第110話 継承

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 気絶して倒れたまま、動かないヒトカゲとルカリオ。
 多数の傷と流血でも、何とか堪えているルギア。
 そんな彼らを、平然とした表情で見ているギラティナ。

 ゼニガメ達がホウオウを探している間に、冥界では危機的状況に陥っていた。パルキアもまだ戻ってきてないことから、この3人で戦った結果ということになる。

「まさか、“エアロブラスト”と“ブラストバーン”の混合も、大きなダメージにならないとはな……」
「我が力を見くびるなかれ。だが我が予想を超えた力であったことは認めざるを得ん」

 ギラティナに致命的なダメージを与えねばと、ヒトカゲとルカリオ、そしてルギアは混合技をぶつける作戦に出たが、いずれもギラティナの防御力には及ばなかった。
 それどころか、冥界はギラティナのいわば庭。意のままに環境を変え、それを利用し、ヒトカゲ達に大きなダメージを負わせることに造作もない。息をすることと同等なのだ。

「もう2、3回で、ルギア、汝は一時的に力を失うだろう」

 そう言うと、ギラティナはルギアの目の前から姿を消した。ルギアはこの現象について把握しておらず、姿や位置をどうやって突き止めるかに集中している。
 辺りを見回してみるが、どこにもいない。気を張りながら探していたまさにその時、突如としてギラティナが横から現れ、自身の尾でルギアをふっ飛ばした――“シャドーダイブ”である。

「ぐあっ!」

 気づいたときには、既にギラティナから数m離れていた。これまでの間に、この“シャドーダイブ”を数回受けている。いくら神族とはいえ、階級の違いによる体力や攻撃力の差は大きい。

「あと1回。諦めよ、汝は我に抗えない」

 悔しさが込み上げてくるが、今のルギアの体力は相当消耗している。“じこさいせい”出来る隙がなく、この状態で“エアロブラスト”を繰り出しても威力が完全なものになる保証がない。
 時間を稼ぐための策を練るが、相手は『家族』。性格や思考は大体お見通しで、ある程度の考えは見透かされてしまうため、策を練る隙さえ与えてはくれなかった。

「抗うというのであれば、汝の力を封じ、進むのみ」
「ぐっ……させ、ない……」

 ギラティナがゆっくりとルギアの方へ近づき、手にかけるようとした時、背後から気配を感じた。しかももの凄い勢いで向かってくるようで、ギラティナは“まもる”で防御した。

「あー、ばれちまった」
「……戻りおったか」

 防御壁を解いたギラティナが振り向くと、そこにいたのはパルキアとディアルガであった。間一髪のところで間に合い、ルギアへの攻撃を防ぐ事ができたのだ。

「遅い……けっこう、辛いぞ……」
「しゃーねーじゃん、こいつ暴走してたんだからよー」

 ここまで派手にやられてたか、とパルキアはルギアを見ながら呟く。力の差はもちろんだが、それ以前にギラティナから受けていた技について理解が浅かったから余計だなと推論した。

「ギラティナ、もうやめよーぜ。てめーだけが苦しんでるわけじゃねーんだ」
「今更だ。混沌に帰し、再び世界を構築せん。現界と冥界なる概念無き世界こそ我が望み也」

 言いたいことが理解できないわけではない。『家族』が一緒にいれるのならそんなに嬉しいことはない。だがそのために全ての世界を、歴史を、命を奪うのは間違っている、それをパルキアは伝えたいのだ。

「しゃーねー。ルギア、“にほんばれ”打てるか?」
「あぁ、若干回復できたからな」

 パルキアが隙を作ってくれたおかげで、ルギアは“じこさいせい”を適用できた。完全回復にはいかないが、ある程度動けるくらいには回復できている。
 そしてルギアはパルキアの意図を理解できないまま、言われたとおりに“にほんばれ”をくりだす。辺りは明るく照らされ、ギラティナは少々戸惑った表情を見せる。

「隠れさせねーよ、“はかいこうせん”!」

 ギラティナはその場から動こうとしたが、パルキアの打った“はかいこうせん”はギラティナの動きを予測したかのように見事命中。効いたようで、動きが止まる。

「ぐっ……!」
「パルキア、そんな容易く攻撃を当てるとは……」

 終始苦戦を強いられていたルギアからしたら、“はかいこうせん”が命中することが不思議でならなかった。いつもなら得意気な口調のパルキアが、真剣な表情で説明をする。

「あいつの固有技“シャドーダイブ”。影に隠れて影から出現して攻撃する、位置の予測が困難な技だ。だがら影さえ消すか小さくしちまえば、動きを制限できる」



 この様子を外から見ていたホウオウ達は、ディアルガが無事であることに安堵しつつ、乗り込むのであれば今のタイミングしかないと意見を合わせていた。

「有利に運べそうな今しかない! 行こう!」

 ゼニガメの声を合図に、全員が頷く。入口間近にいたホウオウとミュウはためらいもなくすぐさま冥界へと入っていった。最初に冥界へと入ったように行けばよいのだと理解し、ホウオウに続いてゼニガメが冥界へ向かおうと頭から入口に突っ込んだ。
 が、ガツンという鈍い音が辺りに響いた。慌ててメンバーが駆け寄ると、入口が強化ガラスのように固くなっていて入れない状態になっていた。そこにゼニガメは頭を打ってしまったようだ。

「痛てて……何で入れねぇんだ!?」

 他のメンバーも冥界へ行こうと試みるが、神族であるグラードンを含め誰1人として通す気配がない。何か通過する条件があるのか、意図的に通さないようにしているかは不明だが、ホウオウとミュウ以外がその場に取り残された結果となった。

「黙ってここで見てろってか。もどかしいが、それしかないのか」
「これが本当の意味での、“神頼み”ってやつか?」

 冗談半分に言うが、ここまで来て何も出来ないと思うと腹立たしく思い始める。試しに何人か攻撃をぶつけてみるが、予想通り傷一つつかない。
 中に入れたホウオウとミュウを除き、残りのメンバーは蚊帳の外状態。出来る事が祈る以外に何もないのだ。これが意図していることは何か――なんとなくではあるが、予想できることがある。

「グラードン、もしかしてギラティナ……」
「サイクス、汝もか。我の思いと同じやもしれぬ」

 どういうことだと皆が疑問に思い、詳細を聞かせてほしいと言う。サイクスとグラードンからそれが伝えられると、それまで焦りに満ちていた表情が複雑なものへと変わる。一呼吸置くと、メンバーは黙って入口の先を見つめていた。



「来たか」

 ギラティナの言葉を受け、ルギアとパルキアが後ろを振り返る。そこには彼らが待ちかねていたホウオウと、何故か一緒にくっついてきているミュウの姿があった。

「……ホウオウ!」
「おっ、あいつらわかってくれたか」

 パルキアの言葉から察するに、やはり“国”に羽を置いてきたことがここで判明した。だが、それをギラティナが見抜けなかったのだろうかとルギアも疑問に思う。それ程、ギラティナは用心深いという認識でいるのだ。

「ギラティナ……時の力で身体を元の状態へ戻したか」
「汝により滅ぼされたため、時間を要したが」

 あの日以降、初めて対峙したホウオウとギラティナ。怒りに満ちるわけでもなく、哀れみを抱いているわけでもなく、ただ双方は互いの目を見るだけだった。

「ちょっと再会のところわりーけど、ホウオウ、てめーに聞きてーことがあるんだ」

 双方の間に割って入ったパルキアはホウオウに質問しようとする。その様子を見たルギアははっと気づかされる。おそらく先程の“答え合わせ”をしたいのだろうと。
 自信に満ちた表情で、端的に、かつその場にいる全員に聞こえる程の声量で言い放った。


「ヒトカゲとルカリオに詠唱能力を継承したの、てめーだろ?」


 どうなんだと言わんばかりに、ルギアとギラティナもホウオウの方を向く。当のホウオウはと言うと、パルキアの言葉を受けても動揺することなく、じっと全員を見渡している。
 その場に倒れているヒトカゲとルカリオの姿が目に入ると、何かに気づいたのかじっと彼らを見続ける。そして一呼吸おき、質問をしてきたパルキアの目を見ながら答えた。


「いかにも。我が詠唱を継承した」


 神族のみが利用を許された詠唱、それをヒトカゲ達が利用できた理由がようやくはっきりした瞬間であった。後は、何故そうしたかをホウオウから問いただせればいいと思っていたところ、ホウオウはさらに続けた。

「だが、意図せんことがあったようだ」

 詠唱の継承にあたり、ホウオウすら意図しなかったことがあったようだが、特に隠すことなく公にした。ギラティナも、それが何かを知りたがっている様子を見せている。


「我が継承した者は、このルカリオにあらず」


 どういうことだとルギアとパルキアは互いに目を合わせる。そして誰よりも驚いていたのは、うつ伏せのまま一連の会話を聞いていた、ヒトカゲとルカリオであった。

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