No.45 † 甘くて美味しい職業 †

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コマタナを仲間にした翌日、私は大都市・エルセアを訪れていた。

アーシェ:「おぉ……この町に来る度に、スタジアムの建築経過が判るな。」

未だに建設中ではあるが、それでも着実にスタジアムの外観はできて……ほぼ完成しているように見える。
もしかしたら、もう既に内装の建設に着手しているのかもしれない。

アーシェ:「とりあえず、協会の方に顔を出しておこうかな。」

あの新人役員さんから既に報告がいっているかもしれないけど、直接報告しておくべきだよな。

そう思った私は、ポケモン協会本部に向けて歩き出した。

***

フィリア地方ポケモン協会・1階応接室

協会役員:「アーシェさん。リコンの墓荒らしの鎮圧、本当にありがとうございました。改めて、お礼を言わせていただきます。」

普段ライブキャスターでやり取りしている役員さんが深々と頭を下げて感謝の言葉を述べてくれた。

役員さんの本名が判らずに、受け付けに居たお姉さんに内線で呼んでもらうまでに少し苦労したのは内緒の話……

アーシェ:「いいって!放置できない案件だったんだから。それで?あれから、代表の方はどうなっているんです?どこまで決まりましたか?」
協会役員:「それでしたら、ちょうど纏めた物がありますので……どうぞ、御覧になってください。」

そう言って役員さんが差し出した資料を受け取り、パラ、パラと1枚ずつ目を通していく。

アーシェ:「……なぁ、役員さん。」
協会役員:「……何でしょう?アーシェさん。」
アーシェ:「こいつは……一体、どういうことだい?」

私は渡された資料の『 5枚目 』のページを役員さんに見せる。

アーシェ:「担当者はこのフィリアの東西南北の『 4つの 』最端の町に配属されるって話だったのに……5ヶ所目に、このエルセアが追加されてるのは、まぁいいよ。スタジアムを建設しながらも、要所にできる施設があるってことだもんな。そこは何の不満も無い。むしろ良いんじゃないかって思う。でも……」

5枚目の……中央代表者の所に張られていた写真が問題だった。

アーシェ:「何でそのエルセアの代表が……よりにもよって、アリアなんだよ?」

そこには私と2度対峙した、この大都市・エルセアの領主の娘であるアリアの写真が張り付けられていた。

アーシェ:「別にあいつと仲が悪いから文句を言ってるわけじゃねぇ。でも……役員さんも、あいつがどういう奴か、やらかした事を知らないわけじゃねぇだろ?」
協会役員:「はい。セローナの大通りでポケモンに大爆発させる、ハイルドベルグにある繁栄の神殿での件や、サルスーラでのグラードン復活の件は、既に聞いています。」
アーシェ:「だったら……」
協会役員:「私もアーシェさんと全く同じことを会議で申し上げたのですが……どうやら、役員の中にアリアさんの関係者から賄賂を受け取った者がいるようで……」
アーシェ:「えぇぇ……」

やっぱり、いつの世も、裏でそういうことをする奴が、少なからず居るんだな……

協会役員:「まぁ、実際に推挙された後は……貴族である彼女本人や家族を敵に回したくないという意見が半数以上だったので……ただ、先程も申しましたが、彼女には神殿に飾られている宝物を手に入れようとしている傾向がみられましたので、苦渋の決断として、神殿の無いこの町の代表になってもらったのです。」
アーシェ:「ん~……それなら……でも、正直、あんまり顔を合わせたくねぇってのが、本音かな。あいつとは相性が悪いっていうか、根本的に合わないっつうか……対峙したら絶対にポケモンバトルにまで発展しちまうだろうからな。まぁ、好き嫌いで仕事を放棄するようなことはしないので、安心してくれ……です。」
協会役員:「はい。本当にもう……すいませんが、よろしくお願いします。」
アーシェ:「そんな!役員さんが頭を下げることなんてないですよ!これは私とあいつの個人的な問題なんですから。」

ただ、経緯はどうあれアリアも要所の代表になったってことは、少なからず私の情報を得ていると思うんだけどな……

あいつの性格なら、適当な理由を付けて不平不満を言うか、自慢を含んだ嫌味を言って来そうなものだけど
それが今まで無い……ハイルドベルグのあの施設に来てないところから考えるに……もしかして、まだ私がハイルドベルグの担当者だってことを知らない?

……まぁ、それならそれで、全然かまわないんだけど。

◇◇◇

ポケモン協会に顔を出した後、この町にある自然公園にあるベンチに腰を掛けて缶コーヒーのプルタブを開けた。

アーシェ:「さてと……早く帰らないと、いつまでもノーマに留守を任せっきりにするワケにはいかねぇしな。」

そんなことを呟きながら缶コーヒーに口を付けたとき、隣のベンチに座り、溜め息を吐いている若い女性の姿が目に入った。

黒い長髪をポニーテールにして結い、白い襟の付いた黒色のノースリーブの服、スミレ色のタイトスカートを穿いている。

私と同じように道を行く人達も、視界には入っているのだろうが……面倒事に関わりたくないと思っているのだろう。
殆どの人が視線を逸らして通り過ぎて行く。

そんな彼女の足元には、おそらく彼女のポケモンなんだろう……マホイップが心配そうに寄り添っている。


【 マホイップ 】( ミルキィソルト )
クリームポケモン / 高さ:0.3m / 重さ:0.5kg / フェアリータイプ
進化の瞬間、体の細胞が揺れ動くことで『 しょっぱい 』フレーバーに なった。
信頼するトレーナーには、クリームでデコレーションした木の実をふるまってくれる。
手から生みだすクリームは、マホイップが幸せなとき、甘味とコクが深まる。


マホイップ手に持ってんのは……クラボの実か?クリームでデコレーションされてるが……

あー、あー、あー

彼女を想って木の実を渡そうと、頑張って背伸びしているけど……その努力は空しいかな、残念なことに木の実を持ったその手は女性の視線に入っておらず
努力して背伸びをする度に、木の実を飾るクリームが何度も何度も女性が穿いている茶色のストッキングに擦り付けられている。

アーシェ:「(ん~……駄目だな。あぁいう人を見ると、つい声を掛けたくなる。それに……いい加減、マホイップに気付かせないと、彼女のストッキングが……いや、あれはもう手遅れか。)」

私は荷物の中から新しい缶コーヒーを取り出し、隣のベンチに座って項垂れている女性に声を掛けた。

アーシェ:「どうしたんだ?さっきから溜息ばっかり吐いて……おせっかいかもしれねぇけど、悩みがあるなら私に話してみな。」
女性:「え?ぁ……ごめんなさい。大したことでは……いえ、大したこと……なんでしょうか。」
アーシェ:「いいぜ。私には時間がたっぷりあるからな。どんな話でも聞いてやるよ。あっ……ほら、これ。よかったら。」

私は荷物から取り出した缶コーヒーを差し出すと、女性は微笑みながら受け取ってくれた。

女性:「ありがとうございます。実はですね……あっ、まずは自己紹介を。私は『 メゼス・アルスパシア 』といいます。」
アーシェ:「私はアーシェ・バーンハルウェンだ。よろしく、メゼス。……それで?メゼスは此処で何を?」
メゼス:「実は……私、この町でお菓子屋さんを営んでいたパティシエールなんです。」
アーシェ:「へぇ!それは凄いな……って、ん?『 営んでいた 』?今は違うのか?」
メゼス:「はい。元々その店はお菓子作り担当の私と友人、経営担当である私の婚約者の3人で営業していたのですが、その友人に婚約者とお店を……その……奪われてしまいまして……」
アーシェ:「えぇぇ……」

まさか、そんな……そういう友人の彼氏や婚約者を奪うって話は、恋愛漫画やドラマの世界だけのものかと思っていたけど……

メゼス:「そうなると、私のことが邪魔になったのでしょう。小さな嫌がらせから、お得意様に悪評を流したりして……」
アーシェ:「酷い話だな。それって、訴えたら勝てる問題じゃねぇのかよ?」
メゼス:「実際はそうかもしれませんが……今、手元にあるお金は、新しく店を出すための資金に回したいと思っていますので。」
アーシェ:「そんなことが遭ったのに、まだお菓子屋さんをやりたいって思ってるんだ。」
メゼス:「はい。私にはそれしかできませんし……何より、お菓子作りが大好きですから。」ニコッ
アーシェ:「そっか。ん~……メゼス。その出そうとしているお店の規模は?」
メゼス:「え?そうですね。私1人で経営するつもりなので、そんなに大規模な物を建てるつもりはありません。資金にも限度がありますからね。」
アーシェ:「なるほど……ついでにもう1つ。メゼスが作るお菓子って、人が食べる物以外にポケモンが食べる……ポロックとか、ポフィンとか……そういうポケモン専用のお菓子も作れるのか?」
メゼス:「はい。そちらも作れますが……トレーナーさんのポケモン達によって、好みの味は様々ですからね。一応私の作った物も置くつもりではいますが、トレーナーさん達が自分で作れるように、専門の機械を店の一角に複数導入するつもりです。」
アーシェ:「ふむふむ……うん!わかった。メゼス。ちょっと、私と一緒に来てくれないか?」
メゼス:「え?えぇ。わかりました。あっ!ただ、少しだけ待ってもらえますか?」
アーシェ:「ん?あぁ、そりゃ別に構わねぇけど……どうした?」
メゼス:「その……少し、茂みに隠れてこのストッキングを脱いでしまいますので……///// 流石に、汚れた状態のまま行くわけにはいきませんから。」
アーシェ:「( あっ、気付いてたのか。 )わかった。見張りは任せてくれ。」
メゼス:「ありがとうございます……/////」

***

フィリア地方ポケモン協会・1階エントランス

私は受け付けのお姉さんに頼んで、もう一度役員さんを呼んでもらった。

アーシェ:「忙しいのに、何度も呼び出してしまって申し訳ないです。」
協会役員:「いえいえ。全然構いませんよ。ずっと書類整理をすることに比べたら……おや?そちらの女性は……」
アーシェ:「実は……」

私はメゼスのことを役員さんに紹介して、事情を説明した。

協会役員:「なるほど。メゼスさんが働かれていたお菓子屋さんは私も知っています。何度か会議や来賓の方との会合の席に置くためのお菓子を注文したことがありますので。」
メゼス:「はい。受け取りのためにお店まで来ていただいて……その節は、本当にありがとうございました。」
協会役員:「いえいえ。ですが、そうですか……道理で最近、あのお店のお菓子の味が落ちたような気がしていたんです。」
メゼス:「一応、彼女も資格を持つパティシエールではあるんですけど……」
アーシェ:「そこでなんだけど、メゼスには私の所で店を出してもらおうと思ったんだ。ほら、ウチは本館を正面にしたとき、左側には庭があるけど、右側はまだ何も無いからさ。庭みたいに本館と自由に行き来できる感じで……」
協会役員:「おぉ!なるほど!そうですか。」
メゼス:「え?あの、アーシェさん……話しに着いていけないのですが……」

少し戸惑った様子で、メゼスが会話に入ってくる。

協会役員:「おや?アーシェさん。メゼスさんにまだ御自身のことを話していないのですか?」
アーシェ:「うん。役員さんと話して、許可を貰ってから勧誘しようと思ってたから。」
協会役員:「そうでしたか。メゼスさん。この町の中央に現在建設中の建物があることは、もちろん御存知ですよね?」
メゼス:「はい。何を建てているのまでかは、判りませんが……」
協会役員:「あそこにはポケモンスタジアムが建つのです。そして、完成と同時にフィリアポケモンリーグが開催されることになります。」
メゼス:「まぁ!ポケモンリーグが。賑やかになるのでしょうね。」
協会役員:「そうなるよう、私達も尽力するつもりです。そしてですね……そのリーグへの参加資格として、フィリア地方の東西南北の最端の町、そしてこの町にに配属される代表トレーナー5人全員に勝利して、こちらで配布するカードにスタンプを押してもらうという形にしようと考えているのです。」
メゼス:「つまり、その5名のサインかスタンプを全て集めると、あちらのスタジアムで開催されるリーグ戦へ参加できるという事ですね。」
協会役員:「その通りです。そして、アーシェさんはその5人の代表のうち、最東端の町、ハイルドベルグの代表を務めていただくことになりました。」
アーシェ:「なりました。」
メゼス:「そうだったのですか!今日は驚いてばかりです……」
アーシェ:「それで、役員さん。メゼスと彼女の店の事なんだけど……」
協会役員:「もちろん、許可しますよ。新しいお店が完成でき次第、すぐに営業を始められるよう、今から営業許可証も発行しましょう。」
アーシェ:「だそうだ?どうする?メゼス。もちろん、私の意見を押し付けるわけじゃない、メゼスにも別の考えがあるなら……」

私がそう言いながらメゼスの方を見ると、メゼスの目から一筋の涙がこぼれ落ちていた。

アーシェ:「メゼス!?」
メゼス:「え……?あっ……ごめんなさい。こんなつもりは無かったのですが、嬉しくて……つい……」
アーシェ:「それじゃあ……」
メゼス:「はい。ポケモンバトルはあまり得意ではありませんが、他のことで何か御力になれると思います……アーシェさん。これから、宜しくお願いしますね。」ニコッ
アーシェ:「あぁ!こちらこそ!」ニコッ
協会役員:「決まりですね。それでは、アーシェさんの施設には、メゼスさんが『 門下生 』として一緒に生活するという事で、営業許可証と共に、こちらで手続きをしておきますね。」
アーシェ:「あぁ!よろしく、お願いします。」
メゼス:「ありがとうございます!」

この日、私にこれから同じ施設で、生活を共にしてくれる新しい仲間が1人できた。

お店を建てるトコロから始まるけど……メゼスはパティシエールが本職なわけだし
ポケモンバトルを任せるより、お菓子作りの方に力を入れてもらおうかな……と考えている。

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