゃんありがとう、行ってくるね!」
「どこにじゃー!」
「うーん、4の島のポケモンセンター!」

 カイリューの背中に跨がって左手を大きく振りながら感謝を述べた。当てずっぽうな答えだったがトレーナーの言葉を信じてポケモンセンターに飛び立った。

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