第95話 謎解き

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 クリムガンが去ってから1時間もしない間に、ラゼングロードにはこれまでヒトカゲ達が会ってきた高位の神族――ルギア、ホウオウ、グラードン、パルキアが集まっていた。

(来たか。この時をずっと待ってたぜ)

 ルギア達は何故集められたのか疑問に思っていたが、パルキアだけは違った。パルキアだけは、今から起こることが容易に想像できていた。この国にヒトカゲ達を連れてきた時から、今から始まる「謎解き」を期待していたのだ。

「何時ぶりだろうな、こうして俺らが顔を合わせるのは」

 先に口を開いたのはゼクロムだ。彼がルギア達に直接呼びかけ、ここへ集めたのだ。ただし、何をするかは、隣にいるレシラムにさえ一切伝えていない。

「じゃあヒトカゲ、あとは頼む」

 そう告げると、ヒトカゲを中心に、全員が円状に並ぶ。話を聞く態勢が整ったところで彼は話を始める。「謎解き」のスタートだ。

「今から、この世界で何が起きているかについて、話そうと思う。大事な話だから、ルギアとかにも聞いてもらいたんだ」
「この世界で何が起きているか?」
「そう。推測だけど、たぶん間違いないと思うから」

 不穏な空気が辺りを支配する。ルカリオ達にとっても、ルギア達にとっても、息を呑みたくなるほどの緊張が走る。息を整えたところで、ヒトカゲが口を開く。

「まず、今回の旅の目的として、『ホウオウとディアルガを捜すこと』が目的だった。ホウオウは無事見つかったね」
「汝には感謝しているぞ」
「うん。それで、ホウオウがいなくなったのは20年前ってルギアから聞いたんだけど……それと同じくらいの時期に、別の事件が起きてたんだ」

 20年前の出来事と言われても、すぐに気づかない者が多かった。そんな中、いち早く反応を示したポケモンが2人いた。

『それって、グロバイルのことか?』

 ルカリオとジュプトルが口を揃えて言う。この2人にとって、グロバイル壊滅は非常に重要な事件である。グロバイルという単語を聞き、そういえばと思い返す者も少なくない。

「そう。偶然にしては大きすぎる事件。さらに、もう1つ……これは僕達よりも、神様達にとって重要な事件があった」
「海の王子――マナフィの失踪だ」

 ヒトカゲに代わり、ゼクロムと、マナフィを捜し続けていたルギアが説明を始める。これを初めて知らされたグラードンは驚いた表情になり、パルキアは何かに気づいたような顔つきになる。

「こんな3つも大きな事件が重なるとなると、その主犯は一般の者とは思えん」
「つまり、俺達を疑ってるってわけだな。ほー」

 ニタつきながら、パルキアが煽る。しかし実際は「予想はしていたが、この中に主犯がいるということなのか」と、冷静に状況を分析している。

「そういうことだ。もちろん、俺を含めての話だ」

 それから、ゼクロムとヒトカゲが交互に自分達のまとめた推測を説明していく。

 話はグロバイル壊滅まで遡る。グロバイルが何者かに襲われた際、ルカリオの父であるライナスは村の宝玉を守りぬいた。これについては、「宝玉を破壊し、壊滅へと導こうとする脅威からグロバイルを救うために」と、ジュプトル宛への手紙に理由が書かれていた。
 それほど重要な宝玉の正体は一体何なのか。ジュプトルが宝玉を取り出して全員に見せると、1人、大きく反応を示したポケモンがいた。ルギアだ。

「それは、金の結晶ではないか!」

 金の結晶――この存在は神族以外にはあまり知られていない。対になる「銀の結晶」の存在は、以前ファイヤーから聞いたことのあるヒトカゲだけが知っていた。
 銀の結晶は、ディオス島にあった、ルギアをそこへ呼び出すためのもの。その対となる存在となれば、誰もがそれが何か、容易に想像ついた。

「つまり、それはホウオウを呼び出すためのものってことか」
「そういうことだ。グロバイルを壊滅させた相手にとって、ホウオウは厄介者だったってことだ」

 どういう繋がりがあるかは定かではないが、ライナスはホウオウを護りたかったように取れる。では誰がホウオウの召喚を阻止しようとしたのか、本人に尋ねても心当たりはないと言う。
 しかし、それだけでは話は終わらない。ホウオウについては20年もの間、誰にも一切連絡を取らずに単独行動をしていたのである。これについては「あらゆる世界を見て、異変を目の当たりにしてきた」と説明したが、腑に落ちないのか、パルキアが質問をする。

「てめー、何で俺らに一切報告しねーんだよ? 世界を管理するのは俺ら全員の役割だろ?」

 これは誰もが思っていたことだ。もちろん、ホウオウのことを1番信頼しているルギアでさえも、この点においては疑問に思っていた。

「ならば、汝も異変に気づいていたであろうに、何故誰にも伝えぬ?」
「それは……」

 突如、パルキアの表情が曇り始める。やましいことがあるのか、焦りが見え隠れしている。パルキアが焦るのは非常に珍しいことで、他の神族もその様子に動揺している。さらに責めるように、ホウオウは続ける。

「言えぬのだろう、その原因の1つが……」
「黙れ! 今はてめーに聞いてんだよ!」

 パルキアが怒鳴る。その場にいた全員が、場の雰囲気が非常に気まずいものへと変わっていくのを肌で感じている。特に神族以外のヒトカゲ達は、発言しづらい状況だ。

「パルキア、私達は別に責めるつもりはない。もし異変の原因を知っているなら、話してくれ」

 状況を変えようと、レシラムが落ち着いた表情でこう言った。パルキアが下げていた目線を上げると、ルギアとグラードン、ゼクロムも黙って頷く。ばつが悪そうな顔を手で覆い隠しながら、ため息を漏らす。

「……わーった。異変の原因の1つが、ディアルガの自我によるもんみてーなんだよ」

 突然出てきた、ディアルガの存在。しかもホウオウの言う世界の異変を引き起こしている原因の1つになっているという。あまりに突然のことで、いくつも質問が飛び交う。
 パルキアが言うには、「異変は時間軸操作による空間との干渉で引き起こされる歪み」、「それはディアルガの自我による可能性が高い」、「ディアルガの居場所については一切知らない」、「黙っていたのは、端(はな)から神族を疑っていたから」とのことだった。

「さーもういいだろ。お次はホウオウ、てめーだ」

 大体の事情を話したところで、質問攻めに疲れたパルキアはホウオウに質問の矢を向けた。次から次へと明らかにされていく事実に置いていかれないよう、ルカリオ達は必死に整理している。

「我とて同じ所以だ」
「ならば、姿を隠している必要はないだろう。姿を見せられぬ理由でもあったというのか?」

 グラードンの指摘に、ホウオウは口を閉ざした。確かにパルキアは事実をひた隠しにしていたが、姿をくらましていたわけではない。それを考えると、ホウオウの行動は何を意味しているのか。
 どうもおかしい。神族達がずっと前から知っている、理路整然としているホウオウではない。冗談半分、そして本気半分に、疑いの念を持っているパルキアがある質問をする。


「てめー、本当にホウオウか?」


 この質問が、場の空気を一気に変えた。全員の目線がホウオウへと向けられる。しかし、どこからどう見ても翼や尾羽はまさしくホウオウである。
 何を馬鹿なことをと、ため息混じりにホウオウが呆れた表情を見せる。質問を投げた当の本人であるパルキアも話題を元に戻そうとした、その時であった。

「ホウオウに聞いてみたいことがあるんだ」

 全員が声のする方へ顔を向けると、そこには小さなポケモンがいた。この謎解きの始めからずっとホウオウに言いたいことがあった、主催者――ヒトカゲだ。

「何だ、申してみよ」

 先程よりも穏やかな口調でホウオウは言った。この内容を知っているゼクロム以外、ヒトカゲの動向が気になって仕方がないようで、黙ったままことの成り行きを見届けようとしている。

「僕と初めて会ったのは、いつ?」

 ゼクロムを除いた全員が、集中していた意識を逸らした。なんだ、今になって何を聞いているんだこいつはと半分呆れている様子だ。それでも、ホウオウは丁寧に応じる。

「忘れたのか。我と汝が初めて会ったのは、ルギア達とオースに来たときだろう。お前の仲間達もいたではないか」

 メンバーも記憶を辿るが、自分達も初めてホウオウに会ったのはあのときだと確信した。ヒトカゲがそれ以前にホウオウを見たとは誰も聞いていない。

「そうか。わかった。それが聞きたかったんだ」

 ヒトカゲはそれだけ言うと、ゼクロムの方を向く。そして互いに何かを確認するかのように、こくりと、ゆっくり頷いた。

「なぁ、今更なんでそんなこと聞いてんだよ?」
「確証が欲しかったんだ」

 次の瞬間、ヒトカゲの表情は変わった。より真剣な眼差しで、話しかけてきたルカリオから目線をホウオウの方へと向ける。そして、強い口調で、誰もが驚く一言を述べた。


「このホウオウが、偽物だっていう確証がね!」


 全員、困惑した表情を浮かべる。先程同様ホウオウを見回すが、どこにもそのような要素は見当たらない。何者かが“へんしん”を使っているとも思えないでいる。

「ヒトカゲ、きちんと説明してくれ。どういうことだ?」

 ホウオウを1番信頼しているルギアが説明を求める。当然、他の者達も同じだ。

「ゼニガメ達は知ってるはず。1年前、僕は1回死にかけたよね」
「あの、ブラッキーにやられたときか?」
「そう。その時に、僕はホウオウに会ってる」

 ヒトカゲは全てを話した。現界と冥界を繋ぐステュクスに行ったこと。そこである魂に出逢ったこと。そして、その魂の力によって生き返らせてもらったことを。
 この出来事について、早い段階からヒトカゲは、自分を生き返らせてくれたのはホウオウであると確信していたのだ。だがまだその時は事情を知らず、奇跡としか思っていなかったようだ。

 それから1年。ルギアから「ホウオウを捜してくれないか」と言われた時に疑問を抱いたのだ。これは何かある、公にステュクスの事を話さないようにしようとヒトカゲは決めた。
 そして、オースでの再会。「会うのは初めてだな」と聞いた瞬間、彼の疑問はさらに深まった。“目の前にいるのは、あの時自分を生き返らせたホウオウなのか?”と。その答えが今この場で定かになった――『否』であると。

 冥界やステュクスの存在や、ホウオウの力について神族達は全て把握している。そして何より、ヒトカゲが嘘偽りを言うような者ではないことは、ホウオウ以外の全員が知っていた。

「さぁ、どうなんだ、ホウオウ」

 ゼクロムが改めて問いなおす。その場にいる全員がホウオウの答えを待っている。緊張が辺りを支配し、息苦しささえも感じてしまうほどだ。
 しばしの間の後、ホウオウは大きく息を吐いた。瞑っていた目を開け、表情を変えることなく、全員に向かってこう答えた。


「……我は、生命の神にあらず」

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