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作者:逆行
読了時間目安:38分
※本作品はハーメルンにてマルチ投稿しています。
 今日は目覚まし時計が鳴る前に起きた。布団をどかし、目を擦りながらカレンダーをチェックする。少年の部屋のカレンダーは、数字の下にその日の予定が書かれていた。そして今日の日付には、赤ペンで巨大な丸がつけられている。少年はその丸を確認した。
 夢から現実に脳を引き戻して、まだ数秒しかたっておらず、寝ぼけた状態のはずなのに、少年はその赤丸を視界に入れて、今日が何の日であるかを瞬時に思い出した。
「そっか。いよいよ今日が、その日なんだね」
 そう言った後、少年はふうと息を吐き、ひとりでにやけた。早朝じゃなければ、叫びたい気持ちだった。
 少年は今日という日を、心底楽しみにしていた。中々今日がやってこないものだから、少年はやきもきしていた。
 楽しみなことが眼前に待ち構えていると、時間の流れが遅いと感じやすくなる。しかも、少年はまだ10歳という幼い年齢だから、時間経過が余計にゆっくりだった。
 少年が住むこの世界には、『ポケットモンスター』という生物がいる。ポケットモンスターは、草むらや洞窟、海、山など、この世界のいたるところで活き活きと暮らしている。
 彼らは『ふしぎなふしぎな生き物』としか表現できないほど、謎に包まれた異様な存在だった。ポケットモンスターは、人間に懐くときもあれば、容赦なく襲いかかるときもあった。またポケットモンスターは、火を吹いたり水を飛ばしたり超能力を使ったりと、人間には到底できないことを平然とこなす。どうしてそのような『技』を繰り出せるのかも、全く謎だった。
 だが人々は、これまで知恵を振り絞り、強大な力を持ったポケットモンスターと上手いこと共存してきた。たとえば、モンスターボールと呼ばれる機械は、まさに人類の英知といえるだろう。モンスターボールは、ポケットモンスターを捕獲し、従えることができるものだ。モンスターボールの発明もあって人間は、ポケットモンスターと共存することに成功したのだった。
 やがて人間は、ポケットモンスター同士を、戦わせるスポーツを考えた。元より戦闘意欲が強いポケットモンスター達は、人間と共にバトルすることを嫌わなかった。そして、ポケットモンスターを育て、戦わせる人達のことは、ポケモントレーナーと呼ばれた。ポケモントレーナーの多くは、この世界を旅して、他のポケモントレーナーに戦いを挑むなどしている。ポケットモンスターを戦わせるスポーツは、各地方で大いに流行した。
 そして、この少年もまた、本日より、ポケモントレーナーとしての旅を始めようとしていた。
 これから、オーキド・ユキナリ博士の研究所へと出向き、パートナーとなる最初のポケットモンスターをもらうのだ。オーキド・ユキナリ博士は、ポケットモンスターの研究をしている有名な人物だ。また、オーキド・ユキナリ博士は、旅立つポケモントレーナーに初心者向けの、ポケットモンスターを毎回渡している。
 その後は、カントー地方の各町を目指して旅をする。そして、その町にいるジムリーダーとバトルを行う。カントー地方には全部で、8人のジムリーダーがいる。8人全員を倒せば、四天王と呼ばれる人達に挑戦できる。見事四天王に勝利すれば、カントー地方のチャンピオンになれるのだ。多くのポケモントレーナーが、チャンピオンになることを目標としていた。そして、この少年もそれは同じだった。
 少年はひとまず布団をたたみ、しばらく使わないので押し入れにしまった。パジャマから着替え、洗面台で顔を洗い、髪を整えるなど、だいぶ気が早いが身支度を行った。
 やることもないので、リュックサックの中身を確認する。モンスターボール、キズぐすり、タウンマップ、着替え、携帯電話、非常食、傘……チェックリストを片手に、必要なものが全て入っているか確かめた。昨日の時点で15回は確かめたはずだが、それでも未だ確認したい気持ちが鎮まらなかった。何度も出し入れを繰り返すと、出しっぱなしにするミスを誘発しそうで、それはそれで不安だった。何をするにせよ、心がソワソワしたままの状態は、変わらなかった。
 目覚まし時計を見ると、まだ6時前だった。時間的にはずいぶん余裕があった。だが、二度寝する気は当然起きないし、携帯をいじるなどするテンションでもなかった。
 少年はぼんやりと、部屋の様子を見回した。この空間とも、今日でお別れすることになる。次に戻ってくるのは、果たしていつになるのだろうか。それを考えると、少しだけ感傷にひたりたくなった。
 長年使われてきて、変色し始めてきたベッド。結局リビングでしか勉強せず、物置きとしての役割を果たし続けた学習机。ストレス解消に、画鋲で穴を開けまくってしまった壁。エアコンがないため、夏場はずっとお世話になっていた扇風機。結局袋に直接ゴミを入れるため、一度も使われなかったゴミ箱。ゲーム機や小物など、あらゆるものが詰め込まれた本棚。
 なんとなく少年は、部屋の中をぐるぐる歩き回った。少年は、現在露骨に暇つぶしをしている。時計の針を見ながら、「もっと早く動け」と念じていた。
「やっぱり、楽しみなことが待ち構えていると、時間の流れは遅いなあ」


「そうかあ。もうポケモントレーナーになる時期なのね」
 少年とその母親は、朝食を食べていた。その際に、母親がぽつりと呟いた。
「ついこの間まで、赤ん坊だったのに。時が流れるのは早いわねえ、まったく」
「またまた、そんな大げさなことを言って」
 少年は、苦笑交じりにそう返した。
 自分より時が流れるのが、母はやはり早いのだろうか。少年はそんなことを思った。でも、この間まで赤ん坊は、さすがにないだろう。
 朝食を食べ終え、ちょっとしたら、リビングの時計の短針と長針が直角を描いた。
 リビングにある時計は、朝の9時になると、心地よい音楽を奏で時間を告げる。その瞬間少年は、椅子から立ち上がった。傍らに置いていたリュックを背負う。いよいよ、旅立ちの予定時刻がやってきたのだ。
 少年は玄関へと向かった。この日のために新調した靴を履く。少しだけ足裏に違和感があるが、数時間もしない内になれるだろう。靴を履き替えたときは、いつもそうだった。
「じゃあお母さん、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
 別れはしんみりさせない、とお互いに決めていた。だから、親と子の最後の会話は、傍から見てあまりにもあっさりしていた。少年は自宅を出て、オーキド・ユキナリ博士の研究所へと向かった。


 今日はこの上ないほど、良好な天気だった。抜けるような青空が広がっている。生暖い空気が、少年の肌の上を優しく撫でるかの如く駆けていった。そして、入道雲が気持ちよさげに空の上を泳いでいた。海の漂う水や地面に沈み込んだ水が蒸発し、やがて水蒸気となる。水蒸気を溶け込ませた空気は上空へと昇っていき、冷たい空気によって冷やされ、水の粒と化し、それらが雲を形成する。雲は形成され方によって、形や特徴および漂う高さが変わってくる。
 少年が暮らすこの町は、マサラタウンという名前だった。マサラタウンは人も少なく、ビルやタワーが立ち並ぶ都会というわけではなく、むしろ田んぼなどの自然が多いため、田舎に分類される町だった。しかし、オーキド・ユキナリ博士の立派な研究所が、そびえ立っていることで有名だった。
 マサラタウンには、数は少ないが、野生のポケットモンスターもちょくちょく見かけた。ポッポとピジョン達が、群れをなして優雅に空を飛んでいる。コラッタがとってきた食べ物を、みんなで分け合いおいしそうに食べている。1匹のニドランが、子どもたちに撫でられていた。凶暴なポケットモンスターがいるわけでもないため、安心して町は歩けた。
「えっと、研究所の場所は、どっちだっけ?」
 家から出て5分後、少年はさっそく、タウンマップをリュックサックから取り出した。オーキド・ユキナリ博士の研究所に向かうには、どの道が一番早いか調べた。研究所にはちょっと前にも訪れたことがあったのに、少年はすっかり道を忘れてしまっていた。
「そうだそうだ、この交差点を右に曲がるんだった」
 自分の方向音痴っぷりに、思わず苦笑が漏れた。おいおい、こんなんで今後の旅は大丈夫なのか、そう自分に突っ込みを入れたくなった。道が入り組んだ洞窟の中とか険しい山道とかも、これから歩くだろうに、先が思いやられるなまったく、と思った。
 そんなことを考えつつ、ひとまず少年はオーキド・ユキナリ博士の研究所へ辿り着いた。この場所で、少年のパートナーとなる最初のポケットモンスターが、もらえる約束となっている。もちろん、オーキド・ユキナリ博士には、事前に連絡を入れていた。


「そうか君も、もう10歳か。時が流れるのは早いのう」
 ポケットモンスターをもらいにきた少年に対し、オーキド・ユキナリ博士はいった。なんか大人はみんな、似たようなことをいうなあ。1時間前の母親との会話を思い出しながら、少年はバレないように笑った。
「ほれ、こっちじゃ」
 オーキド・ユキナリ博士に、最初の3匹が入ったモンスターボールがある場所に、案内された。
 研究所では精密そうな機械がいたるところで稼働している。それらの機械に接触しないよう、少年は歩いていく。研究所の奥の方では、天井に届くほど高い本棚に、難しそうな本が敷き詰められていた。また、オーキド・ユキナリ博士の助手らしき人が、パソコンの前でうんうん頷きながら、キーワードを素早く打っていた。
「さあ、好きなポケットモンスターを選べ。ただし、全部もらうのはなしじゃぞ」
「それはわかっていますよ」
 少年は笑いながら頭を掻いた。とはいえ、もらえるなら3匹とも欲しいところだった。
 目の前には、モンスターボールが3つ。横長机の上に等間隔で並んでいた。この光景を見るだけで、少年は胸がワクワクした。何度か、夢にも出てきた光景だった。
 少年は、最初のポケットモンスターをどれにするか、まだ決めていなかった。当日に実際のポケットモンスター達の動く姿を見て、その後に決断した方がよいだろうと考えていた。
 とりあえず、一番右端のモンスターボールから手にとった。
『フシギダネ!』
 モンスターボールを開くと、フシギダネというポケットモンスターが元気に飛び出してきた。フシギダネは確か、草タイプだと少年は記憶していた。フシギダネは頭の蕾が特徴的で、カエルのような見た目をしている。つるのムチやはっぱカッターなど、やたら痛そうな技を多く覚えるのが印象的だった。進化すると、背中の蕾が大きくなって、綺麗な花を咲かせるらしい。
 次に少年は、中央のモンスターボールを開いた。
『ヒトカゲ!』
 登場したポケットモンスターは、ヒトカゲだった。炎タイプのヒトカゲは、尻尾に火が灯っているのだやたら目立つ。火が消えると、その生命は終わってしまうという。すごくデリケートなポケットモンスターだ。大切に育てていく必要があると、少年は思った。進化すると、翼が生えて飛行タイプのドラゴンっぽいポケットモンスターになるらしい。
 最後に少年は、左端のモンスターボールを開いた。
『ゼニガメ!』
 ゼニガメというポケットモンスターが飛び出した。ゼニガメは確か、水タイプだった覚えがある。ゼニガメは、大くて硬そうな甲羅を背負っていた。ピンチのときは甲羅にこもって、体に受けるダメージを最小限にするらしい。くるりとした尻尾も特徴的だった。また、水鉄砲など、相手に水圧でダメージを与える技を多く覚える。進化すると、背中に2つの大砲のついた巨大な亀になるらしい。
 少年は、3匹全てのポケットモンスターをチェックした。3匹とも、魅力的なポケットモンスターだった。どの子を選んでも、後悔はないだろうと思った。
「どうじゃ。最初のポケットモンスターはどれを選ぶかのう」
 少し考えて、少年はゼニガメを選ぶことにした。
「ゼニガメにしたか。このポケットモンスターは、本当に元気が良いぞ」
 他のポケットモンスターを選んだ場合にも、同じことを言っているのだろう。明らかにそうとわかるセリフを、オーキド・ユキナリ博士はいった。
「ありがとうございました!」
「気をつけるんじゃ。何かあったらお母さんにも連絡するんじゃぞ」
 少年は、オーキド・ユキナリ博士に頭を下げ、ゼニガメの入ったモンスターボールを片手に、研究所を去っていった。
 少年にとってゼニガメは、はじめてのポケットモンスターだ。ゼニガメの入ったモンスターボールを、少年は目を輝かせて見つめた。旅を始める前に、ゼニガメにも挨拶しとかねばと思った。
 少年は、モンスターボールを空に投げた。モンスターボールが地面に着地すると、まばゆい光の粒子と共に、ゼニガメが飛び出してきた。ゼニガメはあたりをキョロキョロ見回した後、背後に少年がいることに気がついた。
『ゼニガメ?』
 バトルでもないのに急にモンスターボールから出されたため、ゼニガメは首を傾げていた。

ゼニガメ(レベル5)

○ステータス
HP 20
こうげき 10
ぼうぎょ 13
すばやさ 11
とくしゅ 10

「これからよろしく! ゼニガメ!」
 少年はしゃがみ込み、ゼニガメと目線の高さを同じにし、頭を撫でながらそういった。
『ゼニガメ!』
 ゼニガメは元気よく鳴いた。「こちらこそよろしく!」と言っているのだと、少年は解釈した。ゼニガメのその声を聞いて、少年は「これから頑張るぞ」と気合が入った。
「よし! いこう!」
 少年はゼニガメを、モンスターボールに戻した。マサラタウンから抜け出し、1番道路の草むらへと入っていく。まずは、トキワシティへと向かう予定だった。そして、その先の森を抜け、ニビシティに行き、1人目のジムリーダーに挑戦する。少年の旅は、これから始まるのであった。


 そこまで書き終え、俺は一旦筆を置いた。正確には、筆を置いたのではなく、パソコンを閉じたのだが。
「このままじゃ、10,000文字に収まらないぞ」
 思わず、そのような独り言を呟いた。
 まさか、起承転結の『起』の部分で、5,000字以上も消費するとは。
「うっかり書きすぎてしまった」
 想定外&想定外。俺は、自分の見積もりの甘さを悔いた。
「目が痛い。あー目が痛い」
 長時間画面を見続けたせいで、目が疲れたので、一度休憩しよう。俺は冷蔵庫へ、飲み物を取り出しにいく。その際、長年使われ続け変色し始めてきたベッドとか、その他もろもろが、視界に映った。今書いていた短編の主人公の部屋の描写は、自分の部屋をそのまま描いたことが、一目瞭然でバレてしまう。
 時間もないので、15分だけ休憩し、再びパソコンを開いた。開けばそこには、中途半端に書き連ねた小説が待っている。
「やれやれ」
 思わず、ため息をつかずにはいられない。この後いかに、書き進めていけばよいものか。
 俺は、今書いているこの短編を、とあるサイトの、とある企画に出そうとしていた。みんなで短編を投稿して、読み合おうというもの。驚くなかれ。企画の投稿締切は、本日だ。後数時間しかない。というわけで、早く書かなくてはいけないのだ。俺は今、尋常でなく焦っていた。
 そして、締切間近なのに加え、もう1つ問題が発生しているのである。
 このまま書き続けると、文字数が規定以内に収まらないのだ。今回の企画は「投稿する作品の文字数は、10,000文字以下にすること」というレギュレーションになっていた。
 だが、今書いている短編は、明らかに10,000文字を超過しそうな勢いで、文字数が膨らみ続けている。この後、まだまだ展開が残っている。残り5,000字未満で書き切れるとは、到底思えなかった。
 しかも、お話の終盤には、バトルシーンも用意されている。バトルシーンはただでさえ、文字数を喰いやすい。展開も端折りにくい。加えて、このお話の山場であるから、なるべく丁寧に書きたいところだった。
「だめだ、このままいくと、10,000文字に収まらねえ」
 ああ、なぜ俺は、序盤をこんな詳細に書き連ねたのか。ポケモン世界の説明とか、明らかに書きすぎだ。後マサラタウンの情景描写とかも。俺はつい、筆が乗ってしまったのだ。
 この小説の主人公は、「時が流れるのが遅く感じるなあ」みたいなことをいっていた。だが俺は、主人公にいいたい。そんなことを長々考えているから、余計に遅くなるのだと。登場人物が考えれば考えるほど、展開=時が流れるのが遅くなる。小説とは、そういうものだ。楽しいことが待ち構えているからとか、まだ10歳だからとか、そんな理由は、全くもって無関係なのである!


 と、屁理屈をいっている場合ではない。
「さて、どうしましょうか」
 選択肢は一応、3つあった。
 1つ目は、今から構成を練り直す。10,000文字以下で収まるよう、プロットを再構築する。
 2つ目は、ここまで書いた部分を短くなるよう書き直す。短縮できる部分は、短縮してしまう。
 しかし、この2つの方法を取るには、あまりにも時間が足りない。後数時間で締切なのに、今から構成を練ったり書き直したりする、余裕はないに決まっている。
 3つ目は、このまま書き進めていくこと。なんとか10,000文字以下になるよう、書きながら上手いこと、プロットに従いつつも文章を短くしていく。
「うん、3つ目で決まりかな」
 そうだ。残り時間がわずかな状況では、これしか方法はない。
 というわけで、このまま突っ切ることに決めた。
 この後の話の展開を、確認しよう。1番道路の草むらに入る。野生のコラッタと遭遇し、バトルして倒す。野生のポッポも連続して倒して、ゼニガメがレベルアップ。その後、主人公の方向音痴っぷりが発揮されて道に迷う。野生のスピアーに運悪く出くわし、ゼニガメがやられる。なんとか逃げ出し、ゼニガメを回復させる。フレンドリィショップで買い物する。……長い。起承転結の『承』だけでこれか。
「少しずつ削っていくか」
 まず、1番道路の描写は、だいぶ端折ろう。簡単に描写するだけにしよう。
 次のコラッタの描写も、同じく端折ろう。コラッタごめん。とにかく短縮を目指すんだ。
 ポッポの描写は、戦闘シーンごと省略しよう。ポッポにも非常に申し訳ない。
 スピアーに襲われるシーンは、省くのが難しい。だが、その後の逃げるシーンは、短くする方法がある。
 フレンドリィショップでの買い物シーンも、短くするよさげな手段を思いついた。
「とりあえず、削るべき箇所は決まったな」
 だが、たぶんこれだけでは、まだ文字数が足りない。
「展開だけでなく文章の方も、削れるところは削らねば」
 まず「ポケットモンスター」を「ポケモン」と省略して書こう。すごい! これだけで5文字も節約できる! ポケモン小説で「ポケットモンスター」と書く回数は当然多いから、トータルでかなり短縮できるはずだ。
 「オーキド・ユキナリ博士」は「オーキド博士」にする。下の名前はいらない。まあ、オーキドの名前は、この後あまり出てこないが。
 「ポケモントレーナー」は「トレーナー」に変える。洋服の方と誤解されないか不安だが。
 「モンスターボール」も「ボール」にしよう。この世界でボールといえば、モンスターボール以外ないのだから。
「まだ削れる箇所はありそうだが……そうだ! ポケモンの鳴き声だ!」
 ポケモンの鳴き声を、1文字だけにすると決めた。たとえばゼニガメなら「ゼ!」、コラッタなら「コ!」だ。「ゼ!」だけでも、そんな違和感はない。むしろ、テンポがよくなるメリットがある。
「うん、それぐらいかな」
 締め切りまで時間もない。これで書き進めていこう。俺は再びキーボードに手を置き、続きを書いていったのだった。


「よし! まずはトキワシティを目指そう!」
 少年はマサラタウンを抜け、1番道路へと足を踏み入れた。
 1番道路には、草がたくさん生えていた。


「いや、大丈夫かこれ」
 3行だけ書いて思わず俺は、手を止めてしまった。1番道路の説明は、これだけで大丈夫だろうか。しかしこうするより他ない。いかんせん文字数が足りない。後時間も足りない。迷わず突き進むしかない。
 俺は気を取り直して書き進めた。


 1番道路を15分程度歩いた頃だった。突然草むらが、カサカサ音を立てた。
「え? 何?」
 次の瞬間、草むらからコラッタが飛び出してきた。
『コ!』
 コラッタは、つまりねずみだ。
 少年は、反射的に体をビクッとさせる。慌てて腰につけたボールの、開閉スイッチを押した。
『ゼ!』
 ボールからゼニガメが飛び出した。コラッタの存在に気がつき、戦闘態勢をとる。初戦ということもあり、ゼニガメはだいぶ張り切っていた。
 トレーナーになって始めてのポケモンバトルで、少年はかなり緊張していた。昨日布団の中で、何度もシミュレーションした内容を思い出す。
「よろしく頼んだよ、ゼニガメ!」
『ゼ!』
 ゼニガメは、元気よく返事をした。そして、コラッタの方へと走っていく。
 少年はコラッタを指差し、大声でゼニガメに命令した。
「たいあたり!」
『ゼ!』
 ゼニガメは、体を思い切り衝突させた。
『コ!』
 たいあたりが直撃したコラッタは、小さく悲鳴を挙げた。コラッタの体は吹っ飛ばされ、近くの木に叩きつけられた。だが、コラッタはゆっくりと起き上がり、首をぶんぶんと振る。そして、コラッタも負けじと、たいあたりを繰り出してきた。
『ゼ、ゼッ!』
 その攻撃は、ゼニガメと比較すれば弱い。ゼニガメはよろけたものの、すぐ大勢を立て直した。
「たいあたり!」
『ゼ!』
 再びゼニガメは、たいあたりを繰り出す。現状、これしか攻撃技がなかった。
『コ……』
 たいあたりは、見事クリーンヒット。コラッタはパタリと倒れてから動かない。これは、戦闘不能状態ということだろう。
 少年とゼニガメは、はじめての戦いに勝利した。少年は汗を拭いながら、ゼニガメにお礼を言った。
「ありがとうゼニガメ! おかげでなんとか勝てたよ」
『ゼ!』
 少年はキズぐすりで手当をした後、ゼニガメをボールに戻した。
『ポ!』
 今度は、ポッポというポケモンが現れた。
『ポ……』
 少年はポッポを、コラッタとだいたい同じような感じで、倒した。
 ポッポが倒れた瞬間、図鑑がひとりでに音を鳴らす。
 ゼニガメのレベルが、上がったことの知らせだった。

ゼニガメ(レベル6)

○ステータス
HP 22
こうげき 11
ぼうぎょ 14
すばやさ 12
とくしゅ 11

「やった! レベルが上がった! こうやって強くなっていくんだ!」
 少年は、ゼニガメのレベルが上がったことを喜んだ。こうしてポケモンは、成長していくのだ。


「おかしいなあ、もうだいぶ歩いた気がするけど」
 目的地のトキワシティは、未だ姿を見せなかった。どんなに歩みを進めても、目の前に見えるのは、草むらと木々と、時折野生のポケモンだけだった。
 思わず少年は、顔を青ざめさせた。まさかと思い、タウンマップをリュックから取り出した。
「いや、こっちの方角で、確かに合っているはずだよなあ」
 少年は自分が道を間違えたのではないか、不安に感じていた。
 トキワシティまでは、何も考えずまっすぐ歩けばよい。マサラタウンに住む人のほとんどが知っている常識だ。少年は、その常識に従って、ここまで歩いてきた。
 だが、ここにきて「その常識が間違っていたのでは」という疑念が湧いた。あるいは、自分の聞き間違えだった可能性もあるなと思った。
「本当はまっすぐ歩いても、トキワシティに辿り着けないんじゃ……」
 そう考えた少年は、思いきって別の方向に歩みを変更した。
 だが実際は、少年が進んでいた方角で合っていた。つまり彼は今、間違った方角へ進んでいる。少年はどんどん、トキワシティから離れていった。


「これは、明らかに間違えたな」
 30分歩いて少年は気がついた。
「やっぱり、さっきの道であっていた。いったん引き返そう」
 今更気がついた少年は、引き返すことにした。
 だが、Uターンしたタイミングで、ある異変を察した。何かを踏んづけた感触がした。
 下を見ると、自分に胴体を踏まれているビードルがいた。慌てて足をどけたから、ビードルが向けてきた毒針は避けられた。
 だが、そのとき、見つけてしまった。ビードルよりもやばい存在が、木の後ろに潜んでいた。
『ス!』
 木の後ろにいたのは、1匹のスピアーだった。スピアーは、ビードルの最終進化系だ。
 スピアーは、少年を睨みつけていた。少年は、スピアーがビードルの親ではないかと察した。
 少年は、スピアーを先に倒さねばと判断した。即ボールから、ゼニガメを取り出す。
 ゼニガメは、スピアーの存在に気がついた瞬間、体を震わしていた。
「ゼニガメいける?」
『ゼッ……ゼ!』
 ゼニガメは何とか頷いた。そして、果敢にスピアーに向かっていく。
「たいあたり!」
『ゼ!』
 たいあたりはスピアーに、確実に命中した。だが、スピアーは吹っ飛ばない。どころか、痛そうな様子を欠片も見せなかった。
『ス?』
『ゼ!?』
 ゼニガメは目を丸くしていた。
『ス!!!』
 スピアーは両手に付着した棘で、ゼニガメを容赦なく刺そうとしていた。ゼニガメは甲羅に潜ろうとしたが、間に合わず棘の餌食となった。
『ゼ……』
 スピアーの一撃で、ゼニガメは動かなくなってしまった。
「嘘だろ……まさか一撃で……!」
 レベル差があるのは分かっていたが、一撃でやられるとは、思ってもみなかった。
 束の間呆然としていたが、パートナーの安全を確保せねばと、すぐボールに戻した。
 そして、自分の安全も確保せねば。少年は全速力で逃げ出した。
『ス!』
 だが、スピアーは当然追いかけてきた。

 ※10分後

「はあ……はあ、なんとか逃げ出せた」
 なんとか少年は、スピアーの魔の手から逃れることができた。ひどい目にあった。あやうく自分は、死ぬところだったかもしれない。

 ※1時間後

「なんとかここまで来たぞ。ここがトキワシティか」
 そして少年は、トキワシティに辿り着いた。まずはポケモンセンターで、ゼニガメを回復させにいった。
 その後、フレンドリィショップで買い物をした。
 買ったものは次の通りだ。

・キズぐすり ×10
・どくけし ×4
・ボール ×5

「さて、次の町へ向かうとするか」
 フレンドリィショップを抜けた少年は、ニビシティへと向かうことにした。


「いや、そんなに文字数削れてないじゃん!」
 起承転結の『承』まで書き終え、俺は再び手を止め、パソコンの画面を閉じた。
「もうちょっと削れると思ったんだけど……」
 俺は、環境大臣の如く文字数削減のための、様々な政策を打ち立てた。そのつもりだった。だが、いざ書いてみれば、そこまで文字数を削ることはできなかった。もう8,000字くらい書いている。自分に残された文字数は、たったの2,000字しかない。後2,000字……。無謀すぎる。
「前半はまだよかった。問題は後半からだよおい」
 主人公が、道に迷い始めてからだ。それ以後、字数がアホみたいに増えた。やはり俺は執筆に夢中になると、どうしても長々と書いてしまう。
「なんで俺は文字数を減らすのが、こんなに下手なんだ」
 よく考えたら、なぜ「主人公が方向音痴」なんて設定にしてしまったんだ! 余計に文字数喰うことになるだろう! 早くトキワシティに辿り着いてくれれば、もっと字数削減できるのに! なぜだ! なぜこんな設定に、してしまったんだ!
 そして、俺は思った。やはりバトルシーンは、めちゃくちゃ文字数を喰う。コラッタやスピアーとのバトルシーンで、文字数を使いすぎた。野生との戦闘ですらこうなら、対人戦はどうなるんだろう。
「先が思いやられすぎる……」
 残りわずかしかない文字数で、果たして『転結』を書き切れるのか。
「まいったな。これ詰んだんじゃないか」
 思わず、独り言が増えてしまう。
 どうする? やはり書き直した方がよい? いや、間に合うわけがない。企画に投稿するのを諦める? しかし、ここまで書いたものを捨てるのももったいない。
「もっともっと、削らないとだめだろこれ」
 このペースで書いていては、絶対に10,000文字以下に収まらない。
「とはいえ、どこ削ったらいいんだ?」
 後は、幼馴染とのバトルシーンと、ポケモンセンターに行くシーンが残っている。バトルシーンはこの小説の山場なわけで、削るわけにもいかないだろう。となると、削るべきはポケセンにいくシーンか。
 だが、バトル終了後に主人公をポケセンに行かせないと、「あれ? ポケモン回復させなくていいの? 傷だらけのままだよ」って突っ込まれる可能性がある。ポケモンを気遣わない薄情な奴、そう思われてしまう恐れがある。変なところで、マイナスイメージを持たれたくはない。
 仕方がない。ポケモンセンターに行く描写も、今まで同様上手いこと省略して書こう。
 後はそうだ。バトルをやる前に、幼馴染と主人公の出会いなど、あーだこーだ書かないといけない。そこらへんもいい感じに短縮するようにせねば。字数に余裕があれば、ここも丁寧に書きたかったが、仕方がない。さっきから仕方ないばかり、言っている気がする。
「他にもまだ一応、削れる箇所はあるな」
 バトル時のトレーナー技の指示も、工夫しよう。「たいあたり!」ではなく、「た!」って命令するのだ。1文字だけでいい。自分のポケモンにさえ、伝わればよいのだから。
 むしろ、1文字だけの方が、合理的な可能性もある。その方が素早く指示を伝えられるから。加えて1文字だけなら、対戦相手は何の技か読み取れない。その分対処が遅れて、こちらは有利に立ち回れる。
 自分でも、だいぶ無理あるなと思った。だが、無理やり納得することにした。時間がないこともあって、俺の思考力はとてつもなく低下していた。
 「モンスターボール」は「ボール」って略さず、「球」って書こう。2文字削減できる。英語から日本語に変換するだけだ。何も違和感はない。戦時中の日本は、英語が禁止されていたわけだし。
 「ポケットモンスター」は「ポケモン」って今まで略していたが、次からは「ポ」と略そう。「ポ」。うん、これでいい。わかりやすいと思う。
 「ポケモントレーナー」も「トレーナー」って略すな。「ポ師」でいい。「ポ師」。めちゃくちゃ端的だ。
 後は、レベルが上がったとき、HPとかこうげきとか、ステータス一覧を列挙するあれは……残そう。あれは個人的に好きだから、書いておきたかった。
「よし、一通り方針は固まった」
 さて、ラストスパートだ。締切までマジでもう時間がない。ここまで書いて締切に間に合わないオチは、洒落にならない。
俺はノートパソコンを開き、執筆を再開したのだった。


「よし、この道で大丈夫だ」
 少年はさきほどの反省を活かし、トキワシティで道をしっかり聞いていた。
 トキワの森に入ろうとする間際、道脇にどこか見覚えのある面影の人物を見つけた。
 その人は、現在野生のオニスズメと戦っていた。戦闘に出しているのは、ヒトカゲというポだった。ヒトカゲといえば、初心者ポ師がもらえる最初のポのうちの1匹だ。
 あの人も、オーキド博士から、ポをもらったのだろうか。
「な!」
 その人はヒトカゲになきごえを指示した。
『ヒ!』
 なきごえを聞いたオニスズメは、攻撃力が少し下がってしまう。
「ひ!」
 畳み掛けるように今度は、ひっかくという技を使った。するどい爪が、オニスズメを襲った。
『オ!』
 悲鳴を上げたオニスズメに対して、その人は球を投げた。オニスズメは球の中へと吸い込まれた。
「よくやったヒトカゲ! あれっ、君ってもしかして」
 バトルを終えたその人はヒトカゲを球に戻し、振り返った。
「あっ」
 振り返ったことで顔がちゃんと見えた。少年はその人が誰なのか、はっきり分かった。
 その人と少年は、幼馴染だった。少年と彼の関係性は、こういう感じだ。小さい頃出会う⇒一緒に遊ぶ⇒喧嘩する⇒仲直りする⇒友情を深める⇒その人が転校することになる⇒疎遠。
「君も旅に出たんだね」
 少年の友人も、ポ師になって旅に出たばかりのようだ。まさかこうして巡り会えるとは、思ってもみなかった。
 少年と友人は少しだけ話した後、ポ師同士ポバトルを行おう、という流れになった。
「いけっ、ヒトカゲ!」
「頼んだよ、ゼニガメ!」
 球を投げ、お互いにポを出し合う。
 少年が出したのはゼニガメというポ、対して友人が出したのはヒトカゲというポだ。
「よし、じゃあ行くぞ!」
「OK! いつでもいいよ!」
 お互いの準備が整ったので、ポバトルが始まった。
「し!」
「な!」
『ゼ!』
『ヒ!』
「た!」
「ひ!」
『ゼ!』
『ヒ!』
「た!」
「ひ!」
『ゼ!』
『ヒ!』
「た!」
「ひ!」
『ゼ!』
『ヒ!』
 両者まずは補助技を使い、相手のスタータスを下げる。落ち着いた判断だった。その後は、激しい攻撃の応酬が繰り広げられた。
「た!」
『ゼ!』
 ゼニガメは不意をついて、たいあたりを繰り出す。だが、ゼニガメが向かった先にはもう、ヒトカゲはいなかった。
『ゼ?』
「え、どこだ?」
「ひ!」
『ヒ!』
 いつの間にかヒトカゲは、背後に回っていた。そして、ゼニガメの背中をひっかく。
『ゼ!?』
 予想外の方向からの攻撃に、ゼニガメは大勢を崩してしまう。
「ひ!」
『ヒ!』
「ひ!」
『ヒ!』
「ひ!」
『ヒ!』
 倒れたゼニガメに、ヒトカゲが猛攻をしかける。一撃目は交わしたが、その後の攻撃は全て喰らってしまった。
 万事休すかと思われたが、ゼニガメはなんとか耐えた。そして、ヒトカゲの攻撃が一瞬遅れたスキをついて、ヒトカゲの爪から逃げ出した。少年はホッとした。よし、ここから反撃だ。
「た!」
『ぜ!』
 ゼニガメはヒトカゲに、渾身のたいあたりを繰り出した。
『ヒ!?』
 急所に当たったようで、ヒトカゲはかなり痛そうにしている。だが、ヒトカゲはすぐに大勢を取り戻し、再びゼニガメと激しい打ち合いを行った。
「し!」
『ゼ!』
「た!」
『ヒ!』
「た!」
『ゼ!』
「な!」
『ヒ!』
「た!」
「ひ!」
『ゼ!』
『ヒ!』
「た!」
「ひ!」
『ゼ!』
『ヒ!』
 お互いの実力は拮抗していた。両者ともかなりボロボロな状態だった。だが、どちらかといえば、ゼニガメの方がダメージが大きかった。ゼニガメはだいぶ息が上がっていた。
「た!」
『ゼ……!』
 ヒトカゲに向かっていったその瞬間、ゼニガメの体がよろけた。これは完全にピンチだ。
「ひ!」
『ヒ!』
 その隙をついて、ヒトカゲをトドメを刺そうとしていた。ヒトカゲの鋭い爪がギラリと光る。
 だが、ゼニガメは最後の力を振り絞り、ヒトカゲの攻撃をかわした。
「た!」
『ゼ!』
「あっ……!」
 ゼニガメはヒトカゲの懐に潜り込み、たいあたりを直撃させた。
『ヒ……』
 うつ伏せに倒れたヒトカゲは、起き上がる気配かない。つまり、戦闘不能になったということだ。
 少年と少年の友人のポバトルは、少年の勝ちに終わった。
「うーん、駄目だったか。お疲れさま、ヒトカゲ」
「いいポバトルだったよ、ありがとう」
「こちらこそ、君とのポバトル楽しかったよ」
 少年と友人はポを球に戻した後、固い握手を交わした。
 友人と分かれた後、少年は図鑑が鳴り響いていることに気がついた。

ゼニガメ(レベル7)

○ステータス
HP 24
こうげき 12
ぼうぎょ 15
すばやさ 13
とくしゅ 13

「やった! またレベルが上がってる」
 少年はゼニガメの成長を喜んだ。
「よーしこれからも頑張るぞー!」
 少年は駆け足で、ニビシティへと向かったのだった。
 少年とゼニガメの旅は、まだまだ続く。
(ポセンターに寄ってから、ニビシティへ向かいました。ちゃんとポは回復させましたので、ご安心ください。)


「終わった……なんとか間に合った」
 最後にEnterキーを、気持ちよく「ターン」と強く押す。
「危ねえ、ギリギリ10,000文字以下に収めることができた」
 一時はどうなるかと思った。だが、案外なんとかなるものだ。削れる部分を全て削れば、割と短縮は可能だということが、今回の執筆でわかった。
 後半だいぶ、いや相当駆け足なのが気になるが……。
(まあ、とりあえずセーフということにしておこう。明日読み返すのが正直怖いが)
 時計をチラリと見た。現在は締切30分前だった。
「なんとか企画の締切に、間に合いそうだ」
 俺はほっと胸をなでおろす。
「よし、後はこれを投稿して、と」
 ずっとタイピングしていたせいで、だいぶ疲労していた。最後の力を振り絞り、企画に小説を投稿する。投稿し終わったら酒を飲もう。
 ブラウザを開き、ブックマークから企画のページへと移動する。そのページには、投稿フォームのリンクがはってあった。ここから必要事項を入力し、投稿ボタンを押せば完了だ。
 だが、企画ページから、投稿フォームへと移動しようとした、そのときのことである。
「ん?」
 自分は、恐るべき事実に、気がついてしまったのだ。
「いや嘘だろおおおおおおおおおお!!!」
 なんと! 企画の文字数制限の欄には「下限:50文字 上限:15,000文字」と書かれていたのだ! 
 俺はずっと、この企画は「10,000文字以下」、というレギュレーションだと思い込んでいた。
 ああ、なんという勘違い!
「……削る必要なかったじゃん」
 今までの努力は、なんだったのだろう。
 15,000文字以下でいいなら、文章とか展開とか削らなくても、ギリギリ間に合っていたかもしれない。俺は馬鹿だ。もっとちゃんと、レギュレーションを確認すべきだった。
「はあ」
 俺は、本日最大のため息をつきながら、疲れ切った手を動かして、タイトルやカテゴリなど必要事項を入力し、投稿ボタンを押したのだった。

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