【マサラ編.三】

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 マサラタウンに着いた。
 道中、幸いにもポケモンは襲い掛かって来なかった、無事に辿り着けたことに瀬良は安堵する。ゲーム開始時、丸腰で草むらに突っ込んで行ったレッドがオーキドに叱られていたのを思い出し、ポケモンを持ち歩かないと危ないのでは? と考えていた。
 ポケモンの入ったボールを携帯しようとしたが、ボールに入っているポケモンの方が凶悪であることは間違いない。
 レッドではないと一発で看過されれば、何をされるか分からない。その辺のポッポやコラッタから生身で逃げ回る方が、まだ安全というものである。

 マサラタウンに着いたら、次なる目的地はオーキド研究所と決めていた。
 今瀬良に必要なのは情報だった。この世界について瀬良は知っているようで知らなさすぎる。
 恐らくチャンピオン戴冠、そしてその座を降りた後だと言うことは予想が出来た。ゲームの記憶では、チャンピオン挑戦時にレッドはポケギアを付けていなかったはずだ。
 だとすれば、不用意にトキワシティなどに足を踏み入れて、知らない奴等に囲まれるのは危険過ぎる。せめてこの落ち着いた故郷で、少しでも”レッド”らしい振舞い方と、この世界の情報を手に入れたいと瀬良は考えた。
 となれば、今行ける場所で最先端の情報が手に入り、色々なレッドを知っているのはオーキド博士で間違いない。
 その研究所の場所すら分からなかったが、幸いマサラは高い建物もなく見晴らしの良い町なので、町を見渡すと一番高い建物を発見出来た。恐らくあれが、研究所だろう。

 のどかな町を、若干の緊張感を抱えたまま瀬良は歩き出す。故郷なのだろうが、瀬良から見たら初めての土地。安心感も何もない。ポケモンは出てこないだろうが、今の瀬良はポケモンだけでなく人間を目の前にしても緊張する。
 一体どういう顔をして喋れば良いのだろうか。
 レッドはどういう喋り方をする奴なのか。ゲームでの主人公は無口だったはずなので、性格や人柄は分からない。そういう情報含め、少しでもこの故郷で情報を集められれば良い。

「あらあ、レッド君。戻って来たの?」
 
 これからのことを考えながら下を向いて歩いていると、向かいから歩いて来る女性に瀬良は気付かなかった。慌てて顔を上げ、瀬良は会釈した。

「こ、こんにちは。ちょっと、研究所に用があって戻って来たんです」
「オーキド博士のところも良いけど、たまにはお母さんに顔でも見せてあげてね。碌に連絡を寄こさないんだから、って寂しがってたわよ」

 女性はレッドの母親と知り合いらしい。幼少の頃からレッドを知っている人間なら、色々掴める事があるかもしれない。

「そうですね。後で、顔を出してみます」

 瀬良の返答に不自然なところがあったのか、女性はあらあら、と言いつつ口に手を当てて微笑んだ。

「いつの間にか大人びちゃって。鼻を垂らしてマサラを駆け回っていた頃がもう随分昔のことみたいね」
「いえ、そんな。今も大して変わりませんよ」
「謙遜まで覚えちゃって。チャンピオンともなれば、立派になるものね」

 情報が一つ積み重なった。状況的に予想していた通り、今はチャンピオンになった後だ。それにきっとこの人に対し、レッドはもっとフランクな話し方をしていたに違いないが、旅が一段落し、一回り成長したというのが前提なら、多少丁寧でも問題ないだろう。

「あ、でもチャンピオンは降りちゃったのよね?」
「え? あ、そ、そうですね」

 追加された情報に、どう反応すれば良いのか迷っただけだった。その反応であまり聞いてはいけないことを聞いてしまったと思ったのか、女性は「ごめんごめん、立ち入ったこと聞いちゃ悪いわね」と、続けた。

「それじゃあ、お母さんによろしくね」
「はい。ではまた」

 会話を切り上げて、すれ違い、去って行く。
 チャンピオンを降りたというのは、世間的にはどういう評価なのか。今の反応だけでも瀬良はいくつか予想がついた。
 その辺の情報も、調べる必要があるだろう。
 最初のうちは、こうして会話を続けて慣れて行くしかない。疲れる作業に、瀬良はこの先が不安で仕方がなかった。

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