第142話 今夜は寝かさないぞ。マイ編
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
暴走ポケモンは海岸にいる、確信という確信は得てはいないが体を張って暴走ポケモンは海の近くにいると言う証明は出来た。
今回はカイリューと共に海岸をランニング中。仮に暴走ポケモンがいたとしてもそれは島のポケモンであり、無闇に傷付ける事はよくないと思いマイはある作戦を立ていた。
「さぁーて、さっそく暴走ポケモンのお出ましだよ。リューくん、手加減してあげて。きっと好きで暴れている訳ではないと思うの」
夕焼けに色に染まる海をバックに隣にいるカイリューに話掛ける。
「ばぅ!」
何時間か休憩を含め走っていると海から上がって来たハクリューがマイ達目掛けて突っ込んで来た。カイリューの顎下をひと撫でしてからマイの目は変わる。
「ん、ありがとう! よし、来るよ。準備して、ドラゴンダイブ!」
「バウ!」
技名を耳でしっかり聞き取ると迫り来るハクリューの頭に尻尾を叩き込む。柔らかい砂浜に打ち付けられたとしても相当ダメージがある。
キワメによる修行のおかげかカイリューの動きには無駄がない。
「後は、これ! 眠り団子! キワメお婆ちゃんお手製だよ!」
「ばうー」
「だめだめーこれ食べたら眠たくなっちゃうんだよ」
ジャージのズボンポケットから木の葉で包まれたお手製団子を取り出した。
これは以前マイが取って来た眠り草から作ったら特製眠り団子。どんなポケモンもすぐに眠ってしまう。
そんな眠り団子を欲しそうに鳴くカイリューに苦笑い。変な所がマイと似てる。
「きゅ、う」
「ごめんね、これを食べて。大丈夫、怖くないから、ね?」
「ばうー!」
頭を打って目が回っているのか返事が弱々しい。しかし、しゃがみ込んだマイが眠り団子を差し出すと頭を反対に向けた。野生の勘か。
怖がらないように頭を優しく撫でながら、マイは口を開けて眠り団子を口に入れた。
カイリューが暴れるハクリューを両腕で抑えてくれたためマイはほっと安心。
「ありがとう。じゃ、ハクリューちゃん、ちょっと見せてもらうからねー」
「ばうばうー」
「んもー本気でやってるのにー。後でなでなでしてあげるから、待ってて」
「ばうー」
すぐに眠りについたのか規則正しい呼吸音が聞こえる。どれだけ効果があるのか分からないが人間やったら恐らく一生目が覚めない気がする。
眠り団子の効果を知ったマイはハクリューの身体を調べる。あっちこっちに移動して触るマイに嫉妬しているのかカイリューがジタバタと地団駄を踏むと、マイは困ったように眉を下げてカイリューを落ち着かせるように言い収めた。
「これはただの傷跡って感じではなさそう……もー、リューくん何穴掘ってるの!」
ハクリューの耳に当たる部分の裏側に何かが刺された跡があった。マイは首を傾げながら足りない頭で考え考えるが、すぐ横で大人しくなったはずのカイリューが穴を掘っていた。
「ばうー!」
「これってピストルの弾?」
やり遂げた顔でカイリューは大きな爪先に、ピストルの弾を持つ。使われた形跡がある。
「まさか、このピストルに撃たれて興奮していた?」
「ばうう?」
細長いピストルの弾とハクリューの傷跡を照らし合わせるも、マイには専門の知識がないため分からず仕舞い。
「分かんないなぁ。ハクリューちゃんの目が醒めるまで待ちたいけどいつ醒めるか分からないし……。とりあえず傷跡を写真で撮るのと、この弾を持ち帰ろうか」
考える事が苦手なマイは立ち上がって砂をはたき落とすとハクリューを安全そうな場所までカイリューに運んでもらい、そこからは去って家に帰って戻る事にした。
(もしかしてわたし、ゴールドがいなくても一人で判断できてるのかなぁ)
最初は走ってすぐに根を上げてしまったが今では体力が増えてきた。筋肉は相変わらず付かないが、身体がなんとなく丈夫になってる事が分かる。
体力面だけではなく普段ならしゃがんだ状態から立ち上がるだけで目まいがしていたが先程はそれがない事も含めて成長していた。
「たーだいまー」
「ほいおかえり、早かったの。して、どうじゃ何か見つけた顔をしているが?」
「うん、これ。ピストルの弾だよね? ハクリューの傷跡と似てたんだけど」
玄関で靴を脱ぎながら声をキワメに掛けると、廊下に出てきたキワメにそう言われた。
素直に返事をしてポケットに入れていた弾を渡し、ポケギアで撮った写真を見比べてもらう。
「ふむ、ふむふむ。この弾で我を失ってしまったのかもしれないな。と言う事は人為的な物か?」
何度も頷きながら確認をする。やはり、これといった証拠はないのでなんとも言えないが仮説を立てる分には良い。
「居間で話すかの。着替えたいじゃろうし、ほれ着替え」
「えへへ、ありがとうございます。できればお菓子もほし……何でもないです、着替えて来ます」
立ち話が好きではないキワメに背中を押されてマイは堂々とキワメの前で服を脱ぎ着替える。まぁ女同士なのだから恥ずかしがる必要はない。
「さて、まずはこの弾と場所じゃ」
机を挟んで向かい合う二人の目の先は弾。五センチ程の長さの弾をポケモンに当てる事は難しい。
「海岸に落ちてたよ。リューくんが穴を掘るで見つけたんだー」
「海岸。つまり外からの攻撃だな?」
海の中にいるポケモン達と浜辺にいるポケモン達の仲は悪くないため平和ボケしているのもあるかもしれない。
避ける事をしない浜辺にいるポケモン達の後ろから狙い撃ちの可能性が高い。もし、陸から射撃するのであったら、内陸エリアのポケモンも暴走するからだ。
「そ、そうですね?」
何故外からの攻撃と確定するのかマイには分からずに頭にハテナマークを何個も浮かべる。
そしてキワメは更に話を進めようと理由も述べた。
「内陸エリアにも同じような物がないか探しに行かせるがまずそれはない。根拠もない!」
「えー」
腰に手を当てて仰け反り気味に言うキワメにマイは口に手を当てて身を引いた。
コホンと咳払いをしてからキワメは態勢を戻して机に手を置く。
「まあ、今日の夜から海岸を見張るとするかの。ほら、今のうちに寝ておけ」
何の悪びれもなく言い放つキワメに目を何度もパチクリさせてマイの時が止まるが現実にすぐに引き戻った。
「まさかわたしが!? やだよ怖い!」
「ポケモンもいれば怖くないじゃろ! ほれほれ風呂入って寝ろー! 時間になったら起こすからの!」
もう一度確認するように言うがキワメの答えは変わらない。トントン拍子で話が進んでマイは風呂場に直行。せっかく着替えたばかりなのにー、と最後まで抵抗してみたが意味がない。
「いっその事、眠り団子を食べて眠り続けたいよー」
湯船に浸かりながらマイは愚痴をこぼす。一人で行く訳ではないと分かってはいても怖い物は怖い。
そう言えば幽霊ポケモンは怖くなくなったなぁ、マイは風呂場の天井に湯気が当たって消えて行くのを見つめながら、ボンヤリ考えた。
(たしかゴールドに幽霊屋敷とかに連れてかれて、一人になって、そこで幽霊ポケモンに会って……)
脳内に流れてくる懐かしい映像が目を閉じたまぶたに蘇る。
念力の力で遊具を動かしてもらって遊んだ事を思い出して笑みがこぼれた。
「よーし、やるぞー」
「小さい気合の声じゃのー」
左腕を大きく掲げた割りの小さい声を、脱衣所にいたキワメに聞かれて文句を言われた。
「独り言だもん」
「ほほほっならかなり大きな独り言じゃの! まあ浸かり過ぎは気をつけなさいよ。夕飯作ってあるからね」
何となく恥ずかしくて、顔の半分まで湯船に浸からせた。ぷくぷくと空気の泡がマイの目と鼻の先に現れては消える。
遊びだしたマイに念を押してからキワメは居間に戻って行った。