いぬ2ーみすてる

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読了時間目安:4分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 雨の日の帰り道、友達と別れた直後に、ぼくはそいつに出会った。
 道端に置かれた段ボールの中で、まだ小さなポチエナが震えていた。野生で出会ったときの気性の荒さは影もなく、ぼろきれに包まれて、今にも消えてしまいそうな声で鳴いていた。よく見れば、段ボールには黒いマジックで「拾ってください」と書いてある。このポチエナは、捨てられたのだ。それも、体の大きさから考えると、生まれてすぐに捨てられたらしい。酷いことをする人もいるものだ。
 雨は止む気配もなく降り続けている。このまま放っておけば間違いなく凍え死んでしまうだろう。そうでなくとも、何も食べなければ餓死してしまう。どうにかしてあげたいけれど、連れて帰ろうにも、父も母もポケモンは苦手だ。連れて帰ったら間違いなくどやされる。どうしたものだろうか。

 連れて帰る
→見捨てる
 食べ物を置いていく
 保健所に連絡する





























 ぼくは首を横に振った。ポチエナには申し訳ないけれど、母に咎められて言い訳ができる自信がなかった。それに、ぼく以外の誰かが拾ってくれるかもしれない。そう思うと、気持ちが少しだけ軽くなった。そうだ。ぼくは悪くない。悪いのはこのポチエナを捨てた誰かだ。そう思うことにした。
 風呂に入るときにも、晩御飯を食べるときにも、ポチエナの姿が頭から離れなかった。むかしばなしのテーマ曲で「いいないいな人間っていいな」と言っているのが身に染みるようだった。
 その夜、夢を見た。雨の中で震えるポチエナを、ぼくはじっと眺めていた。
「くーん、くーん」
 そんな鳴き声が聞こえてきた気がした。ぼくも一緒に寒くなって、体を震わせた。
 あのときは誰かが拾ってくれるだろうなんて思ったけれど、もしも誰も拾っていなかったら? あのあともずっと雨にさらされて、寒さに震えていたとしたら?
 ぼくは跳ね起きた。そこはぼくの部屋で、雨で濡れていたわけでも寒いわけでもなかった。窓の外ではまだ雨がしんしんと降り続いていた。夢の内容を思い起こすと、寝るに寝付けなかった。










 そして翌日――
 雨は上がって、気持ちのいい青空が広がっていた。雨のしずくがくっついたイトマルの巣が、朝日に照らされて宝石みたいに輝いていた。
 景色とは裏腹に、ぼくの心はどんよりと曇っていた。ぼくが見捨てたあのポチエナはどうなっただろう。気になったぼくは、捨てポチエナのいた道を選んで歩いていった。

 見覚えのある段ボール箱を見つけて、全身に緊張が走った。いや、中にはもう誰もいないかもしれない。誰かいい人が、ポチエナを拾ってくれたのかもしれない。そんな微かな期待は、鼻に感じた獣臭さに上書きされた。
 おそるおそる近寄って、段ボールの中を覗いてみた。そこにはぼろきれに包まれたポチエナが、静かに横たわっていた。しばらく眺めていたが、動く気配はない。眠っているのだろうか。手を伸ばして触れたポチエナの体は、すっかり冷え切っていた。
 死んでいる。この事実を受け入れた途端、ぼくは良心の呵責に苛まれた。ポチエナを連れて帰って自分が怒られるのが嫌で、親切な誰かに責任を押し付けようとした罰が当たったのだと思った。ぼくの見捨てるという行為が、結果的にポチエナを殺したのだ。

 連れて帰れないまでも、せめて何かをしてあげられたなら、ポチエナは生きていられただろうか。

 あのときのぼくに、何ができただろうか。

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