42.『ポケモン』って呼び方が規制される話

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「知ってる?」
「何が?」
「小学校の裏側で色違いのポケモンがいたらしいよ?」
「え?」
「どのポケモンなのかは分かってないんだけど、気になるよな」
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「『ポケモン』って単語使っちゃ駄目だよ」
「え? なんで?」
「『ポケモン』はポケットモンスターの略だろ。ポケットモンスターっていうのは、海外でエロい意味の隠語として使われることもあるから」
「そうなの!」
「だから『ポケモン』って言い方すると、そういうイメージが付いちゃってかわいそうだから良くないよ」
「そうかあ」
「トレーナーの間ではもう『ポケモン』なんて言葉は使われてなくて、『モンスター』って呼んでる」
「へえ」
「だから今度から『モンスター』って呼ぶようにしなよ」
「分かったよ」

 三年後。

「中学終わったし、帰ろうぜ」
「あのさ、聞いた?」
「何が?」
「隣町でさ、野生のモンスターが暴れてるってニュースが流れてる」
「モンスター?」
「下校まだするなって連絡来るかも」
「お前まだ『モンスター』なんて言い方してるの?」
「いや『モンスター』は『モンスター』だろ」
「『モンスター』は化け物って意味だから、使っちゃ駄目なんだよ」
「そうなの?」
「化け物なんてかわいそうだろ。今は『魔獣』って呼ぶのが普通だ」
「分かったよ。今度から『魔獣』って呼ぶよ」

 三年後。

「お前進路どうする? 俺は地元の大学行くけど」
「俺は隣の県の大学行く予定」
「へえ」
「でもあの大学、魔獣関連の研究室あんまないんだよな。どうしようかなって思ってる」
「おい『魔獣』って言い方はもうNGだぞ」
「マジかよ! 『魔獣』もNGになったのか?」
「『魔』という文字が邪悪なイメージを与えてしまうからNGだ」
「まあ確かに、そういうイメージが付きそうだけど。中二の発想っぽいなそれ」
「今は『聖獣』って言い方が主流なんだよ」
「『聖獣』……。『魔獣』の対義語みたいだな」

 四年後。

「久しぶりだな、元気?」
「久しぶり。別々の大学行ったら会わなくなったな」
「聞いてくれよ! 俺まだ就職先決まってないんだよ」
「今の時期は大変だって聞くな」
「このまま決まらなかったら、思いきって聖獣トレーナーにでもなるか。って今からじゃ無理か」
「……おい? 『聖獣』は絶対駄目だろ」
「何? また呼び方が変更されたのか?」
「『聖』っていうのが『性』に聞こえて、性的な意味っぽくなるから駄目だ」
「いや漢字が違うだろ」
「性的なイメージが付いたらかわいそうだろ。今は『アニマル』って呼ぶんだ」
「『アニマル』か……。まあ『アニマル』なら何の問題もなさそうだな」

 五年後

「最近仕事どう?」
「うちの会社もう駄目かもな。このままだと潰れそう」
「そうなの?」
「結局大手には勝てないんだよな。今はアニマルの新しいボール開発してるけど全然売れん」
「おい! 『アニマル』なんて言葉使うなよ!」
「『アニマル』も駄目になったのかよ! 『アニマル』は大丈夫だと思ったのに」
「いいか、『アニマル』って単語には『マル』って入ってるだろ。四角いのだってたくさんいるんだから、『アニマル』って呼び方は不適切なんだよ」
「じゃあ今はなんて呼ばれてるんだ」
「今は『隣人』だよ。人々のすぐ近くにいる生き物っていう意味を込めて、そう呼んでる」
「『隣人』か……。『隣人』はなんか良さそうな気がするな。これはさすがに定着しそう」

 五年後。

「結婚おめでとう!」
「ついに俺も結婚か。夢のようだな」
「新居は決まった?」
「決まったよ。かなり条件の良い物件が見つかった。自然も多い場所で、野生の隣人も多く見かける」
「待て待て。『隣人』は駄目だぞ」
「あー、やっぱりこうなると思った。『隣人』も定着しなかったか」
「必ずしも人間の隣にいるとは限らないだろ。だから『隣人』って呼び方は不適切だ」
「じゃあ今はなんて呼ばれているんだ」
「今は『ポケモン』って単語が使われてるんだ」
「戻ってるじゃないか最初に」

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