第38話 砂地獄

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『“いあいぎり”!』

 バンギラスとアーマルドは同時に“いあいぎり”をくりだした。一瞬の隙を突かれたジュプトルは抵抗する間もなく、ルカリオの後方へと突き飛ばされてしまう。

「おい、大丈夫か?」
「はぁ、はぁ……サ、サンキュー」

 すぐさまバンギラスはルカリオに巻きつけられた草をほどく。息苦しそうに肩で呼吸しているが、大したことはなさそうだ。それと同時にアーマルドもヒトカゲに巻きついている草をツメで引き裂いた。
 4人とも動ける状態になると、すぐにその場で身構える。視線の先には、ゆっくりとこちら側に近づいてくるジュプトルの姿があった。その表情は冷静に見えたが、怒っているに違いない。

「俺は無駄な殺しはしないのだが……こうなれば仕方ない。お前ら全員の口を塞ぐ」
「最初からそのつもりだったんだろ。だったら容赦しねぇぜ!」

 威勢のいい声でバンギラスが言った。全身にぐっと力を込め、互いに睨み合う。風に揺られて木から離れた葉が地面に落ちた瞬間、攻撃が始まった。

「“エナジーボール”!」

 ジュプトルは手にエネルギーを集中させ、球状になったところでヒトカゲ達に向けて放った。それをかわさずに立ち向かっていったのは、意外にもアーマルドだ。

「“メタルクロー”!」

 鋼のように硬くなったツメで“エナジーボール”を弾き飛ばすことに成功する。飛ばされたエネルギー弾は地面に当たって小爆発を起こす。

「“リーフブレード”!」

 爆発による煙幕の中から、目にもとまらぬ速さでジュプトルが迫ってきた。これをまともにくらえば状況が悪くなることは目に見えていた。

「“すなあらし”だぜ!」

 すかさずバンギラスが“すなあらし”で、自分達の前に砂で壁を作った。これで少しは時間稼ぎできると判断したが、相手はあまり驚く様子がない。

「無駄だ、ふん!」

 砂の壁は“リーフブレード”によって切り裂かれ、あっという間にその原形を失ってしまった。だがこれも想定内、対策は既に講じてあった。

「くらえ、“はどうだん”!」

 壊れかけた砂の壁の隙間からジュプトルの姿が見えるや否や、そこへ向けてルカリオは“はどうだん”を放つ。想像以上に早く放たれた攻撃をジュプトルは回避することができず、正面から受けてしまった。

「やりやがったな……“いやなおと”!」
『うあっ!』

 すぐさま立ち上がり、ジュプトルは不快な音を発し始めた。高い周波数の音はその場にいた全員の耳に入り集中力を欠かせ、行動を止めてしまう。

「覚悟しろ、“リーフブレー”……」
「させない! “ほのおのうず”!」

 向かってきたジュプトルに対して、ヒトカゲは炎をサークル状に放ち、彼を炎で囲んだのだ。宙にも火の粉が舞っているため迂闊に動けず、足止めさせることに成功した。
 少しの間、互いの動きが止まる。睨み合いが続いているが、こうしている間にも彼は次の行動を考えているようだ。

「……“あなをほる”!」

 ジュプトルはその場に穴を掘り、地中へと姿を隠した。この状況で彼が唯一炎から逃れられる方法である。真正面から突っ込んでくると思っていたヒトカゲ達は少々驚いた。

「ど、どうする? これじゃどこから来るかわかんねぇぜ!」

 ルカリオはこの技が厄介であることを既に知っている。だからと言って対処法がひらめいているわけではないため、困惑している。そんな彼の1歩前に立ったのは、バンギラスだ。

「こうするんだよ。“じしん”!」

 バンギラスは右足を大きく上げ、全体重をかけて地面へと降ろした。次の瞬間、物凄く大きな揺れが起こる。ヒトカゲ達は立っていることが困難なため、バンギラスにしっかりしがみついている。
 それから直に、地面からジュプトルが這い出てくる。予想以上のダメージを受けたのか、やっとの思いでゆっくり体を起こし、立ち上がる。だがそれでも笑いながら彼らに挑発する。

「その程度か。それじゃあ俺を倒すことなんかできねぇな」
「じゃあお望みどおりやってやろうじゃねぇか! 行くぜ!」

 その挑発にルカリオは乗っかり、3人を引き連れてジュプトルに一斉攻撃を放つべく、彼に向かって走り出した。しかし、それが作戦であることに誰も気づかなかった。
 刹那、足下で何度も爆発が起こり始めた。足を取られているため身動きがとれないばかりか、爆発を防ぐこともできないため、立ち往生しながら爆撃を受けるしかなかった。
 さらに先程の“じしん”の影響で地面が陥没し始め、ヒトカゲ達は地中へと落下してしまう。防空壕のような穴に4人は閉じ込められてしまったのだ。

「ふん、いいざまだ」
「……て、てめぇ、一体何しやがった?」

 地上からジュプトルが4人を見下している。穴の底に体を強く叩きつけられたルカリオは体を起こそうとしながら苦痛混じりの声で問いかけた。

「地中にいるときに、“タネばくだん”を撒いただけだ」

 そう、ジュプトルは“あなをほる”をしたのには2つ理由があったのだ。1つは炎から逃れるため、そしてもう1つは、“タネばくだん”を仕掛けるためである。
 “じしん”をくりだすと予想していたため、ある程度のダメージを受ける覚悟で“タネばくだん”を撒き、地面が脆くなったところで爆発させることで、攻撃すると同時にそれによって作られる穴に落とす作戦だったようだ。

「生き埋めにしてやる。呼吸できずにもがき苦しんで逝くがいい。“タネマシンガン”!」

 ジュプトルが“タネマシンガン”を乱れ撃ちする。穴の中や周りで小爆発が起こり、土砂が4人に襲い掛かる。爆煙によって何が起こっているかも見ることができないまま、数分間攻撃は続いた。


 彼攻撃を止めた時には、既に穴は塞がっていた。しばらく穴があった場所を見つめていたが、ヒトカゲ達が這い出てくるどころか物音1つする気配はない。

「死んだか」

 4人が息絶えたと確信したジュプトルは、近くに残されたルカリオが持っていたカバンに手をかけようとした、まさにその時だった。
 先程よりも大きな爆発音が彼の後方から鳴り響いた。自分以外にこの場に攻撃できる奴などいない、そう思っていたジュプトルが後ろを振り返ると、そこには奴らがいた。

「……しぶとい奴らだな」
「これはこれは、誉め言葉、ありがとう」

 彼の前に立っていたのは、彼が死んだと確信していた4人――ヒトカゲ、バンギラス、アーマルド、そしてルカリオだ。数分前とは打って変わり、余裕の表情を見せている。

「あの中からどうやって脱出した?」
「それはな、この俺の特技……“はどうだん”さ!」

 計算外だった出来事にジュプトルは動揺し、その隙を狙ってルカリオは“はどうだん”を放った。それから4人はバラバラに散らばる。

「“リーフブレード”!」

 ジュプトルはすかさず“リーフブレード”で応戦する。引き裂かれた“はどうだん”は青いエネルギーを拡散させ、太陽光の如く彼の体に降り注いだ。

「よくも生き埋めにしてくれたな。そのお礼だ! 最大級の“すなあらし”だぜ!」

 生き埋めにされたことを怒ったバンギラスは渾身の力を込めて、砂の激流を作り出した。それは真っすぐジュプトルの方へ向かい、彼の体をいとも簡単に飲み込んでしまう。

「ぐうっ!?」
「じゃあ、みんな最後にあれやるよ!」

 ジュプトルが怯んだのを確認すると、ヒトカゲが大声で叫ぶ。その声で3人は一斉に体勢を立て直し、大技をくりだす準備に取り掛かる。

「いくぞアーマルド、コンビ技だ!」
「わかってる!」

 怯みから立ち直ったジュプトルが構えようとしたその時、ルカリオとアーマルドは先日バシャーモとの特訓で得たコンビ技をくりだした。

「“シザークロス”と!」
「“はどうだん”のコンビだぜ!」

 “シザークロス”で体に×印をつけると同時に、印の中心に“はどうだん”を当てる。瞬間的に大きな力――撃力が加わり、痛みを感じる前にジュプトルは体を吹っ飛ばされる。

「今度は俺だ! “ストーンエッジ”!」
「くそっ! “リーフブレード”!」

 地面に倒れるよりも先に、バンギラスはジュプトルの真下にある岩の破片を特殊な力で宙へと引っ張る。直撃だけは避けるべく敵も体を捻って“リーフブレード”で岩の破片を掻き切っていく。

「今だ、ヒトカゲ!」
「なにっ!?」

 岩を壊すことに無我夢中になっていたせいで、ジュプトルはヒトカゲの事を把握していなかった。バンギラスの背中に隠れていたヒトカゲは、彼の頭上から大きく飛び上がった。

「“オーバーヒート”!」

 ヒトカゲは今自分が使える最大級の技“オーバーヒート”を放った。大きく広がった灼熱の炎はそのままジュプトルへと降り注ぐ。彼はその身を焼かれて悲痛な声を上げながら体勢を崩し、その場にうな垂れるように倒れこむ。
 だがそれでも意識はあるようだ。全身に力を入れ、震える右手で地面を押して起き上がろうとするが、手を伸ばしている時に手首から踏まれてしまう。

「……がっ!」
「さぁ観念しな、ジュプトル。お前の負けだ」

 ジュプトルが顔を上げると、自分の手を踏みつけている犯人であるルカリオの顔が見えた。さらにその周りには、ヒトカゲやバンギラス、アーマルドも構えている。完全に囲まれてしまったのだ。

「本当ならこのまま警察に突き出すけど、お前には聞きたい事がある。全部吐いてもらうからな」

 勝敗がついても、互いに睨み合いを続けるルカリオとジュプトル。彼らの目を見て、ただの敵同士ではない、もっと強い何かがあると、バンギラスは心の中で呟いた。

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