10.ポケモンである必要性がない話

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 一匹のジュゴンが駅前でタクシーを待っていた。今日は体調がすぐれなかったので、午後は有給を取って午前だけで仕事を終わらせた。駅まで歩くのも面倒だったのでタクシーを呼んだ。
「お客様どちらまで?」
 タクシーの運転手はビリリダマだった。ジュゴンが「自宅まで」とお願いすると、ビリリダマはアクセルを踏んで車を運転した。
 ジュゴンはタクシーで寝ていたら、だいぶ体調がよくなってきた。帰ったら布団に入ろうと思っていたが、少しだけ執筆しようと思った。ジュゴンは今、新人賞に出す用の小説を書いていた。願わくば小説で売れて、今の仕事を辞めたいと思っていた。
 タクシー代を節約しようと、ビリリダマに頼み途中でおろしてもらった。歩いて自宅まで向かう。
 一匹のキャタピーが昼間から酔っ払っていた。世の中への愚痴を叫びながら、ポストを蹴飛ばしていた。ジュゴンはキャタピーからなるべく遠ざかって歩くようにした。
 ウツドンやドードリオ達が新しいビルを建設していた。このあたりは比較的田舎だが、最近は家やビルがどんどん建ってきており、少しずつ発展していることが分かる。
 ジュゴンは途中コンビニに寄った。アルバイトのコイキングに「74番」と言いタバコを購入した。品出しを行っているメノクラゲをよけ、コンビニから抜ける。


「あらお帰りなさい、ずいぶん早いのね」
 家にはジュゴンと同棲中のパラセクトがいた。パラセクトは在宅で働いていた。
「今日は仕事が片付いたから、半給取ってきた」
 ジュゴンはリビングのテレビをひとまずつけた。ドガースが走り高跳びで新記録を出したニュースが流れていたり、ズバットがクイズ番組の司会をやっていたり、アーボがバラエティー番組でゲームをやっていたりしていた。
「体調もう悪くないし執筆するか」
 数分ダラダラテレビを見た後、ジュゴンは筆を取り小説を書き始めた。


 ジュゴンが書いているのは、ある種歴史小説に分類されるものだった。
 この世界では昔人間という生き物がいた。しかし何千年も前に人間は絶滅してしまった。
 ジュゴンは人間が生きていた時代を元に、小説を書いているのだ。このジャンルの新人賞を狙うつもりだった。一人の人間が苦労しながらも一流の会社に転職し、立派な社会人に成長する物語を書いていた。


「よし、なんとかここまで書き終えた」
 切りが良い部分まで書き終えた。しかし、上手く書けているか自分でも良く分からなかった。
 そこでジュゴンは、同棲しているパラセクトに読んでもらうことにした。
「ちょっとこれ読んでみてくれないか」
 夕食時にジュゴンはパラセクトに頼んだ。パラセクトは原稿をパラパラとめくり読んでいく。そして、途中まで読んでパラセクトはこのようなことを言った。
「この小説、人間である必要性なくない?」

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