第141話 ヒロインとしての役目。アヤノ編

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 1の島のポケモンセンター内では至る所に張り紙がしてあった。
 内装はジョウト地方やカントー地方と同じ作りであえて言うならジョーイさんの肌が健康的な小麦色に焼けている事くらいか。

「バビロン団と語るポケモン誘拐集団に注意?」
「こん?」

 入り口を入ってすぐの柱には、謎の集団によるポケモン誘拐の注意書きが貼られていて、アヤノはそれを読んだ。

「あら? あなたは観光客かしら」
「はい、ジョーイさん……ですよね?」
「ふふ、そうよ。本島に比べるとパワフルって言われてるわ。それより、そのポスターなんだけれどね」

 ポスターに指先を軽く触れるように当てて、他にも書かれている情報をなぞりながら見ていると後ろからジョーイさんが話しかけてきたのだ。
 振り返るとちょびっとだけ雰囲気の違うジョーイさんに首を傾げながら問うと、そう答えてくれた。

「なんだけれど?」
「ここ最近、4の島で暴走ポケモンが出るってもっぱらの噂なのよ。何か関係あるのかしら、って。ごめんなさいね、いきなりこんな事言うなんて……。何が言いたいかって言うと4の島はあまりオススメしないわ、って事ね」

 続けて出た言葉は「4の島」の事。そして「暴走ポケモン」と言うワード。
 当たり前のように脳裏に浮かぶのは、あの時浜辺で助けてくれたマイの顔。オススメしないと言われても行くしかないな、悟られないように顔を作ってアヤノはありがとうございます、と述べる。

「そうなんですね、分かりました。けど、行くのは構わないんですよね?」
「ええ、ただ船が出ていないから波乗りか空を飛ぶで行くしかないんだけれどね。4の島に何か用事が?」

 アヤノは嘘がつけない。聞くだけ聞いたが、ジョーイさんに行くのかと聞かれれば答えてしまう。
 そう、少しだけ顔を赤くし、うっとりと顔をさせて。

「はい! 友だ……いえ婚約相手を迎えに行くんです!」
「あらあらまあまあ! 普通は未来の旦那さまのポジションなのに。はい、これ地図」
「みっ未来の旦那さま!? や、やだもうマイったら……あ、地図ありがとうございます!」

 友達と言い掛けてアヤノは頭を左右に振り訂正した。綺麗な黒髪が乱れ、ジョーイさんに整えられてからナース服のポケットから地図を渡された。
 旦那さま、と言われてマイの顔がダイレクトに過ぎったアヤノはもう何もかもが幸せとなる。

「でも気を付けてね、本当に」
「はい。あのもしよかったらそのバビロン団の事を詳しく教えてもらえないですか?」

 顔の筋肉が緩々になったアヤノを心配しつつクギを刺す。ハッと我れに返り、慈善活動大好き人間に戻った。

「ええ、いいけれど。あなたは大丈夫なの? 旦那さまを迎えに行かなくて」
「大丈夫です! それと私の名前はアヤノ、アヤと呼んでください!」
「分かったわ。じゃあ、アヤちゃん。ここで立ち話もなんだからあっちのソファーに行きましょうか」

顔付きが変わりジョーイさんは目を二、三回目をパチクリさせると落ち着いたのか扉の前から移動して中央に四つ置かれている待合室まで案内。

「わあ、花柄のソファー、ハイビスカスですか?」
「ええ。よく知ってるわね私も綺麗で大好きなの。あ、そうそうバビロン団についてよね。まずあの子達は……」

 本島にあるポケモンセンターのソファーはだいたいが無地かチエック柄か水玉なので花柄が新鮮なのだろう。女の子らしい反応を見せてジョーイさんはホッとした。
 そして、バビロン団の事を言う時に使った「子」にアヤノが耳をピクリと動かす。

「あの子達……? 子供なんですか?」
「ええ、子供と言っても、そうね十六歳とかくらいかしら。随分体格の良い男の子がいるらしいわよ?」
「なるほど……。でもどうして誘拐をしてるって分かったんですか?」

 鋭い所を突くアヤノにジョーイさんは普通のトレーナーではないと悟る。下手に情報を話しても無駄だと何から何まで知っている事を話す姿はどこか助けを求める子供にも見える。

「バビロン団と名乗る集団にポケモンを誘拐された、と言う話が警察によく入るようになったからよ」
「許せない……。罪のない可愛くて美しいポケモンを誘拐して不幸にするなんて!」

 膝に置いてある手をぎゅっと握りしめる。トレーナーになって一年が過ぎてアヤノにもそう言う心が芽生えているようだ。

「ええ、そうよね。でもねわざわざバビロン団なんて名乗って警察に正体をバラしているなんておかしいと思うのよ」
「確かにそうですね。名前なんて言わなかったら誰かなんて分からないし。ここは観光客も多いですし……」
「そうでしょう? だからなんでなのかなぁって。しかも、誘拐したポケモンはしばらくしたら帰って来てるのよ! 無傷で!」

二人の推理合戦の声のボリュームがかなり大きくなってきた所でアヤノは目の前の列を目撃して肩をビクつかせる。

「ええ? あ、あのジョーイさんお話中すいませんが、トレーナーさん達がかなりの列で並んでこっちを見ているような……」
「あらあらやだ! ごめんなさいね! じゃあまた何かあったらいつでも来てね!」
「はい! ありがとうございましたー!」

 ポケモンの回復と今夜の宿を取りたいトレーナー達の列を見てしまいアヤノは頭を下げてポケモンセンターから出た。
 階段を下ると海の風が顔に当たって髪が大きく揺れ動く。

「さてと、ギャラちゃんどっちで行こうかしら? やっぱり海で波乗り?」
「ぎゃおーん!」
「はーい、じゃあ4の島までよろしくね!」
「ぎゃおおーん!」

 大きなギャラドスを出しても迷惑が掛からない浜辺まで来るとモンスターボールから外へ飛び出る。
 観光客は大人しいギャラドスに興味津々で近寄るがまるで相手にしないアヤノにとっては会話の邪魔。
 さっさとギャラドスの頭に乗せてもらい海へ航海の旅に出る。

◆◆◆

「あら……何かしら」

 アヤノが4の島に行く道中に見つけた物。それは大きな大きなコイキングの頭が見えた。

「わあ! 大きなコイキング、ギャラちゃん、もう少し下に潜ってくれる?  SNSでアップしたらどのくらい反響あるのかしら!」
「あ、やばい。見つかった」

 ギャラドスに深く潜るように言うとギャラドスは身体の半分を海に浸けていたが更に身体を海中に入れる。
 するとコイキングから声が聞こえるではないか。人間ではなく、機械音声を通したような声であったが。

「え!? コイキングが喋った!?」

 マイに似てきているのか元からの性格を隠していての反動かアヤノは気付かないでポケギアの写真機能、カメラを使い写真を撮りまくる。

「バカ! 何声を出してんだい! あっやだアタシまで!」
「後ろにも!? 暖かい海だと大きく育つのかしら? これはクリスさまに報告しないと!」

 前方にいたコイキングを見かねてか、後方からもコイキングが顔を出して怒号を上げた。今度は雌のコイキングか?アヤノの目はキラキラとあたらしいオモチャを見つけた子供のように純粋になっていた。

「あっちがう、この子アホだぜ。逃げ切れるかもしれねえ」
「お前らうるせぇよ!」
「ええー! 左右にもー!? すごーい!」

 アホと言いながら顔を右側から出したと思えば左側からもコイキングが顔を出した。
 四方を塞がれたアヤノの顔はどんどん青白くなる……訳ではなく熱い闘志に目覚めたトレーナーに変わる。

「ギャラちゃん、破壊光線で一気に決めましょう!」
「ちょっアンタ何を言ってんだい! ええい、催眠術!」

 目の前に珍しいポケモンがいるなら速捕獲。大きなコイキングには大きな攻撃を。
 破壊光線をする為に口を大きく開けて光のエネルギーを貯める。前方にいるコイキングに、今まさに放とうとした時に後方からの攻撃をアヤノが受けてしまった。

「コイキングが催眠術!? あら……急にねむく……」

 通常では考えられない攻撃技にアヤノは好奇心が増すが、催眠術による攻撃に身体が耐えれる事はなく目を閉じてギャラドスの頭に倒れ込む。

「ふー、危なかったぜ」
「ギャオー!? 」

 右側から声を発していたコイキングの口がぱっくりと開いて、中から人間が出てきた。
 薄汚れたフード付きのマントで顔は見えないが、器用にギャラドスの頭に乗る。下手に動けばアヤノが海に落ちて意識のないままでは死んでしまう、ましてや海や川などの 水辺はアヤノにとったらトラウマだ。ギャラドスは動けなかった。

「おおっとギャラドスちゃんそんな怖い顔しないでおくれ? この子がどうなってもいいのかい? ほら、このモンスターボールに入ってな!」

 アヤノを抱きかかえる少年らしき声に牙を剥き出しにして怒りを伝える。相棒のロコンもボールの中で暴れて対抗しているがボールの開閉スイッチを押し込まれて出る事が不可能になってしまった。更に他の手持ちも何もできない状態に。

「アンタ……ギャラドスの上でギャラドスをモンスターボールに戻すとかバカかい?」

 最後の空のボールにギャラドスを入れると海に落ちる少年とアヤノ。しかし、ポケモンの技は強力で、海に落ちた所でアヤノは目を覚まさない。

「なあー! この子はお前が預かれよ! 女同士!」
「言われなくても分かってる! ったく世話の焼ける……」

 後方から攻撃してきたコイキングの口がまたぱっかり開いてフード付きマントがまた登場したが他に相手がいない今ではフードを外す。

「悪いね。アンタにはしばらくこっちにいてもらうからね。ほら、ギャラドスのボールもこっちによこしな」

 アヤノを横抱きに抱えたピンク色の髪をサイドテールにまとめた少女が少年の持っていたボールをもらうと口に戻って行き、口を閉ざした。

「じゃー俺はこっち」
「俺も戻るか」
「アタシもおさらばするかいね」
「…………」

 コイキング、ではなくコイキングにソックリな潜水艦はそれぞれの方向へ散って潜って行った。

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